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死憶の異世界傾国姫  作者: ぎむねま
4章 盲目の姫の残滓
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第二王子

【シノニム視点】

 楽屋のベッド、ハッとした様子でユマ様が目を覚ます。


「気が付きましたか?」

「シノニムさん? 劇はどうなったのです?」


 姫様がまず気にしたのは、自分が気絶した後の劇の事だった。


「イライザさんが代わりに。救出は無事に成功した様です」

「そう、良かった」


 ほっとした様子のユマ様だが、伝えるべきは伝えなければいけない。


「途中で役者が変わった理由として、ルイーンの宝飾。あの秘宝で普通の女の子に変身したと言う筋にした様です」

「え? ずいぶん思い切った変更をしましたね」

「私も驚きました、ただそうでもしないと観客も納得しなかったかもしれません」

「と、言うと?」

「……全くもう! それだけユマ様の演技が素晴らしかったと言うことです。まだ私は姫様の事を見くびっていたのでしょうね」

「ふふ、悪くなかったでしょう?」


 イタズラっぽく笑うユマ様は、年齢通りの無邪気さを振りまく。そして私は何度もコレに騙されてきた。

 いや、すぐにムキになったり無茶をしたり、年齢通りの部分は少なくない。

 でも普通は、無茶は通らず最後には大人に頼るしか無くなる。ちょうど私が子供の時、オーズド様に頼らざるを得なかった様に。


 でもユマ姫は違う。やると言えばどんな無茶でもやってしまう。それが恐ろしい。

 そもそも一度見たからと演技など出来る物なのだろうか? いや、だとしたら役者は日々何を練習していると言うのだ。――あり得ない。


「悪く無かったどころか、イライザさんが感銘を受けていました。私もです。ネルネなんて姫様を放ってまだ劇に張り付いてるぐらい熱中しています」

「もう、あの子ったら」

「ところで……ユマ様は演技の経験が?」

「いえ? ああ、五歳の時に劇と言うか、お遊戯はやりましたね」

「お遊戯……それであんな風に演じられるモノですか?」

「記憶力には自信があるので、見たままを演じただけですよ」


 そんな馬鹿な、そもそもその記憶力だって普通じゃ無い。これが森に棲む者(ザバ)いや、エルフの普通なのか? 思えば我々にはそれすら判断がつかない。


 しかし今はとにかくこの式を成功させる事だ、細かい事は後で聞こうと思い直した。


「劇の変更で、ユマ様は後半に再び出番があります」

「? どうなるのです?」

「ユマ姫を演じるイライザさんは、途中で田中として死んで、そこから最後までユマ様が再び演じる事になりました、大丈夫ですか?」

「え? 田中として? ああ! 田中が私に変身して、おとりになる訳ですね?」


 さすが理解が早い、イライザさんの姿に変身しているユマ姫が、その秘宝を田中に託す。

 グプロス卿の手下は、むしろ本物のユマ姫の姿を知らないのだから変身した田中を追いかけ、元の姿に戻ったユマ様はまんまと脱出しオーズド様に保護される。

 そんなシナリオに変更したのだ。


「理解が早くて助かります。そう言う筋です。そこからスフィールで大立ち回りして、グプロス卿を誅する部分はユマ様自身が演じる事になりました。体調の不安から反対しようかと思ったのですが」

「いえ、大丈夫です。やります」

「そう言うと思っていました」


 そして大言通り、この少女ならきっとやってしまうのだろう。

 だから不安なのは『やり過ぎてしまう』事だ。ニヤニヤと笑う笑顔に不安を隠せない。


「それに、もうすぐ前半の部が終わります、予定通りホストとして応対して下さい。劇について、きっと質問攻めに合いますよ? 第二王子の扱いには特に注意してください」

「わかっています、ですが私への質問は劇の事だけでは無いと思いますよ?」


 イタズラっぽくユマ様が笑う。

 ……そう、休憩中には軽食、そしてデザートとしてアレが出る。魔法で出来た不思議な食べ物だ。

 本当は夜食と共に供する予定だったのだが、姫様が低温を維持する余裕が無くなり、昼休憩に出されることになったのだ。

 牛乳を凍らせたデザートは話に聞いたことがあったが、それが夏に食べられるとは!

 劇が始まる前とは打って変わって、気絶までしたと言うのにユマ様は実に楽しげだ。


「実は作った私自身、楽しみなのです。香りを付けた完成品は食べていませんでしたから」


 あどけない様子で笑う、これすらひょっとして全て演技なのでは? と思ってしまう。


 ……だとしたら、本当のユマ姫の姿とは?


 思わずルイーンの宝飾の事を思い出してしまう。そのエピソードの中に偶然に殺人鬼がその秘宝を手にするや、あどけない少女に化けて凄惨な殺人を繰り返す話が有るのだ。

 ユマ様はそんな便利な魔道具は存在しないとおっしゃっていたが、『ナニか』がユマ姫みたいな少女の姿に変身しているとすれば、外見と中身のギャップ、その全ての疑問が解決するような。

 そんなことを思ってしまうのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

【ユマ姫視点】


 さぁ、ご飯ご飯。

 午前の部が終わって、休憩時間だ。

 いや、当初の予定ではこの休憩時間が一番の頑張り所だったのだが、今の体力ではお客の間を泳ぎ回って、一人一人と話していくのは無理。

 基本的には椅子に座ったまま、挨拶しに来る相手を捌くだけに留めるつもりだった。


 だが、それでもこちらから挨拶しに行かなくては成らない相手が一人。

 第二王子のボルドーその人だ。俺は笑顔で王子へと近づいた。


「お久しぶりです、ボルドー様」

「ユマちゃんか、舞踏会の日以来だね」

「その節はお世話になりました」


 あの時の松葉杖は既に返却している。

 実は、シノニムさんは返すついでにお礼と称してアポをとろうとしたのだが、『王子は多忙なので』とすげなく使用人に追い返されてしまったらしい。

 一気に王族を口説こうなんぞ、虫が良すぎたかと思っていたのだが。

 今度は相手から訪ねて来てくれた。これはどんな変化によるものか、見極めなくてはならない。


「演技、見させて貰ったけど驚いたよ。途中で女優さんに変わった時、残念に思ったほどね」

(つたな)い演技で恥ずかしいです」

「いや、トラブルだったんだろ? いきなりにしては上手すぎるよ、実は練習していたのかい? それにしても凄い」


 ボルドー王子は、屈み込んで俺に目線を合わせて語ってくれる。

 子供扱いだが、威圧感たっぷりに話し掛ける大人と違って、悪い感じはしない。


「光栄です! 頑張った甲斐がありました」


 俺は少女らしい笑顔(のつもり)で快活に笑う。こう言う時は子供の純粋な無礼さでグイグイ行く方が良い。

『美辞麗句を並べ、()(えん)な表現でなんとか相手の本心を探ろうとする子供』

 どう考えても気持ち悪いし、鼻持ちならないだろう?


「あの、本日はどういったつもりで観覧に来て頂いたのですか? ひょっとして私の派閥に入ってくれるとか?」

「ハハッ、いや純粋に観覧がメインかな。後は、どちらかと言うと勧誘……かな?」

「勧誘? ですか?」

「うん、君を僕の派閥にね」

「えぇっ!」


 驚いて見せるが、想定内。と言うか当然だ、王子が俺の派閥に入るなんて聞く方が子供らしさを演出するブラフ。俺が王子の派閥に入るのが自然だろう。

 ぶっちゃけ、ちゃんと帝国の危険度を認識し、エルフと同盟、戦争の準備をしてくれれば俺もシノニムさん(ネルダリア領)も、派閥の長で有ることはどうでも良いのだ。

 国境から遠く離れた王都はそれほどに状況を実感出来ていない。今が滅亡の危機という自覚が無いのだ。

 問題は、この第二王子にそれだけの認識があるかどうかなのだが。


「難しい話は後にしようか、今日は劇の続きを楽しみにしているよ」

「是非! 楽しんで行ってください、私もまた少しだけ出るんですよ」

「そりゃ楽しみだな」


 突っ込んだ話は大人を交えてと言うことだろう、後は軽食をつまみながら劇のあの部分、実際ははこうだったとか雑談を続けた。

 合間合間に帝国の武器や軍に対して脅威を語るのは忘れない。


 そしていよいよデザート。プリンとそしてアイスクリームだ!

 俺はおずおずとアイスが入った容器を渡す。木村が持ってきた断熱容器は見るから怪しい、大丈夫かコレ?


「あの、これ私が作ったお菓子なんです」

「本当かい? 楽しみだな」


 そう言って、スプーンで掬ってパクリと食べてしまう。毒味もしないで大丈夫かと思ったが、やっぱり問題らしく「王子!」とお付きの人が声を上げた。


「!?」


 が、王子は固まったまま。


「王子?」とお付きの人も何事かと眉をひそめる。

 ボルドー王子はハッとした様子で再起動すると、俺を見て『やったな?』と言わんばかりに、ニヤリと笑った。

 俺は曖昧な笑みを返すしかない、いやイタズラしたつもりは無いよ?

 王子は付き人へアイスの入った容器を突きつける。


「オイ! ガルダお前も食ってみろ!」

「ハァ……びっくりさせないでくださいよ」

「うるせぇ、ホラ!」


 そう言うと、お付きの人の(くち)にぞんざいにスプーンを突っ込んだ。

 粗野な外見に見合わぬ丁寧な人物と思っていたが、コッチが素か。


「これは?」

「冷たいだろ?」

「ハイ! でもまさか……信じられない……」

「ユマちゃん、いやユマ姫はこれをどうやって?」


 気になるよなぁ?


「わたしの魔法です!」


 ふんぞり返って宣言する。 子供らしくて良いんじゃ無いかね?


「魔法か、お前どう思う?」

「本当なのでは? それ以外説明がつきません」


 側近と二人で話し合っている様子がカワイイと言うか、男同士の会話が懐かしいと言うか、見てるとなんとも微妙な気持ちになる。

 こうやって気を許した相手と話していると素が出るよな。

 跳梁跋扈する王宮と脅されたが、この第二王子は多分シンプルな人間だ。

 そのあたりを変に取り繕わないのは俺を子供と侮ってくれているからかも知れないが、見ていて楽しい。

 王子はアイスを平らげると、今度はプリンも食べ始めた。


「このプリンと言うゼリーも旨い、全体的に商品のクオリティが高いのは流石だな」

「キィムラ商会の本領発揮と言うことでしょうね」

「是非組みたいが、なんと言うかね?」

「はて、天才の変わり者で通っていますから私のオツムでは計り知れません」

「俺もだ」


 ずいぶんザックリ目の前で話してくれる。

 変に聞くと面倒そうだ、この辺でおいとましよう。


「あの……難しい話は解らないので。スイマセン、他の人に挨拶に行っても良いですか?」

「あ、ああ……構わないよ」

「ハイ! ありがとうございました!」


 会話は集音魔法で聞けば良い、そうじゃなくてもシノニムさんの部下とかが聞き耳を立てている筈だ。

 相手だってこんな所で話す内容はある程度聞かれること前提。そんな駆け引きに付き合ってる暇も無い。

 第二王子との話も重要だが、当初の予定通り派閥の足場固めが大事。

 そして何より、このアイスクリームをどや顔で自慢してやりたい気持ちで一杯だ。


「みなさん、私が作ったオリジナルのお菓子をご賞味くださーい」


 木村が作った断熱容器に入ったバニラアイスの前に陣取り、貴族達にアイスを振る舞いながら挨拶ラッシュを裁いていく。

 演技良かったよ、等と通り一遍褒めてくれるが、その後は聞きにくい事、例えば木村の商会への文句とか、エルフの残存勢力と連絡が取れているのかとか、めんどくさい話題を振ってくる。

 それをアイスを食べさせ、その話題で押し流しつつ、合間合間にアイスを冷やし直しながら応対する。

 ヤバい! これ、結構重労働だわ。


 俺はヘトヘトになりながら愛想笑いを振りまくのだった。



 その一方、第二王子ボルドーは側近の男性と、未だ話し込んでいた。


「お前、あのユマ姫どう思う?」

「どうって、小さいのにずいぶんしっかりしてるし、演技力もありますね」

「そう言う次元じゃねーよ、明らかなトラブル。ろくに練習もせずに演技なんて出来るか?」

「いや、私は演技はサッパリで」

「可能性は二つ、一つは全てがトラブルに見せかけたアイツらの壮大な仕込み」

「なるほど、キィムラ商会のやりそうな手ですね」

「だけどよ、だとしても少なくとも姫様はこれを知らされてたって事になる、食えないお嬢ちゃんだな」

「なるほど、もう一つは?」

「あのお嬢ちゃんが純真な糞馬鹿糞真面目で、キィムラ商会の言うとおりに疑問も持たずにひたすら動いている」

「はぁ、ありそうな感じはしますが、それもちょっと怖いですね」

「もっと怖い第三の可能性がよ、キィムラもシノニムってオーズドの代理の食えない女も、全部あのユマ姫が動かしてるって絵図よ」

「はぁ、冗談にもなりませんよ」

「俺も冗談だと思ってたがよ」

「なにか?」

「どうにも、違和感がな、あのアイスにしたって夏だぜ? いくら飛ぶ鳥を落とす勢いだって一商会に用意出来る物じゃ無い」

「たまたま姫が持っていた魔道具と知識で完成したのでは?」

「なんとも簡単にポンと完成度が高い物を出してくるじゃねぇか、おかしくないか?」

「それだけじっくり用意したのでは? 自慢げに胸を張っちゃって可愛かったじゃないですか?」

「そこよ! 俺にはどうも、そのいかにも子供っぽい部分が出てしまったーって方が、むしろ演技臭く感じて仕方ねぇのよ、俺の人生経験上『わたし馬鹿だからわかんなーい』って言う女は絶対に馬鹿じゃないし、おっかねぇ」

「いえ、私の知り合いにはそう言う馬鹿女が大勢居ますが?」

「庶民は違うのかもな、だが少なくとも王族の俺に絡んでくる様な貴族のお嬢ちゃんで、そう言う手合いは食わせ者よ」

「ハァ……」

「てめぇ信じてないな」

「あんな子供がですよ? あり得ないでしょう」

「まぁな、でもよあの演技力なら何だって出来ちまうだろ?」

「そりゃそうですけど」

「少なくても子供だからって油断すんなよ」

「解りました」


 以上、集音魔法でした。


 ま、中身はキィムラと同世代だから子供らしからぬ部分も当然。俺の人生やっとチート感出てきたね!


 取り敢えず、第二王子、なんか憎めないと言うか好感が持てるな。

 発想も柔軟で勘も良いし、自分に都合良く考える様な気持ち悪い部分も無い。

 マジで第二王子傘下に入るのもアリかもしれんな。

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