皇子の旅路 2
※ 2
第五回『スフォラー』持ちの為の集まりがナオトギ主催でまたされる。奴は女の子にことごとく嫌われるという恐ろしい目に会いつつも、懲りずに集まりをやっている。何故か金の甘王子は最近、いや、一年近く姿を現さない。いつものナオトギの知り合いの店での集まりに向かった。
「顔色が優れないな。何かあったか?」
目線を声の持ち主に向ければ、上質の布地を使った細身の服装をした主催者がいた。アキも同じ黒目と黒髪だったが、こちらの人物は光を吸い込む様な黒だ。
「ナオトギか……」
質問のお陰で、最近あった出来事を振りかえった。すざましい恐怖の記憶に体が震える。肺に穴が空いたときくらいはやばい。
「仕事場の女性とは揉めない方が良いな……」
「しみじみ言うな。女性には優しくだ」
「お前が言うな……」
「うるせぇ。これは呪いのせいだ。で?」
話を促されて仕方なく口を開いた。変な事態に陥る事が何度かあったのだ。何かを口にした後に妙に気分が良くなるというか、悪くなるというか……。ホングとの仕事の打ち合わせでも、一度あった。その時は、飲んでいた物が良かった。アキのくれた月の癒しの「冷静になる」という酒だ。飲み過ぎても理性が残るのは助かった。
吐瀉物を調べて出てきたのはほれ薬だった。あの酒が、ほれ薬にも効果を発揮したのは良かった。それは後で分かった事だ。その時は本当にやばかった。ホングはその薬があわなかったらしくて、胃痙攣が始まって随分吐いていた。
で、その後にホングが新人のコミュニティーをネット内で検索して調べたら、証拠らしき記述が出てきた。犯罪に絡んでいれば見れる範囲が真偽の見習いは多いのが良かった。俺では見れない。
前に、付き合う振りを頼まれた……いや、架空の暴力男に付きまとわれていたと言っていた嘘つき女が、周りの女性達を引き込んで、ある事無い事を新人の仲間内でのネットコミュニティーに書き込んでいたのだ。職場での立場もあるから、きつくは言わなかったのが裏目に出たのか、何か誤解したらしい。
皆にお土産として食べ物を配った時に、こっそりと俺の物にだけほれ薬を入れた物にすり替えたというのだ。真偽者とでも仲良くしろという恨みの言葉とともにだ。
「こないだも、一人でいる時に妙な物を食べたみたいで、一晩中からだが熱くなって動けなかった」
「それは、催淫剤か媚薬じゃないのか?」
ナオトギも内容の酷さに同情したのか心配そうな表情を見せている。
「多分そうだろう……。何故か企画成功の打ち上げの後に、同僚の女性達が家が近いならと、気分の悪い人を介抱したいから使わせろと言ってきたんだ。その時に何か変な物を混入させられたと思う。が、証拠は無い。だが、本人の家の方が後で確かめたら近かった……」
高い解毒剤を使わされて正直、頭に来た。
「それは罠だな……。女はいつまでも怖いぞ。それも集団で嫌がらせをそんなふうにするとは……。恐ろしいな。職場を変えた方が良いぞ」
空になったグラスに酒をついで助言をくれたが、一応は手を打っている。
「ああ。移動を願い出ておいた」
「それで訴えるのか?」
「いや、あれは酷くなると思うから……」
「ちゃんとけりは付けた方が良い。他にも被害が出てからじゃよくないぞ。とばっちりはゴメンだ。集団での画策だが、首謀者がいるはずだ。そいつは何時また同じ様な事をするか分からん。どう聞いても話をする価値もない女だ」
ホングもそう言っていたが、やはり、女性を敵だと糾弾するのは避けたい。だが、念のために証拠物に書類、映像もホングに預けてある。
「そうだな。取り敢えず、毒物、薬物の分かる鑑定をカイに付ける事にした」
ホングが今回の集まりで、ギベロとセドリックに聞いてどれが良いか検討してくれている。被害にあったから真剣だ。
「個人で買ったら高く付くぞ?」
「命には変えれない。ホングは胃痙攣の後遺症に三日も苦しんだぞ」
胃に食べ物を入れる事が出来ずに点滴をずっとやっていた。アストリューでの癒しでもそんな状態で最悪だった。俺も、胃もたれに便秘に悩んだからな。
「安物の媚薬は時々、変なのが混ざってるからな……」
更に同情の眼差しを向けてきたが、御曹司ならそういった事も多いんじゃないのかと聞いてみた。
「とっくに俺は鑑定を付けてある」
ふっと、何やら遠い目をしながら応えたので、追及はしないでおいた。既に被害済みということだろう。最低限、毒物くらいは分かった方が良いみたいだな。ギベロの仕入れた酒にはアキの冷静になる酒と同じ効果の物も入っている。意外と有用な効果だ。迷わず、今日もその酒を選んでいる。少し分けてもらえるか聞いておくか。
「行き先はどうするんだ?」
ナオトギもその酒は気に入っているのか、よく飲んでいるのを見る。
「窓口やらの営業は性に合わないから、現地を回る方に届けを出した。ホングと組んだら意外と交渉は出来る」
「現地組合員との調整とか物資調達か?」
「そんなところだ」
「それは降格と同じだろ?」
「外の方が安全だ」
「……訴えろ。好きな女が現れたら、そっちに矛先が行くぞ?」
「まさか。そこまではしないだろう」
ナオトギとはそこで別れて、ホングに会いに行った。セドリック達とまだ話をしている。
「どうだ?」
「ヴァリー。思ったよりも低予算で出来る可能性が出てきた」
「本当か?」
「被害にあっているなら訴えた方が良い。それで手に入る毒鑑定は精度も高いし、媚薬やらの違法薬物も区別がつく。身の安全を考えたら、それが一番良い」
事件を利用する気なのか?
「いや、それは……」
「ホングがそれで被害にあっているんだ。俺達も例外じゃないってことだろ?」
ギベロが非難してきた。
「う、そ、そうかそうだな」
会う人全員に言われたら訴えはした方が良いという事だ。放置しても解決には至って無いなら仕方ない。
「じゃあ、良いんだな?」
「ホングは?」
「あの胃痙攣は訴えないと危ない。アキの酒が入っていいてあの程度で済んだんだ。多少痛みの緩和があったと言われたよ。それに、薬の出所を突き止めておいた方が良い。危ない違法な薬を見逃すってことになる! それは出来ない」
気が付かなかったが、相当怒っているらしい。強い口調で言われてしまった。その上、法的な事まで言われたらもう仕方ない。というかあの薬は違法だったのか。
「そ、それもそうだな。違法な薬だったのか?」
「調べたが、違法な物のようだ。かなり危険で、ヴァリーが胃もたれですんだのが運がよかったくらいだ」
品質管理部で働いているセドリックが厳しい表情で成分表をカイに送ってきたが、さっぱり分からん。だが、そういう事なら放置は良くない。しっかりと白黒付けないとならない。
「気の弱い者なら気が狂う事もある。精神保護の酒を飲んでいてホングは無事だったが、あれが出回っているのは良くない」
セドリックも真剣な顔だ。犯罪に手を染めているなら止める為にも必要か。仕事場では話は出来そうにないしな。ちゃんとした場で危険を伝えた方が良いだろう。
「分かった。そういう事なら腹をくくろう」




