77 影響
◯ 77 影響
ここの聖域はエリアごとに別れているという。地下洞窟エリアには土の妖精達が、湖のほとりには水の妖精達が、洞窟の奥には溶岩が流れ、火の妖精達が集まり、森には植物の妖精達と風の妖精達と言った具合だ。つまり、石やら宝石、金属を扱うなら洞窟に、植物なら森だ。
三田さんはどうやら奥まで案内してくれる気になったらしい。手を引いて危なっかしそうに連れてくれている。
「説明する人がいないと妖精達の説明じゃ良く分からないだろうし……。さっきの案内人をみて反省したんだ」
恥ずかしそうに頭を掻きながらそんな告白をしているので、丸投げは止めたらしい。
「そうだったんですか。わたしは有り難いですけど、時間は大丈夫ですか?」
家に帰って家族サービスとか言ってたはずだ。
「一通りの説明くらいはしておくよ。これも予行練習の一環だ。それにある程度エスコートをするのも必要だ!」
さっきの仲間の女性を庇ったベインさんのやり方に、何かやる気スイッチが押されたのか、三田さんは妙にやる気だ。その言葉に甘えて、そのまま説明を受けた。
まずは目的の妖精のエリアで過ごし、そこで仲良くなれそうな妖精と出会えたら交渉をするみたいだ。その際、妖精語が分からない人は妖精語の分かる案内人か契約エリアに控えている、契約補佐をしてくれる聖域の人側の管理をしている役人に頼む事になる。レイの知り合いの方は神精霊なので、妖精や精霊達をまとめる立場の精霊の方の管理者だ。
双方互いに関係は良好なのはここの聖域の感じから伝わる。アストリューで言うなら僕と菜園班の皆と、紫月との仲って感じだろうか? いや、僕は紫月側に入るのかな……保護鳥だし。んー、神官なんだから間を受け持つ存在で良いか?
「ま、こっちも負けずに関係は良好だ」
「何の事だ?」
思わず口に出した言葉に、ボスから突っ込みを頂いてしまった。
「独り言だよ」
「なんだ。殴られて変になったかと思ったぜ」
「大丈夫だよ。腰も抜けてないし」
レイとメレディーナさんにたっぷり癒しコースを受けといたからね。
「君はみかんの町でも、妖精達と仲が良かったから言葉に関しては心配してないけど、どうだい?」
「あ、大丈夫です。大体の事は分かりました。後は妖精達に聞けば何とかなると思います」
「じゃあ、明日以降の見学も出来る様に、案内の妖精を付けてもらいに行こう」
「はい」
少し急ぎ気味の説明だけど、最低限は分かったので良しとする。三田さんの後ろを付いていって進めば、ここの学生達が集まる場所に着いた。見学者も多く、少し混み入っている。
総合案内のテントの前まで連れて行ってもらって、そこで三田さんにお礼を言って別れた。
「案内の妖精を扱っているのは何処ですか?」
「それならば、休憩所の横にある受付に行けば説明を受けれます。一名様ですね?」
「ボスも挑戦するよね?」
僕は隣のボスに聞いてみる。
「おうよっ!!」
当然のようにに答えが返ってきた。
「契約希望者様、精霊は機械には付く事はあり得ません」
「良いんだ。チャレンジだから」
「そ、そうですか?」
怪訝な顔で見られたが、そんなルールは打ち破ってこそだと思うんだ。曲がりなりにも死神見習いだ。
「逆に使役される様な事になっても責任は負えませんので、お伝えしておきます」
お辞儀をして丁寧に教えてくれた。けど、これはそういう真似をするなとの一種の警告だと思う。
「ありがとうございます」
聞いた場所に、早速案内の妖精に会いに向かった。
「まあ、いけませんわ。妖精に機械を付けるならまだしも。なんて非道な事を……」
こっちの受付のお姉さんは恐れ戦いている。
「あー、実験です」
「あ、あら。そういった研究ですの? それでしたらまあ、仕方ありません。交渉にはその旨をお伝えして、ご責任はご自分でお取り下さい」
実験という言葉は、研究熱心な場所柄こんな事も受け入れられるらしい。あっさりと許可が下りた。
「ええ。ご心配なく」
妖精達の言葉もばっちりなボスには、ちゃんと妖精の案内役が付いた。勿論僕にも付いてくれた。周りの妖精は僕達に興味津々って感じだ。
「まさか成功するなんて……機械に妖精が、妖精が……」
受付のお姉さんはショック状態だ。軽く精神安定の治療を軽く掛けた。ボスは機械じゃなくて本だけどね。
「まあ。治療師さんでしたのね。聖のお力をもつ方は妖精達は受け入れてくれ易いですのよ」
「そうみたいですね」
お姉さんは早くも復活している。元々切替の早い方の様だ。前向きで良いと思うよ。
「ええ。今日、見学にいらした麗しの君も癒しのお力をお使いでしたし、一般の契約希望者さんも今回は期待できそうです」
「あー、金の目の?」
「まあ、貴方もご覧に?」
「そうですね、ちらりとですけど」
「私は一目で恋に落ちましてよ。はあ〜。目を閉じればあのお方の美しいお姿が……」
自分の世界に入り出したので、そのまま放置して大丈夫だろう。妖精に案内してもらいながら進めば、森のエリアに着いた。調度、学生が契約術の描かれたスクロールを広げようと頑張っていた。となりには付き添いの教師っぽい人と、役人がいる。学生は一般の人よりサポートが厚いようだ。解放期間も長いし、優遇されている。
「おお、あんな感じなんだ」
「ありゃ仮契約だな?」
大体は魔力か気を渡したりして、魔法でのお手伝いをしてもらうのが普通だ。聖域から呼び出してのお手伝いは、期間は短ければ一時間とか長ければ年単位だ。
一、二週間の期間を設けて最初の仮契約を結び、その後、相性もいいようなら本契約だ。更新するかどうかは本人達次第だ。
神界警察の百年は長すぎだと思う。世界が違うので常識も変わるけど。
「ガリェンツリー世界もここみたいな感じが良いかな」
何日かみかんの町外れの自然公園を解放して、精霊と妖精達に会える様に整えても良い。まだ、朧げな計画だけど、実現出来る様にして行こうと思う。それには少ない火の精霊、妖精が揃わないと……。ここの洞窟と溶岩のエリアを参考にしてみよう。そんな計画をボスに話しながら見学は修了した。日が沈み、闇の精霊達が降りてくるのが見える。
相性のいい精霊の姿は見えるとか言っているけど、僕は全部見える……幻想魔獣だからね。そう言えばアキの時代は魔法か、世界に繋がっての力……神力が身に付く度に見える様になった気がする。聖域の管理なんてするからには皆が僕の面倒を見てくれたんだと分かる。随分苦労を掛けた気がするけど、楽しかったかも。いや、皆で成長したんだ。そして今も。
「今日の夕飯はどうするんだ?」
「今日はホテルの中で食べようか。明日は街の見学だし早く戻ろう」
案内の妖精達には魔力を渡してお礼をしてから、明後日に来るからと伝えた。




