皇子の旅路 4
※ 4
ギベロの紹介で料理上手な女の子三人組とデートをすることになった。
「いつものメンバーじゃダメだったのか?」
ギベロなら、セドリックかデローを呼ぶと思ったので、疑問を解消すべく質問をこっそりと投げかけた。
「う、いや、その、すまん。銀の旅王子と繋が取れる事を証明したかった。だが、良い娘達だから!!」
視線で問えば即、謝って来た事に何やら曰くありそうな背景を感じたが、既に自己紹介は終っている。
「今日は来てくれてありがとう〜。私ね、ヴァリーさんとお話ししたかったんだぁ」
マリーという名の女が腕を絡ませてくる。何処かで聞いた事のある名だ。鳥肌が立つのは気のせいだろう。
「あたしも〜」
「身長はどのくらいあるんですか〜? 高いですよねぇ」
猫なで声の女が三人寄ってくる。このタイプは苦手だ。意味の無い事を延々と喋り続けては、疲れたとか飽きたとか言って去って行くからだ。適当に返答をしつつ、さりげなく体を避けておいた。
ギベロが借りてきた地面を移動する為の魔道車とか言うのに乗り込んだ。珍しいので中を見回していたら、マリーという女が、横に座って引っ付いてきた。初っぱなから腕を絡ませたり狭い車内でくっ付かれるのは正直嫌だ。特に、マリーという名が仲間内で呼び合って出てくる度に、黒歴史が蘇って何か嫌な感じが背筋を登ってくる。
「割と無口なのね? 女の子とはあんまり話さないの?」
「それともあたし達なんてお姫様と比べたらダメ?」
「それでも、ちょっとは気になる?」
何を言わせたいんだ? その間に全員が席に着いた。前の席には運転するギベロとその横にホングが座って何故か精神統一をしている。まあ、女の子が寄って行かなかったのを心頭滅却しているのだ。突っ込まないでやろう。しかし、立場を変わってやっても良いんだぞ?
「姫ならそんな風には寄ってこない。い……」
言いかけて失礼かと黙った。
「一時のお相手に見えるって?」
「うわ〜、きっつーい」
「やっぱ相手にされてない? ハーレムだって聞いたから積極的にいったのに違ったんだ〜」
こっちが態々言わなかった事をほじくっておいて、酷いとか責められても困る。見た目もそんなに露出が多かったらそうだと思うじゃないか。乳がはみ出しているぞ?
「前情報がおかしいよ、ギベロ?」
マリーがギベロに詰め寄っている。運転席に手を伸ばして、下品なジェスチャーを俺に見えない様に出したのが車体の外の鏡に映っていた。そこで既に願い下げだ。料理が出来ても無理だ。
「いや、それはそっちの早とちりだろ? 料理出来る娘は好感度は上がるって、な?」
「そうだな。俺は出来ないからな。料理好きは歓迎だ」
「じゃあ、頑張る!」
今から料理を頑張っても意味無いんだが。いや、庶民のノリとはこんな感じなのかも知れないと、社会勉強のつもりでこの後は付き合うとしよう。短気は良くない。ギベロの接待じみた感じから取引先の娘か何かだろう。ホングは……完全に女の子からは無視されている気がする。これは、良くないな。
「ホング、この魔道車の運転は難しいのか?」
質問を振ってみた。
「いや、「難しくないよ〜」」
「ね? 講習を何回か受けて、ルールを覚えたら大丈夫。自動制御も付いてるから」
「オートシステムが入っているのは簡単だよ〜。国ってかなり田舎なんだ?」
「ちょっと教えたげようか?」
ホングに聞いたはずだが、周りから浴びせられる言葉が重なって邪魔された。俺は彼女達には遠慮という言葉を教えてやりたい。少し睨んだら、周りが黙った。
「魔道車は最近は下火だ。取るなら魔道飛行機か、小型魔道飛行機かだな。小型なら、比較的安くで取れる」
そんな俺達を見て不味いと思ったのか、ギベロが気を利かして教えてくれる。
「へえ。飛行というからには空か」
「小型は駐車スペースも取らないし、オプションに『スフォラー』の運転での移動も書かれていたから、ディオンやカイにも運転させれる」
「確か、アキが運転出来てたぞ?」
「フィトォラじゃないのか?」
「いや、仕事で免許を取ったって言ってたぞ?」
「意外だな」
「アストリューは道が少ないから、飛行か、転移か、機械頼りになるらしい」
「アキに取れるなら小型の免許は取りたいな。ホングは?」
「小型魔道飛行機は飛行魔法が使えるなら、荷物の所に人が乗っても大丈夫だ。アキに後ろに乗るのを勧められてた」
「へえ。あいつ、持ってたのか?」
「二人乗りまでが基本だが、飛行魔法が使えるなら三人ギリギリ乗れるな」
ギベロが何か調べてくれたみたいだ。
「あたしんちあるよ〜」
「そっちを教えたげようか?」
「マリー、免許持ってた?」
「今度取りに行っていいってパパが許してくれたもん」
「えー良いな〜」
「さっきは田舎なんて言ってゴメンね?」
「からかったんじゃないからね?」
「そうだよ〜。いきなり睨まれたらビックリしちゃう〜」
全くの的外れな謝罪を聞きつつ、気にしないと言っておいた。途端にまた寄ってきたが、正直黙っていてもらった方が嬉しい。ギベロ、後で覚えておけよ?!
こうやって、勝手に胸を押し付けてくるのはこっちも大変なんだ。こっちから動いたら、変な声とか出して中身を触る? とか聞いてくるんだ。下手に断ったら怒らせるし、触ったら責任とれとか言ってくる。実に微妙な駆け引きを仕掛けてくる。そういうのは苦手なんだよ……。イライラする。
彼女達の下心がいったい何処を向いているのか、それが知りたい。妻になりたいとか、恋人になりたいとか一夜の相手で良いのか……。しばらく付き合えば良いだけなのか。何となく、王子を落としたら自分に自信が持てるとか言いそうだ。俺の心はそれに付き合わされるのか? 落ちないとならないのか?
ギベロが車を止めたのは海辺の町だ。予約してあるというレストランに入った。適当に注文をしてから、トイレにまで出口で俺を待ち構えていたマリーに聞いてみた。
「ところで、何が良くて俺に纏わり付くんだ?」
この際、聞いてみれば良いだろう。きっとスッキリする。
「えー!? カッコいいし、女の子の扱いも酷くないし、経験しといても良いかな……?」
「何の経験だ?」
「そ、そんな事っ言わせないでよ〜。ばかぁ」
走って逃げようとするので、腕を掴んだ。
「危ない!」
給仕とぶつかる寸前だ。
「ご、めんな ぃ」
腕を引っ張られて気が付いたみたいで、ばつの悪そうな顔で俯き加減に謝っていた。
「気をつけろよ? で、何で逃げる? 逃げる様な理由なのか? 恋愛ごっこをしたいなら他を選んでくれ。俺も暇じゃない」
「もう! そんなんじゃ恋人出来ないんだからっ! あんな友達を持ってたらダメだって分からせてあげたいのよっ! 馬鹿じゃないの?!」
「ギベロが言ったのか?」
「そうじゃないけど、真偽者なんて……側に置くもんじゃないわ。恋人を作りたいって聞いたからっ! 来て上げてるのにっ!」
おせっかいをしにきたというのは分かった。それで俺が感謝すると思っていたらしい。
「嘘を見破られるのが怖いのか? そういう気構えで生きている人間こそ俺には分からない」
これで伝わる。マリーの目が泳いでいる。
「それに、ホングは嘘を付くから悪い奴だとは言わない。背景を読む事をちゃんとする人間だ。真偽者だからと差別している君の方に問題はある。それに、俺が睨んだのは、ホングに話を振ったのにそれに被せてきたからだ。そんな先入観で一人を無視するのは良くないだろう?」
「……ち、がうもん。私、悪くないもん。みんな言ってるもん。何でそんなに私だけのせいにするの? 私に何させたいのよ。離してよ。怖いよ、怖いよ、いや〜」
自分の常識を否定されたせいか、叫び出した。俺は、給仕を呼んで連れを呼んで貰った。
「悪い。興奮させたらしい」
ほどなくして来た皆に謝った。マリーは友人達に慰めてもらっている。
「支離滅裂だな。何を言ったんだ?」
ホングがそのそばでマリーの言い分を少し聞いていたが、直ぐにこっちに来た。トラブルと見て、レストラン側も話を聞きたいと言って来たが、見習いの真偽官がいるならと、ホングに任せている。
「ま、まあ。カイの映像でも見てくれ。手は出してないぞ」
身の潔白は直ぐに証明される。ホングは映像を見てちょっと笑っていた。友情は得られてると嬉しそうだ。が、照れるからあまりこっちを見るなよ。
レストランでの騒動はホングのお陰で何とか始末は付いた。直ぐに別室に移動したお陰で店には迷惑はかかっていないのも良かった。女性達には店の奥にある転移装置を使って家に戻ってもらった。
「得意先だったか?」
帰りの車の中でギベロに聞いてみた。
「いや、まあ、親には王子には振られたと言っておくよ。一人娘には甘い親だが、躾には厳しいから、喜ぶと思うよ。一応はあの映像も見せるけど、良いか?」
苦笑いしている。あれで躾けに厳しいのか? 何か違っているだろう。反発してるのか?
「仕方ない。が、流出はさせるな?」
「向こうの親も嫌がるさ。ちゃんと映像は使ったと同時に消す」
「頼んだ」
「こっちこそ、迷惑かけた」
「どうせ、断れなかったんだろ?」
ギベロも溜息をはいて営業は胃がいたむよ、と弱音を吐いていた。その後はギベロ経由で今回の接待を頼んだというか、取引先の親が何か言ってくるとかはなかった。ギベロが言うには、娘の子供じみた考えを矯正すると意気込んでいたとか……。成人したてとはいえ、あれではダメだと判断したのだろう。
あれ以上変な常識を詰めるなとは思うが、人の家の事には突っ込まないでおくべきだな。あれで良い女になるかもしれないのだ。女は年を重ねた方が良いというしな。




