8 身分 ※
◯ 8 身分
今日はナリシニアデレートに来ている。正式訪問ではなく、お忍びで来ているレイについて来た付き人的な感じでの世界入りだ。ダラシィーも付いて来ている。
「無事に生まれ変わりは済んだのかい?」
ラークさんのプライベートルームに入ってお世話係を下げた途端に、ニッコリ微笑みかけられた。
「この通りだよ」
レイは冷静に微笑み返して答えた。
「やあハニー、一段と美しくなったね?」
いつもながらの軽い感じが更にパワーアップした挨拶に戸惑う。
「はあ」
「座ると良いよ」
そう言って手を握って案内されたけど、膝の上に座らせようとするのは止めて欲しい……。
「そんなにしなくてもアキは逃げないよ」
「そうかい? 今回は名前は変わらないのかい?」
「ピピュアです」
結局膝の上に座らされているが、子供をあやす感じなので許容範囲とした。目を細めて生まれ変わりで小さくなったね、とか言っているので本来の姿が分かるのかもしれない。
「ピピュア、ピアちゃんかい? アイドル活動しているというか愛の布教活動をやってなかったかな?」
嬉しそうに目を細くして見つめてくるが、何なんだこのノリは。
「気が付いたんだ? そうだよ。念願のキヒロ鳥の変種だからね」
「秘蔵っ子を出して良いのかい?」
「出さない方が危険だと思うけど?」
視線で何を語っているのか分からないが、本人達は納得しているみたいだから流す事にした。
「それもそうだね。黒の戦士でもあるからね……」
「それで、ここの世界からアストリューへの留学にして欲しいんだけどな?」
「そんなのお易い御用だよ」
そんな感じであれよという間に僕の新しい身分が作られた。ヴァリーの従姉妹にするとかいうのだが、皇族でもないしボロがでると思うぞ?
「ちょっと身分が高いとかの方が、相手が保身に走るから無茶をしてこないよ……」
「それは何か分かるかも」
その後、あっさりと皇様を呼びつけて何やらお話をつけていた。ヴァリーのお母さんのネラーラさんのお姉さんの娘という所に落ち着いた。ヴァリーのオアシスの統治をやっている部族の姫という所だ。
書類上の身分でネラーラさんにはお姉さんは五人もいるので、バレないだろうとの事だ。僕くらいの年齢なら今から社交デビューかデビュー済みといった所だそうだ。ネラーラさんに少し行儀を習った方が良いといわれたのでそうする事にした。
「ああ、それでピピュアの生態端末なんだけど……」
「どうするの?」
フィトラは最後に僕を守れなかった事に責任を感じて随分落込んだらしい。既に紫月のアシスタントとして移動が決まっていたのにも、何か自分の慢心があったんじゃないかと自責の念に駆られていたという。まあ、僕が呑気に鳥として生活しているのを見て、その重たい考えは直ぐに乗り越えたみたいだけど。
要は攻撃され慣れしている僕の面倒を見るのは自分では無理だと、早々に紫月との縁を深める方向に転向したらしい。前向きで良いと思う。
でも仕方ないと思う。生産系の調理だとか錬金術とか使って創作している僕と、死神をやってる僕とじゃギャップがありすぎる。幅広く支えるのは難しい。
「マシュが調整しているからもうちょっと掛かるよ。だから、こっちでの生活は今使っているので我慢してくれる?」
「わかったよ」
「古い形のだけど、組合員の半分はまだそれを使っているから、悪目立ちしないよ」
道具としての端末だ。自分で全部操作しないと動かないのでサポート……おもりはしてくれない。
頼りにし過ぎたのも良くないのだろう。期待を掛けすぎても重荷になるのは分かる。スフォラが優秀すぎたのも大きい。だけどマシュさんは違う意見だ。
僕の場合は持ち主がダメすぎて、自主性を育てる方向にいくから貴重なモニターだとべた褒めだ。喜んでいいのか嘆いたら良いのか分からない。
フィトラも自分で戦わないと決めたのだ。戦闘のフォローをするには、自らも戦う意志を持たなくては無理だと悟ったのだ。自分の思いとかけ離れたら支えるのは無理だし、フィトォラの念いを大事にして伸ばすべきだ。それに、死神の戦いって特殊すぎで、護衛とかも超えて何か違う。
レイは話は終ったからと言って帰って行った。僕はラークさんに連れられてダラシィーと別の部屋に案内された。
「アキ?」
薄い生地の部屋のしきりをくぐりながら進めば、ヴァリーの声が聞こえる。こっちに帰ってたのかな?




