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骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中  作者: 秤 猿鬼
第一部 初めての異世界
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只今潜入待機中2

 アリアンと潜入の段取りを話し合っていたダンカはそう言うとフードを目深に被り直して、座ったまま腕を組むと静かに瞼を閉じた。どうやら潜入の時間までにはまだ余裕があるようだ。


「それでは我も少し用事を済ませて来るとするかな……」


 そう言いながら荷物袋を背負いながら立ち上がると、それに反応したのかアリアンに撫でられてテーブルの上でゴロゴロしていたポンタが「きゅん!」と鳴いて立ち上がると肩にジャンプして登って来る。

 その姿をアリアンが少し羨ましそうに眺めながらも、「判ってるとは思うけど……」とこちらに睨みを利かせながら口を開く。


「今更ここで逃げたりはせぬよ……」


 彼女が懸念しているであろう事を先に否定してみるが、彼女は頭を振って別の懸念を言葉にする。


「今更そんな事を心配したりはしてないわ。早目にここに集合しなさいって言いたかったのよ」


 そう言って彼女はそっぽを向く。どうやら一応の信頼は得たようではあるらしい。その言葉に頷くと「すぐに戻る」と言って席を立つ。ポンタは相変わらずいつもの指定席に収まって尻尾を左右に揺らしているのか、兜の後頭部分から気配が伝わってくる。


 屋台村を離れて通りを進み、店の立ち並ぶ一角にまで足を運ぶ。どの店ももう閉まっていて、窓から漏れる明かりと疎らに立つ街灯のランプが灯っているだけだ。


 目的の店の前にまでやって来たが、ここも周りの店の例に漏れず既に店の扉は閉じられていた。店に掲げられた木製の看板には剣と盾の意匠を施し、武具屋の名前が刻まれている。


「あちゃ~、やっぱりもう閉まってたかぁ~。仕方がないまた明日出直すかぁ……」


 店の閉店を確かめていると後から若い男の独り言が聞こえてきた。

 後ろを振り返ると、荷馬車に乗った二十代位の男が武具屋の前の通りに荷馬車を止めて項垂(うなだ)れていた。雰囲気や恰好からして行商人の類だろう、荷馬車には色々な荷物が載せられているのが少ない街明かりに照らされて見える。


「行商人殿もこの武具屋に用事か?」


「え? あ! こ、これは騎士様!」


 こちらが声を掛けると行商人の若者は一瞬怪訝な表情をしてこちらの顔、正確には黒い外套の上の白銀の兜を見て、慌てて荷馬車から降りて頭を下げて来る。


「我はただの旅の傭兵よ、そう畏まる事はない。で、行商人殿はこの武具屋に用事か?」


「え? あ! その、ええ。武器を仕入ようかと思って来たのですが、この街に入るのが予定より随分遅れまして……」


 若い行商人の青年はそう言って苦笑いを浮かべる。渡りに船とはまさにこの事だ。先程、人攫いから回収した武器が邪魔で仕方がなかったのだ。


「ほぉ、我も実は武器を売ろうと思って武具屋に来たのだが、生憎既に閉まっておってな……。行商人殿が良ければ買い取ってはくれまいか?」


「本当ですか?! えと、それでどの様な武器か見せて頂いても宜しいですか……?」


「無論。盗賊を討伐した時の戦利品なのだが……」


 そう言いながら肩に背負っていた荷物袋を地面に置いて袋の口を広げる。

 行商人の青年は、こちらの返答に明らかに落胆した表情を浮かべた後に慌てて笑顔を取り繕う。盗賊の戦利品と言うのが不味かったのだろうか?


 荷物袋から武器を取り出してそれを手渡すと、行商人の青年も渋々ではあるが手に持った剣の鞘を抜いて状態を確かめる。

 すると先程まで笑顔を取り繕っていた青年の顔が変化し、喜色をあらわにする。商売人としては表情が素直過ぎて丸分かりだ、客の自分としては判り易くていいが……。


 行商人の青年は荷台からランプを引っ張り出して来ると、その明かりを頼りにこちらが差し出した武器を次々と鞘から抜いては状態を確かめていく。


「これ本当に盗賊の戦利品なんですか? 結構いい鋼を使った武器ばかりですよ?! 潰したり打ち直しが必要なさそうですね、少し研げばそのまま売れますよ!」


 盗賊ではなくエルフ族を拉致する人攫いの集団の持ち物だが、しかしあえてそれを言う必要はない。

 それにしても、盗賊は基本的にはあまり状態のいい武器を持ってはいないのか……、食い詰め者が徒党を組んで略奪するのが基本だからそれも道理か。

 盗賊の戦利品と聞いて落胆したのは物が上等な品でない可能性が高かったからか。


 青年は一通り武器の鑑定を終えたのか、次は腕を組んで荷台に並べられた武器を見ながら唸り出した。


「う~ん、どれも状態のいい高品質の武器が十五本、それにこの一本は他のよりさらに高品質だ……」


 青年が持った剣、それはたしかあの無能男が持っていた剣だ。無能なのに一番いい剣を持っていたようだ。

 たしかにその一本だけは鞘の拵えから剣身の輝きも他のとは一線を画すような代物に見える。


 それにしても夢中で思案していて気付かないのか、声が駄々漏れている。先程の情報を隠しておけば安く買い叩いて他所(よそ)で高く売り捌けた筈だ……。

 この人、商売人として大成出来るのだろうか?


「全部を合計するとちょっと手持ちだけでは買い取れないなぁ……、ではどれに絞るか……う~ん」


「一本10ソク、全部で150ソクでどうかな、行商人殿?」


 こちらとしてはこれから潜入作戦があるので余計な荷物をガチャガチャと持って行きたくはない。元手が掛かっていないので安く買い叩かれても困らない上に、今のところお金には困っていない。


「え!? 普通に買ったら一本30はしますよ?!」


「……行商人殿、そういう事は黙っておくものだ……」


 余りにも素直に単価をゲロッた商売人に苦言を呈すると、行商人の青年は慌てて自分の口を手で塞いだ。

 この人のいい商売人に儲けさせてあげるのも一興か。

 この若い商人には手持ちを今すぐ処分したいので、その値段で構わないと再度金貨150枚の値段を提案した。


「本当にありがとうございます! いや~最近北部の国境付近で魔獣の被害が頻発してるって言うので、武器やら材料の金属が高く売れると思ってここまで来たんですよ~」


「ふむ。ならば街道を進んだ先のルビエルテの街でも最近かなりの大物が出たと言う話だ。備えに際して上質の武器は良い値で買い取って貰えるのではないか?」


「本当ですかっ!? 貴重な情報ありがとうございます!」


 青年は喜色満面といった表情で深々とお礼をすると、荷馬車に武器を積んでそのまま意気揚々と宿へと馬を引いて行った。途中何回も振り返って頭を下げるのを見ていると、初めて会ったにも関わらず応援したい気持ちになってくる。

 ポンタも尻尾を立ててふりふりと左右に揺らして挨拶しているように見える。あの人なら精霊獣でも懐きそうだな……。


 そんな事を思いながら、150枚の金貨を袋に入れると軽くなった荷物袋を背中に背負い直して歩き出す。


 まだアリアン達は屋台村にいるだろうから、早目に合流しておいた方がいいだろう。


 屋台村に戻ってくると、先程と同じ席でアリアンとダンカが座っていたので空いてる席に座る。


「案外早かったわね。用事はもう終わったの?」


 アリアンがまた新たに注文した別の串焼き肉を餌に、ポンタを釣りながら聞いてくる。

 ダンカは瞑目して腕を組んだ状態のままだ。


「うむ、連中からの戦利品はいい値段で売れたぞ」


「呆れた。用事ってそれだったの……」


 用事の内容を告げるとアリアンは呆れた表情でこちらを見やる。その手元では食い意地が張ったポンタが餌に釣られてテーブルに降りたところを、アリアンに捕獲されて腹の毛をわしわしと揉みしだかれている。

 そんなやり取りを見ながら適当な雑談を交わし、時間が過ぎて行くのを待つ。


 夜も大分更けてきたのか、周辺の屋台が次々と営業を終了して行く中、今迄寝ていたダンカが徐に席を立つとアリアンに目配せを送った。


 アリアンもそれに頷くと静かに席を立つ。


「行くわよ」


 こちらも席を立つと、テーブルの上でいつの間にか眠っていたポンタが顔を上げて慌てて走り寄って来る。それを拾い上げていつもの指定席に置いてやり、荷物を抱えて先頭を歩くダンカに付いて行く。


 さて何事もなく終わればいいのだが────。


 そんな(ささ)やかな願いを呟きながら、人通りが殆どなくなった暗い街中を進んで行く。

誤字・脱字等ありましたら、ご連絡宜しくお願い致します。

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