117 捜査 ※
◯ 117 捜査
「突然移動になってすいません」
久々に会った臣さんに笑いかけて、談話室のソファーを勧めた。役所での会談を予定していたけど、デモ隊が占拠しているので念のために神僕の寮へ変更となったのだ。
「いいえ、役所前の占拠はこちらの方が謝らなくてはなりません。変な期待を抱かせた結果と思っておりますので……」
ご丁寧に頭を下げつつ申し訳ないと謝られてしまった。
「というのは?」
話を聞くと、冥界では訓練型のダンジョンの計画を立てようかという話が出ているのだという。これまでの物もある事はあるけど、融通も利かないし、使い勝手も悪くコストがかさむ事から余り手入れされてないのだとか。採算も取れない為、古い物をそのまま使っている状態で、どうにかしたいと思っていたそうだ。
「ドリーゲシターゼ異世界管理会のこれまでの物では、地球の世界にあわせた場合コストが掛かりすぎて実用的ではありませんでして。思い切って新しくこちらのを入れる為に検討しては、という話が出たんですがそれがあっという間に噂で出てしまって」
「はあ」
「それで日本神界の警察関係者以外にも話がどう伝わったのか分かりませんが、今回の地上世界の都市型ダンジョンの監視員として他の世界の方々が運営をなさるのを監視する役目をさせて頂いているというのに目をつけたようでして……」
「あ、リーシャンから聞いているよ。監視員が行方不明だって」
「はい。何か脅しか誘拐か事件があったかもしれず……捜索を合同でさせてもらえたらと」
遠慮がちに言ってくるのは同胞達がやらかした事を棚上げに、更にみかんの町の中の捜査をお願いしているからだと思う。同胞と言っても派閥の違いでの摩擦が、うちのダンジョン運営にぶつけられ、被害を被っているのがガリェンツリー世界の神々だからだと思う。
僕以外に会ってもらえないと涙目だ。こんな下っ端で良いのか知らないけど、話をしない事には進まないし、誘拐されているのだとしたら猶予はない。浅井さんは神界警察との契約の見直しやら調整で忙しいし、冥界の方の話を聞く程の余裕が無いのだろうと思う。
シュウ達の気配がするけど、こっちの話を待ってくれているみたいだ。リーシャンがお茶を持って入って来た。
「この度はご迷惑をお掛けし、我々一同、大変申し訳なく思っております。ですのでもうしばらく、罰の方をお待ちしてもらえませんか? せめて監視員になっていた三人の行方が分かるまで、どうかお願いします」
リーシャンの姿を見た瞬間に臣さんが土下座に近い状態になった。ソファーの上で正座して前のめりになって必死で良い募っているのだ。
「月夜神の許可は取れたのですか?」
リーシャンが不機嫌に臣さんに聞いている。
「どうか、彼らの住民登録の抹消はお待ち下さい」
臣さんは真剣だ。とうとうソファーの上で頭を下げ始めた。
「運営委員会を乗っ取ったメンバーは既に抹消が決定しています。後は実行を待つのみです」
リーシャンは容赦なく処分内容を告げて持ってきたお茶を自ら飲み始めた。あれ? 臣さんには無いの?
「それには依存ありません。大変ご迷惑をお掛けした実行犯ですので」
それで構わないと臣さんは返事をしているが、確かに実行犯を庇う事は出来ない。
「ええ、裏で画策しているドリーゲシターゼ異世界管理会の動きも教えてもらわないとなりません」
頭を下げていた臣さんの肩がぴくりと動いた。どうやら当たりのようだ。
「勿論、こちらとしても被害は甚大、全面協力で挑ませて頂きます。このような事態に発展した原因を究明し、損害をお掛けした犯人を確保しそちらへとお引き渡しする事を誓います!」
「誠意を見せて下さらないと、抹消の人数が増えると思って下さい」
冷たくも連帯責任を取ってもらうとの宣言に臣さんの身体が震えた。そして、一気に顔を上げてこっちに向かって必死の表情を向けて喋り始めた。
「くっ! 月夜神様、お願いです! この通りですので捜査許可をお願いします。部下の命が掛かっています。たとえ今回の処遇がどんなに厳しくとも、捜査をさせて頂けないのは心残りなのです! どうかお許しを!」
「良いけど、どのくらい掛かるか分からないよね?」
「ダラダラ捜査されても困りますので三日でお願いします。それ以上は捜査は認めません」
僕の言葉に被せるようにリーシャンが告げた。
「三日は……せめて一週間にお願いします」
絶望を滲ませた声で今度は床に降りて土下座し始めた。
「最長五日までです。それ以上は生存も危ういですから」
リーシャンは譲歩したらしい。
「わ、分かりました。とにかく急ぎますので、許可が出たと連絡を入れます」
そう言ってスマホを出して何処かに連絡を入れていた。その後、シュウ達と作戦を練って町の中を探索に出かける事になった。
「月夜神なら探し物は得意なはずです。三人の人相を貰っては?」
リーシャンの提案で行方知れずの監視員の顔写真と持ち物を借りることにした。
「そうだね。やってみるよ」
リーシャンの勧めで世界に繋いで三人の気配や臭い、それに付いている異物を探ってみることにした。玄関でシュウ達と外に出たら、臣さんの部下が影からスッと出て来た。後ろに従えている獣人姿の狐はどう見てもクロだ。
目が合って僕がヨォシーだと気が付いたのか、ちょっと挙動不審な動きを契約主の後ろでやらかしたけど、適当に頷いておいた。やっぱ魔力紋やら臭いでバレてるのかな?
「お持ち致しました」
それだけを言って影から出て来た忍者スタイルの小太郎さんは誰かの服を差し出した。それを臣さんが確かめて僕に手渡してくれた。それを頼りにクロと小太郎さんとで捜索する事にした。クロに聞くと臭いでは追えなかったらしい。
「という事は臭いを誤摩化すところが怪しいね」
「そんなところがあるのか?」
クロには馴染みの無い施設にある。
「あるよ」
アンデッドの薬や、その他の悪臭を放つ物体を扱うところには僕の開発した消臭結界があちこちにあるのだ。ようは生産施設を通れば臭いが消えるのだ。日本人街は綺麗からそう言うものは置いていない。
その辺りを重点的に残留している魔力や気を追って探した。出て来たのは遺体だった。臣さんは間に合わなかったと嘆いていた。
魂は捜索の上、二日後に日本冥界で転生待ちになっていたのが発見された。どうやってそこに魂だけで戻れたのかが分からないので、捜査は五日間最後まで続けられたが、何の手がかりも見つからなかった。
記憶処理がされてしまって全くのまっさらな状態にされていたのだ。かなり力のある人物が関わっていると見ていいようだ。
「幸い解体はされなかったので助かりました。魂に掛かっている守りが半壊になってるのでそれが彼らの助かった理由かも知れません」
日本冥界にいる臣さんが画面の向こうにいる。怒りを抑えながらも気丈に振る舞っているようだ。
「守りの堅さで解体は諦めたのかな? でも、物騒だね」
さすがレイのお守りを付けてただけある。
「ええ。また教育のし直しですけど、冥界内に工作員が潜んでいるのが分かっただけでも僥倖です」
何か物騒な顔をしているので、怒りを抑えるのを止めたらしかった。取り敢えず、無茶はしないようにとだけ伝えて通信を終えた。
結局、ダンジョンを乗っ取る事に賛同し、行動をした人達の住民登録が抹消された。その中に工作員が潜んでいると見られているし、纏めて追い出す事になったのだ。ま、住民にはなれなくてもどのみち僕のように、生まれ変わったりして別の人物に成り済まして入ってくると思うので余り意味はないと思う。
けど、地上世界やみかんの町を混乱に陥れたら、相応の罰則があると言うのは皆に知れ渡る事になった。




