89 潜伏
◯ 89 潜伏
僕は怪我をしている警備の人ーーボンドさんと一緒に門の近くで待機している。連絡係だ。執行部のディーンさんが直接来ているし、闇のベールを使っての潜入も出来るティアラがいるからレッドとティアラとポースは研究施設内に偵察に行っている。僕の元には紀夜媛が残っている。
研究所の人達は殆ど隣りのホテルに誘導済みだ。ホテルの方からこちらの様子を伺っている人々の中に青の氷王子ことベインさんがいたのは確認出来た。世界封鎖になって何処が危険かを探っているのだろう。怪我人とかはレクタードさんがやってくれているに違いない。
「ボンドさん。ベルーザ殿下に連絡が取れました。今の所は王宮は無事です」
神界のマシュさんが頑張ってあちこちに連絡を入れれるようにしてくれているお陰だ。アンチウイルスを駆使しての指揮統制をはかっている。というか情報遮断がこのケースには一番良くない。
神界はそんなに心配する程の混乱は無いみたいで、緊急体制に入ってからは回復に向かっているらしい。原因が分かれば直ぐにお歌い出来るのはさすがだ。
「良かった。王族は時々神々に連なる魂が降りると聞いていて、血筋が絶えるのは良くないことを引き寄せる」
「信心深いんですね」
「いや、親父が実際にしばらく重用されてな。お陰で俺は聖域での仕事にありつけた。ま、聖域で働いてる奴らはそんなのが多いけどな」
頭を掻いて恥ずかしそうにボンドさんは笑った。
「そうだったんだ」
確かにベルーザ殿下が普通の人族の身体に入るのはエネルギーとか考えたら難しそうだ。地上での生まれ変わりをする特殊な身体……血筋を用意しているってことかな。そんなやり方もあるのかもしれない。三田さんの情報は違っていたって事だ。
そういえば日本でも血筋がどうたらこうたらやたらと気にする人達がいたかも。何々家の傍流だの本家本筋だのと言い争うのも見た事がある。意外と人界に繰り出してる神々がいてもおかしくはない。その内怜佳さんにでも聞いてみよう。
旧体制の黒ブレザーって今考えたらそんな感じだったんだと気が付けた。卒業してから今頃って感じだけど。まあ、その辺りは疎いからこんなもんだよね。
あー、という事はあの爆発ロマール様だかの辺りもそんな術をまねてやっていたのかもしれない。前の管理神が変な失脚をしたのもその辺りだろうか……。なんか変な妄想に走り出した気分だ。いや、ちゃんとした推測としておこう。
僕が変な思考を展開している間に研究施設に侵入した人物を発見したらしいポースから連絡が来た。
「あいつら、何やってんだ?」
僕とポースの繋がりで通信機器を介さずに視覚情報を念話でダイレクトに送られてきているのを、リラが可視化したいつもの半透明画面に映し出してくれている。ついでに色々と施設内の地図だのの情報もリラとジェラが一緒になって付けてくれているのは助かる。その映像には通路の緊急用隔壁に阻まれて右往左往している人達が映っている画面を見ている。研究所内の何処かの端末からシステムに入り込んだらしい。
「半透明の壁なんだ」
「敵や汚染された場所が分かる。職員はレベルに合わせて隔壁の解除が出来る。各ブロックごとの避難経路が用意されている。が、知らないと閉じ込められる。緊急避難訓練はこの間行われたばかりだ」
「じゃあ、あの人達は……」
画面の隔壁に捕われた人達を差して振り向いた。
「侵入者だ」
「分かり易いね」
「盗んだ許可証があそこまでだったんだろう……」
「成る程。目的の物は盗まれてないってことかな?」
「さあ。そこまでは……」
「取り敢えず、捕まえたら何か分かりそうですね」
しかし、侵入者のいる区画は魔法も物理も通さない様な隔壁に覆われているらしく、そのまま閉じ込めておいた方が良い様な事を言っている。でも、何を狙っているのか目的を探りにくいし、彼らがこの機械用のインフルエンザをバラまいたのなら、何処で神界の情報を受け取っているのかが分かるかもしれないのだ。
「情報を取るなら接触は避けない方が良い」
全員の意見を聞いたティアラがその結論に達した。このメンバーでのリーダーはティアラだろう。ティアラ達が一部システムの復旧をしつつ隔壁を抜け進んで行った場所には、画面に映っていた奴らが頑張って壁に穴を開けていた。
何やら天井伝いにポース達が配管を弄っている。レッドは警備制御室に入って他に怪しい動きをしている人物を捜し始めていた。
実際に外に出て感じる皆の気配はそこまで正確な位置は分かっていない。建物の中のあの辺りってくらいだ。研究所自体が探知させない様な魔法が掛かっているせいで世界に繋がっての情報じゃないと受け取りにくい。さすがは聖域にあるだけある。
突然、侵入者のスペースのみスプリンクラーが作動して上から霧状の酒が振ってきた。告白のお酒だ。息を吸うだけで酔いそうな空間で侵入者は驚いている。暫くしてからスフォラが質問を始めた。
どうやら他の研究所やら施設にも侵入しているらしい。組織的に動いているのが分かる。
「で、そっちはC3Uの指揮経由で死神達が向かっているから」
「わかったよ。じゃあ、彼らを回収してマシュさん達と合流しようか」
「そうだね」
彼ら……悪神達の狙いは優秀な職員のデータと神々の降りる遺伝子が保存されているのをを探り奪う為だった。王族を狙わないのは血の弱った古い血筋ではなく、研究所に保存されていると思われている良い状態の細胞を狙っての事だ。
誤解も良い所だとは思う。確かにベルーザ殿下が降りてる血族は最近も神々は降りているし、そんなの殿下に掛かれば修正は幾らでも出来る。それこそ処女受胎も可能なくらいは操れるはず……。
そんな悪神の目的を聖域に移動してきたベルーザ殿下に会って話をしている。他の王族は聖域のシェルターになっている建物に避難しているみたいだ。
殿下はレオノルディスさんと聖域の管理者達と警備の話し合いをしていたし、神界の護衛も揃っていて、情報を得ようと頑張っていた。こっちの護衛の兵は期待通りにSF映画を観ているかのようなボディースーツを着ている。あの腰についているスティックが武器だろうか……。握って魔力を流したらヴィンとかいいながら光剣が出るとかだともっと嬉しいけど……。
「大丈夫ですか?」
「奴らの狙いが力を十全に使えるからだと言う事か……」
「そうみたいです。悪女神ヘラザリーンも力のある身体を作る目的でマーロトーンの種族の卵をデザージに盗む依頼をしたというのも聞いた事があります」
「休暇中にそのような事が立て続けにあったとは……血筋にメンテナンスもかねてゆっくりしておったのだが、年に一度は資料を見ておいた方がよさそうだの」
「生体端末を必ず入れておいた方が良いですよ」
「部下が居場所を特定出来ては面白くないではないか」
いや、そんな子供みたいな事を言われても……。唇を尖らせて何処のだだっ子ですか!! 良い大人がダメですよ?!
「異常事態に連絡が出来なくては部下も不安かと思いますけど」
殿下の後ろからもっと言ってやってという視線が来る。
「しかし、この異常事態に闘神と連絡が取れたのは良かった」
「生まれ変わり先も連絡してなかったんですね……」
横目で責めてみたら、ぎくりとした顔をしている。どうやら困ったタイプの神様らしい。
「ちゃんとしばらく休暇にすると置き手紙に書いて、更に目的は言っておいたぞ。それに時々は精霊に頼んで最低限の仕事はやってある」
「ブーザンド様、二度とこのような真似はおよし下さい。対応が遅れた責任は貴方ですよ」
どうやら名前も違うらしい。横から怒りのオーラを背負った事務官風の人が話し掛けて来た。多分補佐神だと思われる。
どうやら妖精達の行方を追う調査やらC3Uの手が入った所までは普通に王族として対処していたらしい。
精霊に頼んで必要書類を出して管理神としての許可やらもやっていたが、神界にまで訳の分からない影響が入ったせいで居場所を伝えるしか無くなったらしい。ぶすっとした顔で、恨めしそうな視線を飛ばしてくるけど、僕のせいじゃないから!
「まあ、妖精達の誘拐で大体の居場所は掴めてましたので後は捕獲だけでしたがね」
恨めしそうな補佐神のサクジュさんはずっと捜索していたらしい。
「サクジュ、あのように皆の前で捕まえられては戻れぬではないか……」
「記憶等なんとでも出来ますのに何を仰られているのやら」
「嫌だって、ね……」
その気持ちは何となく分かるかも。折角紛れ込んでいたのに畏まられては困るのだろう。第四王子なんて立場だけど、優秀な人材を取り上げて王宮での働きをみる役目をしていたというからある程度の人事を握っていたって事だ。しっかりと王子の役目を果たしつつ、人の生活を間近で見ていたのだと察している。ある意味勉強だと思う。




