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死憶の異世界傾国姫  作者: ぎむねま
7章 砂漠の歌姫の涙
199/321

一夜明けて

【ユマ姫視点】


 ローションレズプレイを披露してしまった翌日。俺は待望のパンツと対面していた。


 勘違いしないで欲しいのは、俺だってこんな姿マイクロビキニでここまで飛んで来たわけじゃ無い。グライダーにたいした物は載せられないが、いくらなんでも着替えぐらいはリュックに詰めてきた。これはその一つである。


 だけど歌姫に弟子入りするにあたって、そう言った私物は取り上げられてしまったのだ。

 拾って貰った恩があるとは言え、用意された契約書を見た段階で(てい)のいい奴隷契約だとは気付いていた。でも、身請け金は精々が数百万。一介の踊り子が働きながら返すのは厳しくとも、木村にとっては大した金額じゃ無い。

 実際、劇場の協力もあって契約書の奪還作戦が成功したこともあり、木村は気前よく俺の身請け金を劇場に払おうとした。

 なのに身請けに関して劇場側は強情だった。俺を金の卵とそれはもう、期待していたらしいのだ。


 結局、ブラッド家の圧力でなんとか着替えを取り返す事に成功したと言う訳だ。

 で、下着以外の着替えも奪還したのだが、そちらは気候に合わず蒸し暑かった。

 そうなると、コチラで衣装を整える必要がある。下着と違って入手は容易と思われたのだがコレが難航する。

 マズはカラミティちゃんの普段着、素朴な民族衣装を貰ったのだが、これがもうビックリするほど似合わない。


 そこで、木村が急遽用意したのがこの服。


「アラビアンなドレスか」


 ニッカポッカみたいな裾のすぼまったズボンに、キラキラとスパンコールな上着、そしてやたらとフワフワしたベール。

 アラビアンナイトなイメージそのままだが、色が純白なのが珍しいかも。

 暑そうに見えたけど生地が透けそうな程に薄く、ゆったりと作られていてわりと涼しい。

 意外なことに、こう言う衣装はプラヴァスには無いんだと。カーテン用の生地から木村が一晩で縫い上げて完成した。

 着替えが終わって皆の前に姿を現せば、それはもう大好評であった。


「おおっ! 何と神々しい。踊り子の姿も美しかったが負けていませんね」


 特に褒めてくれるのはブラッド家の当主、リヨン氏。

 なのだが。ソレを素直に喜ぶことが俺には許されない。

 

 ……他ならぬリヨンさんの為に、だ。


「えぇ? 誰が勝手に喋って良いって言ったのー?」

「す、すみません!」


 俺は這いつくばるリヨン氏を尊大な態度で見下ろすと、四つん這いになったその背中にどっかりと座り込む。


 ……うん、まだなんだ。すまない。


 俺の女王様プレイは継続中……どころか、女王様は年齢的に無理があったので、なぜか不遜なメスガキプレイに着陸した感じ。いやー不思議不思議。


 口調とかブレブレで苦しかったからね、仕方無いね。


 薄い本ならそろそろ一転攻勢に出たリヨン氏に催眠術でエロいことされる頃合いなのだが、その兆しは一向に見えない。

 どうやらリヨン氏は根っからのドMな模様。

 これには木村も困り顔だ。


「あの、そろそろポンザル家への対策を話し合いたいのですが」

「私はこのままで良いので、どうぞ進めて下さい」

「あらぁ、勝手に偉そうなコト言うのはこの口ぃ?」


 俺は背中に乗ったままリヨン氏の首筋を撫で、ケツをピシャリと打ちすえる。


「あひぃん!」

「きゃはは、変な鳴き声。私みたいな女の子にいいように言われて悔しくないのぉ?」

「悔しく、ありません!」

「もー根っからのぶたさんなのね♪」

「ぶ、ぶひー」


「…………」


 因みにこの場には俺達以外にも木村、田中、シャリアちゃんが揃っている。


「…………」


 沈黙が苦しい。皆の視線も厳しい。


 木村とシャリアちゃんなど羨ましいのか何なのか良く解らない目で見てくるし、田中に至っては心底悲しそうな目でリヨン氏を見ているのが居たたまれない。

 いっそゲラゲラと笑ってくれれば救われるのだが、改めて聞けば田中にとってリヨンさんはこちらで出来た初めての親友とのこと。

 それが文字通り俺の尻に敷かれているのだから無理もない。

 俺とリヨンさんを見比べて、諦めた様にため息をひとつ。


『お前、なんだかんだ楽しんでない?』

『楽しんでねぇよ!』


 俺だってやりたくないの! でも、リヨンさんがプラヴァスの実力者だから無理してんの! 恥ずかしいに決まってるだろ!


 と、そのとき、部屋に一人の少女が駆け込んできた。


「キィムラ様! リヨン叔父さま! 私、今までどうし……リヨンおじ……さま?」


 カラミティちゃんだった。俺の魔法が早速効いたと見える。元気に部屋へと飛び込んで来たではないか。

 だけど、部屋のど真ん中には見知らぬ俺が居る訳だ。


「え? なに? あの? 誰?」

「私がアナタを治療したエルフの姫、ユマ・ガーシェントです、お見知り置きを」


 俺は艶然と微笑んで、アラビアンドレスのベールを翻しながら悠然と足を組み直す。


 ――もちろん、リヨンさんに座ったまま。


 全てが静止した部屋の中、カラミティちゃんの口元だけがヒクヒクと引き攣っていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「え? えぇぇぇ? わたしっ、この()の奴隷なんですか?」

「ご、ゴメンね。君を治すにはそれしか無くて……」


 カラミティちゃんは涙目で木村へ詰め寄るが、木村は謝り倒すしかない。

 ソコは重要だからね、譲らないよ。まぁどうしてもって言うなら考えるが、木村が美少女奴隷を従えてブイブイ言わすのだけは何としてでも防ぐ所存。

 まぁ、目覚めたら突然知らない女の奴隷になってたら不安よな。フォローはする。


「安心して下さい、決して悪いようにはしませんから」

「既に信じられないぐらい、悪いようになってるじゃないですか!」


 カラミティちゃんが椅子となったリヨンさんを指さして叫ぶ。


 うん、そうだね。それに関しては何も言えないぞ。

 更に更に、彼女は屈んでリヨンさんの顔を覗き込み言い募る。


「え? リヨン叔父さまですよね? ソックリさんじゃないですよね? あのプライドの高いリヨン叔父さまですよね? 私と歳も変わらぬ女の子に椅子代わりにされて、ブラッド家当主として恥ずかしくはないんですか!」

「うぐっ!」


 おうおうおうw

 ナチュラルに煽りおるわ。ひょっとして俺より才能あるんじゃないか?

 このままでは女王様としての地位を奪われかねないぞ?


「控えなさい! この男はアナタを助ける為に私の椅子を買って出たのです」

「えぇっ? そうなんです?」


 俺は踵でリヨンさんの鳩尾を蹴り上げる。


「ぐっ! そ、そうだ!」

「そんな!」


 そう言う事にして貰わないと話が遅くて困る。だけどカラミティちゃんは余計に混乱したようだ。


「大体! わたし、一体全体、何があったかちっとも覚えていないのですけど!」


 そりゃ、記憶を封印したからね。当たり前だよね。変に思いだしたら廃人に逆戻りだ。

 細かい傷はおろか、膜だって治しちゃったから、悪い夢でも見たと言うことにして誤魔化しに行く!


「アナタはボイザンに捕まり、健気に抵抗した結果、生死の境を彷徨う大怪我をしたのです。それを私だけが治すことが出来た。私はその代価にアナタを貰い、この男を言いなりにする権利も得た、それだけの事です」

「信じられません! それこそ魔法とか言う力で叔父様を操っているだけでしょう!」

「違います、これはこの男の意志です」


 俺は再度、リヨンさんの腹を蹴る。


「ぶ、ぶひぃ!」

「ぶひぃって! 今、ぶひぃって言いました! 叔父様は絶対そんな事言わないですもん! 嘘です! オカシイです! 魔法を使ったに違いありません」

「そんな事言われても」


 俺だって困ってるんだが? 誰ぞコイツのドMを破れる者はおらんのか?


「じゃあ、精神を操るような魔法を使っていないと神様に誓えますか?」


 カラミティちゃんに問われ、俺はフイっと視線を逸らす。


「あっ! ホラ! やっぱり!」

「いえ、違うのです精神に影響を及ぼす魔法は使っているけど、この男には使っていないのです」

「じゃあ誰に?」

「それは……」


 お前に! 死にたくなるような記憶を封印するのに使ったんだが? でもそれを言えるワケも無い。


 結局、それからなんとか落ち着いて貰うまでに、大変長い時間を必要とするのだった。

 それでも俺は信用して貰えず、結局カラミティちゃんの身柄は木村の預かりになってしまった。

 でも、勝手に傷ものにしたら所有権を持つ俺が許さない。って念を押したのでウハウハハーレムルートは阻止できた。ほっと一安心である。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「境界地の土地の権利を示す石版はこちらにある事、そしてボイザンに大怪我を負わされたカラミティを異国から来た聖女、ユマ姫が治療したことを大々的に公布しました」


 椅子から人間に戻ったリヨン氏が作戦の進捗を語る。


 まず、カラミティちゃんが攫われた事は知られていたものの、事の顛末までは世間に公表されていなかった。

 ポンザル家にとってみれば恥であるし、ブラッド家としてもカラミティちゃんの今後を考えると公にするのは憚れたからである。

 それを大々的に公表すると同時、境界地の権利がブラッド家に移った事を発表すれば、当然その補償として支払ったのだと思われる。


 盗まれたモノだ! とポンザル家が騒ぎ立てても、怪我が治ったとみるや手の平を返したと思われるって訳。

 加えて俺の名前はプラヴァスでもそこそこ知られている。


 魔法で怪我を癒やす聖女にして、悲劇の姫。他にも物騒な噂が幾つか……。


 そんな人物がブラッド家についた。そして麻薬撲滅を大々的に訴える状況は、ポンザル家にダメージを与えるに違いない。


「じゃあ、後は相手の出方待ちってトコか?」

「いや、聖女と言ってはみたモノの、怪しげな異種族の姫と警戒する人間も少なくない。ユマ姫の名声を高める事が重要になる」


 あからさまに気が抜けた田中の態度に木村が釘を刺すが、俺は俺でクソ暑い中ドサ回りなどゴメンと釘を刺す。


「名声と言ってもプラヴァスは王都以上に魔力が薄いです。大々的に魔法を使って怪我を治す訳には行きませんよ」


 やぁやぁ聖女ですと出て行った先、我も我もと集られては魔力が保たない。大混乱に陥るのは必至だ。

 ただでさえプラヴァスは魔力が薄く、俺には辛い場所。魔石を食べるのも体に大きな負担となるし、数人を治してギブアップでは不公平感が増すばかりだろう。


「麻薬の撲滅運動に寄付を募り、その額に応じて治療を行うしかないでしょうな」


 リヨンさんの提案は現実的なモノであるが、それでは庶民から巻き起こるユマ姫大フィーバーとはならない。

 王都と違い、大劇場も無いので演劇って線も無理。小劇場は歌が中心なので音痴の俺には無理と来た。

 俺の好感度を上げることでプラヴァスの国民を王国寄りにしつつ、麻薬に対する啓蒙まで同時に行う一挙両得作戦は暗礁に乗り上げた。

 取り敢えずは麻薬に対する啓蒙は後回し……と思ったのだが。


「でも麻薬のせいで学校にも通えない子が増えているので心配です」


 そう訴えるのはカラミティちゃん。彼女がボイザンに酷い乱暴を受けたと発表してしまった手前、今後の活動次第で彼女の名誉にも関わる問題になると、この場に同席して貰っていたのだ。

 聞けば、最近は麻薬欲しさにドロップアウトする学生も少なくないとか。本人にその気が無くても親が薬漬けになってしまえば学業を続けるのも難しくなる。


「なるほど、若年層へ広がっているのは問題だな」

「啓蒙活動をするにしても、子供相手なら情報の伝達が早いかも知れません。偏見も無い分、ユマ姫の人気に火がつくのも早い」

「ガキってのは、暇さえあればおしゃべりしてるからな、良いんじゃねぇか?」


 そんなこんなで、俺は学校に講演に行くことになってしまった。

 アレだ、たまに警察署の偉いさんが交通安全集会に来る感じに近いだろう。楽な仕事だし、俺としても否やはない。


「では、カラミティ。お前がしっかり案内するのだぞ」

「え、ええぇ? わ、私がですか? キィムラさんじゃなくて?」


 だが、否を訴えたのはカラミティちゃんだった。リヨンさんの言葉にイヤイヤと首を振る。


「当たり前だろう、学校ならお前が詳しいし、何より魔法で助けられたのはお前だ。ユマ姫の奇跡を語るのにお前程の適任はいないだろう」

「ぜ、全然記憶がないんですけど……」


 狼狽えるカラミティちゃんだが、俺が自分で自分を凄いと言ってもコントにしかならないから仕方が無い。


「うう、やってみます」


 何とか了承して貰えたモノの、どうにも乗り気じゃない様だった。

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