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はじめての婚活  作者: イマエサン
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第一章 ステータスが足りない!

 40℃近い熱がある状態で、これを書いている。

 体が動かないので、外に出られず、この二日間、水しか飲んでいない。

 こういうとき、誰かに労わってほしい……

 心が弱くなり、婚活への思いが強くなるのである。さて、前回の続き……


 どのように異性と話すのか、司会者から説明があった。まずは、女性が壁側の席に座り、通路側にスタンバイした男性が3分ごとにチェンジしていくということだった。

 事前に記入を求められるプロフィールカードには、趣味や結婚したらしてあげたいこと、してもらいたいことを書くようになっている。年齢、年収、学歴を書く欄はない。

 案内されるままに、席につく。目の前にはおそらく自分と同じような年齢の女性がこちらをじっと見ていた。


 軽く会釈をする。


 司会者がブザーを鳴らして、会話を始める合図を送った。時間を無駄にするわけにはいかない、とりあえず、趣味のことを聞いてみようか、と逡巡していると、思いもよらない言葉を投げかけられた。


「あのう。年収はどれくらいなんですか。」

「えっ?えーっと……○○○万円くらいですかね。」

「ふーん、じゃあ、30歳くらいなんですね。」

「いえ、37歳ですが……」


 そう答えた途端、女性は目を見開いた。


「正社員……ですよね。37歳で○○○万。信じられない。大丈夫ですか?」


 いきなり年収を聞く方が信じられないのだが。


 苦笑いでスルーし、名札で名前を確認しながら、服装のブランドそのものを褒めつつ、3分が過ぎるのを待った。

 きっと、こういった人は稀だ、次に期待、と気持ちを切り替え、隣の席に移動する。

 さっきは先手を取られたから、あんな残念な結果になってしまったのだろう。座る間際に声を掛ける。


「こんにちは。どこから来はったんですか?」

「神戸です。わたし、一人っ子で、養子に来てくれる人じゃないとムリなんです。」


 突然、家庭の事情を告げられて、鼻白んだ。


「僕は京都なんですよ。」

「ご両親はご健在ですか。ご兄弟は?」

「どちらも胃がんを患っていましたが、今は大丈夫ですよ。妹が1人いますが。」

「……そうですか。」

「えーっと……ご趣味は」

「………(シュッ、スパン!)」

 プロフィールカードを裏返しにされてしまった。いい音したなあ。


 今日は、運が悪いのかも知れない。整髪料の香りだけを褒めながら、時間が過ぎるのを待ち、次の席に移った。案の定、年収を聞かれたので、5割くらい盛って答えてみると、反応が違ったため、少し心が痛んだ。


「ところで、大学はどちらですか。」

「大学ですか。大学と言われましても……」

「言えないようなところなんですか?」


 その女性の輪郭が滲んだ。夢でも見ているかのような気分になる。

 初対面で放つ言葉とは思えない。これは、果たして現実なのか。


「大学で人を選ばはるんですか?」


 冷めた感じで問い返す。すると女性は、途端に申し訳なさそうに答えた。


「そうじゃないけど、ホームページにね、ここに来る男性というのは、年収が800万円以上で、関西有名私大卒の人が9割だと書いてあったもので、つい、確認したくなったというか。ホンマかなって。」


 自分で試されたことに腹が立った。

 どちらにも当てはまらない自分が、そう見えなかったから試されたのかと思うと悔しかった。

 口調がきつくなるのが自分でもわかる。


「もし、自分が女性の立場で、条件だけで決める人間だったとしたら、そんな物件はとっくに売れているか、何か問題がある人ばかりだと思いますけど。我々には源泉徴収票の提出義務もないですからね。嘘もつき放題です。」


「だと思っていたんですけど、ほら、このパーティーって、あのカードの審査を通った人しか参加できないじゃないですか。だから、ひょっとしたら、そういう人もいるかな、と期待してしまったんですよ。」

「カードって、どんな目的でも使って返していれば信用も付くから、あのカードを持っているからといって、皆が皆、ステータスが高いとは言えないでしょうね。」


「そんなこと言われなくても……Mさんって、なんだか冷たいですね。言われません?」

「あなたみたいな人には言われます。すみません。言わなくてもいいことでしたね。」


 途中、主催者のスタッフに呼ばれ、せっかく婚活パーティーに来ているのだから、女性を困惑させるようなことを言わずに楽しんでください、と忠告を受けた。おそらく、さきほどの女性がスタッフに相談したのだろう。


 経済力も学歴も人を形作る要素だが、それだけが「個人」ではないはずだ。そういった条件が揃っていることが最低条件で、人としてのフィーリングが合ったのなら結婚するという流れでは、私は一生結婚できないのではないか。


(イケ面だったり、ステータスが高そうな雰囲気だったら、最初から年収を聞かれなかったのかもな。)


 もう帰りたい。心の底からそう思った。


 しかし、主催者が帰って欲しそうな表情でこちらを見たような気がしたので、意地でも最後まで居てやろうと決意した。

 そろそろ、フリータイムだ。

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