126 誤解
◯ 126 誤解
スポンサーとしてのマオはまだ有効なのでこっそりとフード付きのパーカーをかぶり、人目を避ける為の認識障害的な魔法も掛け、アストリュー世界をこっそりと出た。
マシュさんの出身世界であるギンガンナブ世界へと入った。前回同様に乗り物を借りてからフラワーガーデンへと向かった。予定よりも一日早く行く事にしたのはレクタードさんと会う約束をしたせいだ。
魔道飛行機を預けて第五惑星ジャ・ブーザ王立生物研究所の横にあるホテルへと足を運んだ。研究所はまだ修理が済んでおらず、三田さんもみかんの町に戻って研究を続けている。
ホテルの玄関で待ち構えていたのは緑の優王子ことファムダさんだ。僕の姿を確認して直ぐに寄って来た。ホテルの人よりも早く声を掛けて来るなんて何の用だろうか。
「話があります。来て頂いても?」
「はあ」
ファムダさんはホテルの従業員の一人に僕の乗り物を預かるように言って、直ぐに転移装置の方に案内した。行き先はザビ達が閉じこもっていたあのホテルだ。ロビーの椅子に座って開いた口からこぼれたのが、
「貴方にはこちらに泊まって頂いた方がお似合いでしょう」
だった。
棘のある言い方をしているので、僕の事を調べたのかもしれないと咄嗟に思った。眉間に皺が寄るのを感じつつ、こんな仕打ちをする訳を聞いてみた。
「貴方は、アストリュー神官としては最低だと聞いていますよ」
思った通りに色々と調べたらしい。言うのも汚らわしいって顔をしているし、レクタードさんには近寄って欲しくないと本音を言われた。
「……あー、その話をする為に来たんですよ。灰影、えーと、灰色で通じるかな? それに神界関係の者だとバレて根も葉もない噂を広められたあげく、力を切り刻んで商品として売り飛ばす方々に狙われているのでマオは消える予定なんですよ。で、出来ればそちらも僕の名前は出さない方が身の為になるので……」
僕は豆鉄砲を喰らった様な顔をしているファムダさんの様子に、頭を掻いて続きを言い損ねた。
「よくもそんな嘘を言えますね」
呆れた顔を見せたので嘘だと思ったらしかった。
「んー、でも、ザビ達の事も含めて引き継ぎのお願いをしないとならないし、ビジネスの相手としては会わないでくれというのは無理なのでは?」
取り敢えず、違う方向から会う必要があると訴えてみた。途端に苦虫を噛み潰したような顔をして、考え始めた。
「ゴーノヴォッカ氏の件もですか……。良いでしょう。二度とその顔を見せないというのであれば……レクタード様」
顔色の変わったファムダさんの視線の先をたどれば、レクタードさんが大股で急いで来ていた。悔しげなファムダさんの顔が一瞬見え、耳元で囁かれた。
「あの方の邪魔をするようなら私が消しますよ」
うーん、レクタードさんに寄ってくる害虫扱いをされているのは分かるけど、プチッとハエたたきで潰されては困る。
「口外しない契約をするなら、レクタードさんとの会談に付き添って大丈夫ですよ?」
「私に貴方の拘束が利くとでも?」
目を細めて侮蔑の籠った表情を向けられたが、誤解も解ければ嬉々として交遊を許してくれると思うんだよ。
「まあ、やれば良いじゃないですか?」
自信があるみたいだし、やってくれそうだ。今回は交渉出来てて良いんじゃなかろうか? やっぱり気持ちに余裕がないと頭も働かないし、細かな事に気が付きにくい。レイがマッサージで自分を高め、余裕を保ちながら仕事をする理由が何となく分かった気がした。
「マオ、良かった。二人とも機嫌は悪くないようだから悪い話ではなかったのかな?」
「お互いの利害が一致するとそんなもんだよ」
「そうなのか?」
「ええ。心配ありません」
にこやかな僕達にレクタードさんはホッと息を吐き、元のホテルに引き返そうと提案して来たので全員で戻った。
そして、応接室にてレクタードさんの前でいつもの口止めの契約書を出し、内容を口外しないと誓ってファムダさんに契約をしてもらった。そんな僕達の様子にレクタードさんが面白そうに見ていた。
ファムダさんが一応、僕にもお茶を用意し出したので、レイから預かっていた書類をレクタードさんに渡した。
「良いのかい?」
神々のお仕事の一端を見せて良いのかとの質問に頷いた。
「口外出来ないし、他の方法で伝えようとするのも無理だよ。レイの監修付きの契約書だし」
「ならまあ……。ああ、C3Uからの報酬の事でかなり質問されたからね。答えれなくて困ってたんだ。マオから回って来た仕事だから追及はしないでくれ」
最後の一言はファムダさんに向かって伝えられた。そう言えば助手として神界にしばらく連れ出したのを思い出した。そういうところも嫌われている理由かもしれない。ちょっとだけ反省した。
「……そうでしたか。畏まりました」
何か悔しげな顔が見えたが、彼の思っていた事と反対の事が起きているせいだと思う。テーブルに置かれたお茶を手に、香りを楽しみ口に含んだ。うん、高級茶葉だと味も香りも深みが全然違うね。
「C3Uへの入口が狭いというので話題にはなっているよね」
「そうだね。異世界間管理組合も組合長の推薦を持った人でないと入れないと公言してるし、他の組織もそんな感じだって」
「レイはとある人材派遣から幹部の半分を入れたって言ってたけど、ゴーノヴォッカ氏の息子さんの事じゃないのは分かっているよ。幾ら何でも僕もそこまで馬鹿じゃないからね?」
僕の顔を見て何か焦った顔を見せたけど、そんな馬鹿になんてしてない。
「勿論そんなの思ってないよ。マオの姿がとれなくなるからその事を言いに今日は来たんだ。ついでに言うと次の姿は今出てる話題の人材派遣からの身柄だからそっちもお願いね?」
レイがみかんの人材派遣の事も話したのに驚いたからだ。レクタードさんもそこに入ってもらう気かもしれない。取り敢えず、人材派遣の話はしなくても通じるのは嬉しい。
「それは残念だよ。折角虫除けになってもらおうと思ってたのに」
「ええ?!」
そんな面倒な事を押し付ける気だったのか! と思ったら、笑っている顔を見てピンと来た。
「むー、冗談はダメだぞ!」
からかわれたのが分かったので、ちょっと拗ねておいた。
「じゃあ、次に合うのを楽しみに出来るという事かな?」
「そうだね。答えはその時の方が盛り上がるよね?」
「仕方ない譲歩しよう。結局は教えてもらえるという事だし。約束は取り付けたよ」
「勿論」
「ところでなぜマオの姿を止めるのかは教えてもらえるんだろうか?」
それをもう聞いちゃうんだ。
「ファムダさんが調べたマオの素行にヒントはあるんだけど……」
「ファムダ?」
僕の言葉にファムダさんに向かって、レクタードさんがにっこりと笑いかけた。僕達の会話がなんだったのかを察したのかもしれない。有無を言わせないプレッシャーを掛けている様な笑顔だし。
「お耳に入れる様な事では……」
目が泳いでいるファムダさんは恨めしそうな顔を僕に一瞬向けた。直ぐに諦めたのか目を手で覆ってから、
「こちらを……」
と言って、ファムダさんが調べた「マオ」の調査報告を提出した。リラにもファムダさんからのファイルが送られて来た。
「へえ。痴女に襲われた事も調べたんだ」
結構調べてある。スリーサイズが何処で漏れたのか聞きたいが、まあ良いだろう。見ただけで当てるという特技を持つナオトギと同じ能力を持った男性は多い。
ダリア スタンアさんの名が出ていた。けど、さすがに見習いだとお貴族様でも星深零の中までは調べれなかったのか、生まれ変わりの事とか裁判内容は出てなかった。
賞金首に掛かっているくらいには悪に染まっていると思ったらしい。レクタードさんも賞金首になるなんて、どんな気分なんだろと思わず素で疑問を呟いていた。
「そりゃあ、気分は良くないよ。この人が尋問されてるところの映像とか見てみる?」
「見ていいのか?」
レクタードさんは聞いた途端にちょっと興奮気味になった。
「口外出来ないけど、良い?」
「勿論だ。新たに契約も辞さない」
「そう? まあ、レイの契約からは外れないよ。死神の仕事上、姿変えは頻繁にあると思ってもらった方が良いしね」
そんな訳で、彼女の尋問の様子を画面に映し出した。(※ 読者様は 57 賞金首 を参照で!)
僕が冥界の仕事についているのは、レクタードさんは知っているので問題なく理解したみたいだ。
「この刻印は別になるのかな?」
世間で言われている刻印の事だが、爆発するまでのものはさすがに公開されていない。
「うん、別だよ。こっちは人に刻む方で、こっちは死神や神々にも有効の物だよ。異世界間管理組合も色々と封鎖やらやってたと思うけど、これがあちこちで使われて人質やら脅しやらを受けていたのが発覚して対処にかなり時間を掛けてたはずだよ」
「君が死ぬ前だったね」
レクタードさんも深刻な話に顔が引き締まった。
「そうなんだ。彼らのお陰で僕の借金は組合の新人部門の歴代一位を獲得したんだ! 大迷惑だよ、本当」
「そうだね。歴代一位にはほど遠いよ。お陰で気分は楽だよ……返済の目処も立ちそうだしね」
この話には同情的な態度を見せてくれた。気持ちを分かってくれるのは嬉しいよ。
「そう言えば、神格の芽生えが確認されたとか聞いたけど?」
レクタードさんもとうとう神力の一端を扱えるようになったと、レイが嬉しそうに言っていたので本人に確認してみた。
「神力の一部が使えるようになったかな」
まだ不安定で時々しか扱えないらしいけど、それでもお祝いするに値するだろう。
「やっぱり光の力だよね?」
微笑んでいるので合っているみたいだ。お祝いの言葉を伝えた。ついでにまた神域に遊びに来て欲しいと誘っておいた。あそこに入れる友人は少ないからそれだけでも嬉しいのだ。
ファムダさんはお茶の御代わりを入れるのも忘れて画面を見続けている。リラが気を利かせてか僕が彼女を訴えた星深零での真偽を流しているからだ。(※ 読者様は 58 線引き を参照で!)
お陰で彼からの視線に棘は感じられなくなった。しかし、以降は何かものすごく生暖かい視線に変わった。どうしようもないものを見る感じの、受け取る僕がいたたまれなくなる様なそんな感情を込めた視線に耐えつつ、思ったよりも歓迎ムードが出なかった事に首を傾げている。




