168 暗黒街
◯ 168 暗黒街
「取り敢えず、切り離し地点の通過が周期で使用可能な次元通路を使っているから、それを使用しないと出れないってことだね?」
「許可の出ている船か、飛行体だよ」
久しぶりに見るレイの顔にちょっとホッとしている。画面越しでも嬉しい。紫月も横から顔を覗かせていて、余計に気分が和んだ。
ただいま、ケール星の星渡所にいる。
選出所での三人組はもう少し、仕事をやらないとならないので邪魔をしないように仕事へと送り出しておいた。ダーン星への順番待ちの列で時間が空いているし、C3U経由の通信が生きている事にリラが気が付いたので外にいるはずのレイに無事の報告をしているところだ。
ケール星に周りの星から直接繋がる転移装置は今のところ無い。切り離しの術がそれらを遮断するからだ。当然、船の行き来も制限される。
ダーン星の転移装置も使用者は制限されている。だけど、C3Uのアルバイト員の第三次職員の座を何とか勝ち取った僕にはちゃんと許可は下りる。解呪専門の技能と、冥道を進める特技を買われた事になっている。迷子脱出は入ってないのには何か理由があるんだろう。とにかく、ジャクリーン教授とトーブドンモ博士にも仕事依頼を僕から声を掛けてある。
「赤の札a-k30997の方〜」
「あ、順番が来たよ。じゃあまたね?」
「お仕事頑張ってね?」
「ありがとう」
紫月からの声援に癒されてご機嫌で通信を切った。
直ぐに番号を読み上げた証書チェックをしている担当の人の場所に向かった。
「何故、星系間ゲートを封鎖した!! 俺をなんだと思っている!」
「ちょっと、私が先に出る権利があるのよ、追い抜かないで。何故順番待ちを強制されないとならない訳?」
他の担当者は横から来た人に文句をつけられているのが目に入ったが、直ぐに文句をつけた人は警備員に捕まって職務を妨害したという理由で問答無用で何処かに連れて行かれていた。
あの質問が出るという事はこの緊急事態を感じ取れてないってことになる。あの空間への攻撃の振動とかどう受け止めたんだろう?
と思っていたらリラが教えてくれる。空間系の力が無いと受け取りは難しいという。激戦区と距離が離れているせいみたいだ。列に並んでいる人達の中には顔色が悪い人も多い。
「問題はなさそうですね。二番を通って下さい」
「はい」
僕の渡航許可証を見ていた担当者に許しを貰ったので、直ぐに言われた番号の掛かった札のゲートを通って進んだ。時間ごとに船を通す為に、こっちでも多少待つみたいでかなりの人が待ちくたびれた顔をしながら待っていた。
僕の番号は関係者用ので、混雑は避けれるみたいだった。専用通路を進んでいると、続々とやって来ているといった感じで戻る方が少ない。というか、レイモンドとミラスティが運ばれて行くのに遭遇したので同じ宇宙船に乗り込むのが分かった。
そして、三つの大型の宇宙船が並んでいる横に宇宙空間戦闘用の装甲部隊の存在に気が付いて、チョッピリ興奮している。
死神の巣で拾って来たガリェンツリー世界の鎧の気持ちも分からなくはない。あれになりたいと思うのは分からないけど、憧れるのは分かる。
戦闘機っぽいのから人型っぽいのに虫型だろうか? コウモリの羽っぽいのが付いているのまで様々で、思わず足を止めてしばし見入ってしまった。
ケール星の星渡所は、三つあったはずで、一つはここの異世界間管理組合の力がまだ及んでいる場所だ。もう一つは僕達がこの星に降り立った時に使用したケール星の独自渡航所だ。隣りにケール星独自ルートの異界渡航所を備えた一番出入りのあった場所である。そこも制圧済みだそうだ。きっと、あそこにいる装甲部隊が逃げ出す悪神、邪神達を捕まえたに違いない。
しかし、あんなに邪気や瘴気に染まった存在が隠れていたなんて、ここに来た時には想像も出来なかった。無法地帯とはいえ、一応、議会と言うか政治的な要素を持っていると聞いていたからだ。まあ、それもお飾りのーー悪神や邪神に操られていた傀儡だった訳だけど……田舎とはいえ、こんなに放置していたのは良くなかったと思うのだ。
「ま、取り敢えず、宇宙船に乗ろうか」
肩上のフェアリー姿のリラが頷くのが目の端に見えた。
ポースはお疲れで皆の身体を洗ったら、ぐっすり眠ってしまった。一応安全地帯だし、リラもいるので移動だけしておけば大丈夫なはずだ。そもそも、ポースはケール星では身分保障されない存在だったせいで、忍び込んでいるしね。リラも単なる生体端末ーー道具として入っているけど、この星渡所ではインテリジェンスアイテムとしてちゃんと扱われている。
惜しむらくは護衛とか秘書とか助手とかの人権に近いものだと嬉しいが、皆の意識がそんな風になるのはまだ先な気がする。東雲さんもゆっくり焦らずだと言っていた。法の方からも整備する事で認知されるからしっかりとサポートすると言ってくれている。
「まあ、理想ばかり追っても仕方ない。現実の方も受け入れて対策する事も忘れないようにしないとね」
リラが首を傾げている。考えを押し付けても意味が無いけど、そんな捉え方が出来ると冷静に主張するのは大事だ。
まあ、作り手としての親ばかぶりを発揮しているだけ、との皮肉を込めたマシュさんの主張も何となく理解出来る。賛同してくれる人を見つけるのも僕達の仲間を守る上では大事な事だ。
死神の巣にあるインテリジェンスアイテムも、倉庫の中でくすぶらせておくのも勿体無い。いつかあそこを綺麗に整理整頓したい気持ちも少しある。
「口だけじゃなくて行動もしないとね!」
リラがちょっと微笑んでいる。信頼の気持ちが伝わって来る。
宇宙船に乗り込むと、リラがみかんな速報便りを受け取った。早速見てみた。
ーー異世界間管理組合のタラマ星系内、ケール星での戦闘激化による第三回臨時派遣員の募集の案内ーー
みかんな町の皆様にはお世話になっています。これよりみかんの町役場前の広場にて募集面接を行いますのでふるってご参加を!! 契約内容や、期間等の都合により報酬等の詳細は面接後になります。
戦闘激化って、そんなに酷くなっているんだ……。続いて来たC3U職員専用の通知がマオ宛で来ているのを読んだ。
どうやら、ケール星内はあちこちに結界やら亜空間が作られて、厄介な仕掛けが施されているとか書いてある。
邪気輸送刻印術みたいな厄介な物まで見つかっている。結界内ではそれらが作用してかなりの怪我人を出しているとか……。要するに、僕達で言うところの神域みたいな感じだろう。自分の神域なら有利なのは確かだし邪神やら悪神の神域が彼ら独自の術で通路が作られてて、ーー悪神達の神域を繋げた暗黒街的なものだとの認識でいいらしいーーそこを行き来出来るのだとか。つまりは逃げられたり、逆に罠を仕掛けられたりしていて、かなり手間取っているらしいのだ。
「独自の邪神達の文化が出来ているとか書いてあるね」
リラも、横の繋がりを持つ悪神、邪神の様子は珍しいという文を読んで、悪い集合意識がこんな所にも影響を与えていると怒っている。
「確かにね……」
取り敢えず、宇宙船は航行を開始し始めた。ソファーに座って窓の外を眺めれば、大型船らしくゆっくりと宇宙空間へと進むのを確認した。ゆったりした動きに釣られて眠気が襲って来てそのまま瞼を閉じた。




