第五章 妥協で選んだ相手とはうまくいかないのか
パーティーの後、複数名から申込みがあり、その中の何名かと繋がりを持つことにした。
ただ、これまで好きになってから付き合ったり、過程をスキップして関係を持ってしまってから好きになって付き合うという恋愛しかしたことがないので、好きという気持ちが全くない状態で異性とどういう風にして関係性を築けばいいのかわからない。
まして、お互い結婚を目標としているのだ。
メールから始めてから結婚まで到達するまでの過程を想像したが、常に都合の良い解釈をしながら、勘違いを積み重ねて、錯覚の中で結婚をするという結末しかシミュレートできなかった。
しかし、それでも、やるしかない。
今の自分では、こうでもしなければパートナーは見つけられないのだから。
パソコンのブラウザで自分への申込み一覧を見ていると、パーティーで同じテーブルだった女性から申込みがあった。顔の造形が雛形あきこに似ていたことを記憶している。
(あのアキコさんか……)
いろいろ話していたような気がするが、会話がかみ合わず、フリータイムでも接点がなかった。
最後のマッチングでも付き合ってみたい候補の3人の内の一人としていたが、私も彼女もマッチング成立とはならなかったため、向こうが私を候補に入れていなかったことは明らかである。
そのアキコさんが私に申込んでいる。
それは、パーティーにおいて意中の相手とマッチングできなかった現実を受け止め、改めて相手を選び直したということである可能性が高い。
(妥協したな。……まあ、でも)
短い時間だったから、話がかみ合わなかったのは、たまたまだったのかも知れないし、もう少し腰を据えて付き合うことができれば、印象も変わるかも。
そう考えて、アキコさんとの申込みを了承した。
掲示板によるメッセージのやり取りは、予想に反して非常に軽快だった。
絵文字、顔文字が飛び交い、振った話題も盛り上がる。久々の異性とのやり取りに、エッチな要素が微塵もなくても、テンションは上がりまくった。
これならいける、確信に近い思いが私を積極的にする。
「今度、食事しませんか?」
「いいですね。Mさんとゆっくり過ごしたいです。」
(おっしゃー!)
思わずガッツポーズをとってしまう。
その後、具体的な日取りについて調整し、店を予約する。
約束の日まではしばらくあったが、相変わらず掲示板でのやり取りは順調で、パーティー以外でアキコさんと会えることを心待ちにしていた。
しかし、当日、待ち合わせの時間の2時間前、
「ごめんなさい。体調が悪くて、会えそうにありません。」
というメッセージが送られてきた。
「大丈夫ですか?食事の件はお気になさらないでください。お大事になさってください。」
残念だったが、具合が悪いなら仕方がない。そういうこともあるだろう。
一緒に行くはずだった店には昔の同僚を誘い、開いてしまったスケジュールと心の隙間を埋め合わせた。
自宅に帰って、パソコンを起動する。
(アキコさんの具合が心配だな。落ち着いたら、また、改めて食事の約束をしよう。)
やり取りしている掲示板を開こうとすると、見慣れないメールが届いていた。
「アキコさんとの掲示板が閉じられました。」
「『ごめんなさい』というメッセージが届きました。」
これは、食事をドタキャンして「ごめんなさい」というメッセージではない。
私とのやり取りを金輪際拒否するという意思表示だった。
(え、なんで……意味がわからない)
一度、掲示板を閉じられると、もう相手にコンタクトをとることはできない。
自分のどこが悪かったのか、何が気に入らなかったのか、それを確認する術はない。
食事に誘うタイミングを計り違えたか。
楽しかったのは、自分だけだったのか。
頭の中で理由を探るのみである。
もしかしたら、他にいい男から誘いがあって、自分は梯子を外されただけかも知れない。
向こうから申し込んできたくせに、こんな不誠実な終わらせ方をするのか。
自分を否定されたような気がして滅入る。
相手が見つかるまでこんな思いを何度も感じなければならないのか。
(婚活……正直言ってナメてたな。)
閉じられた掲示板のメッセージを閉じる。
そして、アキコさんと並行してやり取りしている女性の掲示板を開いて、いつものようにメッセージを送る。
アドバイザーは言っていた。
「会わないと始まらないですよ。どんどん会って、ダメだったら次にいってください。」
「相手に気を遣って関係を続けるのは逆に不誠実ですよ。気にしないで、切ってください。」
今回は、向こうに切られただけ。自分が否定されたわけではない。
この一件を機に「数打ちゃ当たるかも知れない作戦」に移行する。
そして、それは功を奏し、複数の異性と実際に会うことになるのである。




