115 粛正
◯ 115 粛正
三日後の会議でリーシャンが修正点を教えてくれた。ダンジョン運営委員会乗っ取り事件のお陰で余計な仕事が増えたのでみんなの機嫌は悪い。が、揃っているので何とか進みそうだ。
「苦肉の策で、グロい魔物達には全身鎧に入って頂き封印して、更にイベント用に王宮騎士としての役割を振る事にしました」
映像には全身鎧を着た騎士が剣を手に歩いている。
「これなら少しは見れるよ」
レイも満足そうだ。
「魔物と普通の騎士との区別は黒気以外に区別がつかなくなってないか?」
マシュさんが懸念を口にした。
「ある程度、魔物の特徴が出るようにしてますので大丈夫かと……」
僕達は画面を良く見た。一メートルくらい長い舌が鎧兜の隙間から出て来ている。
「……そうだね。よく見たら人間じゃないね。腕も爪も伸びるし、壁も四つん這いで這い上がるし、魔物っぽいよ」
僕は画面からそっと目を逸らした。今は新しい都市型ダンジョン内には入れないように設定されている。修正のお知らせが上がっているからだ。
つまらなくなるんじゃないのかという日本人からの声も聞かれたが、この世界の事情を無視した作りでは、その後の住民(冒険者)の参加が危ぶまれるという一番基本の部分が出来てないという説明で、何とかあのダンジョンが良かったとか客の要望に応えるのが筋だとかの意見を押さえている。
「見直し修正案はかなり進んでますね?」
浅井さんは掛かった経費を見て眉間に皺が寄っている。日本人の優遇を見直すと何やら契約書を見直している。経済的な制裁も考えると言っているのでかなり怒っている。
「はい。ボスの改造はまだ途中でしたので何とか修正が利いています」
「大型怪獣的なビジュアルは回避出来たのね〜?」
マリーさんは半笑いだ。
「ある程度は」
リーシャンは真面目に返している。画面を切り替えて、修正した物を映してくれた。
「大きさは五分の一程度に抑えれました。それでも五メートル越えの大きさですが、許容範囲かと」
こちらもちょっと豪華な鎧を付けているが、人間の形は保っている。元の案だと巨大芋虫から触手が全身から生えた気味の悪いエロゲ仕様の生き物だったのだ。この見た目の維持はものすごく大事だと思うんだ。芋虫というかナメクジ的なぬめりが気持ち悪いのでそこには触れないように僕はしている。そこもR18を越えない為には超重要事項だと思う。
「そうね〜、お飾りの王の後は邪法王ルートと邪教皇ルートが解放されるらしいのよね。教会の腐敗を暴き出せとかってね」
「一応はイベントらしくそういう探索やら調査要素を盛り込んであったみたいだな。二つの邪教は確かに地上世界にはびこっているからな」
苦笑いが会議室の皆の顔に浮かんだが、周知の事だ。
「そっちのルートボスは三十メートル越えのドラゴン形態を取るようになっていました。竜人族の秘薬を飲んで暴れ出すというシナリオですね」
「確かに竜人族はこの世界では神々の意向を聞かずに独自に里を閉じて鎖国状態だ。一応はなぞっているのか?」
「第二エリアの解放条件って霊泉水の霧作戦の模倣だったらしいよ」
レイの指摘に驚いた。
「え、そうだったんだ。それで僕達だったんだ」
まあ、秀逸なイベント計画は良いけど、趣味に走りすぎたダンジョンは現実では難しい。程々に修正された新しいダンジョンは、僕の視察が再開されると同時に解放される予定だ。
会議何日か後、カジュラと一緒にまた進む事にした。ランクSが普通に城に忍び込んで到着する事が出来るように修正されたので、安心してお城の視察までたどり着く事が出来た。
予想に反して王冠を被っているのはロマール様ではなかった。だけど、邪法王ルートだとかそんなのがあるのならそっちに出てきそうな気がする。
そして、帰って来たらまた会議だ。ここのところ、この件の尻拭いに忙しいのだ。
「ところで彼らはどうやって本来の運営委員と入れ替わったの?」
「クレームだそうだぞ」
僕の質問にはマシュさんが答えてくれた。
「へえ」
「クレームをつけまくって修正しろと、こんなのじゃ面白みがないとかイベントが盛り下がるとか毎日言い続けたらしい」
「元の担当が鬱になるくらいだよ。それでそんなに言うなら自分でやってみればと言質を取って権利を譲らせたらしいんだ。調度悪魔付きのアンドロイドの対応に追われてた時だよ。何処も暇じゃないんだから止めて欲しいよね。どさくさに紛れて権利を全部移行させてた。良く分かってないジュディーが書類を通していつの間にか乗っ取りが完成してたみたい」
レイが更に説明してくれた。まあアイリージュディットさんには荷が重い案件だったはずだ。
「ガリルは?」
「そりゃ、アンドロイドに負担はかけられないからな。というか第三中間界の調整に忙しかったはずだ」
「あ、そうだね。防衛線の要を握ってるんだったね」
うちの世界はまだ独自の軍がないのが現状だ。人材派遣で補っていると言っても過言じゃない。闘神クラスの溢れている人材を集めれはするけど、闘神として何処かの世界と契約出来た人はほんの一握りだ。殆どがダンジョンで稼ぐ日々を送っている。たまに、先の悪魔付きアンドロイドのような騒動に刈り出されるくらいだ。
つまりはダンジョンでの収入が見込める人はいいけど、そうではない人の鬱屈やら溜め込んだ不満を晴らしたい気持ちがダンジョン作りに大きな期待を掛け、行き過ぎた運営の行動に繋がり、有志が集まり事態の隠蔽に協力をした今回の事件になっているのだ。
そんな背景を含めて考え直すと、僕達も色々と改善し直す部分が出てくる。
「みかんの町の警備のお手伝いも、畑の自警団も治安維持に貢献したと優遇しても良いかもしれないわね〜」
「それだと不公平だよ。彼らは自分達の有益になるからやってるんだし、受け取らないと思うよ?」
レイが反対をした。可愛い獣守達とのデートに報酬を払うのはおかしいと僕も思う。自警団は自分達の畑の周りしかしてないし、新参者に向けてのアピールが主な仕事だ。
「じゃあ、お騒がせな事件を起こしてない人に優遇とかどうかな? 治安維持に協力し、事件を起こさず善良な町人でありましたと証明するんだ。そしたら人材派遣での仕事斡旋に優遇とか、地上みたいにすれば……」
僕は良く分からない説明になったのを何とか修正しようと頑張った。
「それで行こうか。酔っぱらいは道で寝ないとかそう言う基本的なところからだね」
「そうね〜。警備の手を煩わせたらどんどんと評価を下げさせましょう〜」
「早速、星深零の方に連絡をしないと」
「リシィタンドさんは星深零の方に戻ってるんだね?」
「東雲姫を手伝っているからね。まあ、そろそろ大丈夫じゃないかな?」
「じゃあ、リシィタンドさんが戻ったらこの件はまた会議だね」
この話し合いで、みかんの町の住民評価制度が出来上がった。迷惑度がある一定を越えると住民としての居住の権利が剥奪される。善良な市民の行動に背く行為はしていないと真偽官の前で誓わないとならない。勿論、嘘か本当かは直ぐに証明書に反影される。要望はちゃんとみかんの役所に相談する事を徹底させる事にした。これらは市民の義務だ。




