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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
しろいつき
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 チャーリーのお仕事 1

 ◯ ケース1


 アキがまた幽霊に戻ってしまいました。一報を聞いて直ぐに駆けつけた時には魂の救出に入っていると聞かされ、神殿に運び込まれた時には既に精霊の体を諦めないとならない程に邪気に侵蝕されて、余談を許さない状態にまで侵蝕されていたとか。

 犯人の持っている映像に映った武器から出ている禍々しいオーラは、普通に触るだけでも害を及ぼす程で、邪力が籠った武器と言った方が妥当です。偽装を解いた状態の物は、それ自体が悪意の固まりと言って良い物でした。

 後処理をしたイディッタからの連絡では、攻撃を二組から受けたとなっています。全くの偶然にそれは起こった事だと、同時に襲った犯人達を尋問すれば直ぐに露見しました。


「あれほど誓ったのに……」


 悔しさで胸が張り裂けそうです。何とか魂は無事に保護でき、治療を受けていますが、高密度なエネルギーの魂の修復が順調なのは、アキ自身の神域があるお陰です。それに我々眷属である獣守の力も使えば治療はスムーズになります。お役に立てる事は嬉しいですが、こんな事は二度と嫌です。


 調べが進めば魂を切り刻む様な、あの武器が出回っている事が分かりました。悪神でもない者にも容易に扱えるなんて恐ろしいことです。灰影の犯罪者がその事に気が付いていたかは怪しいけれど、精霊や、神の見習いを殺せる武器を欲した時点で、危険な思想を植え込まれているのは明白でしょう。


「命はね、守るのは難しいわ。特にアキちゃんは、ほんの隙間をぬってすり抜ける様にあっちに行ってしまうのよ。……チャーリー泣かないで。黒いマントの宿命に抗えてないの。いいえ、率先して犠牲になってる気がするわね。きっと他の者が犠牲になるのを防いでくれてるのよ」


 握った手が震えているのに気が付きました。マリーがぎゅっと抱きしめてくれます。


「マリー……。アキは死のベールの力を使っているの?」


「そうね。向こう側に呼ばれているのよ。彼らも欲しているのね……まあ今回みたいなドジはいつもの愛嬌よ」


 頭を撫でて慰めをくれるマリーは、良く分からない事を言っています。どういう事なのでしょうか。


「……恐ろしい武器が出回っているのに、回収が出来てないようです」


「大量に出ているわ。出所を探さないとならない危険な任務が始まっているの。死神との連携がここで生きるのよ。レイが思い切ったのはこのせいね。あれだけ死神には渡さないと言っていたのに、妥協をしたのだし」


 雨森怜佳様は先見のお力を持っていると聞きました。レイが姉妹の事を高くかっているのはそのせいでしょう。何か有力な情報をお知りになったのかもしれません。


「アキは能天気な霊気特化だから、本当は幸せに笑ってないとダメなのでは?」


 師であるレイの力を受け取って周りに広げる役割です。お気楽に人生を楽しみ、笑顔を振りまき、争いを好まず、ふんわりとした雰囲気で周りの人の肩の力をそっと抜いてあげる。そんな存在のはずです。

 ハンカチで涙を拭ってくれるマリーに、甘える様にしがみつけば、しっかりと抱き上げてくれました。


「本来はそうね。笑って幸せな気分をまき散らして、ドジで笑いをとっているのがお似合いなのだけど。誰かの運命を拾う事にも長けているのも原因ね。それには厄介ごとがものすごく付いて来るのよ。おせっかいなあたし達の所に来ているのは正解よね。お陰であたしは闘神としてだけじゃなくて、創神の力も扱える様になったのよ。すごく大事な事よ。破壊だけじゃない。チャーリー達を創り出せたの」


 慈しむように見つめてくるマリーの瞳に、自分が映っています。しっかりと受け止めるには気恥ずかしさが勝って声にならないでいます。不意打ちは止めて欲しいです。


 マリーはいつものように、新しい獣守のデザインを考えていたみたいで、デザイン画のコピーを始めました。生態端末のデータを受け取って、パターンを切り取り作業を続けます。

 同時にマシュに出来上がり予想を送って、部品を創ってもらいます。いつもアキが病室にいる間は、こうやって願掛けの様にぬいぐるみを創作し続けるのです。

 自分も手伝いをしているのですが、一つ一つ手縫いで創られた新しい仲間には、既に魂を育めるだけの力を受け止める強さを持っています。マシュにバトンタッチされた新しい仲間を追って付いていけば、埋め込まれた機械部分の調節が始まりました。


 自分達は守るなんて言っていますが、守られているのかもしれません。マリーに聞けば境目は曖昧で分かりにくいと言います。けれど、仲間として充分助け合っていると答えてくれました。


「それに、紫月ちゃんはアキちゃんを完全に取り込んでるから……。どんなに呼んでもアストリューからはアキちゃんは出れないわよ〜」


 おどける様にマリーが言う内容は、ちょっと物騒な気もします。


「ストーカーよりもすごくないですか?」


「……でも病んでないから安全よ〜」


 確かにです。


「レイが付いてますからね」


 それに紫月も神格が芽生えて神力の扱いを覚えているので、レイとメレディーナの弟子になったと聞いています。


「あの特殊な精霊の体が外に流出しなかったのは良い事よ〜」


「血の一滴、髪の一筋も現場には残していません」


「イディッタはちゃんと仕事したのね」


「はい。神力を高め、魔力を最大限に取り込めるようにする。そんなアイテムになるのは危険ですから」


 知られては不味い力ですが、それに気が付く者は少ないのです。犯人を逃亡させなかったし、飛び散って被った血も凶刃に残っていた髪も全て回収できました。普通の精霊殺しも魔力濃度やら扱う魔力値が上がりますが、アキの場合は神力までもが増幅するので厄介なのです。


「紫月ちゃんがその恩恵を一番受けたわねぇ。本人も神力の扱いをスムーズに出来たのは、あの体のせいもあるわ。正当に使えば新しい力を授け、成長させれる力なのよ。体にその力を付属するなんて……偶然とはいえ良くないのよ〜」


「はい。本来その力は表には出にくいと聞きましたが」


「体創りは止めさせるわ。そんな体をやたらと創ったらダメだもの。それにちゃんと精霊としての体を創ったという実績が出来たから、その修行は終わりよ〜。心配は一つ減るわ」


「それは良かったです」


 紫月に取って美味しい体を創っただけだとは想像がつくけれど、周りにも美味しそうで欲望の対象になるようでは良くありません。そういう抜けている所をフォローするのも眷属の仕事ですが、物騒な事件に巻き込まれるのが多いアキには、敵に狙って下さいと言っている様なもの。餌としては最高だけど、ほんとうに美味しいのは良くありません。相手を強化されては大変です。

 そして、次のステップに移るというので何か聞いてみました。


「生まれ変わりというと、神域内にですか?」


 安全を考えれば、その方向にしか予測出来ません。


「そうね〜。何になるかしらね……人間はあの畑にはいないから、精霊か妖獣かしら?」


 当たりのようです。


「ふわふわで、ふかふかなら合いそうですね」


「魂は自分の力の場所を知っているから、畑の中に生まれるはずよ〜。たとえ毛虫になってもあそこの主には変わりないわ〜」


「そこまでドジではないと思いますよ?」


「どうだったかしらね〜」


 マリーと目を合わせたが、ないとは言い切れないのはそのくらいドジだと認めているからかも知れません。アキはちゃんと種族を指定するでしょうか……。


「ショックの軽減には影の治療ですね……鍛えておきます」


 新たな目標が生まれました。こうやって鍛えられて行くのは良い事なのかチョっと悩むところです。まだ仲間達の落ち込みが酷いので、皆にも伝えてこの影の治療の鍛錬をする事にしましょう。きっと自分達にも有効なので一石二鳥になるに違いないでしょう。


 暫くしてアキが生まれ変わりをしにアストリュー冥界に行ってしまいました。どうやら見習い神を一撃で死に追いやったというのは、異世界間管理組合でも問題視されているので許可は直ぐに降りたようです。

 殺されたのがアキだと噂が広まっているのは、最近話題になったせいのようです。東雲様という有名人との浮き名を流し、男の娘としての活躍もいれての噂が覚めやらないうちだったのも大きく影響しました。そんな訳で、ついでに必要な修行をさっさと済ませる為に姿を隠し、修行の繰り上げを実行すると決まりました。


「見習い神の神官にある、体創りの修行を暗殺者は知っていたようですが、他も同じ様に狙ってきますか?」


 そこまで考え無しに襲ってくるものでしょうか? 他の見習い神達が警戒しているのは分かるのですが。そんな疑問を目の前の美神に尋ねました。


「模倣犯というのは何処にでもいるからね、彼らからすれば狙い目だよね。危険度は下がらないかな」


 レイは少し眉間に皺をよせて、現実にありそうな事を言ってます。


「そうね〜、流れからすると狙ってきそうよね……アキちゃんの場合は防護はやり過ぎで調度いいのよ。悪神として認められたいとか、名前が売れるとか、浅はかな考えを持っているのが彼らなのよ〜」


「その意見には賛成です」


 マリーの言葉に深く頷いておきます。そもそも別の二組の悪党が一度に襲ってくる等、とんでもない確率でしょうし、どれだけ防護しても足りません。


 空を見上げて輝く月を眺め、無事の生まれ変わりを願いました。今頃は、冥界から魂の流れに乗って神域の中かも知れないと思うと、胸が苦しい気がします。毛虫になるかもしれないなんて、心配し過ぎかもしれません。

 なので、気になっていた紫月の様子を見に向かいました。アキとしばらくお別れになるかもしれないと聞いて、すっかりしょげていたのだから慰めは必要でしょう。

 庭の花畑で紫月は俯いて何やら考え込んでいるようです。近寄ろうとすると、徐に自前の空間収納から金色の羽根を取り出しました。あれは……伝説の願いを叶える羽ですか?!

 驚いたのは何本も持っていることです。いくつか並べて、その中の一つを選び他の羽は仕舞って、庭のカシガナの木に向かって飛んで行ってしましました。なんだか邪魔をしてはならない気がしたので、そっと見守る事にします。

 その日、アストリュー中のカシガナの木が一斉に紫色に輝き、木の周りを螺旋状に黄金の光が走り抜けました。


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