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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
たからばこむそう
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109 非公式

 ◯ 109 非公式


 さすがに教会の周りの人達の間ではさっきの襲撃の話で持ち切りだった。やっぱり聞いていた通りに商人が多い。何故か聖耐性っぽい服を着込んでいる人がちらほらと伺えたので、それも視察の報告書に入れるべくリラに映像を撮ってもらっている。

 お陰で視界に次々と赤い印がつけられている。本来はこの人達は弱体化している人かもしれない。光の明らかにする為の理を少しでも逸らそうとしての聖の耐性の装備なのかと推測しているけどあっているはずだ。ベーゼディの装備もそうだったから、ちゃんと見分けがつくように覚えておいたのが良かった。竜人族っぽい人も中にいるのに気が付いた。彼らは里から出て来ているのかな。


「公園のベンチでもうちょっと休もうか」


「はい。あ、あそこが調度空きました。場所を確保してきます」


 カジュラは広場の隅にあるテーブルのある椅子席を確保しに先に向かった。聖騎士達がせわしなく動いているが、僕達が入る時には既に騒動事態は終っていたので、その後の捜査をしているのだろうと思う。


「教会の敷地には敵対者は入れないはずだけど、誤摩化してる人は何とか入れるみたいだね」


「そ、そうなのでございますか!?」


「しっ。声が大きいよ」


 カジュラは僕の指摘で口を押さえて周りをさっと見ていた。


「さすがに教会の建物内部には入り込めなさそうなんだけど、外の技術が持ち込まれているのが分かるよ。聖耐性なんて前は見なかったし」


 僕達はこそこそと小さな声で話し合った。


「……我々が鑑定をしても区別がつかないという外の世界の装備でございますね?」


「公式の奴は出るよ。でも、僕達が着ている魔術服とかは出ないからそれと似た感じだよ」


 持ち込み禁止してない物は外の物でも出るけど、偽装目的の物は出ないと説明に加えておいた。


「おお。この変身セットと同等という事ですか」


 偽装ものは誤摩化された鑑定結果しか出ないことにカジュラは気が付いたみたいだ。


「真偽の証明で商人のランクが決まるから偵察かもしれないね」


「誤摩化しや無茶な取引をしていないと誓言し、それの真否を証明して下さるあの儀式ですね?」


「それだよ」


 商業組合での規律で正当な取引をしているかどうかを半年に一回証明をしてくれるのだ。勿論、犯罪をしていないという証明も普通一般人は貰う事が出来る。うっかりは仕方ないとしても、故意にする規律違反は引っかかるので、信頼の証として最近は利用する人が増えているのだ。

 雇用形態も整い始めて契約魔術での拘束は最低限となっている。当然だけど、ちゃんと労働をこなしているという証明書も出されるので雇用主も安心させれ、面接で有利に立てると評判だ。


「聖耐性の装備を着てたら真偽って誤摩化せるのかな?」


「それは私には……」


「後で聞いてみるよ」


「はい。厄介な連中が多いのは前も同じでしたが質が違います」


 カジュラは顎に手を当てて悩んでいるのか眉間に皺を寄せていた。


 周りの人達の声を拾ってみればこれからは商人の時代だとか言っている人がいて、その通りだとか声を揃えていた。でも利益だけに偏るのは良くないと僕は思う。

 けど、今は仕方ないのだとも感じている。聖騎士や神官が公平な町のあり方を模索している今、そのやり方が広まるまではのんびりで良いと思う。こういうのって中々広まらない。派手に動く商人が目立つのは仕方ないのだ。時には利益を外し大きな仕事が必要だって分かる人は少ない。

 ベルーザ殿下の言ってた国を良くするというのは何となくこういう事だとぼんやりした頭で考えた。難しい事を考えると脳みそが疲れるのは仕方ないと思う。


「この後は……魔族達の様子を見ないとね」


「はい。ついでに我らの場所にも……」


 手揉み状態で聞かれた。よっぽど来て欲しいみたいだ。僕は笑って了承しておいた。


 取り敢えず、そのまま宿を取って日が落ちるまで観光のふりをして教会の周りの町を視察した。大体三千人足らずの規模の町と言った感じだけど、出入りが激しいので定住者がどれだけいるのかが分からなかった。以外と半分くらいかもしれない。ダンジョンの町で一万人規模ってところだろうか? 実際はもっと少ないと思うけど、商人ならダンジョンの素材は欲しいところだろうからあの町に集まっているのは間違いない。

 魔道具店を覗くとコンロや冷蔵庫が三年前と違って半額以下になっていた。

 何より魔法のカバンが手軽に買えるのは注目だ。教会での修行で出来上がった効果の低い物が出回っているのだ。一人前の技術者になるまでの見習いの作った物は特に安く設定されているので、庶民でも手が届く値段になっている。内容は二、三倍くらいしか入らないけど、それでも充分需要はある。

 シュウ達が前に使っていた魔法のカバンも十倍から二十倍といったくらいだったのを思えば冒険者でもない普通の市民が持つなら充分なんだと思える。

 冒険者組合での貸し出している魔法のカバンは家一軒分が入るのだから破格だ。パーティーでカバン一つの使用で済むように出来るのが特徴だ。討伐に集中出来ると評判だ。


「出来れば冷やす魔法が付いた魔法のカバンが良いんだが……」


 腰の低い感じの一人の男が店主にお願いをしている。二人とも獣人だと思う。


「お客さん、この予算では幾らここでも手に入りませんよ」


 勘弁してくれと言った表情を浮かべている店主が返している。


「いや、そこを何とか……食料を運ぶんだから低温設定は外せないんですよ……」


 手を合わせ、何とかしてくれと迫っている男は必死だ。


「何とかと言われても最低でももう一万は出さないと……」


 店主は渋い顔だ。


「そこを後三千で……」


「無理だ。九千でどうだ」


「う、そ、それなら五千まで出そう! これ以上は財布を逆さにしても出ない!!」


「そりゃ無理だ。うちだってギリギリで八千だっ!」


「く、この第四フィールドのチーズを付けるから!!」


 カバンから出された固まりはチーズらしい。


「いや、普通は現物はやらないぞ!」


 店主が店内に広がった臭いに動揺を隠せないでいる。うん、乳製品独特の臭いがする。


「チーズ好きは調べてある!!」


 首は取ったと言わんばかりに畳み掛ける男の顔にはもう必死さは見えない。既に店主の心がチーズに傾いているのが分かるせいだろう。


「糞! 誰が漏らしやがった!」


 悔しげな店主はそれでもチーズを胸に抱き寄せている。ほんのり長いげっ歯と相まって鼠の獣人かもしれないと思った。


「お願いだ! もう一声!!」


「しゃーねえ! この固まりは貰ってやる。後五千でめんどう見てやらぁ!」


「恩に着る!」


 さっきから交渉中の商人らしき人と店主の攻防を聞いていたけど、随分盛り上がって終ったらしい。チーズは高級品だ。時々宝箱にも入れている。


「で、お前達は客か? 野次馬か?」


 店主が睨みを聞かせながら問うてきた。きっとあの睨みは照れ隠しだ。ちょっと顔が赤い。


「客です。浮遊のマントを見せて下さい」


 僕が答えると急に店主は後ろを向いて咳払いをしてからこっちを向いていらっしゃいませと言った。仕切り直しはそれで出来たらしい。


「宝箱のチーズも交渉に使えるかな?」


 僕はお金を払う準備をしている交渉に勝った客に聞いてみた。


「いや、それは……」


 微妙な顔をした店主と客の男の顔が面白かったのでコレクションに入れておいた。


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