行ったり来たりの異世界譚~基地祭ですよ~
初めまして、もしくはお久しぶりでございます。
なんちゃって自衛隊in異世界第二弾です。
自衛隊に関しては武器を持っていて、災害救助してくれる人たちと言う程度の認識で書いておりますので、その辺りの突込みは無しでお願いします。
自衛隊が原因不明の現象により、ガルアシア王国に転移して数か月。
基地から一番近い「ご近所さん」サーサ村ではオセロが大ブームを起こしていた。
事の始まりは、とある隊員の息子が給食の牛乳瓶の蓋を大量に持っていたことに始まる。
…と、大げさに書いても言っていることは同じなのでぶっちゃけてしまえば、大掃除の際、机の引き出しから見つかった大量の牛乳瓶の蓋、それを無情にもさっさと捨てようとする妻と泣いて止める息子…。
年末の良くある風景に、夫であり父である某隊員は折衷案として、牛乳瓶の蓋をオセロの駒にしようと提案した。
ゴミが増えると文句を言う妻をなだめすかし、休日を丸一日つぶして、息子と一緒に、牛乳瓶の蓋をオセロの駒へと化けさせていけば、なんと二組分のオセロの駒が出来上がった。
(溜めすぎである、ママが怒るのも無理はない。)
ただ、出来たものは使わなければまたただのゴミになる。
そんなわけで軽い気持ちで、彼はそれを息子の承諾を取り、雪に閉ざされ外で遊べず退屈しているサーサ村の子供たちへ贈ったのだ。
単純で、ルールさえ覚えれば小さな子供から、老人まで遊べるそのゲームの魔力を考えもせず…。
などと書くと大げさのようだが、実際に日本でも発売当初は老いも若きもオセロに夢中になり、大きな大会も開かれるなど大ブームを巻き起こしたらしいが、そんなことも今は昔、ごくありふれた物であるがゆえに、その隊員も深くは考えず、暇つぶしの一つとして贈ったに過ぎなかったのだ。
…が、人生何があるかわからない。
「あのオセロってのはもっと作れないのかい!?」
血相を変えて駐屯地に飛び込んできたサーサ村の村長グルの様子に唖然としていれば。
「子供たちが貸してくれねえんだよ!ジフとの決着がついてねえのに!奴秘蔵の樹蜜酒を分捕れるチャンスなのにいいいい!」
と、村長としてどうだろうか、な言葉により状況は把握できた。
それよりグルさん、仕事は良いんですか?と控えめに尋ねれば。
「そんなもん、オセロするために、とっくに終わらした!なのに子供たちがまだ勝負がつかないとかでぜっんぜんこっちに回してくれねえんだよ!。」
地団駄踏みながら力説するグルに隊員たちは顔を見合わせながら、本気で困っていた。
オセロなんていまどきスーパーでも売っている、しかし素材がよろしくない。
ガルアシアと日本との取り決めの中に、現地での製造が向こう百年かけても無理そうなものは極力譲渡しない、という取り決めがなされているからだ。
つまりはプラスチックでできたオセロはアウトなのだ。
紙製の手作りオセロなら問題がなくとも市販品はアウトだ、こんなことで給料差っ引かれたくないので、こっそり市販品を差し上げるわけにもいかない。
だからと言って手作りなんて今から作っていては日が暮れる、グルのこの様子ではそんなに待ってはもらえないだろう。
「…あー、じゃあ作り方教えますんで、グルさんご自分で作られます?」
そうして、うっかりオセロを送った張本人が、同僚達の刺すような視線に負け、これまた折衷案を提示した。
瞬間グルの目が爛々と輝いた。
思わず後ずさりながら、でもかなり時間がかかると言えば、若い衆に手伝わせると村へと、駆け出して行った。
「前々から思ってたんですけど…。」
「おう。」
「グルさん、人使いって言うか、若者使い、荒いですよね…。」
「…自分も昔こき使われた口なんだろ。」
「…そうですね。」
「っていうか、人力が一番のこの世界で動けるのがこき使われるのはしかたないんじゃねえ?」
俺らと一緒で…。
人力万歳の自衛隊の面々は同僚の言葉に、小さくああ、と呟く。
痛いほど実感できる言葉だった。
かくして、自衛隊基地内にて俄か工作教室が開かれ、最初に送った二組のオセロ以外に、話を聞きつけた
大人たちの手により、十組のオセロが作り上げられたのだった。
そんなにたくさん作ってどうするんだと、内心思っているのが駄々漏れていたのかグルが上機嫌で。
「村に来なさる騎士様達も興味をお持ちみたいでなあ。」
と言って意気揚々と帰って行った。
雪の始末が滞り他の村々との行き来ができないとの苦情に、なかなか動いてくれない騎士団への、ご機嫌取りの品にするらしい…。
実は日本の豪雪地帯と張れるほどの積雪量を誇るサーサ村周辺は、人の手でどうにかできる限界を超えている。
その為毎年、騎士団に救援を頼むのだがまだまだこれからも大量の積雪があるこの時期は、彼らはなかなか動いてくれないらしい。
…まあ、仕方のない事だろう、機械文明の一切ないこの国で下手に動き回ればあっという間に二次災害どころの騒ぎではなくなるだろうから、そこは慎重にならざる得ないだろう。
「俺らの除雪機出してもいいけどなあ…。」
「さすがに一切の舗装がされてない山道は無理ですもんねえ。」
基地の周りを恐ろしい程まめに人力で除雪し続ける彼らに手伝ってもらおうと思わないあたり、グルも騎士団の面々も人が良いのだろう、…まあだからこそ今日も自衛隊ガルアシア駐屯地は平和なのだろう。
ちなみに基地内部は完全に日本の気候の影響を受けているので、本日は実に心地よい小春日和である。
うらやましがるサーサ村の面々に。
「夏は地獄ですよ。」
と言っても全く信じてもらえないので、真夏の盛りにぜひとも招待して差し上げようと、無言で頷き合う面々に、司令官が呆れたように。
「お前ら、程々にな。」
とくぎを刺したのは、当然の話だろう。
何せ油断すると本気で死者が出るのだ、それはもうあっさりと。
話を聞くに湿度もあまり高くなく、日陰で十分涼が取れる涼やかな夏しか知らないサーサ村やその周辺の住人にとっては、確実に未知の領域なのだ、こちらが気を付けてやらねば確実に死人を出す。
まあ、そんないたずらだか何だかわからない計画の実行はもう数か月後にするとして。
とりあえず今は基地の真横にどんっと積まれた雪たち相手に格闘しなければならないのを思い出し、隊員たちは一斉にため息をついた。
「…所で、今度の基地祭のために雪像作ろうなんて言い出したの誰なんでしょう…。」
「知るか、つうかデカい雪だるま程度ならともかくなんでこんな凝った雪像にしようと思ったんだよ…。」
デカい雪だるま…でなく某青いネコ型ロボットの横の複雑怪奇な雪の塊を睨み付けて年嵩の隊員は思い切り口をへの字にしていた。
それはものすごく大きな岩に絡みついた龍と虎のにらみ合いの図…、とりあえずどちらも削り出すのに失敗しそうになってひやひやしながら作り出した竜虎の像、そしてその横にはさらに難しかった火を噴くドラゴンと勇者のパーティー最終決戦の像、どちらも馬鹿みたいにデカくて、勇者パーティーご一行ですら巨人サイズだ、ドラゴンはそれよりでかいので、大きさは推して知るべし、ちなみに構図が複雑すぎてドラゴンの方は壁画風になっている。
ちなみにこういった作業は寒冷地での訓練内容として正式に認められているので、今回のこれも一応訓練の一環として行われている。
「北海道から転勤してまでやらされるとは思わなかった…。」
とはある隊員の小さな嘆きの呟きであったが、温暖な気候の基地勤務でやらされるなんて誰も思わなかったに違いない。
「やべえ、気が遠くなってきた…。」
「頑張ってください、寝たら死にます。」
「…せめて、基地内に放り込んでくれ…。」
「…って、言ってるそばからああああ!マジで寝ちゃダメです、死にますよ!?」
デカいのを三つも作ったというのにまだ続くその作業、冗談だか本気だかわからないこんな会話があちこちで飛び交っていた。
そうして、雪像をなんとか作り終え、基地祭を開催することになったのだが、一つどうしようもない不安材料があった。
どこかの国の諜報活動員等が入り込まないか、という物だったがなぜかあっさりと解決した。
彼ら及び、ガルアシア側に何かしらの作為を持った人間は入れないのだ、東門から基地内に、前にあった強行突破事件と同じく、東門からそのまま、自衛隊基地の空き地の方に素通りしてしまうのだ。
害意の無い人々は普通に行き来でき、害意のあるものだけ侵入を拒める、こっちの意図など関係なく…、
これ程楽で正確な防衛システムは無いだろう、何せどんな人間も自分自身の中の相手へ向ける害意までは
ごまかしようがないのだから。
因みに、隠しカメラ等も弾けるらしく、何の含みも無い一般市民の私物にこっそり紛れ込ませたらしい物が、
門の側に持ち主不在で山積みにされていく光景には、もう笑うしか無かった。
その様子に防衛庁幹部もあきれつつも。
「いっそ日本全土これと同じ状態にできたら楽なんだが…。」
と呟いていたとかいないとか。
何はともあれ、何の憂いも無く開催できることとなった基地祭。
やって来た関係者を含め、一般の人々のテンションもかなり高めになっていた。
何せ「お気軽にどうぞ。」とお誘いしたご近所さん達がとんでも無いものでやって来たのだ…。
「ちょっ!ペガサスなんて聞いてない!」
「えええ!?ユニコーン!?いるの!?普通に!?…てか、幼女専用ってマジモン!?」
「騎士団ンンンンンン!!お願いですから自重してください!空飛ぶ羽兎ってどんだけファンタジー!?」
「…え?逆じゃねえの…?騎士団の方がペガサス…は?その羽兎肉食…はあ、気性も荒いんですか、そうですか…。」
牙をむき出し、こっちを威嚇してくる羽兎に何だか悲しい気分になった。
動物好きの数人がもふもふしたがっていたが、気性の荒さから断念せざる得なかった。
ただ主人である騎士には余程慣れているのか気持ちよさそうにもふられていた、ちょっぴりずるい…と思ったのも内緒だ。
因みにこれらの動物(幻獣?)達は冬場専用の乗り物でその他の季節は各々の生息地で暮らしていて、冬になると子供を連れて主人のもとにやってくるという、半野生生物なのだそうだ。
何だか生物学者の方々が目を血走らせて研究させろと言ってきそうな存在だと、幹部たちがため息をついている横で、騎士団の面々もとある一点を見つめ、硬直していた。
その目線の先には隊員たちが作った雪像、大きさに驚いているのかと思ったら違った。
「何と、ドラーダ…。」
「ドルーグの姿まで、ニホンにも居たのか…。」
と何やら聞きなれない名前を呟き、まじまじとドラゴンと龍の雪像を見ていることに不安を覚えて。
「いやいや、それは想像上の生き物ですから、居ませんよ…?」
と言ってやれば、そうなのかと首を傾げ。
「それにしては見事な程本物にそっくりだ。」
と言うので、こちらにドラゴンと龍が居ることが確定してしまった。
横で立ち聞きしてた一般の人々の目が輝いているが見ないふりをする事にする。
「え…と、ベルーダさんはこの二体見た事あるんですか…?」
おずおずと、怖いもの知りたさで尋ねれば深く頷かれ。
「小型のドラーダは卵のうちから育てれば人によくなれ飼うことができる、他の家畜より力が強い上に、飛ぶこともできるからどこでも重宝される、さすがに中型や大型のドラーダや、ドルーグが人に飼われる事は無いが、二度程野獣の討伐の際に見かけたが実に勇壮な姿をしていた。」
因みにこの二種は人の手でどうにかできる存在ではないので、何か起こっても騎士団でも住人の避難以外は手出し無用、自然災害と同レベルの扱いらしい。
「で…どちらがドラーダでどっちがドルーグなんです?」
どこかわくわくしながら聞く若手を白い目で見ながら一応分類について聞いておこうと目をやれば、ベルーダがドラゴンを指さし。
「こちらがドラーダだ、この大きさだと中型種だな、小型種はそこの獣ほど、大型種は貴殿らのヒコウキ程だと思うが…。」
と言われ、思わず背筋が冷える、中型種でヘリサイズって…自然災害認定は伊達ではないらしい。
「そしてこちらがドルーグだ、ドルーグは基本一種、色の違いでしか見分けれぬ、今この辺りを縄張りとしているのは、金色の若いドルーグらしいのだが私はまだ先代の黒老<雷雲公>しか見た事は無い。」
龍の方には何だか字名っぽい物までついてる、なんか怖い。
「…ああ、そういえばそろそろドラーダの産卵の時期だ、この時期は雄も雌も気が立っている、気を付けてください。」
なんて、怖い事を付け加えて、あっさり去っていく騎士団長を恨みがましく見つめる隊員たち。
「…あれ、フラグ立ったろ絶対…。」
「やめろ、言うな、そしてあの人に悪気は一切ない。」
なんせフラグなんて言葉は知らないのだから。
今日日そこそこゲームかネットに触れてれば、たいがい皆知っているそんなスラングを、異世界生まれ異世界育ちの騎士様が知っている訳が無いのは判っているが、それでも恨みがましく言ってしまうのはまあ、人のサガである。
「というか、お前さんのその台詞こそフラグだろ。」
そんなことを言い合いながらも、様々なイベントを粛々とこなし、途中女性隊員たちの一部が、ユニコーン触れられることに、サーサ村の人々が同情の眼差しを向けることに、涙目になりながら。
「普通ですから!日本の結婚適齢期は二十代後半です!私たちは日本の女性としてはまだ適齢期ですら!」
と言っている横で。
これなんて羞恥プレイ…。
と女性隊員たちに同情の眼差しを送りながら、男性隊員たちも頷いて彼女たちにささやかな、援護射撃を送っている。
というか、女性の適齢期が14歳、16歳で行き遅れという習慣のサーサ村の人達と一緒にされては、日本女性はほぼ100%行き遅れである。
因みに騎士たちがその言葉に微妙に色めき立っていた、騎士たちは貴族だが、貴族の結婚も相当早く、男女とも12歳までには婚姻を済ますのが普通らしいが、騎士は訓練に明け暮れ、一人前になるまで未婚の誓いを立てなければならないとかで、一人前になる頃には、めぼしい令嬢は人妻になっている。
結局余程のご縁か寡婦になったご婦人にでも出会わなければ騎士は生涯独身なのが普通らしい。
「世知辛いねえ…。」
「俺らも人の事言えないだろ、あー、くそ、高校時代の彼女、別れるんじゃなかった…。」
「今度基地主催で、お見合いパーティーやるらしいぞ。」
「…結婚前提のお姉さま方より、普通に軽い感じの彼女がほしいんです。」
「騎士の方々もお誘いしますか?」
「いやあ、いくらなんでも無理だろ、戦闘職って括りは一緒だが実質外国に嫁行くようなもんだぞ。」
それにいつまで、ここがこの状態に保てれるのかもわからんのになかなか嫁には行けんだろ…。
との言葉に、一同がしみじみと辺りを見渡す。
基地の建物にヘリに戦車、その横をユニコーンやペガサスに乗った人々が通り過ぎ、銃の展示スペースの前では、甲冑を纏った騎士たちが何やら真剣に、隊員の説明を聞いている、一面真っ白な雪景色のすぐ横にも関わらず、柵の中の基地内部には木々が色鮮やかな花を着けている。
まったくもってファンタジー、まったくもって非常識、この光景がいつまで見られるかわからない。
突然始まったからには、突然終わる事も十分あり得る、その可能性の方が高い、ならば確かによほどの覚悟がなければ此方に来ようなどとは思えないだろう。
「…まあ、自由恋愛までは口出ししませんって方向でいいっすかね。」
「…そういう事だな、当事者とその関係者の問題だからな、その辺は。」
そうして、この話はいったん強制終了し、なんだかんだありつつも、基地祭の方も、予定していたイベントは終了し、予定していなかったイベント。
グル持ち込み企画、大オセロ大会(賭け事禁止by防衛相)も盛大に終了し、勝ちに行く気満々だった、グルをはじめとするサーサ村の男たちはあっさりと一回戦で負け、泣き崩れる中、実は騎士団に紛れてお忍びできていた王弟(25歳イケメン)と囲碁のプロ棋士(35歳男前)との決勝戦が異様に盛り上がり女性たちの黄色い声援が飛び交う中一駒差でプロ棋士の優勝となり、大いに場を盛り上げた。
そしておもむろに立ち上がった二人が、がっしり握手を交わしつつ。
「楽しい戦いであった!城の者達は弱すぎて相手にならなかったのだ、良ければまた対戦してくれ!」
と上機嫌で言う王弟に対し、棋士の男性もにこやかに。
「私でよろしければ、ですが私の本来の領分は囲碁ですので、よろしければ今度それをお持ちします。」
「囲碁…?何だそれは、それも何かの遊戯か?」
「はい、このオセロの元となったもので石も碁盤も遥かに多く手も複雑になりますが。」
「何と!そのような物があるのか!それは楽しみだ!」
そんな話をしながら、また新たなゲームの種をぶち込んでくれたプロ棋士を一部の隊員が恨みがましい目で見ていたが、結局それは杞憂に終わった、オセロと違い複雑で時間のかかる囲碁は貴族の嗜み、というあつかいになったからである。
今度は囲碁まで作らされるかと戦々恐々としていた面々はこっそりと安堵の息を吐いたのだった。
因みにその後、お抱え囲碁士なる立場を賜った彼の元、貴族を中心に何人かプロが出る事になるのだが、それはまだ先の話である。
その先頭に立つ王弟に至っては、名人にまで上り詰め、8連覇を成し遂げるのだが、それもまた先の話である。
ともあれ優勝賞品の酒類20本入りを受け取り、上機嫌で帰っていくプロ棋士殿にサーサ村の面々が、
「俺達の酒がー!!」
と、大騒ぎしていたが、優勝賞品なので諦めてもらうしかない。
因みに優勝賞品の酒類は、隊員の実家の酒屋のコネで比較的安価で手に入れた、日本の銘酒十本とワイン、ブランデーの詰め合わせである。
こちらの酒を飲みたいという、サーサ村の面々と、某取り決めの都合上譲渡が難しのでは、と渋る自衛隊の面々とのせめぎ合いの結果、じゃあ、何かの景品にと言う形になり、「じゃあオセロだ!」と言い出したのは、サーサ村の面々である。
まさか毎日のようにやっている自分たちが完敗した上に、あんな反則的な人材が来るなどと思いもしていなかった、サーサ村の面々の負けである。
準優勝にも某有名な洋酒が送られ、王弟の持ち帰ったそれを一緒に飲んだ国王が、大いに気に入り、それを聞いた政府から定期的に様々な酒が献上され、特別な行事の際には臣下や他国からの来賓にもふるまわれ、人々を虜にしていった。
とうとう我慢できなくなった国王の命令と要請により、本場の職人達指導の下、国を挙げて酒造りを始められることになるのはその数年後。
数十年後には国のあちこちで、個性あふれるうまい酒が造られるようになり、他国にも輸出されるほどとなり、国の経済を大きく助けることになるのだが、それはまだまだ先の話である。
結局のところ、日本とガルアシアは、これよりかなり永くの時を、最も近い隣国同士として歩むことになる。
一度は途切れかけた国交を、日本が技術と根性とアイデアで何とかしてしまったからだ。
時空をつなぐというとんでもない事をやってのけたその頃の日本に、世界はまた、喧々囂々の大騒ぎとなったが、どこまでいっても日本は日本のまま、世界でも上位の経済国と言う立場の、日和見国家日本として、のほほんとガルアシア王国と共に、歩み続けた。
ともあれそれは、まだ誰も知らない遠い未来の話、今はとにもかくにも。
「イベント終了!撤収かかれっ!」
の号令のもと、あと片付けである。
わらわらと、片づけに追われる隊員たちの傍らで、帰路に着こうとした、ベルーダが思い出したように振り向き。
「島田殿、すまぬがまた害獣駆除の手伝いをお願いできるだろうか。」
と言われ、名を呼ばれた隊長が手を止め、彼に歩み寄る。
「構いませんよ、またモンカですか?」
以前手伝った大きな蚊の姿を思い出しながら尋ねれば、ベルーダは困った様に。
「いや、あれよりさらに厄介なのが居てな、レドモンと言ってな、数体ならともかく、かなりの数が集まってしまったらしい、雪解けの種まき前に、なんとかしておきたいのだ。」
そうしなければ村人に危害を加えかねない、と言われれば完全に自衛隊の害獣駆除の対象である。
「わかりました、それでレドモンはどんな生き物ですか?」
蚊すらデカい、龍やドラゴンもいる、ただし名前が違う、そんな世界では名前からは推測も立てれない。
「ありがたい、後で伝令にレドモンの資料を持ってこさせるので、またよろしく頼む。」
ほっとしたように笑って、そう言って去っていく、ベルーダに、島田は朗らかに笑いつつも。
こりゃ相当厄介なモンだな。
と心の中で、呟く。
基本騎士団は自分たちでできることに、自衛隊の手を借りようとはしない、当然だ、今はこの国にいるとしても自衛隊は他国民だ。
己の国は己で守る。
その信念を曲げることなく、過剰でなく持ち合わせる彼らは、正しく国の防人だ。
そんな彼らが、わざわざ自衛隊に声をかけるという事は、自分たちだけでは周りの村々に被害を出しかねないと思うからこそだと、
短い付き合いながら理解している島田は、飛び去って行った、ベルーダ達が見えなくなるのを見計らい。
「北野!聞こえてたな?ここの監督はお前に任せる、俺は司令官に話を通してくる。」
「了解しました、それにしてもレドモンって何ですかね?イノシシとかですかね。」
「さあな、だとしても下手すりゃ牛ぐらいのデカい奴かもしれん、場合によっては重火器が必要かもしれんからな、藤野!伝令が来たらそのまま司令室に案内してくれ。」
「了解です、私でいいんですか?」
ご指名に首をかしげる女性隊員に、島田は笑いながら。
「いいんだよ、そういうのは、むさ苦しい男より可愛い娘さんの方が向こうさんの緊張もほぐれるだろ。」
礼儀作法は男女一律みっちり仕込まれているのだ、だったら華があった方が相手も嬉しいだろうし、なれない相手の本拠地で少しは緊張も解れるだろう、という島田なりの配慮である。
「あー、その方が連絡のミスも少なそうですもんね。」
藤野も納得し頷く、連絡ミスも、し忘れも、お互いの見解のズレも、作戦行動に置いては命取り、ならば根掘り葉掘り聞きだすためには相手を緊張状態のまま放置するのはよろしくない、まあそういう事である。
用意周到、有ってよかった、があるかもしれない限り、自衛隊と言う組織は事前準備に手を抜かない。
そうして、隊員達は各々すべき事を的確に、黙々と、進めていく。
害獣駆除かぁ、爬虫類はやだなぁ、でっかい蝙蝠とかだったらどうする?しかも吸血の、とか言いながらまじめに仕事をしつつ、大穴でオオカミ!しかもでっかいの!それもカッコいいけど、案外ネズミとかかもしれんぞ、カピパラサイズの、しかも凶暴な、とか盛り上がって、腕立て二十回だの、片づけ後、駆け足三十周だの言われるのも自衛隊クオリティー。
どこに行っても自衛隊は自衛隊のまま、今日も自衛隊ガルアシア駐屯地の日は暮れていく。
次回害獣退治!…するのか?何年後になるかわかりませんが、もしよろしければ目に留まった時は、暇つぶしに流し見てやってください(土下座)