32 評価
◯ 32 評価
玄然神に人ではない発言をされた事を少し考えてみた。広がった聖域の管理に関しては紫月に殆ど任せているからそのせいだと思う。優先するのは精霊と妖精の関係、それにレイ達の居候組だ。教えを請う間柄だけど、彼らにもメリットがあるのだというのだからそうなのだろう。
それからメシューエ神の言う、月の宮を壊しに来たという発言だ。それは僕達が月の宮の値段や、やり方を知らなかったからだし、バランスを崩したせいだ。そこは反省するべきなのかもしれない。今回は彼らの閉塞感を打ち破る為の起爆として良い方向に偶然働いただけだ。下手をしたら死神の巣を丸ごと敵にしていたかもしれないのだ。
人として足りない部分をすくいあげないとならない。レイ達も常識からかけ離れた存在だと、僕は思う。拾うのはそういう所だと思うので、僕は舞桜としての活動はそんな目標も持つ事にした。知らないままに影響を与えてばかりはこれからはいられない。
それに、ガリェンツリー地上世界の発展をこれ以降はどうして行くのかも考えたい。闇雲に文化レベルをあげれば良いというのでもないと、ラークさんのところでは感じた。あのゆったりとした時間は捨て難い。
「常識は前からなかったけど、そこを埋めて行くべきかな?」
「ピピュアはそのままが好い」
「紫月……」
そんな事を言われたらさっき決めた目標なんて何処かに行ってしまう。人としての考えはきっと、レイ達に関わってから徐々に薄れていると思う。今更復活させるのも確かに違う気がする。カシガナの影響もきっとある。
紫月の顔を見たらそんな気がして来た。
「ピピュアは鳥だから歌って踊るんだよ」
「そうだね。難しい事は皆にやって貰う方が良いかもしれないね。ぼ、わたしがやったらややこしくなる気がして来たよ」
アストリュー世界との繋がりは神殿の人達にお願いをしよう。薬の値段も考えてくれている。考えたらみかんの中間界の値段はダンジョン用の値段だ。それを持ち出している死神達の方が規制を設けるべきで、こっちが考える事でもないと気が付いた。
「異世界間管理組合はその辺りはきっちりと考えて、そのままでは外には出してなかった。彼らの息が掛かっている所は壊れてないし、バランスを考えて動いていると思うんだ」
もしくはレイ達が制限を掛けてくれているのか……。
「難しい事考えてるの?」
「ううん。難しい事を考えてやってくれてる人の事を考えてた」
「ふうん。メレディーナは時々難しい事を言うけど、ボクには優しいよ」
「わたしにもだよ。きっとなれない事から守ってくれてるんだ」
「そっか。ありがとう言わないとダメだね?」
「そうだね。感謝しとこうか」
「うん」
紫月に手伝ってもらいながら、羽毛のお手入れを念入りにした。この後は恒例の水浴びだ。最近は見学者が減った。もう充分噂は行き届き、その噂が疑う余地もなく事実だと情報が広まったせいだ。
「そろそろこの水浴びの公開も終わりにしようと思います」
水浴びの後、メレディーナさんの執務室に連れて行かれてそんな話が始まった。そして、次のステップに進むというのだ。何故かピア専用の止まり木が完備されているのでそこに落ち着いて聞いた。
「ちびピアの姿でですか?」
「ええ。弟子入りしていると見せかけます。と言っても事実なんですが、二重にはそこは契約出来ませんし、対外的にも私達のところで修行をしているとすれば小さなピアが神殿に、そして聖域にいてもおかしくありませんから」
「あ、そうですね。すいません。最近はそっちの姿でしか庭に出てませんでした」
舞桜の姿では余り動いてなかったかも……。何の為に菜園班にいるんだか自分でも呆れる。
「良いのですよ。そのお姿の方が獣守達もピピュアだと認識しておいでですから」
ま、まあね。獣守達はなるべくそのサイズの服を用意したがるんだよね。ついそれを受け入れてそのまま……うん、反省しよう。でも神力を伸ばすのはこの姿でやるという事だ。区別がついて自分でも管理し易いかもしれない。
この神殿で学び、神官になるというのはメレディーナ神に仕える、もしくは弟子入りするという事だ。言動には気をつけてもらう為の契約も必要になる。
日本からの夢縁、日本神界からの留学生達は異界の神に仕えるというのは良く分かっていない。神官を選ばなかった場合は、資格を取れたという証明のみでも大丈夫だ。その場合は神界警察のお墨付きを貰う事になる。この場合は外の世界には通用はしない証明で、日本神界のみの有効だ。
意外とこの日本神界にのみ有効というのは迷うらしく、アストリュー神官として存在していいのか悩むという。最も、多神教ならではの強みでここの神官だからと言って日本で働けないというのはない。一つの資格として捉えるのか、外の異界に出ても神官と認められる地位を欲するのかで変わる。変な行動をしなければちゃんと身の保証がつくのが特徴だ。
たとえ事件に巻き込まれてもある程度はこちらの要求が通るし、調査団を派遣したり身柄の引き渡しを要求出来る。ただし、こちらに泥を塗る様な事をわざとした場合は当然、罰がある。つまり損害の請求も出来るのだ。でもこれは普通だと思う。
「日本の皆さんは大変真面目な方が多いので驚きますわ」
僕の全く違う思考を読んでかメレディーナさんは苦笑いをした。
「真面目ですか?」
「日本を裏切る事になるんじゃないかと思うようで、最終的にはここでの神官の資格を取るのに二の足を踏む方が多いのです」
「はあ。でも資格を取って外に出たい人には必要な事ですし、保証をしてもらえるのは大事かなと思うんですけど」
「ええ、そのように捉えるには私どもとの信頼が築けていないと難しいのです。そして自身の行動を常に律して神官としての行動を、そう言われると窮屈に感じるという矛盾した方が多い様に思います。責任を掛けられると思う方が多いのはそれだけ覚悟が足りないという事。仕方の無い事です」
異界の神の保証と言っても限度もある。日本神界にも同じ事は言える。メレディーナさんの方が異界では顔は広いと思うけど、それを知っている訳ではないのが日本の学生だと思う。まあ、選ぶのは本人だし、日本神界の証明を持っていれば、もう一度試験にチャレンジして合格を貰えればいつでも神官になる事が出来る。何も一度に決める事も無いのだ。両得だと思うのは僕だけなんだろうか?
「アストリュー神官になった人は少数なのですか?」
「こちらで学んだ方の一割でしょうか。最近は学ぶ方が減った様に思います」
「交流は上手くいっていないんですか?」
「そうでもありませんわ。元々外への感心が少々ある方がここで学び、満足して一旦日本神界へと戻り、自身の力を試しているのです。満足が得られている様なので、その内に少数ですが本当に外での活躍をなさりたいという方が現れるはずです。日本神界が窮屈に思っている方なら、異世界間管理組合の門戸を叩く事をお勧めしています」
「もう、入った人がいるんですか?」
「ええ、数人ですが」
頷いているのを見て、少し嬉しくなった。
「そうだったんですか。それで前に言ってた月の神殿のお仕事は……」
「ええ。そちらも数人ですが、嬉々として働いて下さっています。冥界の戦士だと聞くと嬉しそうでした」
……僕はトンマとギットを思い出した。きっとあんな感じだろう。冥界の自由な姿の死神達は彼らに取っては憧れなのだ。天職と思っているに違いない。生まれ変わりの一年で随分変わった。僕も遅れを取り戻そうと思う。
「あれだけの資格を持っていたアキさんがいなくなって、異世界間管理組合としては今頃になって損失だったと捉えたようです」
苦笑いしているメレディーナさんはちらりと僕の方をみた。
「そうなんですか?」
初耳だ。
「ええ。借金の多さに将来の活躍が描けなかったようですが、アキさんとマリーさん、そしてマシュさんでやっていた事業の方がストップして、考えが変わったようです」
事業? 何かやってたかな……多すぎてどれか分からないな。
「靴やカバン、そして魔術服です」
「あー、あれ。あれを止めたんですか?」
「契約していたアキさんが死亡しましたから。あの値段で出せないのは組合としても困ったようです」
今度はクスクスと笑っている。
「値段ですか?」
「服だけでなくカバンですらそうです。マシュさんの空間の切替の魔術はアキさんのアイデアのベースの上に成り立っていたので、組合も勝手には買い取りは出来ませんし、マリーさんのデザインも秀逸でとてもあの値段には収まらないのが分かったのです」
管理組合が手が出せない様に、マシュさんは敢えてそれを狙って僕とやってた節はあるけどね……。
「でも、勝手に買い取りとか出来るんですか?」
「マシュは少々昔の踏み倒しがあるので……ですが今は半分以上返済して借金王の称号はお譲りになっていらっしゃいますから、もうそのような処置も組合の方も出来ません」
それは朗報だ。一番もうけの出た魔術服もマシュさんと一緒に頑張った覚えがある。衣装の切替部分は僕の魔法陣の応用だと言っていたし、魔法の布の多くはカシガナの実の効果が使われているから、僕の魔法とは相性がいい。
「じゃあ今は?」
「苦肉の策として、見習い神アキの方と契約を取る気のようですが、レイさんがそれを阻止しています」
「え、と?」
阻止だなんて何だろう?
「アキさんの死亡時の評価をあげるように言っています」
「あ、そうなんだ」
「ええ。評価が低いと文句は常々仰っていましたから、それが通る迄は首をたてに振らないとそれはもうお怒りですのよ?」
思い出してかメレディーナさんは更に笑っていた。確かにあれの評価が低いのは困る。僕の魔法の効果付けも今は評価されているのだそうだ。同じ職人を雇ったら高く付くのだ。僕達がせっせと働いて稼いでいた物は組合では値段が収まらない程の物だと気が付いたらしい。
つまりは安くで買いたたかれていたとも言えるし、僕達が自らやってコストを下げていたとも言える。お互いに利益はあったし、僕の魔法効果の付与が鍛えられたのだから、それは良いとおもう。でも、新たに契約をするなら、もう少し利益をこっちに回すべきだとレイが主張してくれているみたいだ。メレディーナさんとのお話はそこで終わり、これ迄のやって来た事を整理する為に家に戻った。




