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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
へびとたまご
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143 休日

 ◯ 143 休日


 今日は体力作りの為にアストリュー世界の海でポースと仲間とで泳いでいる。そろそろヴァリーとホングもやってくるが、まだ合流出来てない。

 ヨォシーの姿を大人っぽく、身長を伸ばさせてもらって170㎝前後にした。靴で何とか大台を超えるくらいの身長だ。お仕事では大人の姿が標準だと紫月に説明をして、許可を貰ったので何とか拗ねないでくれている。

 黒猫の身長くらいだと変身が一日続かないのだ。僕の限界値がこの高さなのか、紫月の大人バージョンの身長よりも大きくなるのを許してくれないのかどっちかである。


「あ、来たね」


 ボディーボードの上から砂浜を二人が歩いてくるのが見えた。


「お、本当だな」


 ポースはジェラの分体であるウォータージェット擬きに乗ってご機嫌だ。


「誰か後ろを付いてくるね。ナオトギかな?」


 黒髪の青年が後ろを歩いてくるのを見れば、やっぱりそうだった。


「知り合いか? なら心配いらねぇな」


 ポースはジェラと一緒に海の探険に出てしまった。きっと、探険後はあのまま人魚の住処に遊びにいくに違いない。魔導書じゃないけど、人魚達の詩歌を集めた本がインテリジェンスアイテムとして意志を持って泳いでいるのだ。本だけど、ヒレを持っていて、水の中でも自由に動き回っている。水竜の鱗やヒレを素材にして作られた表紙が進化したらしいのだ。最近は良く遊びにいっている。

 一緒に歌ったり、情報交換したりとポースにも春が来た感じなのだ。邪魔は出来ない。

 僕も友人と遊ばなくては。



「久しぶりだねヴァリー、ホング。ナオトギはこないだぶり」


 歓迎したけど、しかめ面した二人がジロジロと僕を見て不満そうに口を開いた。


「また女の子をやってると聞いたぞ」


 ビーチ横にあるコテージを借りておいたのでそこに移動しての第一声が、そんな言葉だった。海での再会に期待があったのが伺える顔が並んでいる。


「何故男なんだ。海ならここはビキニの似合う美女だろう?!」


「この二人の事は気にするな。その姿はヨォシーの大人か?」


 挨拶もそこそこに、がっかりとしたといわんばかりに責められたが、さすがのホングが冷静に二人を肘で突ついてから貼り付けたような笑顔で話し掛けてくれた。

 内心はヴァリー達と同じ事を考えているに違いない。ナオトギも一人だけ良い顔をするなとか小声で横から口を出しているので、そんな話が事前にあったに違いない。

 大体、三人とも真っ先に胸の辺りを確認するかのように視線を送って来たからね。気持ちは分からなくもない。が、命あっての事だ。不満そうな三人にはしっかりと仕方ないんだと説明をしておいた。

 僕が自分で戦えるくらい強ければ、こんなややこしい事もしなくていいんだと思うけど……。


「いや、それでその能力を高めているならそれも戦いだろ?」


 ヴァリーが身長の高くなった僕にその姿でスカートははくなよと、アドバイス(?)をくれた後、そんな事を言ってくれた。どうやら姿変えに迫られている状況よりも重要な事らしい。


「周りに迷惑をかけないようにしてくれているなら、それだけで良いんだ。友人が無事な方が良い」


 ホングは視線の高さが近くなったと複雑そうな顔をしてからヴァリーに続いて言ってくれた。あんまり心配をかけるなと釘も刺されたけど。


「それで美女なら文句は無い」


 二人の言葉に頷いていたナオトギが本音の籠った言葉を言ってにっこりと微笑んだ。


「……みんなありがとう」


 ここはお礼を言うべきであっているはずだ。微笑みは僕の無事の方が大事だと伝えて来ているが、言葉は望みを紡いでしまうナオトギらしくてちょっと笑ってしまう。


「ナオトギのは余計だ」


 ヴァリーが斜め前に座っているナオトギのスネを軽く蹴っている。


「さっきの残念そうな顔は隠せてなかったぞ! それでヨォシーが戸惑ってたしな」


 ナオトギの反撃は的を射たのか二人とも即視線を逸らした。勿論、足の攻撃のお返し付きだ。じゃれ合ってこの雰囲気を誤摩化そうとしてそうな感じだ。照れくさいのだろう。


「うるさい。そんなにがっつくから嫌われるんだ」


「馬鹿やろう。追い掛けないと逃げるんだから仕方ないだろ?!」


「マオで手を打とうとか言ってたよな。一番がっかりしてなかったか?」


「うるせぇー」


「口説く前に男だって思い出したか?」


 わざとにやけた顔で煽っているヴァリーも珍しい。気を許した相手にしかしない行為だ。


「このっ、そんな口を聞くのはお前くらいだ!!」


 そういって怒るナオトギも意外とこの関係を楽しんでいるのが分かる。多分、いつもこんな感じで仲良くやってるみたいだし、良いと思う。僕もこの中に入れているのが嬉しい。

 僕とホングは本格的にビーチで軽い運動を始めた二人の戦いを観戦しつつ、コテージに付いているメニューを開けて飲み物を注文し始めた。メニューに召喚陣が入っているタイプの物で、仲間内で楽しみたい時にはぴったりの物だ。

 使う側としては便利で良い。昔は仕組みはどうなっているのかと思っていたけど単純で、専用の亜空間倉庫に保存してある品をシステム管理して送って来るだけだ。

 身近な所では『地球定食屋』が異世界間管理組合と契約していたはずだ。うち(克実ブランド)は独自でそのシステムをみかんの町で構築して使っている。生体端末(スフォラー)に直接召喚させる事が出来るのでメニュー表がいらない。上位の生体端末ならそのくらいはさせれるので、他の所が出している端末にも機能追加で出来るが、合わないと制限される機能があったりする。

 みかんな町では異世界間管理組合やらの組織が、僕達のシステムを使う権利と交換に異世界間管理組合やらミトリューム商会側のシステムを使う権利を貰ったりしている。なので、お高い契約料は払ってないらしい。

 まあ、単純に作れるのに高い金を払う必要は無い、とマシュさんが頑張った(借金で作った)せいだけど。いやまあ投資だと言い張ってたけど、あのときはまだ借金を増やすのかと胃にダメージが入った。今ならちゃんと投資だったと言えるし、認識出来た。今思い出しても涙が出そうなくらいの時期だ。


 目の前に飲み物と軽い軽食が送られて来た。やたらと甘そうなジュースはナオトギが好きな物だ。僕はいつものリモンジュースで、ホングも同じ物だ。ヴァリーはカシガナジュースを気に入っている。魔力が多く含まれているし、聖だと言ってここに来る度に飲んでいるらしい。


「それで、話って?」


 新しい『スフォラー』であるリラを紹介してから話を始めた。ディオンとリラも挨拶を交わしている。多分情報の交換もしているはずだ。


「あー、スフォラー持ちの親睦会がまたあるから来ないかと思って」


 新人を抜ける前に一度集まるらしく、それに参加をしないか言ってくれているみたいだ。前に知り合った生産職やら営業やらガチの戦闘職の戦乙女達に会わないかと誘われている。


「組合員以外で大丈夫?」


「人数が増えてるから紛れ込める」


「一緒にいたら、他の人にバレない?」


「……分からないな、そこまでは」


「まあ、マオは姿を隠すけど、新人としては別の隔離された場所(C3U)に派遣されてるからね……そこでは新人が終るまではマオで過ごす予定なんだ」


「そこは安全なのか?」


「うん。灰影を繋げない組織だから。悪神とか邪神の活動を阻止する目的の機関だし、星深零と死神の方の推薦もあって止めるのは出来そうにないんだ」


「そんな所にいるなら稼いでいるのか?」


「どうかな? 稼ぎはそうでもないと思うよ? 思ったより給料が出ないとか手当が薄いとか言ってる人がいたから」


 ターシジュン管理組合が崩壊して機能してないし、それの再興の方にも力を注いでいるせいもある。


「目的が公的だし、堅苦しそうなイメージだ。軍とかと似た組織と思っていいかな?」


 ホングはC3Uの事はまだ知ってなかったらしい。


「……そうかも。司令部が政治的な事も処理してそうだけど、戦闘組の執行部の実行班はいくつもあった気がする。少数精鋭で揃えられてた気がするけど。集まって大部隊編成とかも訓練するとか言ってたから」


「やっぱりか。でも、各上位組織の合同機関で、問答無用の捜査に実力行使が可能なら最上位の権限を許されているってことだし、かなりのエリートだ。それでも護りきれないのは何か惜しいな」


「個人での活動の場を狙って来たりするからね……」


 言ってはならないけど、制服の着用が決まってからはつけ込まれないように偽名での活動に切り替わっている。コードナンバーやら通り名、もしくは役職名を使う事もある。仲間内では偽名ではなく、普通にしているけど。いや、死神とか司令部は最初から偽名だったかも……。

 異世界間管理組合なら、舞桜=マオは直ぐに調べが付くし、新人のファムダさんとかでも直ぐに見つけてた。けど、C3Uのマオが同一人物とはまだ流れていない。

 いつか外に出る時に同一人物とバレないように、少しずつイメージは変えつつあるけどね。身長を伸ばしたり、ウェーブの髪にしたりと大人っぽさを足して顔も少し変えた。顔写真を並べてもちょっと似ているけど、別人くらいにはなっている。


「組織を相手に戦うのは無理でも、個人を狙って攻撃するのは常套手段か」


 いつの間にかヴァリーとナオトギが戻って来て、隣りに座った。用意していたジュースを持ち上げて飲み始めた。二人とも軽く汗をかいていて、タオルが要りそうなので収納スペースから取り出して渡しておいた。


「お、やっぱり気が利くな。女の子でも良いんだぞ?」


「目の保養は必要だな」


「……飢え過ぎだよ」


 下心しか見えない要求は願い下げだ。身の危険を感じるぞ?


「その視線は止めろ。気味が悪いぞ二人とも……」


 僕の隣りにいたホングが本気で気味悪がったのもあって、魔王と勇者が悪い夢から覚めたらしい。羽織っていたパーカーの前を合わせて睨んでいたけど、目が合ったら罰が悪そうに視線を逸らした。正気になってくれて嬉しいよ。


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