9 再会 ※
◯ 9 再会
「ヴァリー、ホング」
声を掛ければ二人とも固まっている。
「くっくっく、驚くのは分かるけど、女性を誘導するのは男としての礼儀だよ?」
ラークさんが笑っているが、この状況を楽しんでいるのは丸分かりだ。
「い、衣装じゃないのか?」
いつかの変身セットを言っているみたいだ。
「うん、まあ……」
「そ、そうか……」
ぎこちなく手を出してくるので、それに手を重ねるとソファーに案内された。ホングの顔はまだ口が開いたままだが、穴が空きそうなくらい見てくる。座った後は、僕の安全の為と、特殊な精霊としての体は再生が叶わなかった事と、出回っている禁術の掛かった呪いの武器に気をつける様にとの情報があったのを纏めて話していた。
「精霊?」
「ゴーストも神の見習いクラスになるとそうなるよ。自身での体の構築をやれるからね。その練習もかねての幽体での生活をしていたのだけど、神官ならその理由は察する事は出来ても君達では無理だろうからね。一応説明させてもらったよ?」
「神の見習い?」
ヴァリーの頭にはハテナマークが飛び交ってそうだ。
「弟子になるという事だよ。ピピュアの師である神とは知り会って縁を繋いだからね。ヴァリー、君がアキの時代にここに誘ったのは正解だよ。おかげでナリシニアデレートが混乱から逃れる事が出来たのだからね」
「え?」
「色々とあったのだよ」
ニコニコと話を続けるラークさんは、ヴァリーの分かっていない顔にそれだけですましてしまっていた。ホングはさっきから借りて来た猫の様にじっとしている。
「ま、そこでピピュアの為には色々と問題を解決しないとならない。精霊としての力を早くも取り戻しているし、神官としての修行も始めなくてはならないし、異世界間管理組合でも新人をやり直す事になるからね。君達には先輩として、ヴァリーには従姉妹として目をかけてもらう様に手筈を整える事にしたよ。決定だから契約はその事に付いてになるよ。それを込みでこの部屋に入っているのだから遠慮はしないけど」
ラークさんはそう言ってにやりと笑った。
「ええっ?」
ヴァリーの混乱は益々酷くなり、神の前にいるのなんて吹き飛ぶくらい動揺していた。そして、既に皇帝であるヴァリーのお父さんには話をつけて準備させていると伝えていた。ヴァリーは目を白黒させながらそれを聞いていた。
そして、契約が済んでからはセスカ皇子とネラーラさんが、二人の守り神に連れられて一緒に部屋へと案内されて来た。
「まあ。なんて愛らしいの!」
ネラーラさんは大喜びだ。
「アキなのか?」
二人の様子は全く違っていた。直ぐに嬉しそうな顔をしているネラーラさんと、疑わしそうな顔をしているセスカ皇子だ。ネラーラさんはダラシィーの姿を見て直ぐに納得したようだ。
「お久しぶりですセスカ皇子、ネラーラさん」
「確かにどことなくそんな雰囲気があるか……」
セスカ皇子の独白は何となく自分に言い聞かせている感じだ。姿は随分変わったからどうしようもない。
「うちの子になるのねっ。大歓迎よ、母と呼んでくれて良いのよ!」
要はネラーラさんの所に預かっている従姉妹となる。……セスカ皇子かヴァリーのどちらかの婚約者候補として宮殿に上がる前くらいの扱いだ。花嫁修業というよりは自力で働く為の修行と言った具合だ。優秀なら上にどんどんと取り上げてもらえる体制になっているとか。
実際は女官か女従か神官かの身分になる。どのみち候補は百人くらいいるので普通に行儀見習いと花嫁修業で、良いどこかの殿方に見初められるかも……いや、良い男を見定めるという所だ。そんな出会いの場でもあるので宮殿では恋の話がひっきりなしにあるらしい。
セスカ皇子には光の魔結晶を渡して癒しを掛ければ納得していた。それを見ていたヴァリーとホングがやっと落ち着きを取り戻していたけど、動揺し過ぎだよ。
「長く来れなかったので、体は大丈夫ですか?」
「アキこそ新しい体は慣れているのか? 人の身がこんなに早く成長するとは思えぬが……」
回復魔法の途中にちらりとラークさんを見ている。
「ネラーラは知っているようだな」
それを受けてラークさんはネラーラさんの方を見ている。
「はい。お聞きしておりますが、他言はせぬと誓いました故」
直ぐに礼をとりながらネラーラさんが答えた。
「セスカ、精霊になる。体も換えたし名も変わったピピュアだ」
ラークさんが紹介してくれた。
「そうでしたか。ピピュア、気が付かずにいました」
「畏まらなくて良いです。元々は人でしたから」
後ろでヴァリーがホングに知ってたかとか聞いている。神の見習いなのは分かっていたと答えているのが聞こえた。ホングは衣装ってなんだと聞いている……その話は途中で遮られた。
「今生はれっきとした女の子だから、ちゃんと気を使うんだよ、ヴァリー」
「はい。必ず守ります」
真面目に答えようとしているが顔にはまだ困惑している表情が浮かんでいた。それを見て吹き出しているラークさんは反応を楽しんでいる。完全にからかわれているのが分かるし、ヴァリーは困惑顔だ。
「守る所までは強要しないよ。常識的な所を押さえてくれればね。それはそっちの護衛殿の仕事だ」
その言葉にダラシィーが礼をした。
「ダラシィーです。ピピュアの護衛をさせてもらいますのでお見知りおきを」
ダラシィーが挨拶をしてこの良く分からない身分詐称の為の会合は終わりになった。




