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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
やみのとびら
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27 犯罪

 ◯ 27 犯罪


 菜園班の仕事の手伝いをしていると、第二食堂にいるコーサイスさんとも会う。


「今日の分を届けに来ました〜」


 収納ボックスに入っている野菜を早速取り出して確かめ出した。


「お、今日のも良い野菜だ」


「こっちは聖域のです」


 菜園班の新人のシャディーヌさんがウサ耳を揺らしながら後ろから声を掛けた。


「確かな料理人の選ぶ食材なら安心だ。ここのメニューも半分はザハーダ副班長が手がけている」


 今回は謙遜だとおもう。彼女のメニューもかなり採用されて、第二食堂は彼女のオリジナルメニューが評判がいい。


「はい。今回はマトラノキノコが入ってますよ」


 彼女もあのキノコの信望者だ。ザハーダさんとの会話では、途切れる事無くあのキノコの話で盛り上がるからだ。


「そうか。ではあのメニューを作るか」


 嬉しそうな顔でメニューを考えているみたいだ。聖域でのマトラノキノコの育成に成功したせいで、随分このきのこ料理が増えたと思う。ザハーダさんのきのこへの愛の勝利だ。


「はい。人手が足りない時は手伝いますよ」


「前の時は助かった。調理魔術があれだけ使えたらはかどるよ」


 ストック料理が全部無くなるという恐ろしい事態が発生した時に、手伝いでザハーダさんとひたすら下ごしらえを手伝ったのだ。まだオープンして間もないので量の見極めが出来なかったのだ。

 たまに第二食堂が開かれてから外のお客さんがなだれてくる事がある。一般にも公開されている食堂が有名になったのだ。安いし美味しいし聖の食事がとれると。しかも、聖域の物を使っているとあれば直ぐに噂が広まる。

 これ以上人数が増えるようなら。外のお客さんは予約を取らないと入れない様に制限が掛けられるかもしれなかった。

 コーサイスさんが、食堂の片付けが終ったのか菜園班の畑に顔を出した。ここの手伝いも時々してくれるので、菜園班も助かっている。アスパラみたいなのを採取しながら、話が始まった。


「菜園班は人をまだ増やすのか?」


「募集はずっと掛けている。我慢強くこの仕事をしてくれる人を捜すしか無いよ」


 随分増えたけど、出入りが激しいのが特徴だ。


「聖域の仕事と言っても地味だから直ぐ止める者も多い。家業で聖域の物の取り扱いを優遇してもらえると思って来る者もいるが、そういうのはないからな」


「聖域の管理者はそんなに厳しいのか?」


「いや、俺達が厳しくしないとな。管理者は一番利用に関して厳しく自分を制しているし、貢献度もかなりのものだ。やっと神域を創ったくらいだからな。これで永住は決まったし、精霊界のエネルギーですら増やし続けているからいずれは独自の神界として成立すると見られている」


「それは初耳だ。だが、朗報だ。聖域も安定しているから良い物が多く取れてる。妖精との契約も悪くないし、引き離される心配は無いという事だ」


 コーサイスさんは火蜥蜴の姿の妖精と水の精霊と契約をしているらしい。神殿に採用される訳だと思う。アストリュー世界の人は、思わぬ人が大きな力を持っていたりする。覚醒者も多いのだ。というかレイが神域作りを一番に教えたのは早く創って欲しかったからだと二人の話で気が付いた。

 二人の話はその後は、今日のマトラノキノコのメニューの話になった。これに付いていける程の信者ではないので、僕は適当に仕事を切り上げて帰る事にした。

 神殿外への転移装置のある建物に向かって中庭を通り、近道をしていたら何やら話し声が聞こえた。不意に背丈よりやや低いくらいの生け垣の切れ目から急に音がして、影が飛んで来たので避けた。


「うわ、ビックリした」


「いった〜い」


 ちょっとかすったけど、まともには当たらなかった。少し後ろに本が落ちている。飛んできたのはそれだろう。生け垣の切れ目から覗いて何処から飛んで来たのか見れば、倒れている女の子がいた。痛いとの悲鳴は彼女だろう。よく見たら知っている顔だった。長瀬さんだ。その周りには知らない女の子が三人いた。


「ちょっと、カナに暴力を振るってただで済むと思っているの?」


「う、うえ……」


 一人が泣いていた。感極まっている感じで言葉が出ないくらいに感情が高ぶっている。ブルブルと手が震えて見ている方が辛い感じだった。


「泣いて許される訳無いでしょ?」


 こんな状態の人に何を言っているんだろうか? 何があったのか分からないけど、傷ついているのは彼女の方な気がする。


「行こう! カナ、大丈夫?」


「こんな事で手を挙げるなんて巫女なんて出来ないわよ、あなた。さっさと止めたら?」


「う……うう。ち、がぅ」


「違わないわ。常識が無さ過ぎなのよ、日本に帰って大事なあんたのママにでも泣きつけば?」


 その言葉でカッとなったのか、手を挙げかけて今度はそれを止めた。彼女達がそれ見た事かという顔をしたのだ。その上、一人が魔法を用意しているのが分かる。その上げた手は振り下ろす前に遮られるのは分かる。周りの女の子達が煽って手を出させている感じがする。


「これって、攻撃しようとしているから、正当防衛だよね?」


「そうそう」


 そう言って防護の魔法で作られた空気の圧縮した物を、そのまま泣いている女の子に長瀬さんは飛ばす様にしむけた。なんだかおかしい。暴力を振るったのは泣いている女の子みたいだけど、傷つけているのはどう見ても長瀬さんだ。魔法は僕の魔力干渉で霧散させた。素人の魔法くらいなら解除は簡単だ。


「ここで騒ぎはダメだよ?」


 これ以上の煽りは良くないので声を掛けた。恨みで瘴気を発しかけ泣いている女の子には、ハンカチを渡して少しだけ落ち着く様に精神治療をそっと掛けた。


「うわ、おばさんが来た」


 ぼそりと呟かれた言葉はまたしても年齢だ。長瀬さんは十六である。英才教育クラス出身で、直ぐに星を取り続けてスカイブルーのクラスのエリートだ。何度かすれ違う度に噂は聞いていた。というか、アストリューへの留学生の資格を最年少で取った人というのを聞いたのだ。それが偶々長瀬さんだった。

 そのせいか、エリート志向があるのかもしれない。しかし、一歳にまだなっていない幼鳥に向かって酷い暴言だ。たとえ、彼女の誤解している二十歳の人に向けた言葉だとしてもだ。


「ふうん、あんた資格ないのに魔法使って良いんだ?」


 長瀬さんの顔が歪んで迫力が出た。そしてこの言葉は直ぐ隣の子にも同じ顔をさせた。


「嘘〜、それってだめだよね。違反じゃないの?」


「それでいうなら魔法を使った争いも、神殿内はダメだよ?」


 こっちの弱みを突きに来ているので、少し角度を変えて話をしてみる。


「ここは中庭。建物内では許されてなくてもここは良いのよ? 知らないの?」


 僕の注意を受けて、新しい取り決めを彼女は創ったらしい。勝ち誇った顔をしているが、そんなのには負けない。ここにいる年期が違うし、屁理屈だって冷静になれば分かる。


「ここも神殿の一部だからダメだよ」


 中庭だって神殿だ。菜園班の仕事場だし。


「防護は攻撃じゃないわ」


「防護で展開した魔法を途中から飛ばしたら攻撃だし、言葉でも傷つけていたみたいだけど?」


「犯罪じゃないわ」


 怖い顔で睨んでくるけど僕だって負けない! なんだか厳しいキャンプを思い出す。あれを乗り越えた僕ならこのくらいの言い合いは大丈夫!!


「ここでは犯罪だよ?」


「そんなの通る訳無いでしょ。何処に証拠があるの? もう行こう。気分悪いし、嫌みが移るよ。こんなばばあに構ってたらこんな風になるから離れよう」


 また勝手に決めて何処かに去って行くのが見えた。自分ルールを押し付けるタイプだ。一応は映像に残しておいたので大丈夫と思うけど。

 泣いていた女の子は遠野さんという名前で、十八歳でグラスグリーンのクラスだった。医療担当のフィリアさんに事情を説明して預かってもらって、落ち着いてから寮に送ってもらう様に頼んだ。


「この子、灰影だよね?」


 家に戻ってから映像を見たレイが眉をひそめた。ここに平気で入れる灰影っているんだと変な感心をしてしまう。


「薄らだけど、灰影なのは間違いない」


 マシュさんの目もその判断を下ろした。


「何となく薄曇りな感じはしたけど、そうなんだ」


 僕はちょっと判断に迷った。このくらいなら日本には多いからだ。


「夢縁に入れているのは何でだ?」


「自分で影を消せるからか?」


「少し影って来たら影を払って綺麗に見せかけている人は多いからね。気をつけないとダメかな」


「そうなんだ」


「入って何週目だ?」


「そろそろ、彼女はここには来れなくなるね。苛ついてこんな事件を起こしたなら、ここの空気に耐えれなくなっているのが分かるし。そもそも灰影はここの神官にはなれないと決まっているからね」


 レイの言葉に少し安心した。それにどう見ても精神年齢が低いと首を傾げていた。



 遠野さんはどうやら最初は彼女達の仲間だったみたいだ。だんだんと使い走りの様な事をさせられたり、仲間はずれをされたりと少しずつ関係がおかしくなった中で、親の事で嫌みをいわれてカッとなり、突き飛ばしたらしい。


「仲間だからこれしてね、と要求されたり。それを達成しても気に入らないからいらないと言って、費用を渡さなかったり、手を入れて用意した物を、返品して来たらと笑われたりと酷かったようです」


 次の日に午後からのお仕事前にフィリアさんに会ったらそんな事を聞いた。魔法陣等の用意をさせられたりしていたみたいだ。陣を刻んだら返品が無理なのは当たり前だ。


「そんな。いじめですか?」


「後出しの条件で貶められていたようです。口約束は信頼関係のある者の間でしか成り立たないのは周知の事ですが、被害に会った子は若いですから。自覚が無かったようです。彼女達は信頼出来ない人間でしょう」


 もし訴えても大した罪にはならないかもしれない。


「被害にあっていたんですね。彼女は大丈夫ですか?」


「ええ。寮のお部屋が近い様なので、離す事にしました。他の人と新しい関係を築ける様にし、心のケアを勧めました。ちゃんと被害を受け止めたので大丈夫でしょう。この経験を糧に成長出来ますよ」


 寮の場所自体を変えたらしいので、会うのは神殿の学ぶ場所のみだ。さすがフィリアさんだ。巫女としての指導はばっちりだと思う。今は寮の中で、された被害を纏めているという。


「マオさんの事も心配をしていましたよ」


「ぼ、わたしのですか」


「ええ。資格を持ってないのにと言われていたのを気にしておいででした」


「あー、不味いですか?」


「神界の紹介ですから条件は夢縁からの学生とは違っています。そう答えておきました。ちゃんと口止めは致しましたし、大丈夫でしょう。それにマオさんの行為は神殿内部なら訓練の範疇ですし、同じ日本の方相手に遠慮はしなくていいでしょう。何より、あの場合は勇気ある行動ですから」


 褒め過ぎです……。調子に乗りそうだからそのくらいで。急に暑くなった気がするので、汗を拭いてメレディーナさんばりの微笑みを浮かべたフィリアさんに、お礼を言ってから仕事に向かった。


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