42 海月
◯ 42 海月
目が覚めるとアストリュー世界の家だった。いつの間にかこっちの世界に帰っていた。何かあったんだろうか? 階下に降りて行くと、マシュさんがマリーさんからコーヒーを受け取っていた。
「おはよう……」
「起きて来たか。おはよう」
「おはようピアちゃん」
ちびピアになっている……。いつの間にかちびピアのパジャマも着ている。マリーさんはいつも通りにキッチンの主になっているし、マシュさんはその前で、料理が出来るのを待っている。
「クラゲは?」
「ルージン神の配下に入ったのよ〜」
マリーさんが答えてくれた。コーヒーを入れてくれているみたいだ。僕は収納スペースから自分用のマグカップと食器を出した。
「えっと、配下?」
「契約したらしい。意志があるなら団体で頂くってさ」
そういっているマシュさんの隣に食器をセッティングし、出来上がっているコーヒーをマグカップに入れてもらった。
「へえ」
「ヨロシにはお礼を言っておいて欲しいって言ってたわ〜。海の安全を守護する海生物として活躍してもらうって言ってたから大丈夫よ」
マリーさんは焼けたベーコンエッグをお皿に載せてボイルした人参とポテトをその横に置いた。カシガナの葉のサラダとフルーツの盛り合わせが置かれ、ヨーグルトが添えられた。
「そっか。受け入れてもらったんだ。良かった」
ルージン神のまもりが付けば悪神達に操られるとかもないし、契約をしてしまえば彼らも安全だ。ルージン神も戦える海の生物が手に入って調度いいし、良い関係になる。
「ポースも、全部が闇を扱ってないと取り込めないからあれはいらねぇって、言ってたから帰ってきたのよ〜」
「それでなんで僕はちびピアに戻ったの?」
「紫月ちゃんは鳥に戻したかったみたいだけど、その姿にしかならないって拗ねてたわ〜」
そこでムッソのパンが焼き上がったので、僕はそれをバスケットに入れてテーブルの中心に置いた。好きなだけとって食べるのが家のスタイルだ。獣守達は既に食べ終わっているのか、庭で紫月達妖精と遊んでいるのが見えた。
「なんだ紫月がやったんだ」
羽毛布団を欲したのかな? 夢魔が現れた時に鳥にならない様にってかなり強く思ったから多分そのせいだ。紫月にも動かせない程の意志を働かせれているなら大丈夫だ。でも可哀想だから紫月にだけは許しても良いと思うんだけどやり方が分からない。
「何で鳥にならなかった?」
マシュさんが興味深げに聞いてきたので、夢魔との攻防を話したら納得をしていた。
「そうね〜、悪魔に対抗した力なら本物ね。正体がバレる事はなさそうね」
「ちびピアはピアだって神殿で公開しているから全員が知っている。意味無いだろう」
「そうだった……」
マシュさんの指摘に、マリーさんと顔を見合わせて考えが足りなかった事を反省した。
「そんな時は修行よ〜」
「そうだね」
僕は朝食を食べながら姿の使い分けのルールを考えた。
ピア、ピピュアで呼ばれているのは本来の姿だから纏めてアストリュー神殿で、メレディーナさんやらレイの弟子でいる。この姿はアストリューだけで通用すると思っていた方が良いので、アストリュー世界限定にする。キヒロ鳥の変種は貴重だと言っていたのだから、外に出ているというのはバレない方が良いと思う。
皆はどう思っているのかは知らないけど、自分の事は自分で考えるべきだと思うのでこの取り決めは自分で決めた。ラークさんも使い分けは難しいと言っていたし、やるしか無い。
皓鳥 舞桜の姿はアストリュー神官で、死神だ。目立つけどこの姿はみんなお気に入りだ。というかちゃんと擬態出来ている姿一号だ。
日本人留学生としての活動はこげ茶色の髪でと思っていたけど、最近は日本人も髪の色を変えるのに、髪飾りを使って魔術で行っているので余りこだわる必要は無くなった。気分で変えている。
三乃 宜は……みかん界の住人だ。もうそれで行く。身分保障がそこなので下手な事は出来ないが、目立たないから旅行とか短期のアルバイトをするのには良いと思う。アキの姿に一番近いけど、自由な活動が出来ると思う。
月夜神はガリェンツリー世界の管理神だ。『妙旋風』の踊り手でもある。ガリェンツリー世界の公的な仕事の時はこの姿を取ると決めている。大事な事だ。
アキ神は……異世界間管理組合の見習い神の一人だが、全く有名じゃない。月夜神と同じ姿というか、化粧してない男神の姿だ。
ただの組合員アキは、舞桜がアキのやり直しの新人としての生活をやらされている。厳しいけど、仕方ない。
異世界間管理組合と関係のあるのは今の所、アキ神と舞桜のみだ。月夜神は管理神としての名だからアキ、アキ神だとは公開していない。まあ、知ってる人は知ってるという感じだ。アキ神が全く有名じゃないせいだ。しかも、組合員としては死亡している……。いや、犠牲者としては有名になったかもしれない。
アイスとしては死神の組合に登録されているが、ベールの登録制なので、どんな姿を取ってもアイスの名は変更は無い。作戦で名が被ったときのみクリームになるけど、それはまだ無い。ポースとの活躍は舞桜の姿を見せた方が反応は良い。……記憶に残るらしい。
ポースと入れる場所がアストリュー世界とガリェンツリー世界にみかんの中間界、死神の巣と限られているのは痛いと思う。
ナリシニアデレート世界はピンチの時は許しが出たし、闘神の二人も既に仲間としては認めてくれている。それにこの間の悪魔との戦いにも活躍したから、ラークさんも他の神々を説得して監視役無しでも来れる様にしてくれているみたいだ。歌手としても認知されているしね。
「ちょっと多すぎなのかもしれない」
「何? ピア」
「レイ。帰ってきてたんだ」
「なになに……へえ。確かに多いね。統一した方が良いよこれ」
紙に纏めていたものをレイが横から覗いている。
「ヨロシっていうか、ヨォシーの姿は旅行の時だけにするよ。舞桜の姿に慣れた方が良いし」
「アキ=舞桜=アイスの構図でいいかな?」
「うん。そうだね。ピピュア、ピアはこの聖域と神域、アストリュー神殿の限定にすれば問題はないと思うんだ」
「後は月夜神だけだし、良いよ。これで」
「ポースはアッキと呼ぶのが癖みたいだし、アイスかアッキで良いと思うんだ」
「ピピュアは覚えているよ?」
「そ、そう?」
「美は記憶に残る。そんなものだよ」
確かにピピュアはちゃんと呼んでた。ヨロシはアッキと顔が被るのか呼びにくいみたいだ。
「舞桜は最近見てないけど、きっと呼んでくれるよ?」
レイは僕が記憶を辿っているのを見て悪戯っぽく笑ってウインクして来た。
「試してみるよ」
そんな訳で、久しぶりに舞桜の姿を取って、神殿に働きに出かける準備をした。ついでに基本属性の火水風土の試験も受けに行く事にした。その際、ポースに言ってきますの声を掛けたら、ポースと紫月は元気よくいってらっしゃい舞桜、といって送ってくれた。……ヨォシーの姿は僕が覚えておけば良いと複雑な気分で出かけた。




