20 嘆願
◯ 20 嘆願
「月夜神ならばできるはずです、と言ってたな」
対談が終わって、もう一度話し合いをするべくガリェンツリー天上世界にて会議を開いている。ここの職人に卸している月の魔結晶についても言われたが、それでは追いつかないというのだ。つまりはダンジョン魔物の魔石である魔核造魔石で作って欲しい、もしくは作らせて欲しいとの要求だ。
「これも派閥の問題みたいだな。身内の恥を忍んで打ち明けると言ってたが随分ぶちまけて行ったな」
マシュさんが頭を掻きながら、メシューエ神の言葉を繰り返した。魔石を作っている人達が主に暗躍しているというのだ。魔族出身やアンデッド達を煽動して操り、魔石等を優遇する変わりに悪事に手を染めさせる為の組織を作っているのだ。分かっていても手が出にくい。追い詰めるには独自に作れる場所を確保する事なのだという。場所が死神の巣内しかないというのが問題で、権力の集中が起きるのは必須だと、これを崩したいというのだ。
「要は、地獄の気を押さえている連中に悪神達と通じている組織の膿みがあるってことかな?」
レイが皆の顔を見て確認をしていた。
「いや〜ね。権力を持ってたらそんな気になっちゃうのかしら〜」
「月の宮の者もそれには逆らえないで随分買いたたかれるみたいだな」
必要な物が高いのは良くない。
「彼女がここに頼む理由は『地獄の気制御装置』が本物だって分かったからだな」
「探っているのは分かっていましたが、ダンジョン魔物を作らせて欲しいとなると……」
浅井さんも難しい顔をしている。
「死神の除籍もいとわないとは言っていたから、覚悟は決めていると見ていいな」
マシュさんも似た様な顔をしている。難しい問題なようだ。
「月の魔石ってどうやって作るの?」
神域では沢山できてたけど、あれは精霊達が勝手に作ってくれているので魔結晶だ。というか魔力が溜まっている場所では勝手に作られるのもある。説明では魔核造魔石と同じみたいだ。つまりはダンジョン魔物を創るってことだ。
「……講師として雇うとかなら問題は無い。見習い神相手に、何人か講師を雇っているとしたら誰も文句は言えないだろう?」
マシュさんの閃きの言葉に全員がハッとなった。全会一致でその案になった。一件落着である。
「結局囲い込みは何処でもあるってことだ」
「生命力を扱う神が死神の巣にも大勢いるのなら、人材の発掘でトレードは効くのか?」
「そんなのあったね。出張とかは組合員になったらできそうだよね……」
「しかし、身分はどうする?」
「ピピュアでも問題があるんだ。死神達も体が変わるごとに態々資格の取り直しやらをやりたくないだろうし」
「神官じゃないなら〜?」
「死神用のをうちで作るかだね」
「みかんの中間界での斡旋事業か?」
「手を広げ過ぎかな?」
「組合相手に人材派遣をするならありだな。特殊な能力を持っているし、ここの住人なら喜ぶ」
「みかんの町の新しい事業に入るよ!」
レイが気合いを入れた。
そんな訳で、まずは講師の方からだ。メシューエ神には正式に講師として招待をして、更に何人か同じ様に講師をできる人を集めてもらうか、講師を目指してもらう事にした。教育もかねてやって貰うのだ。
「つまりは私達に外の世界に出張に行けと言っているのね?」
レイの大まかな方針を聞いた後、メシューエ神はゴクリとつばを飲み込んで聞き直していた。
「そう。月の魔石が冥界に売れるのならやって欲しいという所も多いし、講師という名目で見習い神にその技術を付けるという役もつければ充分やって行けるはず」
「考えてくれたのね」
「まあね。ついでに解呪の講師スタッフも募集だよ。実戦的講習のできるスタッフが揃えばここで講習会を開いて見習い神官達に教えれるしね」
「ありがとうございます」
メシューエ神はハンカチで目頭を押さえている。
「その内、外にまで講習の声が掛かれば良いんだけど、それはそっちが頑張ってくれないと難しいかな。死神達の意識の高さを見せてくれないとね」
レイの目が、人選は任せると言っている気がする。
「分かりました。言い出した私が責任を持ちますわ!」
やる気を静かに燃やしている感じのメシューエ神は自信にあふれている。何となく慕っている人は多いんじゃないかと思う。
案の定、三日後には人材派遣の為の登録に来た人は百名を超えた。まだ行き先も決まって無いのにすごい事だ。派遣に向かう人用に寮まで用意する計画があった。そして今日は僕がメシューエ神のみかんの町にある家にお邪魔してお話をしている。
管理神としての仕事なので気合いを入れて来た。
「向こうで試験と意識調査をして合格した者をこちらに呼びましたわ」
仕事の早いと言うか、これ迄ずっとそんな考えの人を集め育てていた様な気がするのだけど。そんな彼女に微笑んで、話を始めた。ゼンマイメイドさんが入れてくれた紅茶はみかんなカフェの販売用のブレンドティーだ。
「はあ。一応こっちもうちのスタッフとしての基準を決めて、試験の準備をしています。準備は明後日にはできます。それからこれはまた違う行き先ですが、ナリシニアデレート世界が中間界を置き、死神と神官の為の町を作る予定ですので、そこでの訓練に講師として向かって欲しいです」
「何を訓練しているの?」
「マントを出す練習です。まだ死神の巣には入れない状態の者が何人か揃っていますし、あそこの世界は死神とは黒の神々と住民には呼ばれています。月の癒しが扱える者も多いので、できれば月の宮の人に行って欲しいです」
神官候補の訓練もその場所で行われている事も伝えておいた。面識のある神官がいた方が話が通じると将来を見据えた取り組みだ。
「マントを出す者が現れているの? 余程守る対象があった場合が殆ど。あの世界はそれほど酷いという事?」
「最近悪魔が出たのはご存知ですか?」
「っ! 聞いてないわ。そこの冥界にいる者に裏切り者が入っているわね?」
驚きでお茶を取り損ねたみたいで、ソーサーに紅茶がこぼれてしまった。オーディウス神から聞いてなかったのかな?
「それは既に何人か移動になったと聞きました。……できればその辺りも何か助言があれば」
ラークさんの憂いの元だ。
「一つの派閥で埋まっているのね。悪魔迄通すなんて……いいわ、手を打てる者を配置しましょう」
真剣な表情になった。
「では、冥界の死神についてのアドバイザーとしても活躍出来る方を、条件に入れても大丈夫ですか?」
「良いわ。……悪神に手を貸しているなら戦闘もある程度出来た方が好いわ」
不敵に微笑むメシューエ神は、ちょっと怖いくらいに危ない雰囲気を出していた。冥界に預けないで独自訓練を始めたのは良い事だとメシューエ神は細く笑んでいる。巣の中に閉じ込める洗脳を止めさせる方向を選んだのは素晴らしいと高笑いをしていた。この人、最近性格がおかしくなってませんか?
僕の心配を他所に、最初の派遣が決まった。僕の講師はメシューエ神とその見習い五人だ。僕を教える変わりに彼らの訓練がここで解放されているという名目で来ている。ライバルがいた方が訓練がはかどるでしょうとのメシューエ神の計らいだ。
実際は皆できる人だ。講師としての訓練をしに来ているので、日替わりで僕に教える練習をしている。地獄のダンジョン魔物に月の魔石になる魔核が出始めた。やり方は単純に光の力を月の力に変えるだけだった。月の生命力とはアンデッド達の命に近い。魔物も霊的な魔物になったり、スケルトンだのゾンビだのができ易い。僕はそんなダンジョンに入るのは遠慮したい。
「闇の力にも通じるから操られたりとかは無いの?」
メシューエ神に質問をしてみる。今日はもう既に特訓は終っているので、他のメンバーは帰り支度を始めている。
「強い力の主ならあるかしらね……。でも、理性はないから一つ一つを動かさないとただ暴れるだけよ? 月の力を曇らせるのも難しいのよ。一応は闇の聖の属性なのだから」
「操るのは余りメリットはなさそうですね」
それなら安心だ。
「月夜ちゃんの方が危ないわ」
最近の僕のあだ名だ。メシューエ神だけがこの名で呼んでくる。
「そうですか?」
「ダンジョン魔物が言う事を聞いているのはおかしいわ」
虚ろな顔で、出来上がったダンジョン魔物の整列を見ている。
「魔力干渉です」
「何か違うわ……」
いや、涙目で言われても困るよ。




