13 反転
◯ 13 反転
「とうとう見つかったか!」
「だが、覚悟するのはどっちかな」
「そうね〜、アイスちゃんを舐めたらダメよ〜」
透明ドームの中に戻って来た三人は悪い顔をしていた。相手は上級の悪魔のみだがしつこく残っている。僕はポースの声にあわせてバッタ部隊と紀夜媛との大連携の陣を取った。準備万端だ。
攻撃を受けてたわんだ透明ドームは、くっきりと景色から浮いてしまって存在を明らかにしてしまっていた。だけどそれは直ぐにもう一度きっちりと張り直し、次の攻撃に備えた。
相手は勝ち誇った顔でエネルギーを溜め込んで、ニ十メートル向こうで悪魔の邪力を最大に高めて攻撃をしてきた。ドーム内で疲弊し動けない何人かの死神達は覚悟を決めた顔になっている。
放たれた禍々しい黒いエネルギーの固まりは、バッタ部隊の方向反転の魔法陣を描いた透明ドームに触れた瞬間に、紀夜媛と僕の最大に溜めた魔力を糧に物理法則を無視し、一瞬で戻って行った。巨大な力を使ったばかりでその一瞬が動けなかった上級悪魔は思い切り自分の攻撃を受けていた。
これでも精霊をやってたのだ。魔力素を目一杯作って溜め込むくらいは朝飯前だ。それに影響を与えて魔力に変換するのも紀夜媛に手伝ってもらえば一瞬で完了だ。
物理法則をぶっちぎる魔法を得意とするのだから、最低限の力で高威力のエネルギーを反転させる事も不可能では無かったらしい。最低限、つまりは魔力と魔法陣の補助のことだけど。
皆の治療をやりながら魔法陣を頑張って改良した甲斐があった。小さいサイズのは成功させているとはいえ、殆どぶっつけ本番でも何とか機能したのは嬉しい……。
すかさずマリーさんと二人の守り神は仲良く悪魔の残骸を拾いに行った。八日目の朝日が眩しい……。気が抜けて足に力が入らないのでダラシィーに運んで貰うという情けなさだったが、死神達は助かった喜びに沸いていた。
「それでどのようにして奴らがそこに忍び込んだかだな……」
そう言ってマシュさんは不機嫌そうに串カツを口に運んでいる。今日の夕飯みたいだ。晩酌のおつまみとも言うか。
「それも大事だけど、神官の力が狙われているのは良くないよ」
チーズ巻を選んで食べているのはレイだ。テネジィーユがそんなワク二人にお酌している。後ろに見えるのはオーディウス神な気がする。悪魔が出たという情報で駆けつけたのかもしれない。
「確かに。闇のマーケットでは相当な量が出回っているのが確認されているし、あれを製造していた悪魔が別というのも不気味だ。悪魔が物を作るのを手伝うなんておかしい」
声が聞こえて玄然神までいるのが分かった。隣には東雲さんはいないので仕事中かな?
「上級の悪魔が世界を跨いで活躍する時代になっているなんて……それに、死神の候補も狙われてるのは良くないね」
どうやら、皆で『みかんなバー』で飲んでいた所に戦闘終了の報告が来たらしい。というか、全く心配してなかったんだ?
「世界を怨む様な状態を作っているのが良くない。何処かは分かっているが、口を出すには向こうの面子とか考えたら難しい。穏やかにとは行かないからな」
「ガリェンツリー世界も似た感じになっていたのを指摘して、人の事を言えないとかいう連中だから話にならないよ。人の過去ばかりを責めて未来を語らないからね。そもそもボクがそんな世界にしたんじゃないのに失礼しちゃう。責任を取らせる事しか考えないなんて三流どころか常識を疑っちゃうよ。全く」
頬を膨らませてお怒りのレイは既に諦めの状態だ。誰かにそんな事を言われたらしい。
画面の向こうのアストリュー世界の皆と、こちらはラークさんのプライベートルームでマリーさんとビクトゥームとダラシィー、二人の守り神とラークさんで会議だ。ポースは殆ど出ずっぱりで八日間頑張ったので僕の膝上で寝ている。
「それはダメだな。あそこをどれだけまともにしたのかを評価して貰いたいね」
マシュさんもイラッとそんな言葉を返していた。
「悪魔三体は片付いた。だが他に潜伏している可能性はあるし、取り敢えずは彼女の身柄の預かりは中止を言わざるを得ないね」
僕をちらりと見た後、不機嫌なラークさんは後始末をどうするのかで頭が痛そうな顔をしていた。
「街の破壊はまだマシなんじゃないの?」
「確かに。深青の宮殿は跡形も無いがね……」
ラークさんが溜息の後、頭を抱えた。そう、ヴァリーの家は結界に穴を空けられた時に悪魔達が完膚なきまでに壊して仕舞っていた。破壊をする事に長けた彼らは実に嫌な事に強いのだ。そしてしぶとくてこっちが嫌がる事に敏感だ。
かなり攻撃して痛手を負わせても次々再生してくるというか増殖しているというべきかな? ぶくぶくと内側から悪魔を形作っている何かが膨らんだと思ったら、それを邪気でコントロールして動き始めるのだ。一瞬で吹き飛んだ体がそんな風に生えてくるのは気持ち悪い。体というかなにかが違っている。
後で聞いたら、あれは凝縮した力を使ってどんどんと自身の腐敗を高めているらしい。削って行くごとに悪魔は弱体化して行っているのでなるべく意志のある本体から少しずつ削って戦うのが正しいらしい。たまに分裂して分体か、本体意識を残しておこうとする悪魔がいるので、きっちりと存在と意識の範囲を定めて逃さない戦いをして行く必要があると言う。意外と繊細な事に気をつけて戦っていたんだと驚いた。
一瞬で片がつけれるならそれもありだけど、そう上手くいかないのが悪魔戦なのだとか。守り神は悪魔と対峙するのは始めてだったらしいので、経験を喜んで良いのかどうか迷うと言っている。まあね、被害は大きい。
それでも街の人の犠牲はかなり押さえれたと思う。最初の見通しでは全滅かと言っていたのが何とか結界維持装置が働きをちゃんとしてくれて、被害は最小限に抑えられているのだから。駆けつけた神官と結界を張っていた死神達との連携も良かったらしい。
そんな小さな積み重ねがあって何とかナリシニアデレート世界と死神の巣の信頼関係は何とか繋がっていると言っていいと思う。二人の守り神もその事で、死神の組合との縁を切るのはまだ早いとか言っているのだから大丈夫だ。
「街くらいの広範囲の浄化は紀夜媛がいれば得意なんだから、ついでにピピュアにやって貰うと良いよ。紫月はそっちにはちょっと出せないけど、ガーラジークが繋げばなんとか出来るはずだよ?」
「そうだな。ついでにトーイの木の場所もやって貰うか。もう少し手伝ってくれるかい、ハニー」
目の下にクマを作っているラークさんはいつもの調子を取り戻したらしい。
「はい。でもポースが疲れてるから、温泉に浸かってからでも良いですか?」
「勿論だよ。今はまだ残党が残ってないか調査中だし、明後日くらいで良いからね」
僕は頷いて疲れの溜まった体を引きずって部屋へと案内して貰い、ベッドの中に倒れ込む様に眠った。目が覚めたら既に明後日になっていたけど、どういう事だろう?




