163 会議内部
◯ 163 会議内部
魔物化した人がダンジョン内で鼠と戦闘を繰り広げ、縄張りを主張しているというのを報告で受けた組合長は珍しく眉をひそめている。
その隣りでザックリーブさんがケール星の書類を読み返している。契約書かもしれない。現状どのくらい手を入れれるのか調べているのかもしれない。隔絶するのは決まっているが、人の行き来が完全に無くなる訳ではない。制限する形になるのだ。
アストリュー世界がヘッドゥガーン世界と別世界にあるのは保養地という名目があるせいだ。時間の流れも違っているし、カレンダーも特殊だ。
ケール星を切り離して別世界として、ケール星が保つのかといったところまで来ている。解体して星として終らせ、星間基地を造る方向に切り替えるかで、悩んでいそうな雰囲気だ。
「売りに出す可能性も入れて下さい」
画面の向こうは幹部の会議室だったらしい。幹部の一人だろうか。組合長に意見を出している。
「そうですぞ。こんな人を魔物化させて放置している様な神々等追放で良いかと」
「支配世界や交流のある世界はどのくらいあると思っている? その辺りをちゃんと見極めて発言したまえ!」
「冥界との契約が上手くいってないのも原因か?」
「そのようですね。賄賂の通る死神を重宝していたようで、ダンジョン内の魔物素材も外へ売り出すというよりは冥界へと売りに出してた記録も出てきました。が、その死神達は既に先の不祥事で粛正されています」
「冥界との現状は?」
「新しいオーディウス神の派閥の死神達とはウマが合わないのか、通常業務外は受けてないようです」
「命を奪うのも避けたいが、そうも言っておれん。魂を救わねばな……」
「地の精霊達がダンジョンを維持する為に縛り付けられている現状、彼らの救出も迅速に行わなければなりません」
「精霊達が去れば、あそこは瘴気の抑えが出来ぬはず。地獄の気制御装置を設置するにはケール星の神々が邪魔……」
会議室の人達が発言を繰り返し、それを聞いていたザックリーブさんが溜息を付き、持っていた書類を目の前の机に無造作においた。
内部調査に入っていた特殊部隊からの報告だろうか? それとも、C3Uとの契約内容だろうか? きっと重要書類に違いないが、リラはきっちりとそういうのはぼかしてくれる。中が見えないようにする規定らしい。神眼で無理矢理見れるけど、どのみち理解出来ないし、犯罪に手を染める程の価値はあれにはない。
皆の眉間には縦皺がしっかり見て取れる。レイやメレディーナさん、マシュさんまでいるのが見えるし、マリーさんも会議に出席している。いつの間に出世したんだろう?
いや、地獄の気制御装置の名が出たからそっち方向だろうか?
「閉じたら旅行者はみんな外に逃げ出すよ。装置はそれからで良いと思うよ?」
レイが会議の人達の顔を見て楽観的な言葉を掛けている。
「上手く運べば良いが……」
「ダンジョンがある事を知っている神々は少数では?」
メレディーナさんが苦笑いしながらも会議室の空気を変えようとしている。
「ケール星にいたら噂くらいは聞いているだろう」
「それでこっちに報告もせず隠匿するとはけしからん」
「ここでいくら話し合いをしても進展は無い。相手が応じるのを待つしかあるまい。というか、代表はスケープゴートとしてくるんだろう……」
ザックリーブさんが結論を出している。
「面倒くさいけど、本当にあそこを牛耳っている神は出てこないと思うな。それこそ悪神か邪神だよね」
レイが立ち上がって休憩に入ったザックリーブさんに話し掛けている。
「上手く誤摩化せる段階では無いと?」
「だと思うよ。ボクの予想では」
聞き返された問いに笑顔で応えている。最終的には、武力制圧でケール星は異世界間管理組合の手に全部戻る、と見ていそうだ。邪神やら悪神なら問答無用で追い出せるのだ。そこで組合長からの映像は消えた。
レイは最近、紫月とか怜佳さんの力を多少扱えてるから何となく分かるんだろう。彼の見立てでは瘴気に染まって黒くなり、邪気を発した何かが支配階層に大勢いると見ているのだ。
取り敢えず、ケール星の変わりに何か基地を造る様な事を言ってた気がするので、キュー星とかダーンが狙われるとかは減ってくれると思う。もしかしたらダーンを開発してしまうかもしれない。
神鳥達には安心してあそこでしっかりと仲間を増やして欲しいと思う。鳥としては空飛ぶ仲間は多い方が嬉しい。
フォーンさんから連絡が来た。その後直ぐにポースからも連絡が来た。レイモンドの飼っている幼鳥よりも一回り大きな鳥が確認され、そのまま捕獲に入るという。レイモンドは雷鳥が確認された時点で再度捕まえている。
慌てて画面を確認すれば、ミンティはダンジョンの鼠の肉を与え始めている。雷がぱちぱちと音を立てて鼠を焼き、一瞬で炭になった。不満そうに首を背けてミンティの差し出した鼠の肉には見向きもしなかった。
「もうっ! 食べないじゃないの! ……お願いだからこれで我慢してよ。これまであたしより良い物食べさせてんだし。はぁ、育って稼ぐ前にあたしが飢え死んじゃう。……もう泣きそう」
日が沈み暗闇が支配する時刻、かろうじて明かりが灯されているテイマーギルド本部と書かれた建物の地下で、ミンティは雷鳥を飼っていた。テイマーギルドの本部はまだかろうじて整っていて、会員も存在するのか活動の気配がしている。
ポースがベリィヌーヴに影縫いを命じた。雷鳥の子供は何か違和感を覚えたのか辺りを見回し始めた。そのタイミングでフォーンさんがミンティを捕獲した。腕を取って後ろにねじ上げている。
雷鳥の方は影から出て来たベリィヌーヴが身体を巻き付けて飛び出さないようにしてしっかりと捕獲した。ベールのお陰で雷鳥の雷からも保護されているのでしばらくは大丈夫だ。ポースの神格が芽生えてからは、ベールも眷属ならこんなに離れても維持出来るようになっているのは助かる。多少機能は落ちるけど、それでも充分だと思う。
「ギョァアー、ギァー」
雷鳥は突然の事に鳴き声を上げている。
「何よあんた達。どっから……」
フォーンさんは面倒くさかったのかミンティの意識を即座に奪った。くったりとした身体を担いで、人気の無い場所へと移動し始めた。当然影の移動だ。
隣りではディーンさんが雷鳥の卵に関わった人間の身柄の最終の引き渡しの交渉に入ったので、僕はポースに合流するべく、精霊召喚をして貰う事にした。正確には幻想聖魔獣の召喚だけど、精霊界の生物なら精霊召喚でひっくるめて問題ない。隣りにいたホングにちょっと合流してくると告げて、身体を包む光と繋がった目の前の空間に浮かび上がり始めた光の柱に向かって歩き始めた。
「聖なる扉よ、その存在を示せ。重なり合う冥道の彼方より盟約の友を我が前に導け! 我が名は偉大なる唯一の書ポカレス、ピピュア召喚!!」
光の扉の向こうでポースが召喚の文言を叫んでいるのが聞こえた、冥道じゃなくて霊明の彼方だったはずだけど……まあいいちゃんと繋がってる。名前はヨォシーでも可なはずだけど、それも後でなおしてもらおう。どのみち見てるのはフォーンさんくらいだ。
訓練じゃない本番で、やってみたかったんだよ、きっと。何度かやれば気も済むし、時間が差し迫ってるシチュエーションでは悠長に呪文は唱えないだろうと思う。その為の魔結晶に刻んである魔法陣が存在するのだし。
「盟約の導きにて光とともに我が友の前に降り立たん……」
だったかな? 扉をくぐり抜ければ、期待しているだろうポースの為に台詞を口にしたがやっぱり恥ずかしい。でも折角だ。召喚中の時間は時空を操れるなら自分で調節出来るので光の中で準備は万端に出来る。ちゃんと光のベールを纏ってポースの前に立ってキラキラの演出をしておいた。一応設定通りの光の精霊っぽくしておかないと。
「派手だな」
フォーンさんが呆れている。
「死神召喚の時は考慮します」
というか死神召喚でも良かったのか。
「ありゃ、ヨォシー召喚の方が合ってんのか?」
ポースはピピュアの恰好で来ると思ってたんだろうか?
「仕事中だし、死神召喚の方が合ってたね」
「精霊の方が雷鳥に受けはいいはずだぜ?」
ポースなりに気を使っての行動だったみたいだ。
「それもそうだね。なら精霊召喚で合ってるのかな?」
「闇の精霊で召喚するか?」
「ああ、それならぴったりだね。ヨォシー召喚でも違和感無さそう。今度練習しよう」
仕切り直しを言いいそうなポースに先回りして練習を言い渡しておいた。もう一回呼び出されるのは勘弁して欲しい。タイミングよく、ミンティの意識も戻って来ている。もうすぐ目が開きそうだ。




