4 羽
◯ 4 羽
子猫の姿までは上手くいった。が、問題は人化だ。女の子になるのだ。僕は大丈夫だろうか……。答えは意外と大丈夫だった。というのも変身セットを着けていると思えば良いの一言で事は済んだ。
「ちょろい……」
「さすがマシュだね」
呆れた顔のマシュさんに苦笑いのレイの顔を見て、成功を確信した。
「乗り越えたのね〜? 良いわぁ、可愛い〜! 今日はお祝いよ〜!」
マリーさんは僕の姿に大興奮だ。鏡を見ればホワイトパールの髪の毛にコンクパールみたいなピンク色の瞳の4、5歳の将来楽しみな感じの女の子の翼人族の姿だ。レイに何度も肩甲骨だの骨の仕組みだのこの先は魔力で作られてるだのと説明を受けては覚え、イメージトレーニングをさせられていた賜物だ。
最も、瞳の色は時折変わる。庭で踊ってから色彩が安定しない。レイが言うには生まれ変わりで、神力がまだ安定してない、もしくは新しい力が芽生えているかどちらかだとか。
紫月がお揃いと言っていつもの6、7、歳くらいの人型の姿をとって隣に座った。一緒にステージの練習をする約束して、夕食を一緒に食べた。
紫月はカシガナの実を僕の口に運ぼうとしている。口を開けて食べた。
「美味しい?」
「うん。美味しいよ」
嬉しそうに笑うのを見て、僕も微笑み返した。
「食べて良い?」
「うん良いよ」
吸血精霊な紫月のごちそうは僕の血だったのを思い出しながら、このシチュエーションは考えてなかったと皆の微妙な笑い顔を見ながら思った。全身が熱いぞ? 次からは二人だけの時にお願いしよう。
「翼人族に似ている天使のイメージが、地球での宗教画のキューピットから来ているのなら子供の姿も納得だが、もじゃ頭じゃないんだな……」
マシュさんはいつの間にかそんな分析をしていたらしい。もじゃ頭じゃないストレートな艶髪を見て首を傾げている。ホワイトパールの輝きなので真っ白とは言わない髪色だ。黒髪の時もそんな感じだったし僕の神力もそんな感じだ。
「日本人ならサラサラの髪の毛は憧れの的よ〜」
「そういう事か」
マリーさんの日本での経験からの言葉に、マシュさんは納得を示した。
「キューピットといえば弓矢でハートを射抜くんだって?」
レイが地球の宗教に詳しかったのかと驚いたが、顔がにやけているので悪い事を考えてそうな気がする。
「近い商売は既にレイ達がやってるから当たってるんじゃないのか?」
「ピピュアちゃんに飛び道具を与えるなんて無謀な事は考えちゃダメよ〜っ」
マリーさんの焦った声が皆の妄想を突き破ったようで、正気を取り戻した様に真面目な雰囲気を持った。
「既存の方法は止めよう。新しいのを考えた方が良い」
「そうだね。失敗が約束された物に手を出す程の酔狂は持ってないよ。大体まだ借金は残っているんだし」
「増えたの間違いだろう」
「投資したと言ってよ。回収は順調だよ」
「キヒロ鳥が慈愛の女神と恋愛の神の広間で水浴びをする姿を見せるツアーは順調なのね〜?」
「売込みには充分気を使っているよ?」
「歴史が浅いと、続けてこういうイベントが無いと注目度が直ぐに落ちるからね……」
「また盛り返しているんでしょ〜?」
「勿論だよ。月闇のゲートは嫌な顔をする神々がいたけど、それは今回の事で払拭出来るからね。問題は無いよ。それに恋のお守りは実際に効くからね」
「誠実な気持ちでいれば会いたい時に会える、もしくは連絡が相手から届くというあのグッズか……。本来なら量産品だと眉唾物だがキヒロ鳥の羽根やら残光を閉じ込めた聖水で、レイの神力を補助しているしな。商売が良い方に向かってるなら心配は無い」
「多少の事象を操るくらいの力は乗せれるからね。そこが重要だよね」
……話の流れからあの水浴びが意外と重要な意味があったのが分かった。というかまあ、レイ達には苦労をかけまくったからこのくらいは目を閉じてあげていいと思うし、役に立っていると思うとちょっと嬉しい気もする。お守りのグッズに使われているのならレイの本職だ。
しかし、兄達にはあまりそういうのは向いて無いとだけ伝えておこう。実に自由気侭な生活を送っているのがキヒロ鳥だ。正直一生あのままでも良いくらい快適だった。
「ピピュアが望むならそれもありだけどね?」
ちょっと迷うレイの提案だが、自分の仕事を放棄は出来ないと思う。それに幻想聖魔獣は意外とあやふやな存在だ。精霊とも違うけどそれに近い気もするし、精霊界という場所にいるからには妖精達と似た特徴もある。
「その疑問も当然だ。存在としては妖獣と精霊の間か? エネルギー的には精霊に近いが肉体を持つから妖精ともいえるが……幻想獣という種としてあると捉える方がしっくり来る。魔法攻撃は殆ど無効だと玄然が言ってたからな」
「神幻想獣でも良いのにねぇ。神力を使えるのにそうはならないのね〜?」
「キヒロ鳥の分類は幻想聖魔獣になってたね」
「色々と論争されているが、神としての実績やらが無いとされているし、あくまでも鳥としての扱いだ」
「成る程ね。保護される鳥でいてもらった方が良いし、実際その通りだね。神の仕事が出来るのかと問えば無理だから」
「それで言ったら、ピアは例外になるな」
「今の所は鳥のアイドルだよね」
レイ達の話を聞けば何となく理解した。あの神官達は他の世界からのお客様だったらしい。キヒロ鳥のアイテムを使っているという証人兼、ご購入予定者なのだと。今の所は神官の資格持ちの神見習い以上の方々を対象に見学を許しているらしい。
あの後は僕の落としたアイテムの加工現場に向かい、レイが神力を込める為に受け取る所まで見れるらしい。最後はグッズ販売の場所にご案内だ。ついでにアストリュー名物も周りには置かれている。
僕が戦闘系の力がからっきし無いのと同様にマリーさんなんかは僕達の持つ事象をねじ曲げ、更に辻褄を合わせるという力は持って無い。絡み合った事象を打ち砕き破壊し尽くす力は持っても、繋ぎ合わせて関係を構築するのは無理なのだとか。神々にも色々と役割があるのだ。
要は恋に悩む東雲さんの様な方々が見学に来ているのだ。それならば、怜佳さんの夢逢瀬の香りなんかは一緒に販売すれば効果大だと僕なんかは思うのだ。
それを伝えたら、さすが愛の鳥だねとレイには褒めちぎられた。早速タイアップ作戦は始まった。
アストリューでの恋愛においてのお守りの知識は、女神達の間では常識となった頃、僕は精霊の力を取り戻し、アキの姿をとる事に成功していた。アストリュー世界では夏も終わり、実りの秋に入った頃だった。
時期的には、プロローグくらいです。