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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
ちゃーむとうぞくだん
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 胃痛の種 3

 ◯ 1日目


 アキ、いや、ピピュア……いや、また新しい姿を考えたと言っていたか。だが、出来れば派手さの無い姿をお願いしておいたので、今日は大丈夫のはずだ。あまり綺麗だと近寄りがたさを感じるから困る。


「ホング。ここの服装は俺でも遠慮したいのが多いのだが、どうする?」


 そう言うヴァリーの顔が渋そうだ。


「……確かに」


 異世界渡航待合所で僕達は頭を抱えていた。左右で色の違うタイツをはく勇気は無い。かといってリボンの付いた靴だのひらひらのレースが付いたカボチャパンツとやらも遠慮したい。


「市民もこの恰好か?」


「探してみるか……」


 期待してみればマシだった。普通にシャツとズボンもあった。二人でホッと胸を撫で下ろした。アキがこのデフォルメされたカボチャパンツで現れたら他人のふりをするかもしれない。取り敢えず、秋の気候にあわせて上着とシャツ、ズボンを魔術服にセットし、着替えた。いったん色が抜けて、形が変わり、直ぐに色が付いた。


「こんなもんか?」


「大丈夫だろう」


 頷き合って、番号の書かれた渡航場所に向かった。指定された教会の入力を済ませてあるので、後は移動が始まるのを待つだけだ。魔術特有の光が溢れ出し、移動が始まった。一瞬の浮遊感の後、地面に足がつく感覚がした。目を開ければ、古びた臭いの籠った石の部屋に到着していた。振り返れば古い型の転移装置が置かれている。

 ここから更に人界に飛ばされるのでしばし待てば、人が入って来て、書類を確かめられた。許可は直ぐに降りたので、装置が動き始めた。

 今度も年期の入った建物の一部屋と行った場所に着いた。


「こっちの人界の方が綺麗な装置だな。新しいタイプになっている」


「そうだな。壊れたとかそんなのじゃないのか?」


 よく見れば新しいというか、古い部分と混合になっている気がするが……故障を直したとかか?


「まあ、詮索しても僕達には分からないけど」


「この教会で待ち合わせだったよな?」


「取り敢えず、部屋を出よう」


 部屋の外に出ると、12、3歳くらいの女の子とそれより少しお兄さんの男の子が振り返った。何となく親近感を覚える顔の兄だ。昔の出会った頃のアキに似ている。


「ホング、ヴァリー、久しぶりだね」


 思った通りにアキだった。良かった。カボチャパンツははいてない。自分たちと似た恰好だが、皮のベストを着ている。


「ヴァリーを連れてきた。ダンジョンの出来てしまった世界だと聞いたから……」


「うむ、復興の参考になればと来た」


「建物の建て直しが始まる頃じゃないの?」


「そうだ。俺がする事はもう殆ど無いからな」


「作り手とは違うから難しいよね」


「うむ、街の整備手順は殆ど決まったから後は実行のみだ。工事とかは職人に任せるしかない。時々は様子をみに帰るが上がうるさく言わない方が上手くいくからな」


「現場の事はまかせるくらいで調度いいよね。職人がへそを曲げたら大変だし」


「分かるよ」


 話をしながら外に出た。女の子の方はチャーリーという名前で、護衛だそうだ。あの猫の護衛とは違うみたいだが、同じくらいは強いという。僕達の護衛もやってくれるようだ。

 アキはヨロシ ミノという名の黒の神の見習いの身分で来ていた。知り合いに会いにという理由での滞在だそうだ。ここでフォーニに出会ったというから驚きだ。


「なんかホッとするよ」


 この姿なら緊張せずに喋れる。美しさもある一定を超えると良く分からない圧迫感というか、威圧を感じるのだ。まあ、アストリューならあのレベルは探せば幾らでも出てきそうだけど……。


「ずっとそのままで良いぞ」


 ヴァリーも同じ意見なのか嬉しそうだ。ヨロシは頬を掻いていて、思案している感じだ。


「お弁当を持ってきたから後で食べるよね?」


 その台詞を一番待っていたかも知れない。ヴァリーと思わず目を合わせれば、自然と涙があふれた。まともな物が食べれる。……いや、贅沢なのは分かっている。が、すっかり聖の食べ物が自分達の舌に馴染んでいて、他には食指が動かないのだ。そして、聖の食べ物は高い。

 恵んでくれる友人は貴重だ。ディオンに食品関係の鑑定をつけて分かった事もある。アキのくれていた紅茶やらクッキーの価値だ。聖にも強弱があったりする。質というか使い手にも左右されるのだが、鑑定すれば最高ランクの評価をどれもが返して来たのには驚くしか無かった。

 味もかなり良い評価だが、それよりも聖の属性としては申し分ない。あれは中々見つからない物だ。金を出せば手に入るという物でもない。市場に出るのが圧倒的に少ないとだけ言っておこう。神々が独占していると思っているが、多分予想通りだろう。新人には出回る事等無い貴重な食べ物だ。


「ところで、無人島に何の用があるんだ?」


 気になっていた事を聞いてみた。チャーリーと何やら打ち合わせをしていたヨロシが振り返った。世話になった妖精がいるとか言っているが、自分達が近寄っても大丈夫なのか? 心配したが、ヨロシは問題は無い様な事を言っている。港町で留守番でも良いとか。


「どうやって渡るんだ?」


 僕が行く為の交通を聞いたら、


「飯は充分あるのか?」


 と、ヴァリーはもっとも重要な事を聞いていた。無人島というと食料は調達出来ない。ヨロシの返答は二十日分あるとの事だ。それに、そんなには滞在する予定ではないと言っているし、残りは持って帰るかまで聞いて来た。


「「おおぉぉっ!」」


 僕達の喜びは自然と声になって現れた。勿論付いて行くとも、たとえ無人島でも何処へでも! きっとヴァリーの方が喜びは深いだろうが……。その後は街の外に向かってゆっくりと移動しつつ、フィトラが主人を変えたとか、僕が星深零の真偽の間に入って助手を経験したとかそんな話をした。前は慌ただしくて出来なかった話だ。

 しかし、そんな平和な話はアキ、いや、ヨォーシーの気が付いた呪いの品で吹き飛んだ。偽装された物騒な物が露店に紛れているのが分かった。何か嫌な予感がし始めた。楽しい旅行は諦めた方が良いかもしれない……。三人での仕事は何かトラブルが大量発生した記憶しかないのを、今更ながら思い出したからだ。

 そして、楽しいはずの旅行は仕事に変わった。この仕入れ先をなるべく突き止める仕事が舞い込んだのだ。まあ、この程度の調査なら大丈夫だろう。港町の先は他の国か、他の港か……その辺りのルートを調べれれば良い。その先は専門家が訪れる。それまでの間少しでも調べを勧めておく事が課された。重要な情報が得られれば報酬も上がる仕事だ気合いも入る。


「真偽官見習いがいるのは頼もしい」


 ヴァリーはそう言って笑っている。チャーリーも似た様な事を言ってくれた。馬車の御者が出来る人材が二人いるならそれも助かると、ヴァリーは更に零していた。全部自分がすると思っていたらしいが、意外にもチャーリーが扱えたらしい。今はヨオシーにいや、ヨォーシだったか? ヴァリーが変な発音だから移る。彼に御者の心得を話しながら手ほどきをしていた。まあ、ヨォーシーは馬に回復の魔法をかけたりしていたから馬の方がすっかり懐いて言う事を聞いているから問題は無いだろう。


 そうこうしているうちに村が見えて来た。既に日が傾いているし、初日だ。早めに宿を確保して進む事にした。それに多少の聞き込みと調査も必要だ。宿は三つあったが、ヴァリーが取りに向かった。市民の服装がいけなかったのか大部屋にしか入れないという。仕方ない。商人や、神官の服装の方が良かったかもしれない。


「騎士風の男は部屋に案内されていたから身分で差をつけているのは明らかだ」


 僕は観察していたのを上げたら、


「そのようだな。剣をぶら下げている奴も案内していたから武装しているかどうかもありそうだ」


 と、ヴァリーも返して来た。ヨォシーは今一分かってない顔をしているが、護衛のチャーリーは何となく察したようだ。ヨォシーは良い感じの服装だが、武装していないし、子供だとで侮られたのだろう。ヴァリーと相談して服を少し上質な物に変える事にした。明日は短剣ぐらいは腰に差しておくべきだと意見を揃えて眠る準備に取りかかった。

 その間に交わされているチャーリーとヨォシーの会話が変だ。どう聞いても逆だ。兄が妹を世話するんじゃないのか?


「従者との会話みたいだ」


 ヴァリーはぼそりとそんな事を呟いている。ま、まあ、職務に忠実な子だと思っておこう。取り敢えずは明日も早朝から夕方までは移動だ。しっかりと休もう。





 ◯ 二日目


 真夜中過ぎに叩き起こされた。朝はまだ遠い時間なはずだ。ベッドから引きずり出す勢いで体を揺さぶられて起きざるを得なかった。覚醒したばかりの頭は働かず、アキが叫んでいるのだけ分かった。いや、ヨォシーだったか?

 見ればヴァリーも不機嫌だ。あの顔はよっぽどじゃなかったら殴られるぞ?

 だが、護衛の方は素早く何かの魔術を展開し始め、腕を掴まれ引っ張られたのと同時に魔術範囲に入ったのが分かった。

 瞬きの間に今朝見た扉の前にいた。そのまま新旧混合の転移装置を弄って神界へと飛ぶ準備を始めたが緊急避難用のコードを使っているのが見えた。それでやっとちゃんと目が覚めた。これはただ事じゃない。


「緊急避難用だから余程の事があったみたいだぞ」


「本当か?!」


 ヴァリーの顔が引き締まった。荷物も持たずにここに来たのだし、何か理由があるのだろう。考えている間に既に神界へと到着した。部屋を出ると同時に異様な雰囲気に包まれた神界の様子に驚いた。慌てふためいている人が多い。似た様子で走り込んで来た誰かとヨォシーが話し始めた。黒の神々がどうこう言っているので悪神か邪神が出たのだろう。

 ミシミシという音がするので振り返れば転移装置が次元の歪みに耐えかねているのか爆発しそうなエネルギーを発しているのが分かる。空間ごと捩れそうな勢いを感じるが、あいにくと空間の術は分からない。


「何が起きている?」


 ヴァリーに聞いてみたが、


「分からない」


 としか返ってこなかった。

 そうこうしていたら、ヨォシーが大きめのモニターをいくつか出しているのに気が付いた。その一つにとんでもない物が映っている。さっきの教会が跡形も無く消えて煙が上がっている。灰紫の瘴気が充満した中で黒い物体が微かに見えたが、動きが速くて目では追えなかった。

 死神が到着したとか言っているので、黒の神々だろうか?


「っ! 何だあれは……」


 ヴァリーの声に目線を上げた。目を離した隙に、何かが映り込んでいた。気味の悪い虫の様な複眼の主がモニターに捉えられている。


「悪魔だ……」


 何かの図鑑で見た悪魔の姿に似ていなくない。虫の様な姿だが、かろうじて二足歩行の人型を取っている。動物型と虫型、人型は少なく、人型で知能が高ければ上級悪魔だとか書かれていたが、他の書物には姿は関係なく知能は高い場合は上級だとか、諸説あるらしい……いや、そんな事はどうでも良い。

 あれから逃げたのだとするなら、あのヨォシーの慌てぶりは納得だ。


「あれから、逃げ仰せたのか?」


 ヴァリーが恐怖の表情を浮かべている。あれが悪魔なら深青の宮が綺麗に瓦礫になっていたのも納得だ。あれと戦うなんて恐ろし過ぎる。黒の神々を崇拝してしまいそうだ。


「ここまで追い掛けられているから半分は……」


「しかし、教会の人間は……あれでは助からないだろう?」


 ヴァリーの顔を見れば悲痛な顔だ。今も街の建物を次々吹き飛ばそうとしているのが見える。だが、結界が邪魔をしているのかうまくはいってないようだ。だが、かなりの衝撃を受けているのが分かる。


「だが、早く捕まえた方が良いだろう。何処に逃げても被害はあったに違いない」


「……そう、だな」


 悔しげに俯くヴァリーは何か考え込んでいる。


 画面の中の戦いが激しさを増した頃、ヨォシーと話をしていた人物とヨォシー本人が歓声を上げて喜び小躍りし出した。見ていたら更に腕を組んで回り始めて驚く。何かあったんだろうか? 彼らの見ていたモニターはよく見えない。暗い画面があるばかりだ。

 何とかスピード解決するだろうとのヨォシーの説明で、重要な作戦が成功した事を知った。いい情報に僕達はホッと息を吐き出し、少し落ち着いた。やっと話が出来る状態になったと言って良い。

 取り敢えずは神界の建物の何処か空いている場所を案内してもらえるというので、向かう事にした。普通にベッドのある部屋だ。見習い神官用の部屋だと聞きながら、案内の人にお礼を言って僕達は眠った。


 眠りが浅かったのは仕方ないだろう。目が覚めて隣のベッドに起き上がっているヴァリーも似た様な顔をしている。ここに来て初めての夜明けだ。

 まさか神界で寝起きするとは……今更ながらこの緊急事態の状態を改めて認識した。多分出入りも出来ない様に封鎖になっているはずだ。

 昨日のモニターが大量に配置されていた部屋に向かった。まだ戦いは続いていたが、落ち着いて朝食を食べながら二人が見学しているのが見えた。ヨォシーと昨日の人物だ。


「ヨォシー。昨夜はちゃんと寝たのか?」


「勿論、たっぷり眠ったよ」


「そうか、なら良いんだ」


 空間が扱えるなら時間も操れる者は多いのを思い出し、それ以上は聞くのを止めた。サンドの包み紙は時間設定もされていたからだ。


「あ、二人とも朝食、食べるよね? 用意するよ」


「ああ。すまないな」


 ヨォシーが僕達の部屋まで来て、朝食の準備をしてくれた。


「多分、今日中か明日には何とかなると思うんだ。偽装のチャームやアミュレットを回収しに来た死神の数も多いから街の被害もかなり押さえれてるし、夢魔の逃げ場はないから時間の問題だよ」


「そ、そうか」


「良かった」


「それに教会は人は出払ってたみたいだから犠牲者は殆どいなかったみたいなんだ。教会の中の部屋を改装するつもりだったみたいで、隣の宿舎に映ってたみたいなんだ。その人達も大体は逃げて助かっているって聞いたから安心して?」


「そうなのか?」


「うん。あの中でも人間の魂はちゃんと確保されて冥界へ送られてるから」


「……やはり犠牲者はいたんだな」


 ヴァリーが真剣に聞いている。


「そうだね。一人も無しって言うのは無理かも。それでも夢魔の力の元である夢界の拠点の情報を持ち帰るのは大事だからね。それで犠牲も減るし、あれが残っていたならもっとこの戦闘も時間が掛かったろうし、最悪は逃げられたかもしれないんだ」


 眉間に寄った皺がヨォシーの苦悩も現している気がする。やはり彼も気にしているのが分かる。僕達に気を使っているのだろう。必要以上に背負わない様にしてくれているのを感じる。


「なら、最小限に抑えれたという事か?」


 教会が吹き飛んでいるのだ。それ相応の死人が出ているはずだ。


「そうだね。あれ以上は無理だよ。僕の力じゃ精一杯だし。悪魔も縄張りがあるからこの近くには他の悪魔が潜んでる可能性は少ないし、悪神や邪神も近くには見当たらないから、偽装小物の拠点は別の場所だと思うんだ。悪魔も人狩りを邪魔されたくないらしいし」


 嫌そうに顔を歪めてそんな話をして来た。話を聞く程、早く捕まえた方が犠牲者が減るようなそんな内容に反吐が出そうになる。幸いに犠牲者は少なく済んで、自分が助かったのは喜んでいいし、何を置いてもヨォシーが神界に向かったのは正しいようだと納得はできた。

 ついでに僕達を回収してくれたと思っても良いくらいだ。理不尽に消される様に殺されるのは良くないが、自分の命がそれに巻き込まれなかった事を感謝するべきだろう。薄くはない友情に感謝した。


「それに、あの転移後を追い掛けてくるなんてかなり繊細な力を持っていると思うんだ。あの夢魔。普通はあんなに早く追い掛けて来れないし、もしかしたら他の情報か、当てずっぽうであの教会に来たかもしれないんだ」


「はぁ?!」


 ヴァリーは空いた口が塞がらずに間の抜けた顔を見せている。当てずっぽうと来たらこっちも唖然とするしかない。


「だって、あの辺りならあの教会に転移装置があるのはバレてただろうし、僕が逃げるとしたらあそこだと踏んでたというか……」


「そういう事か」


 あれだけ目立つ建物だ。神界の影響力があると分かっていたのだろう。


「悪神達が下調べくらいはしてるはずなんだ。あれだけ沢山の偽装されたお守り類に、ダンジョンの囮計画までやってたんだし。ナリシニアデレートが本命だったけど、それってここの管理神の一人が賄賂で融通聞く様な不甲斐ない神だったからだね。情報は漏れてたはずだよ。それに比べてラークさんはそういうのは全く受け取らないタイプだから……」


 建物の豪華さは関係なかったか違った。情報漏れがあったとは予想外だ。それにナリシニアデレートと妙な繋がりが話の中にあった気がするけど……。突っ込まないでおこう。


「む、当たり前だろう」


「そう、それをヴァリーも引き継いでるよね。お気に入りってことは、そういうモラルや気性も多少は似てるってことだよ。通じ合う何かがあるんだ」


 この台詞で何か分かった。


「つまり、彼らからしたら融通の利かないタイプの神には、ダンジョンを作ってから交渉とか考えているのか?」


「そうだね。さすがホングだよ。話が早くて嬉しいよ」


 最悪な連中だ。ヴァリーも僕の言葉で何か頭を抱え出した。分かるよ。清いだけじゃダメだと何か悟りをひらけそうだ。折角の聖の食べ物の味が良く味わえないという今一な朝食後は、ヴァリーと話をした。ヨォシーはあのモニターの場所に戻って行った。


「ヴァリー大丈夫か?」


「ああ。何とかな。あれ以上の最上はないというならそうなんだろう。悪魔と会ってしまったのなら仕方ない。最善を尽くすにも俺では何も出来ない。無意味に殺される事しか出来なかっただろう」


「戦うことは無理だ。僕だってあんなモノには立ち向かおうなんてこれっぽっちも思わない。初めて見た存在だし、あれほどの地獄を生み出す存在をここに入れてしまっているのが問題というか……僕では問題が大きすぎてとても手に負えない」


「俺にも分からん。オアシスの発展を考えるくらいが俺には似合っている」


「審判試験を心配する方が僕には合っている」


 ヴァリーの表現にあわせて言ってみた。ヴァリーが苦笑いしている。


「受けるのか?」


「まだ無理だ。人とのやり取りが大事だ。色々と交流を持つ機会が必要だと分析している……人の時間の流れ、感情の裏側は生半可じゃ分からない」


「そうか。修行が必要か……」


「ヴァリーも旅行関係に戻る予定はあるのか?」


「……まだ分からないがこれまでの勉強を多少は反影させてみる事にしている。折角のピンチの後のチャンスだからな」


「何かしたのか?」


「ああ」


 どうやらヴァリーは街の建物が壊れた辺りを区画整備して新しく観光のイベントやらを開ける場所をいくつか設けたらしかった。地竜の買い取りでは中流の商人くらいしか使えない事も考えて定期的に運行させる計画も上げたらしい。最も予算的に無理があるのは承知でだ。今は無理でもいつか実現すればと思っているらしい。


「一般の庶民は殆どが歩きで砂漠を越える。水の魔法が使える者は良いが、それ以外は自分の街から出る事は無いみたいなんだ」


「そんなもんだろう。うちの母親なんて村から出た事無いぞ」


「……そうなのか?」


「普通だ。主婦(主夫)は忙しいし、家を空けたがらない」


「そんなものなのか?」


「王族が飛竜であちこちいくのは公務が殆どだろう。一般人が動くのは殆ど無いよ。少し余裕のある使用人を雇えるくらいの人物が移動するくらいだ。商売のターゲットはそこに絞った方が早い。そこから噂で中流が動く」


「……ホング、商売の方が向いてるんじゃないのか?」


「これは……昔、アキと情報を流している女性達の事を調べてたら分かった事だ。上流と言われる金持ちが商売の企画を立ててそれを周りに宣伝する。子飼の中流の者に自慢したり買わせる様に誘導しているのが見て取れる。実は商品を出している会社の娘とか妻がそれと言わずに噂を流していたりとかもあった。コミュニティー内は欲望と秘密で混沌としているのが分かったよ」


「そんな事で動くのか?」


「女性は誰かが持っているというのが大事みたいだ。有名で優れた人が持っていたとか、あの人が自慢するなら良い物だろう見たいな憶測でも動く」


「男は?」


「男はうんちくが書かれているのが好きなタイプと、こだわらないタイプとで別れるらしい」


「何か分かるかもしれない。やたらと細かい説明書きがされてる物をたまに見るがあれがそうなんだな?」


「魔術服もそれに入る。便利でうんちくを詰め込めるだけの素養がある。……まあ、人の繋がりと商品の売れ行きは以外と密接なのが女性の世界だって分かったのは面白かったよ」


 ヴァリーは思い当たる様な顔をしている。


「取り敢えず、昼までどうする?」


「……神界をうろつくのは得策じゃない。ヨォシーが来るのを待つしか無い」


「暇だな」


 確かに。


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