111 移動
◯ 111 移動
あっという間に朝になっていた。
教会の前の広場では聖騎士が朝から柔軟体操をしたり、見回りの順番を確認したりと活動を始めているのが宿の窓から見れた。広場に面した場所にして調度良かった。シュウ達の姿もちらりと見えた。
昼間は露店を広げたり屋台等の商人に開放されているが、ずっと占領させている訳ではなかったらしい。朝市は別の公園で五日に一回開かれるというのを、注文料理を運んでくれた宿の女将さんに聞きながら朝食を済ませ、僕達は宿を引き払って視察の旅に戻った。
「第十九フィールドにあったナヴォーシェン秘密結社の拠点を第七フィールドに変えたらしいね」
巡回馬車の待合所でこれからいく第七フィールドの話題に移った。コウ達の屋敷を引き払って、遺跡のダンジョンの近くに本拠地を移したのだ。
「はい。竜人の夫婦との契約は終わりになり、返済も終了したようですので全面引き上げを考えているとヴォレシタン殿も仰っていました」
馬車が来たのでまた巡回馬車に乗って洞窟のダンジョンの町に向かった。
「天門の位置を王都から外して遺跡のダンジョンの町の近くに移したのも良かったかな」
半年前にはそんな報告が来てたはずだ。道のど真ん中に突然移動したってシュウ達も驚いていた。
「そうでございますね。町から半日程離れておりますが、冒険者に取っては便利になったと評判です」
カジュラ自身も恩恵に預かっていると機嫌良く笑っている。
「うん。ダンジョンの魔物を狩ってくれる人を優先するからね……。勿論それを支えてくれる人もだけど」
移動に二日掛かっていたのを短縮出来たのは大きい。それにダンジョンの方は言い訳だ。本当は神罰者を助け出そうとする変な団体がいた為に彼らを不便にしたのだ。まあ、今は道路工事だの公共施設だの町の壁だのを造ってもらっているので、彼らは常に移動しているけど……。
「ところで第七フィールドの世界樹の教会は移動したのでしょうか? ダンジョンが移動したのでしょうか?」
カジュラは疑問だったらしい事を遠慮がちに聞いて来た。
「あ、そうなんだ。ダンジョンに近過ぎるから離したんだよ世界樹ごと移動して森を増やしたんだ。あれで世界樹の負担も少なくなったし機嫌も良くなってるよ」
地獄の気制御装置のお陰でフィールドの地形も思いのままだし、フィールド事態も広くなっている。その事をカジュラに説明した。
「そうだったのでございますか……」
感心しているみたいでカジュラは惚けた様な顔をしていた。植物の機嫌なんてカジュラには分かりにくい話だと思う。けど、ハイエルフのルルさんと友人なら少しは理解しているかもしれない。神妙に頷いている様子から配慮してくれているのが分かった。
洞窟のダンジョンの町の北門に到着した。天門は町の北門から三十分足らず歩いた場所で、大きな門がここからでも頭だけだけど見える。町の西側からダンジョンまで行く別の馬車が幾つか通り過ぎて行くのを眺めながら進んだ。あの馬車は冒険者組合が管轄だ。僕達の乗っている馬車は商業組合の経営だ。
世界樹に向かう程魔物が少なくなるというか出なくなるので、冒険者の護衛がいらないところに目をつけて商人の一人が町の有識者と組んで立ち上げたらしい。金銭被害が出にくいように馬を一番に逃がしていたのはその商人達の教育のせいだろう。乗客の命は自己責任というのが何ともこの世界らしい気がするけど……。
町へ入る為の身分証明を済ませたら、町の中でさっき乗って来た馬車にそのまま乗り、北門まで連れて行ってもらう。この馬車は北門から先は南門までを町の中心を走り抜け、乗客を途中の駅で乗せてまた北門まで走って戻ってくるのだ。町の中と世界樹の町とのを巡回している。
町の中央からちょっとずれた位置で、東西を走っている馬車と、この馬車とが共通して止まる馬車駅がある。そこにこの仕組みを考えた商人のお店がどーんと構えているのは買物して行けという事なんだろうと思う。
第七フィールドの王国の滅亡後は、貴族の大半が消えたんだけど、直ぐに後釜に付いたのがどのくらい傍流だか知らない自称侯爵家の後を継いだとか言う今のこの町を治めている何だったかな? 忘れたけど、あ、リラが言うにはヤフッサ侯爵家のマノマードラだ。
実はこの人、御家騒動というか後継者争いで負けて牢屋に入れられる寸前だったらしいというところまでは調べが付いている。
けど、本人かどうかは分からない。シュウが自称と鑑定についていると言っていたからだ。ヤフッサ侯爵家の者だと言う証明は教会の真偽で証明書が発行されているけど、マノマードラ本人ではないという事だろう。
まあ、良いんじゃないだろうか。好きなだけやりたい人にやらせるのが良いんだよ、きっと。握った権力に潰れないくらい図太い人って中々いないらしいし。というかダンジョンの町なら税金は天上世界が集めてなかっただろうか? 二重取りしてるのかな? まあ、これについてはシュウ達に聞いてみよう。
しかし、第七フィールドの王国はフィールドを跨いだ王国作りを一応は成功させていたってことになる。最も、天門から近いと言うのが味噌だけど。結局は一番武力という権力にこだわった結果かもしれないよね。
まあ、そんな不安要素満載の町の運営なんて言うのはシュウ達と自称の人に任せて、僕達は天門をくぐって未だに王のいない王国のある第七フィールドに入った。




