皇子の旅路 5
※ 5
ガーラジーク神から、アキに会いたいかを聞かれた。他言無用だと言われたが、ホングが既に隣にいた。
「構わないよ。一緒に来ると良いよ」
「承知致しました。では早速手続きを致します」
通信はそこで切れた。やっぱり生きていたか! というか、また幽霊をやっているのか? ホングと首を傾げた。とにかく、会えば分かる。言われた日程に休みを取って、ホングと故郷へと向かった。ナッド大陸の神殿で待ち構えていたのは守り神の二人だ。
「ネリート様、セーラ様にお会い出来「そのような固い挨拶は良いぞ」」
「今は話の途中だ。しばらく待つが良い。そうじゃ、聞いておかねばならんな」
「そうであった。会うからには、覚悟はすると良いぞ?」
くだけた態度の守り神が、くすくすと笑っている。堅苦しいのは儀式の時だけで良いというのは神々も同じなのか。どうやら、うちの皇族だけじゃなかったらしい。
「どのような覚悟もお受け致します」
料理の出来る友人は一番必要だ。涙が出そうなくらいやばい。
「同じ所存にございます」
ホングも直ぐに答えている。
「良い心がけだの」
部屋で待っている間に、アキの治療の様子を見せられたが良く分からない。アキを襲撃した人物が持っていた武器が良くない物なのだとか。
「霊気を糧に、地獄の気で出来た邪力で分解し、邪気をまき散らしておる。人など、一瞬で消滅じゃ」
「そうそう、姿が変わったから心せよ?」
成る程。この事件後、姿を変えたのか。なら、別人として動くという事だな。面倒を見てやって欲しいとはそういう事かと納得した。
「では我らはもう一組連れてこないとな」
そういって、守り神の二人が出て行った。と、同時に、ガーラジーク神が現れた。その後ろに人影があった。
「アキ?」
思わず呼びかけた。紗を避けて入って来たのは何処かの姫だ。清楚な白いアストリュー神官の服を着ている。露出は多くないが、薄い生地は体の線を時折見せてどきりとする。そんな服だ。ミニ丈も良いが、くるぶし丈の目の前の服も好きだ。切り込みから時々見える足が良いのだ。男心を分かっている。
他にもう一人いたが、知っている顔だ。何処かで会った。しかし、他は姫しかいない。アキではないのかと訝しんでいたら、ガーラジーク神が意地の悪い笑みを浮かべて彼女の肩に手を置いている。こっちだと言わんばかりに示されたので分かったが……神のからかう様な視線は避けれない。確かに見惚れる程理想的な姫だから。
「ヴァリー、ホング」
声の主はこっちを見て嬉しそうに微笑みかけてくる。アキだと思うが、そんな顔でそんな表情をするな。変な誤解をしたらどうするんだ。
「くっくっく、驚くのは分かるけど、女性を誘導するのは男としての礼儀だよ?」
この状況を楽しんでいるのは丸分かりだ。
「い、衣装じゃないのか?」
いつかの衣装の時も思ったが、そんな恰好をしてる場合じゃ……。首を横に振っている。
「うん、まあ……」
衣装じゃないらしい。ガーラジーク神を見れば吹き出しそうな顔で笑いを堪えつつ、様子を見て楽しんでいる。
「そ、そうか……」
仕方ない。手を差し出したら、それにそっと手を乗せて来たので椅子に案内して座らせた。思えばアキは女でも良いくらいの大人しい奴だったと思い出した。しかし、地雷は踏みまくる。
いや、最近の周りを考えれば一番いい物件ではあるが、それには乗らないぞ。というか中身を知っているだけにギャップが酷すぎて女性とは考えれそうにない。いや、あの姿はもう、取らないのだろうか?
そんな事を考えている間に、重要な話に入った。最近出回っている悪神達の武器が酷い仕様な事だとか、アキの特殊な精霊としての体はそのせいで失われたとかだ。最も、その犠牲のお陰で対策は進んでいるという。
「精霊?」
アキがそんなものだなんて知らない。というか思いしたが、アキの後ろに控えている従者が確か……精霊ではなかったか? 今日は人型を取っているが、猫人族の姿での顔を思い出した。カイもデータでそれを確かめてくれた。
「ゴーストも神の見習いクラスになるとそうなるよ。自身での体の構築をやれるからね。その練習もかねての幽体での生活をしていたのだけど、神官ならその理由は察する事は出来ても君達では無理だろうからね。一応説明させてもらったよ?」
「神の見習い?」
また更に変な言葉が出て来た。いや、黒の神の見習いとか言ってたか?
「弟子になるという事だよ。ピピュアの師である神とは知り会って縁を繋いだからね。ヴァリー、君がアキの時代にここに誘ったのは正解だよ。おかげでナリシニアデレートが、混乱から逃れる事が出来たのだからね」
「え?」
師? 弟子? 神官という意味ではない感じだ。というかその後の言葉が良く分からない。混乱って悪神が救世主を語った事か?
「色々とあったのだよ」
少し目線を下げて溜息をはいてから、ガーラジーク神は顔を上げて話し始めた。
「ま、そこでピピュアの為には色々と問題を解決しないとならない。精霊としての力を早くも取り戻しているし、神官としての修行も始めなくてはならない。異世界間管理組合でも新人をやり直す事になるからね。君達には先輩として、ヴァリーには従姉妹として目をかけてもらう様に手筈を整える事にしたよ。決定だから契約はその事に付いてになるよ。それを込みでこの部屋に入っているのだから遠慮はしないけど」
「ええっ?」
覚悟って、従姉妹? どういう事なんだ? さっぱり分からないぞ。父上にも何やら話を通したとか言っている。何がどうなっている? カイ助けてくれ。
「じゃあ、早速、契約をすませよう」
そんな……。後でホングに聞いてみるか。ホングの顔を見れば俺と似た様に今一理解してないのが分かった。大丈夫だろうか?
「心配ない。身元がちゃんとしてた方が神官としては大事だからね」
「か、しこまりました」
その一言で、従姉妹にするという意味が何とか分かった。後で質問攻めにしないとならない。アキにはしっかりと説明を要求してやる!! と、憤っていたら母上が兄上と一緒にやって来た。
「まあ。なんて愛らしいの!」
アキだと聞いて大喜びしている。疑問は無いのか!?
「アキなのか?」
兄上は少し懐疑的だ。というか、信じられないと言った感じだ。俺もまだ飲み込めていない。
「お久しぶりです。セスカ皇子、ネラーラさん」
「確かにどことなくそんな雰囲気があるか……」
話す調子は確かにアキの感じだが、全く違う様子に頭が付いていかないのだ。これが普通だと思うぞ? 兄上の自分とさほど変わらない様子を見て安心した。
兄上とのやり取りを聞いていたら、治療を始めた。それを見てやっとアキだと分かった。アストリュー神官の中でもあの治療の光は特徴的だ。白色にほんのりと虹がかかった様な色だからだ。個人差があるのは知っているが、あれは余り見ない特徴だ。海にあるという真珠の輝きだ。
その後は家に転移装置で向かった。身分を詐称するのだ。家からのスタートだ。だが、俺達はお忍びで戻る事になった。後から正式に帰ってきた方がいい。それまでにピピュアの行儀見習いを終らせると母上は張り切っている。
家では死んだ時の経緯を質問攻めにしたが、嫌な人物の名を聞く嵌めになった。俺の肺に穴を開けた女だ。そしてその仲間が、アキを商業地区で見つけて、悪い仲間に金を握らせて襲わせようとしていたらしい。
更に違う人物から別で頼まれていたという暗殺者も、アキを付け狙っていたという。見習い神だと分かった上で、新しい武器の威力を確かめようとしたらしい。
その武器が、通信販売されてるなんてふざけた事を言っているが、危険過ぎるじゃないか。取り締まりは出来てないのかと異世界間管理組合には文句を言いたい。いや、ナオトギにはあんな呪いごときではぬるいと知った。
ナオトギにはアキの事は黙る事にした。ガーラジーク神が睨む理由が分かる。近寄ったらダメだ。神殿の転移装置をくぐりながら、ホングとそんな話をし合った。
「ナオトギがよかれと思ってしている事は、アキにとって裏目に出ている。神が睨むのはそんなところだろう」
ホングが眉間に皺を作っている。
「それに、俺達もアキが死ぬ事で随分酷い目にあった……」
食べ物に関しては酷すぎた。鑑定を通さないと口に入れれないのだ。酷い後遺症だ。アキ、いや、ピピュアが落ち着いたら飯を頼もう。きっと癒しが足りない。
実は 旅路は 6 もあるのですが、18話の後にまで飛びます。




