139 骨董品
◯ 139 骨董品
「これはまた年季の入った骨董品だな」
マシュさんは聖騎士の鎧を見て使えないと一蹴した。が、ガリェンツリー世界のお宝だと言えば興味を持った。
「へえ。神代って言うからには創世記か? それならこの古くささは分かる。確かにジュディーの葉だな」
あちこち弄り始めたマシュさんは傷やへこみを見ている。本人がその傷を認識しているので意志を持つ前に付いた傷だろうと推測していた。自動修復付きの魔術が掛かっていて、鎧の彼の意志を反影して魔力で修復される。
「層にいたって言うがこの程度の浄化なら表層か?」
「詳しくは知らん」
マシュさんの質問には応えられなかったらしく、鎧はただ戦っていただけだと分かった。というか暴走時にその辺りの記憶の殆どをなくした様な事を言っている。
「浄化の出来ない死神を護っていたのか?」
再度マシュさんが聞いている。
「そうじゃないのか?」
鎧の曖昧な返答を聞いて、お風呂から上がって来たディーンさんが、
「全く出来ないのは層には入れない」
と、否定して来た。自身の弱い浄化を手助けするのに使っていたのだろうとの答えだった。
「もしくは浄化が出来ないのを誤摩化していたか。聖騎士の鎧にしては色が妙に黒っぽいが理由は?」
ディーンさんはどう見ても呪いの鎧にしか見えない色だと呟いている。
「僕が見たときはもっと黒かったよ。というか埃と煤まみれだったというべきだけど」
「まあ、死神用に変化させたんだろ?」
「確かに余り良い趣味じゃない色だ」
「先入観じゃないかな? 聖騎士の鎧としてみたら変な色だけど、死神が使うのならそうでもないよ」
「ふむ。こんな感じはよく見るか。模様は黒っぽいと気にならん」
使い易いように色変えされたと見ていいだろう。本来の色は本人が忘れているから分からないし。というかアイリージュディットさんが知っているかもしれない。そんな訳で、ガリェンツリー世界の方に連れて行くべく、一晩眠ってから鎧を連れ帰る事にした。
朝、起きて階下に行ったら、レイとマシュさんとトロ爺さん……トイロべス教授が興味深げに鎧を囲んでリビングで話をしていた。男の姿ではトロ爺呼びは出来ないのだ。
「冥界に売り飛ばされるとは不運なと言いたいが、それゆえに残っておったとも言えるかの」
歴史の好きなトイロベス教授がいるのは分かるけど、こんな朝から押し掛けてくる程熱心とは知らなかった。
「便利な道具……この場合は勝手に浄化してくれる武具があったら死神も使うよね。今時はこんなフルプレートアーマーなんて流行らないから放置されてると思った方が良いけど」
レイは今時、ガリェンツリー世界でも余り見ないと首を傾げている。
「自力で動きたいならギミックを足して様子を見てからオートマタか、半機械か、選ばせるか?」
マシュさんはどう改造しようか考えているみたいだ。ホムンクルスを作るのが趣味な錬金術師がいるのは選択肢が広くなる。鎧にとっても嬉しいことと思う。
まあ、実験台にはされるし、料金発生するけど出世払いも許されるし、一応はガリェンツリー世界の遺産だから割引はしてくれると思う。初回は僕が出すけどそれ以上を望むなら自力でお願いする。その方が目標になるしね。
「皆〜、朝ご飯よぉ」
そこに、マリーさんから声が掛かった。僕達は朝食を囲んで予定を話し合った。
どうやら鎧の改造が先に予約されたみたいなので、予定変更して今日、明日は庭の管理のお仕事になった。つまりは紫月とデートだ。
玄然神はポースの訓練を一緒に眷属達とするらしい。マントの訓練以外に団体訓練も一緒にやっているらしかった。グレンネスさん達みかんなバーの連中と張るくらいの戦闘力をいつの間にか付けてた理由はそこにありそうだ。
純粋な戦闘だと僕は付いていけないけど、拠点を作ってそこで回復に専念していれば皆の枷にはならない。かくれんぼの腕は確かだし、追いかけっこは単騎で空中なら問題なく逃げ切れるが、複数での挟み撃ちやらにはまだまだ弱い。最終的には眠りの術頼りな僕だけど、それが意外と効くのはちょっと嬉しい。
他の皆の予定とかをリラに記録してもらい、朝食後は紫月と一緒に庭へと飛び出した。
「ポースが闇の龍族の勧誘に行くって言ってたよ」
「あー、上手くいかなくても良いんだ。僕なら作って育てたら良いんだ。紫月も手伝ってくれる?」
僕達の勧誘はいつも空振りだ。だけど、考えたら他にも道はあるのだ。
「どうするの?」
「キリムくらい強い子を闇の力で創るんだ。闇と地の力は強いからちょっと手伝ってよ」
「いいよ。可愛い子を創ろうね」
なにげに子作りな話になっているがまあ、間違いじゃないと思う。気にしたらダメだ。どうせなら卵から作っても良いかもしれないと、魔結晶を作る感覚で殻を闇と地の力を混ぜて作り、その中に闇の力を凝縮してみた。紫月は地の力を入れてくれている。上手く混ざり合っていい感じだ。
ウズラの卵くらいの大きさの妙に力のある器的な物体が出来上がった。まだ命は吹き込まれていない。ここに戦う者の意志やら念いを溜め込みたい所だけど、あいにくと僕と紫月にはその念いは希薄だ。取り敢えず、聖域(庭)に保管しておく事にした。キリムのように聖域を守護出来るくらいの強い個体が生まれると嬉しい。




