144 計画
◯ 144 計画
結局、ギベロさんやセドリックさん、それにフローラさん達に会うのは保留になった。僕を捕まえようとしている相手が何を狙っているのかを知れば危険な事はさせれないからだ。ヨォシーとして会うなら危険は無いだろうとは思う。
その為の作戦というかお知り合いになるには改めて紹介して貰うしか無いけど、ちゃんとした接点が必要なのだ。何処の誰でどう言った経緯で知り合った人物か……。やっぱりちゃんとした出身が必要なのだ。
「みかんの町の身分証明じゃ無理かな?」
「あー、それが一番謎で、一番信頼がある身分じゃないのか?」
「そうなの?」
「渡航所でみかんの町へ入る為の条件を聞き出してる奴が大勢いて、警備でも問題になった」
ナオトギの情報で驚いた。
「新人は確かに入れないよ」
「新人以外でもだ。誰でも入れるんじゃない。というかどういう条件か知ってるんじゃないのか?」
三人の目が聞きたそうにしている。
「え、そんな大層な条件は無かったと思うよ? 神官とか闘神とか死神とかだったら余裕で入れるよ」
後は事前にレイの用意した契約をする必要があるけど、それは守秘義務を課す為の物だ。それから僕達に敵対して無いとかそんな条件も入るけど、それはこのメンバーには必要ない情報だしね。
あ、そっか。それでみかんの街の情報がめちゃくちゃなのか。入れない人が無茶を伝えるからややこしいんだ。言いながら気が付いた。入れない人の方が圧倒的に多い。最近は妖精や精霊も招いているけど、一般人は入れない。職人や商業関係者は厳選されてるし、あそこの商品は偏ってもいる。戦闘職への物品が多いのも特徴だ。
住人も増えたと言っても畑があるから自給自足出来るしね……。畑の中身が食料以外も収穫出来るし、木材から鉱物、その他の細々した物は間違いなく揃う。そもそもダンジョン魔物で織物工場が出来てたりするし。神々の神域ともなればそれらを作るエネルギーが滞るなんてあり得ないし。
「まあ、俺達は地獄型ダンジョンの為の街だって知ってるからまだ諦めというか、分別のある人間を通しているって気が付けるが、そうでなければ切れてもおかしくない。ホングが入れたのだ、身分で入れる人間を区別しているのでもないしな」
ヴァリーはみかんの町に入れる条件をズバリ当てている。旅行関係から聞いたんだろうか? そういえばこの間から何処かに働きに出ているとか言ってたっけ?
「それは神々も同じかな……ちゃんと目的を持って入らないとあそこは何をしている場所か分からないよ。ただ、流行を追ってる人じゃ意味が無いというか、悪神達との攻防の最前線なんだし」
「やっぱりか」
ヴァリーとホングは顔を見合わせている。ナオトギは腕を組んで思案顔だ。
「つまり、C3Uに入るには闘神レベルの戦闘力を要求しているってことだな?」
「そうなるね」
「それ以外は? 神官はマオのレベルで行けるってことか? 文官……事務はいるのか?」
「そっちは組合長の推薦がいるよ」
「ちょ、ハードルが高くなった?!」
ちなみに僕は死神の組合と、真偽の組合と、異世界間管理組合との指名で仕事に付いてるから!
馬鹿にしたらダメなんだぞ! 神官と言っても特技を活かした仕事先なんだからね。中身は時々職員を眠らせるだけだけど……それは黙っていてもかまわないはずだ。
「何かイラッと来る顔をしやがって……」
何か勘が働いたらしいナオトギの拳が震えている。C3Uを狙っているらしいけど、そう簡単には入れないぞ! レッドですら闘神候補だ。あれ? 候補や見習いでも入れているのか……意外とハードルは低い?
いや、情報の扱いに長けているってことかな? 事件への鼻が利くというかそんな感じの能力を買われたとか何とか言ってた気がするから、プラスアルファーの力がある事が条件かもしれない。ティアラも情報能力は高いし、魔法も強力に扱える。誰の教育かハッキングも得意だし、ウイルス作りもかなりの物でそっち方面に明るい。
僕がC3U入りの条件を考えていたら、三人はヨォシーがみかんの町に入れているのは謎だとか言い合っていてちょっと傷ついた。
「でもそれだけ注目されてる所が出身地とかって良くないかな」
ホングが僕の睨みからまともな事を口にし出した。ちょっと後ろめたいのか視線を逸らされたがまあ良いだろう。
「異世界間管理組合の管理員には、取り入ってでも情報が欲しい相手になるか?」
「俺達でさえこの状態だ。もっと酷いだろう」
ナオトギは腕を組んで考え中だ。
「魔王と勇者がそんな調子なら、仲間内のみって感じで行くしかないかな?」
ホングはちょっとおどけた風に言った。脱出口というか解決方法を思いつかないので取り敢えずの提案をしたみたいだ。
「それでいいだろう。他は何か無いのか?」
「んー、何処で知り合ったとかの話も合わせとこうか?」
「三人で出かけた先で知り合ったってのはどうだ?」
「ついでに何か仕事を一緒にこなすか?」
「良いな。これ以上は貯蓄を崩さないと……」
途端にヴァリーが喜んだ。
「ヴァリー、何に使った?」
ホングの目が厳しく光った気がする。
「カイを強化した」
何かうろたえる様なかんじで目が泳いだが、直ぐに報告しているので、本人は後悔してなさそうだ。
「……貯蓄じゃなくて投資を売り飛ばすって意味じゃないのか? それは止めとけよ? それは命綱だから触るなと教えといただろ?」
何やらホング教官による勇者教育が始まったので僕は聞かないようにする。
「触ってないから苦しいんだろ? それより行き先を決めるぞ!」
全力で会話を回避しようといているヴァリーは必死で僕に助けを求め話題を振って来た。ホングは仕方なさそうに首をすくめて追及を止めたようだ。そして僕に頼むと言った顔をしたので頷いておいた。
「ところで皆は今、何の資格を持ってるの?」
どうやら皆は見習い神と同等の身分(?)に昇格しているらしかった。ヘッドゥガーン世界の規定では僕のように特定の神の下に付くとか以外は本式のーー正規管理員として認められ、新人を脱する事が出来るらしく、全員がそれを果たしていると聞いて驚いた。
新人の期間を通り越しても力が認められない場合はただの管理員として残るらしく、分かれ目なのだとか。まあ、遅くなっても正規の管理員には力が芽生えれば直ぐになれるので自分の成長スピードで良いのだ。焦る必要は無い。焦った方が遠回りな事も多いとも聞く。
「ナオトギは地縛じゃないや地属性の封印系統だよね?」
「ああ。親父に聞いたら喜んでくれて、祝いが今度開かれるから招待状を送るぞ」
ふんぞり返って讃えろと顔に出して自慢し始めた。本人も嬉しいのだろう。試練のせいで不遇を散々体験させられたらしいし。闇の属性も勉強を始めたらしい。
「へえ。さすが御曹司だな」
「じゃあ、お酒だね?」
「分かってるじゃないか」
直ぐに舌なめずりしているが、お祝いなら見逃すしか無い。
「で、ホングは?」
「ああ、魔眼が付いたらしくて……」
自分の目を指さしている。神力も多少感じ取れるくらいの魔眼らしい。神眼とまでは行かなくても偽装された姿が何となく分かるらしい。僕の送った気配が薄くなる目立たない人になる装備はじっくり見ないと分からないけど、獣人が耳を隠してたり、変装を見破ったりが得意な看破系の力が強く出る魔眼だとか。
あの偽装されたレクタードさんと僕とナオトギの三角関係が出たときも、魔眼のお陰で分かったらしい。全く心配してないけど、どう処理するのかという応援の話をナオトギに持ちかけたくらいだ。
ナオトギも画像を編集して、変に意味ありげに作り込まれていたのが直ぐに本人故に分かったみたいだから、僕に直ぐに確認の連絡が来たくらいだ。
「それはいい目だね。僕も大体分かるよ」
三人で来たのはあのスキャンダルの処理を一緒にやってたのかもしれない。
「それはやっぱり仕事柄か?」
ホングは僕も魔眼持ちなのに驚きつつ、同じ話題が出来ると嬉しそうにしている。使い手はそう多くないので情報の共有がしたいのだと思う。
「うん。自分も偽装しないとならないし、変身もやるしね」
「その姿は変身した姿なのか? 分からないぞ」
ホングは目を凝らしてじっと僕を見ているが首を傾げている。
「そりゃあまあね。僕の変身は誤摩化しじゃなくて本当にその生物の『姿』に変わるんだ。幻とかの偽装じゃないんだよ。光の力で身体を作り替えちゃうんだ」
本当は精霊(聖魔獣)の身体なので人間の生命体としての違いの部分はちょっと誤摩化しが入るんだけど、そのくらいはベールで遮断すれば大丈夫だ。ホングも分からないみたいだし。つまりは新しいベールの機能なのだ。
「そういえば神官の身体作りの修行がどうこう言ってたな。そういう事か……追い掛けられてもそれなら魔術での誤摩化しじゃない分、見破れないか」
ヴァリーもじっと見ているけど、ヴァリーの場合は魔眼という訳じゃない。
「そうだよ。気配とかも変えるとばっちりだよ」
これもヴェールの上に乗せると効果絶大だ。着々と死神の技術を習得中の僕だ。
「で、ヴァリーは?」
「俺は……炎だ」
目を逸らされた。
「浄化系の炎で瘴気を出してる魔物丸ごと浄化だ」
聖炎属性で邪気も浄化し尽くすらしく、炎の中に捕われたら最後だ。神気として纏えば陰の気を近寄らせない。勇者らしい技能だと思う。レッドもそんな感じの力を使ってたので知っている。
「……魔物肉がとれないタイプだね」
邪気やら瘴気を糧に燃やし尽くすので自然とそうなるらしい。
「く、言うな!」
肉どころか素材がとれない。欠点はそこだけど、僕は全く問題ないよ。でもこの良い炎で聖の料理をすれば美味しい物が出来るはずなのにヴァリーはちっとも扱えてないと思う。
あ、でもセスカ皇子は料理上手だ。器用さの違いかもしれないと何か納得した。闘気と霊気を混濁させたまま一緒くたに扱っているからそうなるんだ。不器用で使い分けが苦手な人が陥る罠だ。まあ、要修行って奴だよね。
レッドも苦手だけど使い分けてるし、ヴァリーはあれを目指すべきだ。
「あ、良い手がある。魔物の素材の確保は出来るよ。ヴァリーの炎の効果をナオトギが地封印で押さえればいけるよ」
「成る程。加減が出来ないうちは二人で協力すれば良いのか」
顔を見合わせたふたりは何故か苦笑いだ。
「ホングがダンジョンの罠を看破すれば大丈夫!」
「で、ヨォシーが回復か。冒険に出るにはばっちりだが、そんな危険地域に行くのか?」
「ただの妄想だよ。ダンジョンのある世界は給料が安いし」
「そうだな。力の訓練が必要なときはそれで良いが稼ぐのには向かない。魔道飛行機の運転が役に立つ仕事とかないのか?」
「そうだな。折角取った資格だ。それで探そう」
ヴァリーは現実的だ。よっぽどピンチなのかも。
「……商業用のを取ったの?」
「いや、心配しなくても個人で運ぶくらいは大目に目て貰える所が殆どだぞ」
「大量発注や定期的な取引でない急ぎの単発だったり、個人取引での手伝いとかだけど、結構あるぞ」
イベントとか個人店の仕入れの頼みとかなら何となく分かるかも。
「へえ。ナオトギは持ってるの?」
「当然だろ? お前らみたいにレンタルじゃないぞ! それに警備の資格が役に立つんだ、面倒う見てやるんだからな?」
「おおー、個人用のを持ってるんだ。でも、魔術が主の所と魔法が主な所とだと仕様が違うから使えなかったりするんだよ」
ギンナンナブ世界ではそのお陰でいつもレンタルだ。いや、『スフォラー』のカジオイドオプションの追加をすれば出来なくはない。有り余り出した月夜神の財力をつぎ込めばナオトギにだって楽勝かも……。
「何、そこはサートンの爺に言えば安くで借りれるだろ?」
「そうなの?」
何の事か聞けば、ナオトギの知り合いと言うか家族で付き合いのある財閥の元会長ならしい。
良い鑑定眼持ちでこれも魔眼の一種らしくてオークションで財を成したとか言っている。価値が大体分かると言うので金勘定が得意な魔眼と言うかお宝かそうでないかが分かるという宝探知の魔眼だ。財力で更に物品鑑定を生体端末に入れているから最強だとか言っている。トレジャーハンター街編で活躍していると思っていいかもしれない。
そんな訳で皆の仕事に混ざって手伝いをする事にした。期間や空いている時間を見て、皆で決めた。ヨォシーの名での魔道飛行機の免許取りを忘れているので、僕はそれを取りに向かわないとならない。
帰り際に土産を出すと喜んでいた。ヴァリーには食べ物を持たせて、ホングにはリラックス効果のお茶や寝酒、ナオトギは冷静になるお酒に妖精のお酒と摘みを渡しておいた。
ナオトギには霊酒をお祝いに作る事を約束させられたが、レクタードさんの分も入れて全員の分を作ろうと思う。さて、材料は何にしようかな? 一部は『魔宝珠』である酒飴玉に加工しとくのも良いかもしれない。『神力魔結封玉』は勝手に作って渡せない部類なのでそれはしない。
いや、一応レイに許可を貰っておこうかな?




