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世界を繋ぐお仕事 〜キヒロ鳥編〜  作者: na-ho
おみやげをかくほせよ
130/225

97 引抜き

メリクリです!

 ◯ 97 引抜き


「こんな朝早くから来て頂いてすいません」


「いいえ」


 朝からぴしりとしたこっちでのスーツ姿のゴーノヴォッカさんにさすがはプロ(?)と感心しつつ挨拶をすませた。昨日の夜に話があるとは聞いていたのだ。どうも、姪のヴィヴィアンさんがレクタードさんの誘いに乗りたいとか何とか言ったらしく、僕の招待を受けるのは止めたいとはっきり言われたらしい。


「ですが、クーデンバリブ侯爵のご子息レクタード様という貴族のお顔を拝見致しましたら、貴方がご紹介をして下さった方ととても似ていまして……出来ましたらその事もお聞きしてから私としてはお断りをするにしても失礼があってはいけませんので。その、ご関係をお聞きしてよろしいでしょうか」


「あー、レクタードさん? そう言えば聖の調理師を捜してたっけ……あ、でもそれは一年前か」


 これはレクタードさんに聞いた方が早いかもしれない。僕はレクタードさんにメッセージを送った。花*花亭に声を掛けたのかをだ。返事は十五分後くらいに来た。どうやらホテル事業をやる気になったらしい。買い取る予定のホテル内に誘致する話をつけているとか書いてあった。


「んー、こっちの話も進めていいか聞いてみようかな……。レイが買い取りするし、どうせなら手を組んだ方が良いだろうし」


「ご知り合いでしたか……あ、そのご貴族様でしたか?」


 ゴーノヴォッカさんの顔が引き攣っている。その言葉に横に首を振って否定しておいた。ホッとした表情で息を吐き出していた。気持ちは分かるかも。異界交換メニューの為にアストリュー世界に店長と店主であるヴィヴィアンさんを招待したけど、ヴィヴィアンさんはこっちを断る気みたいだからレクタードさんがそれを気に入らないならお断りをそのまま受けると説明を入れた。

 説明を送って一分しないうちに通信が入った。画面を可視化してゴーノヴォッカさんとならんで受け取ると、レクタードさんは見知らぬ女性と画面の向こうに並んで映っていた。


「ヴィヴィアン嬢……」


「おじさん?!」


 驚く二人の様子から叔父と姪とで並んでいる事が確かめれた。まあ、そんな偶然もあるか……。緑の優王子ことファムダさんがティーセットを片付けているので話し合いがあったのだと推測出来た。

 僕はレイとマリーさんにも連絡を入れて話し合いが拗れたと助けを求めた。


「うーんと、拗れたというよりも大きくなったが正解かな?」


 と、二つ目の画面の向こうでレイが喋っている。


「こっちは最高ランクの聖の評価が出るものもあるから料理人の腕も確かめたかったのよね〜」


「試験でも考えてたの?」


「まあね。レクターもそれの話をしてるみたいだし、異界交流はまずはレクターの方とでやって貰って、アストリュー世界はその成果を見てから参戦しようか。一気にやるのは無理だろうし」


「待って下さい。みかんなカフェをホテルに入れて貰う方が良いのでは?!」


 慌てた口調でレクタードさんが立上がって声を上げた。彼の計画ではそんな感じらしい。というか、今考えたのかもしれない。レイがこの話に噛んで来たのならと言った感じだ。


「店ごとの進出は良くないよ。時期尚早って感じかな……こっちの料理人が育ってないからね」


 レイの眉間に皺が寄った。


「そういう理由でしたら致し方ないですね」


 ゆっくりと席に座って諦めたレクタードさんは少し落ち着いたらしい。ちょっと赤くなっているのでむきになったのが恥ずかしいらしい。


「まあ、何にしても見学を終えてからね。でも店主の意向はうちはお断りなんでしょ〜?」


 マリーさんは断られたのが気に入らないというか、そんな雰囲気を出している。珍しく不機嫌だ。


「あ、そうでしたね」


 僕が思い出したように打った相づちに、レクタードさんは即振り返ってこれまた恋する瞳のヴィヴィアンさんを説得し始めた。そして具体的に料理人の資格はどのくらいだとか色々と聞き出そうとしている。


「えーと、経営の殆どは叔父が手伝ってくれてて……料理人はその、え、と」


 しどろもどろな彼女はどうやら小さな畑を回す事しか出来てないようだった。


「店主を名乗るのは貴方の方がよろしいのでは?」


 ヴィヴィアンさんの様子を見てレクタードさんはゴーノヴォッカさんに話をし始めた。ヴィヴィアンさんは売り上げとかは分かっていたけど、人の方はさっぱり分かってないとその理由を聞いていた。


「それは……彼女の父親に頼まれまして。経営の方を教えつつ」


「成る程、後見人という事ですか?」


「いや、私は……雇われ店長です。彼女の苦手をフォローするように仰せつかってます」


「成る程」


 どうやら何か事情がありそうだ。ゴーノヴォッカさんの顔を見るに、ヴィヴィアンさんがやろうとしないのだろうと察しがついた。というか料理人と仲が悪いというか、確執がある気がしてきた。ヴィヴィアンさんの画面越しにゴーノヴォッカさんを牽制する視線を見るに、立場上断れない彼の事情が気になるかも。


「息子さんの借金の保証人だね? その代わりに娘の面倒を見て貰うという契約かな?」


 レイは心を呼んだのかあっさり僕の気になった事を暴露してくれた。


「これは二人で話し合いをした方が良いんじゃないの〜?」


「というよりもスポンサーは父親だね?」


「で、スポンサーの名前は〜?」


 何となく態とらしさを感じるマリーさんの尋ね方に嫌な予感がしたが、スルーした。


「勿論、ボクが買い上げたホテルの持ち主だよ。こんな面白い話をボクが逃すと思うの?!」


 成る程。楽しそうですね……。起死回生のレクタードさんの話なのだと気が付いた。お貴族様でも食らいついて金を出してもらいたくてヴィヴィアンさんは必死だったのだ。ゴーノヴォッカさんの青ざめた顔色からホテルが売却されるというのは聞かされてなかったみたいだ。


「まあ、犯罪者としてぶち込まれる予定だから、店主の息子さんの保証人の話は消えるね」


 ぎょっとしてゴーノヴォッカさんは姪の顔を非難するように視線を送った。聞かされてなかったのだろう。


「そのくらいの情報は与えてあげないと彼には不公平だわ〜」


 レイとマリーさんの顔はとってもステキな笑顔が浮かんでいる。ゴーノヴォッカさんは怒りを含んだ顔を隠すように俯き、何か考えているようだ。大きく息を吸い込み、耐えているかのようだ。人前でなかったら暴れてたかもしれないくらいの感情を押さえ込んでいる気がする。


「マオが保証人になってあげれば良いと思うよ?」


「え、そ、そう?」


「レクターも借金持ち出し、妥当だよね」


「そうよね〜」


 隣りに座っているゴーノヴォッカさんと目が合った。保証人の話で顔を上げたみたいだ。このメンバーの顔を見て、どうするのか決めかねている感じだ。レイとマリーさんは話がついたら連絡してねと言って通信を切った。


「……あー、取り敢えず、話し合いをする日時を決めようか?」


 画面越しにレクタードさんに向かって話し掛けた。


「はぁー」


 レクタードさんは既にお疲れのようだ。こんなくらいで凹んでたらレイとは付き合えないぞ? 取り敢えずこの通信は一旦切る事にした。


「それで、えーと。何からお話ししますか?」


 ゴーノヴォッカさんと向き合った。


「では、研究所横のホテルが何故売却という事になったのでしょうか? そして犯罪者とは……どうなったのでしょうか?」


 まあ、気になるよね……。切っ掛けは僕が仕込まれた映像記録を発見した所からだから。研究所の情報を上手く聞き出したソーヨさんを取り入れたのはホテルオーナーだ。つまりは悪神達のネットワークに情報を売っていたと分かったのだ。古き神の血筋とやらの噂と研究所の存在を結びつけてあそこに保管されているとされる細胞を手に入れようと悪神と邪神が襲ってきたのだから責任は問われる。

 少し、ぼかしながらそんな話をした。それから、破壊された研究所の施設の賠償やらを課させたりだ。


「……それで様子がおかしかったのですか」


 どうやら最近のヴィヴィアンさんの様子がおかしかった事には気が付いていたらしいが、レクタードさんのせいだと思ってたらしい。

 そして、ゴーノヴォッカさんは昔、外のホテルの副支配人をやってたというのを話してくれた。息子さんが事業を始めて借金をすることになったけど、既に他の人の保証人になっていた為、許可が下りなかったらしい。それで頭を下げてお願いしに行った奥さんのお兄さんであるホテルオーナに、交換条件を出され、娘のヴィヴィアンさんの面倒をみることになったらしい。


「何故ビビアンさんのお父さんのホテル内で店を出さなかったのですか?」


「さて、ヴィヴィアン嬢のなさることは分かりません。独り立ちしたかったのではないかと……」


 後半の小さな言葉は父親への反発心を仄めかしているようだ。


「それで、息子さんは何の事業を?」


「人材派遣を……」


「へえ。難しいのに……」


「息子も人を動かすというか向いている仕事を見つけるというか、見抜くのが上手いようでして……私が言うのもなんですが将来は有望かと」


 にこやかにというか親馬鹿ぶりを発揮しているみたいなので、話半分くらいに彼の話を聞いた。午後からその息子さんと話をして会社の経営ぶりを見てから保証の話を進める事にした。ヴィヴィアンさんが来たので僕との話は一度中断し、店の中の話し合いに切り替わったので外へと出た。

 事後処理は難しい。僕は既に嫌気が差している。休憩するべきだと思うので、夜はのんびりと過ごすと決めた。



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