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骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中  作者: 秤 猿鬼
第二部 刃心の一族
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なんと理不尽

 あまり幅の広くない森の中の道、その左手は少し土手になっており、一段高い場所に木々が根を張り土を固定していて、その上は藪に覆われて奥を見通す事は出来ない。


 そんな森の中の道を四頭立ての黒塗りの大きな馬車が足早に進んでいる。


 黒い馬車は装飾の類は大人しく質素な造りに見せてはいるが、その細部に至るまで職人の技巧が施された技を見れば、それが高貴な者の為の馬車である事が窺える。


 その大きな黒馬車の前後には整然と並んで進む騎乗した騎士や、それに追従する兵士など総勢で五十名以上の集団がその馬車を守るように配置されている。

 皆それぞれ揃いの装備で身を固め、油断なく歩を進める姿はかなりの練度を思わせる。


 そんな集団の中に黒馬車に並走するように大きく立派な馬に跨り、一際拵えのいい防具に袖を通している者がいた。

 茶色い髪を丁寧に()き、少し角ばった顎をひき油断なく辺りに目を配る若い男。


 ローデン王国七公爵家の一つ、フリヴトラン公爵家の嫡男であるレンドル・ドゥ・フリヴトラン、彼はこの黒馬車の護衛の任を拝命した指揮官でもあった。


 黒馬車に乗車している貴人の事を思えば、護衛の人数はこれでも少ないくらいである。 しかし人数が増えれば当然速度も落ちる為、今回は先を急ぐ事を優先し、特例として人数を絞った形をとるしかなかったのである。


 この一行の目的は迅速に黒馬車の主を秘密裏にリンブルト大公国まで送り届ける事で、その為道中の主要な領主街はあえて避けて通っている。その為、本来進む街道とは別の道を選んでいる。


 こういった道は不意の魔獣や盗賊に気を配る必要があるが、五十名を超える精鋭を押し退けられる者はそうはいない。

 しかし護衛の任を任されたレンドル卿はそんな油断など全く見せず、ここまでの道を一日半の速度で進めて来ていた。


 黒い大きな馬車の中、一人の貴婦人が車窓から見える森の隙間、そこから覗く灰色の空を眺めて溜息を吐いた。

 ローデン王国第二王女であるユリアーナは年齢こそ十六とまだ若く表情に幼さが残るが、その物腰は立派な貴婦人然とした雰囲気を纏っていた。

 黄色味の強い金髪を手元で弄びながら落ち着きない雰囲気を漂わせるユリアーナに、脇に静かに控えていた侍女が焼き菓子を差し出しながら声を掛ける。


「ユリアーナ様、何か御口に入れて落ち着かれてはどうです? 今回のリンブルト訪問に際して何か気懸りでもあるのですか?」


 ユリアーナは傍らで心底心配そうな表情を浮かべている幼少からの付き合いである侍女フェルナに、(かぶり)を振って焼き菓子の差し入れを辞退すると、困ったような表情をつくる。


「今回の訪問、内々で進めてここまで来たのに何か胸騒ぎがするのよね。ここまでの距離を今の速度で来ているなか、追手が掛かっても足は届かないと思うのだけど……」


 そう独りごちながら馬車の窓の外、今にも泣きだしそうになった空を眺める。胸中に渦巻く言い知れぬ不安が、まるで空に滲み出したかのように覆い隠していくのを見上げながら瞼を閉じた。


 そんな時、馬車の前方──、隊列の最前列から悲鳴と怒号が辺りに響き渡った。


「敵襲ー!!!」


 すぐ馬車の横で併走して部隊の指揮をとっていたレンドルから、部隊全体へ厳戒態勢を促す為の号令が掛けられた。

 その号令によって部隊が一つの生き物のように、予め定められた防御姿勢をとりながら馬車を守るように動く。


 それを確認しながらレンドルは部隊の前方、その先の敵を睨む。

 王都を密かに出発してから、ここまで来るのにかなり速い速度で進んで来たにも拘らず待ち伏せを受けたという事は、読まれていたという事に他ならない。

 その事実に自分自身に苛立ちを覚えるレンドルだったが、今はそのような事に思考を割いている時間はなかった。


 第一王子派か第二王子派かは分からないが、盗賊ではない事は一目瞭然であった。部隊の前方に飛来する幾つもの【火炎弾(ファイヤバレット)】は魔法師の放つ魔法の一つだった。

 複数の魔法師が単なる盗賊などに身を置く訳がないのだ。


「敵は魔法師! 魔法攻撃を防げ! ミスリルの盾を持つ騎士を前面に押し出せ!」


 レンドルの指示に複数の騎士が盾を構えて前方に展開して、その後ろから追従の兵が弓を射かける。そして部隊全体を前に押し進めようとしたその時、今度は後方から複数の矢が射掛けられて後方に配置していた兵達に突き刺さった。

 さらなる奇襲に兵達に悲鳴と動揺が走るが、レンドルの一喝に精鋭である彼らはすぐに士気を立て直した。


 幸いな事にここが森の中の道という事もあって、山なりに弓を射掛ける事が出来ず水平に射られた事により、最後列にいた兵にしか矢が届かなかった。

 後方には百近い野盗のような恰好した者達が姿を見せるが、その動きは訓練された軍隊のような動きだった。


「後方に三十で防御陣! 賊を近づけさせるな!! 残りは馬車と共に前方を抜けろ! 何としてでも馬車を守り抜け!!」


 号令に従って部隊が二つに割れて動き出す。

 多勢に無勢の為、強力な魔法攻撃をしてくるが少人数の前方を突破して馬車だけでも逃がそうという作戦にでる。

 しかしどういう訳か、後方の防御陣を組む筈の部隊の一部の動きがいつもより緩慢になっており、陣形の構築に遅れが出始めていた。


 その馬車一行の護衛部隊が二つの部隊に展開していく様を、後方で奇襲部隊の指揮を執っていた男は面白そうに口元を歪めて眺めていた。


「最後にもう一度矢を放て!」


 その男が部隊に対して指示を飛ばすと、弓を持った野盗風の男達が次々に矢を番えて一気に放った。

 射掛けられた矢は、馬車の護衛の後方で防御陣を組もうとする騎士や兵に飛んでいくが、殆どは致命傷を与えられず多少の矢傷を負わせるに留まった。


 しかし矢傷を受けた護衛の兵は明らかに動きが鈍り始めており、連携を取るどころか防御姿勢を保つ事も難しくなりつつあった。


「防御を食い破れ!! 狙うは王女の命!!!」


 男の再度の号令が掛かり、総勢百名近くの野盗風の者達が気勢を上げて一気に駆けると、必死に防御態勢を構築しようとしていた護衛兵と狭い森の道中で激しく衝突した。

 動きの鈍くなった護衛兵は次々に討ち取られ、その有様はとても王女の護衛を務める為に選ばれた精鋭の動きのそれではなかった。


「カエクス様、護衛兵の動きが随分悪く見えますが、何かなさったので?」


 野盗風の男を取り纏めていた指揮官に、傍らにいた聖職者の装いをした小男が声を掛ける。護衛の兵達が蹂躙される様を、さも観劇でもするかのような笑みを浮かべながら口を開いたその男の表情はどう見ても聖職者には見えない。


「ボラン司教、こいつが種明かしだ」


 聖職者風の小男、ボラン司教にカエクスと呼ばれたその男は黒髪に鋭い眼つき無精髭を生やし、野卑な笑みを浮かべる姿は本物の野盗にしか見えない。

 だが、身に着けている革鎧や腰に差した剣は野盗が持てるような一品ではない。


 ボラン司教はその男から一本の矢を差し出されるままに受け取る。


 野盗風の男の名はカエクス・コライオ・ドゥ・ブルティオス。

 ローデン王国七公爵家のブルティオス公爵の嫡男で、第一王子派である父の命に従い今回の作戦の指揮を執っていた。


 そのカエクスから手渡された、何の変哲もない矢をためつすがめつして眺めていたボラン司教は、その真意を知ろうと再びカエクスに目線を戻した。


「なに、(やじり)に毒を仕込んだだけの事。ただし、今回の毒はなかなか手に入り難いジャイアントバジリスクの毒を使ってある。即死性は無いがかなり強力な毒だ、傷を負えば精鋭の兵だろうと直に足元が覚束なくなる」


 ボラン司教の興味を引かれた視線を心底楽しそうに受け、カエクスはその種明かしを語って聞かせる。


「ほほう! カエクス様は用意周到でございますな」


「つい最近、偶々手に入ったのでな。時間が無かったので数はあまり用意できなかったが、綻びさえ作れればあとは数で押し潰せる」


 そう言って嗤うと、馬車の後方で防御陣形を組んでいた護衛兵が総崩れになったところに目線をやり、さらにその先、黒馬車と共に前方へと押し出ようと指揮をとる男に意識を向ける。




 黒馬車の横で護衛の騎士や兵士の指揮を執っていたレンドルは、後方で味方の護衛兵が総崩れになりつつある姿を逸る気持ちで一瞥すると、自分の状況判断を呪った。

 まさか後方の防御陣形がこうもあっさりと崩されるとは思ってもいなかったからだ。


 先程前方に展開している敵魔法師に対して、魔法を弾くミスリルの盾を持った騎士を押し出して後方から一気に攻撃を仕掛けようとしたが、相手がそれに反応して魔法師が下がり、さらに伏兵がその後方から五十近く現れて防がれたのだ。


 後方も完全に崩れ去るのは時間の問題で、あまり時間を掛けている事は出来なくなった。


「騎士隊は全員『魔晶爆玉(バーストボール)』を用意!!」


 レンドルの号令により最前列で魔法師の魔法を盾で防ぎながら、前方にいる敵兵と切り結んでいた騎士隊が一斉に剣を鞘に戻すと、腰に付けた革袋から丸い球体を取り出した。


 それを間近で見た敵兵が一際大きく目を剥くと、慌てて後方へと下がろうとするが、後ろにいた他の者達は前方の様子が見通せておらず退路を塞ぐ恰好となった。


「バカヤロォ!! 下がれ!! 下がれ!!!」


 敵兵がレンドルの指示した物を見て必死に下がろうと後方の仲間に罵声を浴びせるなか、これが最後の好機とばかりに号令を掛けた。


「放てぇ!!!!」


『─爆ぜよ。敵を討ち果たせ─』


 レンドルの号令に、騎士隊が手に持った拳大の魔道具の玉を握りながら一斉に鍵呪文(スペルキー)を唱えると前方に向って次々と放り投げていく。


 投げ放たれた玉は放物線を描き、前方の敵陣営に吸い込まれていき着弾、と同時に辺りに耳をつんざくような大音響と爆風を生み出して敵兵を次々と吹き飛ばしていく。


 前方の陣営が崩れ、奥の魔法師達が無防備に晒された今が好機とばかりにレンドルは馬を前方へと走らせる。


「一点突破しろ! 馬車の前方を固めろ!! 私に続けぇ!!!」


 レンドルは大声で兵に号令を掛けると、馬首を巡らせて最前線に馬を走らせた。

 敵の魔法師が放つ【火炎弾(ファイヤバレット)】や【岩石弾(ロックバレット)】を器用にミスリル製の盾で受け流しながら、敵の前衛に突っ込む。


 馬上から剣で残った敵を斬り払いながら突き進む中、後方の騎士もそれに遅れまいと続々と続く。

 敵の陣営が割れて包囲に穴を開けながら突き進むが、前方から放たれた【火炎弾(ファイヤバレット)】が馬体に着弾すると馬は悲鳴を上げてその場に転がり、その勢いでレンドルは鞍から放り出される。

 そのレンドルの落馬を避けようとした後方の騎士達も次々と落馬していき、周囲にいた爆破の難を逃れた敵兵に次々と喉や腹を剣で突かれて絶命していく。


 レンドル自身はなんとかして放り出された身を起こしたが、足が折れたのか立つことは出来なくなっていた。

 そんなレンドルの前に短槍を構えた男が下卑た笑みを見せて立ちはだかると、手に持った槍が彼の腹に突き込まれた。


「ぐはっ!!」


 口から血を吐き、自身の腹を押さえて蹲ったレンドルは次第に霞んでいく目を必死に開き、守るべき主のいる馬車へと首を巡らした。その彼の目に映った最期の光景は、後方にいた馬車に敵の野盗風の大柄の男が扉を強引に開け放つ場面だった。



 抜身の血脂で曇った剣を手に持ちながら強引に扉を開け放ったその男は、馬車の中から勢いよく突進して来た短剣を構えた侍女に心臓を狙われ、慌てて左腕で防御する。

 短剣は男の左腕に深々と刺さり、激高した男は力任せにその侍女を殴りつけた。


「このクソ(アマ)!!」


 侍女のフェルナは思い切り顔を殴られて車体に強かに身体を打つと、その場で蹲り動けなくなる。


 男は左腕に刺さった短剣を無造作に抜いて捨て、右手に持った剣をそのフェルナの胸に勢いよく突き込んだ。


「がはっ!」


 彼女の意識は一瞬で暗転してその場で崩れ落ちると、馬車の中に血溜りを作る。それを男は無造作に蹴り、馬車の外に叩き落とした。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!! フェルナぁぁぁぁぁぁ!!!」


 幼馴染でもあった侍女のフェルナを目の前で殺され、ユリアーナは彼女の血で豪奢なドレスが汚れるのも厭わずに追い縋ろうとした。

 しかし目の前の男がそれに立ち塞がると、フェルナの血で染まったその剣を王女の胸に刺し込んだ。


 ユリアーナは一瞬何が起こったのか理解できない表情をしたが、自分の胸元に深く沈み込んだ剣を見て目を見開く。

 苦悶の表情を浮かべ涙が目尻に溜まるが、その艶やかな唇からは声は出ず、代わりに鮮血が飛び散る。

 やがて四肢から力が抜けるようにずるずると馬車の壁に凭れ掛かるように蹲ると、王女の意識に霞がかかり、その愛らしい大きな茶色の瞳にはやがて何も映す事はなくなっていた。


 男はそれを一瞥した後、胸に突き刺した剣を無造作に引き抜き、その血を王女のドレスで拭い鞘に納めると、王女の首元に掛かっていた綺麗な首飾りを丁寧に外した。

 そしてそれを大事そうに持ちながら、馬車の外に出た。


 周辺ではもうすでに王女の護衛達も粗方倒され、事態が終結しつつあった。


 その後方では、一部始終を眺めていたカエクスは僅かな生き残りも無くすように兵に言い渡し、その後処理の指示を出していた。


「野盗の仕業に見せ掛けろ! 金目の物はお前達の報酬に上乗せしてやるぞ!」


 その彼の声に、周りにいた野盗を装った兵士達は一斉に歓喜の声を上げて倒れた護衛兵の武器やら懐にあった金を漁り始めた。

 その様子を羨ましそうに眺めながら、傍らでそわそわしていた小男にカエクスは何でもない風を装い声を掛ける。


「ボラン司教ももし良ければどうですか?」


「そ、そおですか? いや、それではお言葉に甘えまして……」


 ボラン司教がその顔一杯に喜色を浮かべて、うきうきした足取りで戦利品を漁りに行く姿を、後ろから冷めた目をやりながら「俗物が」と小さく吐き捨てた。


「カエクス様、ユリアーナ王女殿下の形見の品で御座います」


 そんな悪態を吐いていたカエクスに、つい今し方王女の命を奪った大柄の男が静かに近づいて来て声を掛けた。

 跪き恭しく差し出された品は、先程王女の首元から外された首飾りであった。


「ご苦労。王女の事は実に残念な事だ……。しかし魔晶爆玉(バーストボール)まで持ち出していようとはな。お蔭で此方の被害もかなり大きくなったわ」


 そう口にしながらも、さも可笑しそうに口元を歪め、首飾りを部下の手から受け取る。


 大きな宝石に金細工の花が絡み付き、さらに細かい宝石の散りばめられたそれは、今は亡き王妃から実の娘二人に送られた品の一つだ。

 それを丁寧に絹地の布に包みこみ懐に仕舞い、そろそろ撤退の準備も呼び掛けなければならないなと思い顔を上げる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 すると先程まで戦利品の回収に勤しんでいた兵士達の断末魔が辺りに響き渡った。

 その悲鳴が聞こえた前方にカエクスが視線を走らせると、脇の森から次々と大型の白い狼が飛び出して来ており、辺りにいた部下の兵士を散々に喰い散らし始めていた。


 いや、その光景は人間を捕食する為の行為ではなかった。


 白い狼達は相当に殺気立っていて、進路上に居た周辺の人間に所構わず牙を剥き噛み殺していく。

 二メートルの体躯でありながら俊敏な立ち回りと、強靭な顎と鋭利な牙による噛み付きは油断していた兵士の命を狩り獲るには充分な凶器だった。


 応戦しようとした魔法師は呪文を唱え始めたりしたが、白い狼達はそれを察知すると集団で魔法師に襲い掛かりあっと言う間に引き裂いてしまった。

 剣を持って応戦した者達も、狼を仕留めたと思った瞬間にその身体が霧散して消え、呆気にとられていたところを後ろから頭を噛み千切られていく。


 先程までユリアーナ王女一行を地獄に引き込んだ者達が、今度は逆に地獄へと引き摺り込まれていく阿鼻叫喚の絵図を半ば茫然とカエクスは見ていた。


「ホーンテッドウルフ……」


 そのカエクスの隣で見ていた大柄の男も茫然とその様子を見てその地獄の使者の名を口にした。

 その名前を聞いてようやくカエクスの思考が戻ってくると、大声で号令を掛けた。


「全軍後方へ撤退!!! 態勢を立て直せ!!! 輜重隊は盾を出して他の物資は全て焼き払え!! 馬を囮にして放て!!」


 その号令が辛うじて届いた兵達は一目散に撤退してくる。

 輜重隊の兵達は馬から荷を下ろして鞭で馬を前方へと走らせながら、荷物の中から大盾を取り出す。行軍の速度を上げる為、念の為程度の数しかない大盾を構えて、合流した兵と共に防御陣形を組んで行く。


「撤退!! 撤退ぃ!!!」


 カエクスは時間が惜しいとばかりにまだ生き残りがいるなか、撤退の号令を掛けた。


「クソっ! いったい何体いるんだ!!」


 前方にはまだ生き残っている兵達に次々に襲い掛かるホーンテッドウルフが十五匹程見えるが、すべてが本物と言う訳では無い。


「ホーンテッドウルフは一匹につき二、三体の幻を生むと聞きました。恐らくは五匹以上はいると思われます……」


 カエクスの悪態に、前方を睨みながら隣で部下の男が答えた。

 盾を構えながら後退していくなか、死神から逃れる事が出来た幸運な者達が合流して人数が増えていくと集団の安心感のようなモノが少し部隊に広がり始めたが、皆の顔に戦利品を漁っていた時の表情は皆無だった。


 ホーンテッドウルフは馬車の周囲にいた人間しか見えていないのか、撤退していく此方の動きには特に興味を示していなかった。

 やがて襲撃現場が肉眼で視認できなくなり、いつの間にか森の外にまで撤退した時、部隊の緊張の糸が解けたかのように皆蹲ってしまった。


 カエクス自身も長い緊迫感からようやく解放された疲労から溜息を吐いて、部隊を眺め回した。

 しかし、護衛兵との戦闘とホーンテッドウルフの襲撃で半数以上の兵を失ったその事実に、陰鬱な気分になりまた大きく溜息をして悪態を吐く事になるのだった。


誤字・脱字などありましたら、ご連絡宜しくお願い致します。

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