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序章
私が持っていたものは、二つを残して全て失ってしまった。
しかし後悔など微塵もしていない。
なぜなら、失ったものの代わりに沢山のものを手に入れたからだ。
私は今、とても幸せだ。
同時に怖くもある。
私などがこんなに幸せで良いのだろうかと幼少期の記憶を思い出しては不安に思う。
そのたびに首を振って〝私〟なのだから、幸せで良いに決まっていると言い聞かせる。
こんな自問自答の日々も、最近は少なくなってしまった。
いつか、この幸せな日々に順応し、昔の事など忘れてしまうのだろう。
随分と贅沢になってしまったものだ。そんなものが、今では勿体ないと思うのだから。
だから私は、幼少の記憶を忘れないために、筆をとりこうして記録することにした。
過去にたった一度だけ、馬鹿だった自分を褒めてやりたいと思ったあの瞬間。
それをたまになら思い出してやっても良いと、そう思ったからだ。