134 対価
◯ 134 対価
しかし、メールが届く頃には遅いと彼らは思っているらしく、一安心と行かないのか掲示板に張り付く人は減らない。情報は生もの扱いで早さを競うものらしく、専用の情報を手に入れようとする方々が多いのが分かった。違う種類の情報を欲しているのだ。
例えば渡航所の職員を抱き込んで特定の人物が通るのを教えてもらって、後を付けて暗殺したりだとか、知り合いの記者に王子が女連れで歩くのを見かけたと教えるだけでも世の中、お金になるのだ。
「すごいね。なんかの執念を感じるくらいだよ」
役所前の人々は情報屋をやっていたり、新聞社の回し者だったりと情報を取り扱う方々だった。僕なんかはネットで検索で良いんじゃないかと思っていたけどそう言う情報が欲しいんじゃないらしい。世の動きはここから動いていると睨んでいるらしく、権力に張り付いているのだと、リーシャンに教えてもらった。
「確かにここに情報は集められていますし、C3Uの動きを見るには大事でしょう。ですがあそこもここのサポートが必要ないくらいには育ちましたし、元々、問答無用の捜査権及び事件介入が認められていますから」
「あー、そういう事か」
あそこに入る為のみかんな人材派遣がここにあるし、司令部の殆どがここからというのが効いているのだ。役所前に張り付いている人はみかんな役所に出入りする人もチェックしているのだ。人材派遣の窓口はその中だから。掲示板は二の次で入口を見張って出入りする人の鑑定やらをしているだけでも情報になるのだと分かった。
「派遣員の寮にも人がうろついていますし、死神の組合の方もオーディウス神とその仲間を探しています」
「あー、そう言えばそうだったね。マントの管理の権利を持っているし実質、あそこを支配している実力者が雲隠れしながら采配しているんだから困るよね」
「どうでしょうか……あそこはそれが出来る方が実力者だと認められるのではないかと思っていますが」
首を傾げるリーシャンの可愛い姿を見て嬉しさで興奮しつつ、死神達の性質に付いて考えた。
「あー、そっか、そうだね。隠れるどころか違う人になって表の大舞台に立ってるけど、それも良い事なんじゃないかな?」
「その通りですね。彼が先導して下さるなら死神の組合も纏まってくれると思います。こうしてみかんの町から冥界の外の世界に順応していますし。それに異世界間管理組合は死神の受け入れが一番出来ているようです」
どうやら変人達の受容性が死神達の特殊性と混ざってみかんの町を形作っているらしい。そこに日本人の凝り性が加わって、大雑把で陽気な魔族と魔族の気に引かれてくるアンデッドがタッグを組んで盛り上げてくれているのだ。そんな場所なのだ。
それはさておき、志朗さんが、浅井さんと月夜神を接待しようと色々と攻勢を掛けて来ている。日本冥界のこないだの事件で付いた悪いイメージを払拭するべく、仲良くしているよ〜というイメージを作る為に文章とともに色んな贈り物を送りつけたりして来ている。
日本人街には新聞を配布している場所が既に出来上がっていて、日本人の意志を一つに纏めようとしているらしい。が、新聞社は三つもあってそれぞれバックについている方々が違う。日本神界と冥界、ドリーゲシターゼ異世界管理会、みかんの町に進出している職人や商会等の商業総合組合だ。
それぞれ権威、権力、金、神威に敏感で、意外と足並み揃えて事を成す事もある。利害の一致があるのだろう。
三つの新聞を比較すれば自ずと何を求めているのかが分かったりする。いや、リーシャンが言うには隠したがっている事も時折見えるらしいが、僕には分からない。表向きの顔を作らないとならない理由は各自違うけど、それに付き合う必要は無いのだと僕は思っている。
「多少は付き合っていいと思いますが、今は必要ありません。反省がまだ足りないと思われますし、董佳様との会談の方が良いと思います。三周年が終ってからで充分です」
「そうなの?」
「ええ。その方が大人しいでしょうし、勝手に人を入れれないように致しましたので本来の住民の皆さんに迷惑もかからないでしょう」
「それは良かったよ」
「役所への要求で一番多いのがみかん神様に会わせろです」
「……そ、そうなんだ」
「レイの意向でそれは全てお断りをしています。やはり一番狙い目と思われているようです」
「しまい込んでいるからかな?」
「気を引きたがるのも無理はありません。ここ以外は異世界間管理組合に独占契約しているとの認識ですから」
どうやら、異世界間管理組合の公式記録にもみかん神の事は中間界の提供神としか書かれておらず、それ以上の一切合切が秘匿されているらしい。というか組合長の手抜きな公式登録書と契約書のみが頼りの綱的な危うい存在らしい。
「そんなに欲しがる事なの?」
何処の誰だという情報の価値が今一分からない。
「数ある中間界でもこれだけ発展している場はありませんし、あれだけの畑……この場合は神域と個人神界ですが、それを内包してなお、揺るがない界としてかなり注目しされているようです。何処もそれだけのものを出せてませんから」
そうやって隠された存在を必死に探しているのもあの役所に張り付いている人達なのだと僕は悟った。きっと思ったよりも良い人物鑑定に看破、魔眼に神眼をお持ちなのだ。気を付けておこうと思う。しかし、それに負けずに潜むのが死神の本質だとも思う。大いに修行に励もうではないか。
でもこの中間界は、皆の神界やら神域のお陰でむしろしっかりした気がするのは僕の気のせいじゃ無いと思うんだ。久しぶりに町を見下ろせる自然公園の丘の上からの眺めを楽しみつつ、ようやく出来上がったリラの身体の感じを確かめている。
今回は僕が身体を用意した。というか、精霊の身体作りをやった実績があるのだし、悪用は出来ない理が働くし、何とでも会わせ易いという特徴を活かして半霊半機械もグレードアップして半精霊半機械という謎な存在に仕上げた。まあ、自分の身体も飲み込んで霊体になっているポースなんかと似た感じだ。
何せ、霧になったり光になったり気体やら液体に変化したりまでする僕について来れないとならないのだ。マシュさんも苦労したらしい。自分で掘った穴だ、覚悟して埋めると訳の分からない事を呟きながら研究に打ち込んでいたので、何も言わないで待っていたのだ。
今の姿は日本でのイメージの通りの翅の付いたフェアリーだ。数ある精霊の姿でそれを選ぶとはリラもお洒落を楽しみたいのかもしれない。体長15㎝の可愛らしい半透明の妖精さん姿だけど、翅無しの半透明の美少女にもなれる。『スフォラー』の人型ペットというのはスフォラ以来だけど、まあ良いかと思っている。
僕と同じで家では美少女で、僕と同じに姿が変わるお出かけの行き先で姿を決めている。
当然、マリーさんが大喜びで変身用の魔術服を大量にリラに合わせてデザインしたのはいつも通りだ。しかし、魔術服も僕の出した布でないと僕達の変に先鋭化した変身について来れないのは計算外だったけど。一番最初の魔術服を開発した当初は僕の出したベールでの服化だったのだから直ぐに端末の方も対応出来た。ちゃんとリラも管理出来るし僕自身でも色々と弄れる。実際、服として成り立たせていても、影に紛れ込んで顔だけ浮いてるとかは無い。ベールとして使っているときはしっかりと影に紛れ込めるので、出すときの目的で使い分けが出来てたと今更気が付いた。
「ベールの機能を上げれるかもしれない。多分、皆の力を神域から寄せれるし、使えるから試した方が良いよね」
リラが頷いている。早速、訓練場であるナリシニアデレート世界の砂漠へと向かった。




