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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
しろいつき
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 チャーリーのお仕事 2

 ◯ ケース2


 ライブ映像の中からは嘴打ちのコンコン、コツンという微かな音がしばらく続き、内側から殻を破って小さな雛が姿を現しました。紫月が嬉しそうに屋根の上から生まれたと報告して、レイが実際に覗き込んで間違いなくアキだと確かめました。


「よりによってキヒロ鳥になるなんて……」


 複雑そうなレイの顔は珍しいかもしれません。


「美味しい精霊とあまり変わらないわね〜。むしろ美味しさが倍増したかしら?」


 マリーは護衛をどうするかで悩んでいましたが、対象として不足はないと呟いて満足そうです。


「ストレスに弱いのはぴったりだな」


「「「……」」」


 全員の顔がマシュの言葉に、納得の表情をいたしました。時折、鋭いご意見を聞かせてくれるのがマシュです。今回はただの突っ込みですが、細かい事は良いのです。

 キヒロ鳥の映像を見ては記録を付ける、楽しい日々が続いています。生まれて直ぐに生えて来た羽毛は薄いピンク色。他の雛とは色が違っています……。これはまさかの変種?


「愛の約束を叶えると言われているけど、確かに我がままを叶えるにはアキの力はもってこいだね……」


 嬉しそうなレイの顔が印象的です。マリーが隣から、羽等の素材が愛のお守りを創るのに一番適していると教えてくれました。非常に納得です。


「時空を超えた力はまだ無理だろう?」


 マシュが顎に手を添えて首を傾げています。アキの力の事のようですので聞いておきたいです。


「そうだね。でも、死神としての力を伸ばせば……魂に呪いを継続させるのと似た感じだよね?」


 レイも少し考えて、どういう事かを探り当てたようです。


「そういや、呪いの解除をやってたか」


「祝いを乗せるなんて似た様なもんでしょ?」


 レイがおかしそうに笑って肩をすくめています。


「成る程な。アキの今生のテーマはそっちか。名前も変えた方が良いんじゃないか?」


 マシュは納得したようですが、難しい話です。


「そうだね。折角生まれ変わったんだから、それは大事なイベントだよね」


 庭に置いてあるテーブルと椅子のセットに座って、レイとマシュが家の屋根を見てそんなお話しをしていました。お二人の為に飲み物を用意していたら、紫月が屋根から飛んで来ました。


「どう? 様子は」


「ふかふかだよ。念話が来たよ」


「へえ、鳥になって間もないけど、ちゃんと意識もあるんだ」


「ならさっき言ってたイベントは直ぐやっても問題ないな」


「そうだね、早速準備だね」


 レイの目配せが来たので、名前の候補を皆で出して話し合うことに……。ですが、決まらなかったので、本人にカードを引かせる案が通りました。結果は私が名付け親となりました。


 可愛らしい白い羽毛玉のピピュアが、空を飛ぶ練習に入りました。ピンクサファイアの目に淡いピンク色の羽根先、頭部からピンと立っているピンクの飾り羽が付いていますが、それ以外は真っ白です。それが高度を落としつつも、家の屋根から初めて飛んでいます。一生懸命に翼をはためかせる姿は、ばっちり保存しておきました。

 仲間である獣守一同はピピュアの一挙一動に釘付けです。神官としてアストリュー神殿に向かうまでは、他のキヒロ鳥と同様に保護対象として完全に監視し保護されるのです。(いえ、それ以降もかもしれませんが)それにかこつけて真剣に見入っています。

 マシュはこの記録は学者に売りつければ儲かる、と完璧な撮影を目指して色々と手を打っていました。ストレスに弱いキヒロ鳥の為に、威圧にならないくらい周りに馴染んだ虫型の映像機を開発したり、親鳥のえさを選ぶ基準だのをデータにしてました。勿論お手伝いいたしました。可愛い時を保存するのには賛成です!

 最近、ピアが妙なポーズを取りながら転んだり、木から落ちたりする事が増えました。一体何が起っているのでしょうか……。


「踊りの稽古だよ。可愛いよね」


 レイが録画映像に釘付けのままほっこりとした顔で微笑んでいます。鳥の姿でも踊る気のようです。確かに可愛いので実現して欲しいかもしれません。


「ピアは恥ずかしがりだから、これは黙って見守る方が良いよ。出来上がり掛けたら、紫月に誘ってみるように言うからね」


 真剣な表情で踊りの稽古を見守る事を約束させられました。この家に反対する者はいないと思われますが念のために邪魔をしない様にしなくては。


「全員に意向を伝えます」


 気合いも確かに返事をさせて頂きました。全員の協力を義務付け、踊りの稽古の時は見ない振り作戦が取られました。完成までの我慢です!


 鳥の姿の踊りのお披露目という、大事なその日は意外と早く訪れました。キヒロ鳥の旅立ちの日です。ポースと紫月が歌う中、家族の好い旅立ちを願うピアが踊り始めました。屋根の上で翼を翻して可愛い足でステップを踏んで、飛び跳ねています! 可愛すぎです! 食べちゃいたいです!!

 瑞音扇の召喚で扇の上に乗って庭を飛び回り、扇が翻ると同時にピアも空中を飛び、キヒロ鳥の残光をまき散らし始めクライマックスへと盛り上がりを見せています。さすがに長年演出にこだわっただけあります。

 桜の花びらのごとく風に舞い上がる残光は、桜色から七色に煌めき庭中に降り注いでゆっくりと周りの景色に解ける様に消えていきました。幻想獣の鮮やかな姿と演出にうっとりしてしまいました。


「綺麗……」


 私達は踊りを中断してその美しく優しい光景に心を温めていました。七色の残光はアキの力の復活でしょうか……。瑞運の力を付けたキヒロ鳥はそれぞれ旅立って行きました。

 しかし、次の日にはキヒロ鳥の夫婦は、家の庭で食事用の花を選びに飛んで来ていたし、ピアの兄達は美味しい花を見つけたと、花をお土産にピアに会いに来たと聞きました。


 そんななので鳥の保護は続行される事になりました。庭の花々も実をつける木々も対象に入ります。環境保全が神殿との共同で続けられると契約がまたなされました。要はピアが皆を引き止めたことになります。ピアの神域にいればピアの加護が最大限活かされ、獣に狙われたりが無くなるのです。当然、出る事を選ばないでしょう。

 庭は紫月の神域になりつつありますが、アキの神域も紫月が関わっているので境目は曖昧で最早区切っているのは名前だけです。実際は両方の神域の場です。

 そして、家として住んでいる建物は神殿の持ち物であります。土地はアストリュー世界と精霊界となっています。もし、所有権を争う様な事になると大変です。その辺りを神殿でメレディーナ神に聞いてみました。


「心配ありません。あそこはそれらと繋がりを持った独自の神界へと変わる予定なのです。それを見越して精霊界もアストリュー世界も協力を惜しまないのです。正式な入口として残して頂けると信じています」


 神殿での祈りの後に質問をしてみたら、頭を撫でてくれました。界として分離出来るので土地や建物の所有という概念では縛る事が出来ないとの事でした。


「神界ですか?」


「ええ。神界としての役割を果たす様になれば、アキさんは見習いからは卒業です。正式に神として迎えられるのです」


「分かりました。しっかりと支えます」


 ここで言う神界とは個人神界のことだそうです。神の本体とも言える力場でもあります。神域も力を溜める場ですが、開かれています。個人神界は神の本体と言っても良いのです。他の世界に悪戯に力の影響を与えない為には、自分の存在=力を分けておく必要が出るという事です。


「ええ。眷属として誇りに思っていいですよ。これだけ早く神界へと育つ神域を持つ見習いはいません」


 柔らかな微笑みに、ピアと紫月の成長が順調なのだと確かめられました。安心材料ですね。


「はい。マシュもマリーも神界を持っているのですか?」


「小さいながらも持っていましたが、アキさんの神域に創った園が、既に彼らの為の神界へと変化をしたので随分広がり成長をしたようです。確実にあの場所は界境を育むと見られています。自身専用の神界を持つ神々は限られていますから」


「薬草園もでは……」


「ええ。私の神界が出来上がり、アストリュー神殿の私の神界と繋がりました。アキさんが……ピアでしたね。彼女が私を追い出す様な事にならない限りは、私どもは一緒にいる事が出来ます」


「皆のお力が一緒に存在する場所になるんですね? 嬉しいです」


 雨森姉妹も香りの花園と茶園を、ガーラジーク神は宝玉水園を既に創っていて拠点にしていらしゃる。


「神界同士の効率の良いエネルギーの交換には、ピアの様な力の持ち主が不可欠ですから。お陰で私達も更に大きな力を扱えるのです」


 お話を聞いて安心したので、このまま順調にあの場所を保護することを決意しました。神界となれば更に力を蓄え、レイの様な力のある神にピアも成長するのだと聞いたからです。そこまで行けば消滅やらに怯えなくて済みます。


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