2 幼鳥
一時間後にチャーリーのお仕事が入ります。今回は話の合間に別視点のお話を適当に入れて行く事にしたので、良かったら合わせて呼んで下さると楽しさ倍増かもしれません。
◯ 2 幼鳥
「随分飛び方も板について来たね?」
「踊りの練習も出来てるよね?」
春も半ばの陽気に兄妹で水浴びを楽しんでいたら、レイと紫月がそんな風に話し掛けて来た。勿論念話だから精神に直接送られた念を読み取っている。そしてそれを返す。
「上手くなって来た?」
もしかしたらそろそろ神殿に行かないとならないのかもしれない。
「その通りだよ。そろそろ親離れして別で暮らす頃だし、キヒロ鳥の方からも、紫月に報告があったからね」
「分かったよ」
兄達とお別れというのも寂しいけれど、たっぷりと可愛がってくれて面倒を見てくれたので感謝している。予定では後十日後だ。それまでたっぷりと甘えようと思う。まあお別れと言っても全員餌の多いこの庭と僕の神域で生活する予定なのは分かっているし、遊びに来てくれるのも分かっている。両親がまた卵を産む時はここに戻ってくるだろうし、弟か妹が生まれたら嬉しいしね。
旅立ちの前の最後の日は紫月とポースの歌に合わせて全員で踊った。皆を送り出すのには必要だし、僕の力で護りがつくはずだ。何故かそのおかげで僕は羽根の色が変わった。と言っても真珠の色に輝く感じだ。光を内側からほんわり発する、そんな輝きを持った。飛ぶと桜色の残光がまき散らされる……やっぱり派手だ。
「赤味の花珠は人気があるよね……」
レイが僕の体から落ちる残光を見つめている。
「ピア可愛い」
紫月がしがみついてくる。小人な紫月が抱っこするには調度いい感じだ。ふかふかの羽毛に顔を突っ込んでくるのが最早習慣になっている。くすぐったいが、役得のような気もする。その次の朝には紫月のかごの中の寝床で目が覚めた。サイズ的にもこの大きさは始めてだし、今回は早速連れ込まれたらしい。
分かるよ。天然の高級羽毛布団が目の前にあったら使わないでおくなんて考えられないよね。キングサイズのベッドの主はレイになっている。
紫月の寝顔を見ながら約束を破ってゴメンねと謝った。知らない所で死んだらダメと言われてたのに……。
「アキ……ピア。おはよう」
「レイ、おはよう」
僕は寝床からレイの所に飛んだ。指の上に留まれば頭から首筋を撫でてくる。
「ふふ。じゃあ、神殿に行こうか?」
「ピチチ」
レイの肩に留まって階下に降り、朝食を食べ身支度を整えて出発した。随分長い間友人達と会ってないけど、どうなっているんだろうか……僕は死んだけど神だからって真の意味では死とは無縁にはならない。記憶があるだけだ。アキとしての記憶はしっかりと僕を形作っている。鳥の女の子になってもだ。
ヴァリーやホング、それにナオトギや他のメンバーは、また死んだという事にどう思ったのだろうか。精霊を死に追い込む様な禁術の掛かった武器で死んだ僕は、安全の為にしばらく姿を隠してしまう事に決まった。ついでに転生を経験しておけばいいと勧められてやった訳だけど、鳥になった。この後レポートも書かないとならないのだけど、正直何を書けば良いのかよく分からない。
そんな事を考えてたらいつの間にか神殿に着いた。知らない間にレイが青年の姿に変わっている。レイの肩にいると目立つ。既に女性神官達の目の色が変わっているし、キヒロ鳥の変種とかさすがレイン様とか聞こえてくる。恋愛の神が連れて歩くのはインパクトは大きい。こんなに注目されるのはちょっと恥ずかしい。
「ほら、翼で顔を隠してちゃダメだよ」
「ピィ」
「ピア、可愛いから大丈夫だよ?」
ま、まあ確かに、今は鳥だ。変な緊張もそんなにバレないと思う。
「そうだよ、その調子」
レイの知り合いに紹介されつつ可愛がられつつメレディーナさんの執務室に連れて行かれ、報告をする為にソファーの上に座った。
「まあ、アキさん随分可愛くなられて……」
落ち着き微笑みを向けてくるメレディーナさんの肩は震えている。
「ピピュアだよ」
レイが紹介をしてくれた。正直どっちでも良いけど。
「そうでしたね。ピピュアさん、この姿の時は特にピアと呼びましょう。転生へと送り出した私が会いに行けないのは残念でしたが、紫月さんからの映像をたっぷりと拝見させて頂きましたので大体は把握しておりますわ」
そんな規則があったんだと、驚いた。特に僕の転生には誘導等はしておらず、偶々家のキヒロ鳥の巣に向かったのだとか……。僕の神域での生まれ変わりとなると思っていたけど、偶々タイミングがあったのだろうとの事だ。そうか、僕は完全ランダムで勝負したらしい。
転生後に何かしたか聞かれたが、毎日新しい家族と楽しく暮らしていただけだ。
「それはとても有意義でしたね。キヒロ鳥の滞在を決定させる重要な役割を果たして下さったようです」
「ピ?」
そんな大層な事はしてないし、普通に家族ならそんなものじゃないのだろうか?
「良いんだよ。ピアはそのままで」
「そうでしたね。欲を張らない事が良い結果を招くのです。家族思いのピアさんだからこその事。さっきの言葉は忘れて下さい。それに紫月さんの念いの勝利ともいえますしね」
なにか含みのある言い方だ。レイと目配せしているし、何かあるのだろう。この会話の中に何か隠された意図があるのは分かったが、それが何かまでは分からないのが歯がゆい。
取り敢えずは僕の存在は重要で、アストリュー世界にとってもいい事が多いらしい。異世界間管理組合にとってもだ。
「アストリュー在籍の神官の一人が転生でキヒロ鳥になったという事は、既に精霊界との繋がりが充分あり、調整を行う段階に来ているという事ですわ」
「調整ですか?」
念話で聞いてみる。
「ええ。余り近寄りすぎても精霊界との境目が消えてしまい、アストリュー世界としての特徴を打ち出せなくなりますから、長との話し合いが必要です」
「レオノルディスに早速連絡をしないとね」
「ええ。精霊界はここと繋がる事で生態系の豊かさを増すのが狙いです。閉じられた世界だと新たな種を獲得出来ませんし、進化し取り入れる種が多いのですから新たな環境は何時でも必要なのです」
「精霊達もここの気が好きだし、魔力素の生成も自主的にやってくれているからね。既にここの噂は精霊界に充分広まってて縁を繋いでくれているし……少し制限をして行くんだ」
「バランスを取るんだね?」
「そうだよ。これは管理神として大事な仕事だからね。メレディーナにとっても一段階上の仕事だよ。しっかり支えないとね?」
「分かったよ」
レイの言葉に神妙に頷いた。そしていつかガリェンツリー世界でも同じことが起きる可能性だってあるのだ。しっかりと経験しておいて損は無い。
そんな訳で、レオノルディスさんと何度目かの対面を果たしたが、アキ神……月夜神だという事は伏せられている。何故かは知らないし、レイ達にも何か計画があるのだという。黙る様にいわれているのでいつも通りレイの契約をしておいた。うっかりを無くす為だ。
契約書に乗っかる姿を見て二人がフルフルと震えていたのは何かは分からないが、まあ見る限りそんなに悪い事でもなさそうなので放置した。