91 下層
◯ 91 下層
「そう言えばターシジュン管理組合の所属しているあの旅行に行きそびれたドームに覆われた世界はどうなったの?」
気になっていた事をマシュさんに聞いた。マシュさんとディーンさんが顔を見合わせた。
「……あそこも封鎖になった」
マシュさんがばつの悪そうな顔で答えてくれた。
「悪神でもいたの?」
と聞けば、
「悪魔の取り憑いたアンドロイドっていう新種に脅かされていた」
と、珍しく複雑な気分を現した顔を見せている。なんて言って良いのか分からないと言った所だろうか。
「憑依する悪魔ってこと?」
「……初めて見る事例だ。だが、あり得ると言えばあり得る。アキの時、スフォラに取り憑いてただろう?」
「うん」
「精神体が動かせる身体になら入れるのはその時に証明されているし、問題ではないが、悪神となっているかどうかがアンドロイド達だと区別がつきにくい。悪魔はまあ存在が別だから分かるんだが……」
「困るねそれは。行かなくて良かったよ」
情報の取り扱いは彼らの方が得意だし、誤摩化しが聞くのは不味い。取り逃がしがあっては良くない。
「ターシジュン管理組合でも人権を持つのかどうかは世界によって区々なのが彼らだな」
「そうなんだ」
何処も試行錯誤しているってところかも知れない。きっと魂の特徴とか成長の仕方で変わるだけだと思うんだけど、楽観的過ぎるだろうか?
「取り敢えず、呪いの品の生産工場が見つかっている。それに、魔法陣の改悪もかなり見つかっているらしい。死神達が戦っているが、数が多くて戦況は長引くと見られている」
これはディーンさんが答えてくれた。牛丼弁当は食べ終わったらしい。満足そうな顔でお茶のおかわりを受け取ってくれた。
「最低でも三日分のご飯はいつでも用意しといた方が良いですよ」
「善処しよう」
「もう作り置きは無いのか?」
要求する二人の視線に負けてサンドイッチとスープの取り合わせ幾つかと、お魚定食風お弁当を渡した。お茶の葉まで渡さないとならなかったがまあ良いだろう。ついでにおやつも渡しておいた。
ディーンさんは空間収納には食べ物は入れない主義だとか言っているが、僕が睨んだらお弁当箱に入っているなら考えても良いとか何とか言い分けをしていた。どうも彼の自前空間は整理整頓がされてない気がしてきた。
マシュさんのガレには空間収納が付いているし、僕の作ったお揃いの収納スペースも持っているので、食事のスペースを作った方が良いと勧めた。
「……片付けはガレにまかせているが、料理はしてくれない」
「……そのデータはマリーさんの『スフォラー』から取らないの? 獣守達でも良いけど……」
「その手があったな。帰ったら早速データを貰おう。直ぐにマリーに予約を入れておこう!」
何で思いつかなかったんだと、シェフのデータを貰えばガレに作らせれると鼻息も荒く何処かに連絡を入れ始めた。ところで何で護衛の獣守を連れてないんだろうか? ディーンさんがいれば、危なくはないけど……。
「片付けもしてくれる生体端末なのか?」
物欲しそうな顔のディーンさんは珍しいかもしれない。リラに頼んで皆の変顔シリーズに新しいコレクションとして加えてもらった。そんな事をしていたらお弁当の予約がマシュさんとディーンさんから来た。どうやら今回の事で用意しておく事にしたらしい。作るのは僕にお鉢が回ってきたのは何でなんだ……。
「何で僕にお弁当作りが回ってくるんだ?」
「聖水で作ってくれるからな。マリーが言うには合作が一番良いとさ」
「何か納得したよ」
まあ、いつものメンバーの食べ物くらいはついでで用意出来る。全員に配るとしよう。補充分も予約受付にしておこう。リラにその部分を皆の『スフォラー』に管理してもらえるように話をつけた。
そんな事をしている間にティアラから連絡が入った。説得は修了したらしい。そして、解体処分を避けてくれたお礼にとある情報がよせられた。
「魔力を溜め込むあの魔法生物の研究が他の星でもされてた記録が出てきた。悪神達がこの記録を消しておけと言ってたらしい」
「え?」
「この世界にガリェンツリー世界から一度持ち込まれているのは間違いない。この世界の情報処理の一部分を受け持っている巨大コンピューターだ。ネットワークから調べて記録の改竄をしたと言っているし、神々の身体を作る血筋が残っている地域も調べさせられたとか報告が来てるぞ」
マシュさんは詳細を調べにその星に渡るとか言っている。ディーンさんは護衛として付いて行くつもりのようだ。僕は動力が動かずに混乱と暴動の起きたこの街の後処理を明日から手伝う事にした。
まあ、炊き出しだ。聖域の食べ物をかき集めてお湯を沸かしたりする所からだ。レクタードさん達は既にそれをやっている。




