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大長老会議

 四十代くらいに見える物静かな雰囲気の男で、長く伸ばした翠がかった金髪を、複雑な色模様の施された組み紐で束ね、首元などにも様々な宝飾品を身に着けてはいるが、不思議と嫌味は無い。

 一見して分かるような厳かで、貫禄のあるその男──、

 彼こそが第三代目族長、ブリアン・ボイド・エヴァンジェリン・メープルなのだろう。


 ブリアン族長の第一声により、その場のざわめきが収まる。

 ディランはそんな彼に一礼してから、その場にいる全員に向かって挨拶の言葉を口にした。


「今日は私の願いにより皆様にお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。ブリアン族長様におかれましても此の度は格別のご高配を賜り、誠にありがとうございました」


 そう言って頭を下げるディラン長老に、ブリアン族長は笑って(かぶり)を振った。


「何、今回の一件、私もいい機会だと捉えている。だからこそ私はこの場を設けて、皆に今回の意義を問う事を決めただけの事だ。君は思うように提案をしてくれればそれでいい」


 そのブリアン族長の一言で族長の幾人かが彼の顔を見やり驚きの視線を送る。

 自分の聞き間違えでなければ、今回のディランが提案する事になる話に、ブリアン族長は乗り気な態度を示した事になる。

 会議の始まる前に族長の一投で随分と天秤が傾いた格好になった。


 それは当のディランも理解したのか、口元には余裕の笑みと、ブリアン族長に対して小さな目礼を送ってから、改めてその場の集う面々を見回した。


「ではまず今回の話をする前に、最近我が里に加わった新たな同胞を紹介しましょう。アーク君」


 ディラン長老のその言葉に、幾人かが怪訝な顔をする。

 呼ばれた自分は、少し前に進み出て兜に手を掛ける。

 頭に乗っていたポンタが肩へと移動し、兜を脱ぐとその場に小さなどよめきが起こった。


「我が名はアーク・ララトイアと申す。以後お見知りおきを」


 簡単な名乗りだけで済ませ、その場で一礼して顔を上げる。


 一礼した際に、ポンタが落とされないようにと肩から背中へ移動し、また背中から肩へと移動していたのだが、幾人かがその光景を微笑ましそうに眺めていた。


「これはまた今までに見た事のない同胞であるな」


「褐色の肌に赤い目、黒髪など本当に同胞なのか?」


「耳の形だけ見れば確かにエルフだけど、身体つきはダークエルフよね、彼」


「思っていた以上に我々との相違が大きいのだな……」


 席に着く十人の大長老らが自分の肉体を持った姿を見て、口々にその所感を述べる。

 素直に驚きを口にする者、エルフ族である事を疑う者、何やら熱い視線を向けてくる者、そしてこの場に自分という存在が紹介される事を予め知っていたであろう者まで。


 そんな様々な言葉が飛び交う中で、ディランが次の段階に話を進める。


「実は彼と私の娘アリアンともう一人、山野の民の少女がとある事情によりルアンの森へと送った救援隊の船に同乗し、そこから人族の国、ノーザン王国へと赴いた際に彼らはそのノーザン王国の王族の一人を助ける事になりました」


 ディランが語り始めた話の内容に、幾人かが首を傾げて彼を見返す。


「ここでは詳しい話は端折りますが、彼らはそのまま人族の王族の依頼をある条件を付けて引き受け、見事その依頼を完遂して人族の国を助けました」


 そこまで端的に語ったディランは、懐から折り畳まれた紙を取り出し、それを開いて円卓の中央へと置いて、その一点を指し示した。


「簡易的な地図ではありますが、彼らが助力し助け出した国がこちらのノーザン王国になります。そしてこの場所がルアンの森、我らの同胞のドラントの里のある場所です」


 地図を指し示しながら説明を行うディランだったが、一人の大長老が眉根を寄せて顔を上げた。


「この地図と先程の話と、何か関連があるのかね? もっと要約して欲しいのだが」


 しかし奥の席で笑みを浮かべて座るブリアン族長の視線を感じると、その大長老はそれ以上は何も言わずに腕を組んで先を促がすように顎をしゃくった。


「ありがとうございます。では話を戻しますが、そもそもドラントの里に大きな被害が出て、カナダから救援隊を派遣した事は誰もが御承知でしょうが、その多大な被害を齎した存在が如何なる存在であるのか、把握しておられる方を御座いますでしょうか?」


 一旦そこで言葉を区切って周囲の顔ぶれを窺うディランだったが、特に誰も口挟む事は無かったのでそのまま話を先へと進めた。


「実はこのドラントの里を襲った者──当初は魔獣と言われていましたが、正体は人造の強力な不死者(アンデッド)の部隊である事が判明致しました」


 その彼の報告に多くの大長老たちが驚きに目を見張る。


「人造の不死者(アンデッド)だと!? 人の手によって生み出されたというのか!?」


「そんな馬鹿な!? 不死者(アンデッド)を造り出す技術などあったのか!?」


「待て、待て! 何故人が造り出したとこの時点で断定できるのだ?」


 驚きの声を上げる者や疑問を抱く者、それらの声にディランは答えず、さらに話を進めていく。


「人造である事を明白にしたのは、この不死者(アンデッド)を生み出し利用する組織の幹部が漏らした情報に因るのですが、この幹部というのがヒルク教国の枢機卿──我々で言う所のこの席に着いておられる大長老様のような地位の者からでした」


 その話を聞いた大長老たちは互いに顔を見合わせ、話の真偽を目で問い合う。


「そしてこの枢機卿は人造の不死者(アンデッド)を用いてノーザン王国を襲ったのですが、先程申し上げた通り、ここに居るアーク君らの手によって阻止されました。情報を知り得たのはこの時でしたが、この人族の国家の状況は予想以上に悪いものでした……」


 ディランはそう言うと、地図に描かれたノーザン王国の上下に接したそれぞれの国、サルマ王国とデルフレント王国、その王都と思われる場所を持って来ていたペンで地図にバツ印を書き加えた。


「ヒルク教国は既に用意した不死者(アンデッド)の軍団を組織して、サルマ王国の王都を襲っていました。その数はざっと二十万もの大軍勢との事。そしてこの二十万の内の先遣隊が先程、ドラントの里を襲った部隊の正体でもありました」


 ブリアン族長はそのディランの話を聞きながら、大きく溜め息を吐いて瞑目する。


 反応からして既知の報告なのだろう。

 しかし今この場で知らされた者の多くは瞳を目一杯見開き、上手く言葉を紡げないでいた。


 大長老の中の幾人かが見せるブリアン族長と似たような反応、それは既に事前にこの話を把握しており、且つ事実であるという認識でこの場に臨んでいるのだろうという事が窺える。

 そんな彼らが、今この場でディランが話す内容を嘘だと断じていない時点で、彼らが明確な判断材料を示しての反論はできないのだろう。


「その話が仮に事実だとして、先程ドラントの里を襲ったのが不死者(アンデッド)の大軍の先遣隊だと言ったな? という事は今後、その大軍がドラントの里にも流れ込んで来る、という事か?」


 その一人の大長老の問いに対し、ディランはただ黙って首肯した。


「同様に、こちらのデルフレント王国の王都もサルマ王国と同数程度の敵の大軍に攻め入られ、既に陥落しております。ドラントの里の救援も勿論そうですが、このノーザン王国は現状、南北から総勢四十万近くの敵から包囲されつつあるという状況にあります」


 再び地図を示しながら話を進めるディランだったが、一人の大長老が不思議そうな顔で挙手しながら、疑問に思った事を素直に口にした。


「少し分からんのだが、我らの同胞を救わねばならない状況である事は理解したが、お主の話ぶりからしてこの人族の国ノーザン王国も救援目標に入っておるのか? それは何故か?」


 その一人の大長老の言葉に、他の幾人かが追従するように頷く。


「ここで先程、アーク君がこの国に助力をした際に提示した条件の話をしましょう。彼が彼の国に提示した条件は『エルフ族及び獣人族の全奴隷解放、両種族の今後一切の不当な隷属化への厳罰化』これらの条件をノーザン王国は飲みました」


 そのディランの話に驚きを見せた大長老たちは、此方とディランの顔を交互に見やる。


「まさか人族の国がそのような条件を飲むとは! むしろ彼はいったい何をやってその国にそれだけの条件を飲ませたのだ!?」


 彼がそう思うのは仕方がない事だ。

 ディランは今回の話をする際に、自分たちがノーザン王国で十万の不死者(アンデッド)の大軍を消滅、浄化した事などは説明しなかった。


 最初にこれだけ荒唐無稽な話を持ってくれば、全体の話に信憑性が無くなり話が進まなくなる、というディランの判断により、その辺りを意図的に伏せて語っていたのだ。


「それにこの条件は隣国のこの広大な領地を所有する人族の領主もこの条件を受け入れ入る旨を表明しております。私はこの条件を飲んだ国がこのまま消滅する事を望みません。既に二つの国はヒルク教国の送り込んだ不死者(アンデッド)の軍団によって滅んだと言ってもいいでしょう。そうなればこの地に残るのは人族の支配者は二つです。彼らをこのまま潰えさせるには、我々エルフ族や獣人族らの今後の未来の為に損失となります」


 ディランが熱弁を振るい、大長老たちに語り掛ける中で、ブリアン族長もそこに口添えをする。


「それもあるが、今回もっとも大きいのは、これを機会に目障りなヒルク教国の弱体化を図れるという事だ。人族の二つの支配階級の者たちから、今回のヒルク教の幹部、枢機卿並びに教皇を討つ為の言質はとってあるそうだ。我らは大手を振ってヒルク教を叩く事ができる訳だ」


 そのブリアン族長の発言に、幾人かの大長老たちも賛同を示すように頷いた。

 そんな中で一人の大長老がブリアン族長を気にしながらも、おずおずと問い掛ける。


「し、しかし、人族の国主どもが今回の条件を本当に履行するのでしょうか? 私は奴らがすぐに前言を翻しかねないのではと懸念しておりますが……」


 その発言をした隣の大長老が少し笑みを浮かべてその意見に反論した。


「では反故にしようなどとは思わない武功を相手に示せば良いのではなくて?」


 彼女のその発言に幾人かの大長老が成程と頷いた。

 そこにディランが最後の止めとなるような発言をする。


「そもそもの話ですが、今回は人族に協力する、しないに拘わらず、我々はこの人造不死者(アンデッド)との戦いを避けて通る事はできないのですよ」


 ディランのその発言に、多くの大長老たちはその真意を問おうと周囲の者たちと顔見合わせる。


「考えてもみて下さい。ヒルク教国はどのようにしてかは不明ですが、人造による不死者(アンデッド)の生産を可能にしました。その邪法の詳細は分かりませんが、間違いなくその邪法を用いる際には必要となる物があると私は考えています」


 そこで言葉を区切ると、室内が静寂に包まれ、皆の視線が一様にディランへと向かう。

 しかし、次の言葉を発したのはディランとは反対側に座っていたブリアン族長だった。


「死体、だな」


 ブリアン族長のその一言で、場に嫌な緊張が走った気がした。

 この場にいる誰もがその事に気が付いたのだろう。


 自分たちがこれまでに見た不死者(アンデッド)兵士などは中身が人骨で、そこに金属製の鎧を装備させて一人の不死者(アンデッド)兵士として造られていた。

 それを製造するにあたって必要な材料を想定するのならば一人分の鎧もさることながら、人一人分の遺体──人骨が必要となってくる。

そして纏まった数の人骨を用意する場合、その調達先をどこに求めるのか。


 相手がヒルク教となれば、まず真っ先に上がるのは葬儀後の遺体や、墓地に埋葬されている遺体。

 そして今回のような侵略戦争で戦死した者の遺体や、攻め滅ぼした街の住人たちの遺体、不死者(アンデッド)の製造が日に何体造られるのかは不明だが、彼らが街を攻め滅ぼし、遺体の山を築くごとにヒルク教国の不死者(アンデッド)軍団はその数を飛躍的に増やしていく事になるのは想像に難くない。

 まるでネズミ算式に増えていく不死者(アンデッド)の軍団。


 エルフ族や獣人族を虐げる教義を持つヒルク教国が周囲の人族の国家を呑み込んだ後、その矛先がどうしてそれらの種族に向かないと言い切れるだろうか。


 アリアンはその事に今まさに気付いたようで、金色の瞳を見開いて、此方を見上げてきた。

 他の大長老たちも渋面を作ってディランを見返すが、しかし彼が示した以外の方策がすぐに思いつかず、ただその場にしばしの沈黙の時が流れる。


 今のヒルク教を放置すればする程、後の対処が難しくなる事が簡単に予測されるので、ここで既に戦わないという方策は潰えたと言っていいだろう。

 そして一人の大長老が小さく咳払いをして、次の戦う場合での問題を提示した。


「ここに来てヒルク教国を放置する事が出来ぬ事は分かった。それは良いが、ここからどうやって戦力を送るかを考えなくてはいかん。戦士たちを招集してサスカトゥンとランドフリアから船舶輸送をするにしても船の数があまりないぞ?」


 その大長老の問いに続いてもう一人も懸念事項に対して声を上げた。


「輸送の問題もですが……まず問題なのは戦力でしょう。合わせて四十万の不死者(アンデッド)の大軍に対して、我々のカナダ内の全里から戦士を招集しても一万に届くかどうか。ディラン殿の言うように人族と協力したとして何処まで通用するか」


 二人の大長老のからの指摘に、その場の皆が思い思いに意見を交わす。

 そんな中でディランは今迄前のめりになっていた姿勢を正し、自分に視線を向けてきた。


 ──出番のようだ。


「その二つに関してもある程度の目途が立っております。まずは輸送の問題ですが、これには我が里に新たに加わる事になったアーク君が担当してくれる事になりました。アーク君」


 ディランはその場にいる面々を見回してから、徐に此方の名を呼んで合図を送ってくる。

 自分はそれに頷いて、すぐに魔法の発動を試みた。


「【次元歩法(ディメンションムーヴ)】」


 注目を集めていた自分の姿がその場で掻き消え、次の瞬間には一番奥にいたブリアン族長の背後に転移すると、目の前では大長老のほぼ全員が目を丸くして、今まで自分が立っていた場所を眺め回して、目の前から消えた自分の姿を探していた。


「消えたぞ!?」「馬鹿な!」


 多くの者が驚愕の声を上げるそんな中で、転移して直後に自分の居場所を把握したのは巨躯のダークエルフ族の大長老、アリアンの話では彼女の祖父だというファンガスと──、此方を興味深そうに肩越しに振り返り見つめて笑うブリアン族長の二人だけだった。


「転移魔法か、初代族長以来の使い手になるな……」


 ブリアン族長のその言葉に、ようやく自分の居場所を見つけた彼らは一様に驚愕の表情で、恐らく事前にディランから知らされていた筈の者までも驚きを露わにしていた。

 やはり聞いて知るよりも、見て知る事の方が衝撃が大きいからだろうか。


 大長老の一人が興味深そうに、それでいて前のめりで質問を投げ掛けてくる。


「本当に転移魔法なら、こんなに素晴らしい事はない! それで!? 君の転移魔法は実際どこまで飛べて、どれだけの物を移動させられるんだね!?」


 早口で捲し立てるその質問に、他の者も興味があるのか、目を輝かせて此方の返答を待っていた。


「我の扱える転移魔法は二つ、短距離と長距離である。先程見て貰ったとおり短距離は目視できる範囲に、長距離は我が今までに訪れた事のある場所で且つ、その場所の鮮明な記憶があるかどうかの制約がある。輸送できる物量は今までに計測した事がない故、不明だ」


 先程の大長老の一人の質問に順を追って説明していくと、周囲の者も興味津々といった様子で自分の話に聞き入っていた。

 そんな中で一人の女性の大長老が自分へゆっくりと近づきながら、『ベレヌスの聖鎧』を指先でついと撫でながら艶のある翠の瞳を瞬かせ、上目遣いで質問を向けてくる。


「ねぇ、今ここで何処か違う場所に移動できたりもするの?」


 大長老という名に反して彼女の見た目は三十代ぐらいか、整った顔立ちにエルフ族である彼女の本当の年齢は見ただけでは判断できない。


 そんな彼女の様子と、されるがままの自分をじっとりした目で睨んでいるのは、アリアンだった。

 他にも「儂も!」「私も!」と手を挙げる者たちの姿に、ディランに判断を問う視線を送る。


 ディランはそれに一度頷いて返してきた事から、どうやら彼らの願いを一度叶えて、実際にその身で体感させた方が話が早いという判断なのだろう。


「ではお三方は我の傍に……一度、ドラントの里まで飛ぶ」


 自分のその言葉に女性の大長老が喜色を浮かべて此方に身を寄せてくると、そのまま肩に乗るポンタの顎に指を伸ばして軽く撫でる。


「きゅ~ん」


 彼女の指先を気に入ったのか、ポンタは締まりのない声で鳴いている。

 そして自分の傍には先程、他に転移魔法の実体験に立候補した二人に加えて、何故かちゃっかりとブリアン族長に加えて、アリアンの祖父ファンガスも腕組みをして傍に立っていた。

 どうやらこの五人で飛ぶ事になったようだ。


 ディランもそんな此方の様子に苦笑を浮かべている。

 とりあえず彼らを連れてここからドラントの里まで飛ぶには、まずはここへと帰って来る必要があるので、この室内の風景を記憶しておく必要がある。


 大きな円卓と落ち着いた雰囲気の広い室内のおかげで、一時的に記憶しておくだけなら問題ないだろう──後はドラントの里の特徴的な風景を心の中に思い浮かべた。


「では参る、【転移門(ゲート)】」


 自分を中心とした足元に光の魔法陣が展開すると、大長老たちは食い入るようにその魔法陣を眺めて驚きの声を上げる。やがて室内が光に包まれた瞬間、視界が暗転して、気が付いた時には目の前には別の風景が広がっていた。


「おぉ! あの特徴的な三本樹、間違いない! あれはドラントの里だ!」


 一人の大長老が目の前に聳える三本の大樹と、その根元に広がる街並みを指差して興奮したように歓喜を上げて此方を振り返る。

 もう一人の大長老は何やら周囲をキョロキョロと見回し、手近に生えていた草を一本引き抜くと、それを無造作に口に入れて噛み始めた。


「……苦い。どうやら幻覚やそういった類のものではないのか……」


 こちらは何やらブツブツと独り言を言いながら周囲の観察に余念がないようだ。


「いや、これは実に素晴らしいね」


 そして端的に、それでいて満面の笑みを浮かべて語るのはブリアン族長だ。

 ドラントの里を遠目にしながら、里の中で戦の準備をしている喧騒が風に乗ってながれてくる気配を、その長い耳で敏感に感じているようだった。

 それは隣に立って周囲に睨みを利かせるようにして立つファンガス大長老も同じようだ。


「ディラン殿も待っておられるだろうから、今回はここで帰還する【転移門(ゲート)】」


 そのまま辺りをうろつき始めようとする大長老たちを制し、再び転移魔法を発動させて、今度は先程までいたメープルの巨樹の塔の一室を思い浮かべた。

 そうして先程までの光景が嘘だったかのように、目の前には驚きの顔してこちらを迎える大長老たちと、苦笑するディランに、溜め息を吐いているアリアンの前へと戻って来ていた。


「苦い……、やはりこの転移魔法は本物だな」


 そう言って呟くのは、ドラントの里のあるルアンの森で草を毟り取っていた大長老だ。

 持って帰って来た草を再び口に入れて、それを本物かどうかを判定していた。


「貴重な体験、楽しかったわ」


 一方、女性の大長老である彼女は何やら流し目で此方を見返して、耳元で甘やかな声で囁く。


「きゅん?」


 急にポンタが何かに反応した声を出したと思うと、いきなり後ろから引っ張られる力を感じてそのまま引きずられようにして後ろへと下がらされた。


「おかえりなさい、アーク」


 後ろを振り返ると、何やら刺々しい声で帰還の言葉をぶつけてくるアリアンの姿があった。


「さて、これで輸送面での彼の協力の有用性は納得して頂けたかと思います。次に戦力面での問題ですが、これには龍王(ドラゴンロード)様の御力をお借りしようと考えております。幾人かは既に御存知の方もおられるかと思いますが、フェルフィヴィスロッテ様が今こちらに来られております」


 ディランのその説明により大長老たちが歓喜に沸く。


「おぉ、フェルフィヴィスロッテ様が御力を貸して下さるなら、何の不安もない!」


龍王(ドラゴンロード)様の中でも最凶と謳われるあのお方の御力を借りる事ができるのか!」


「しかし、よくフェルフィヴィスロッテ様の協力を取り付けられたものだな……」


 大長老たちが口々に喜びの言葉を語り合う中で、少し微妙な反応見せる者もいた。


「……実は御力を借りるにあたって少し問題がありまして」


 そんな言葉と共に眉尻を下げたのは、今回の提案をした本人であるディランだった。

 彼のその一言で、その場にいた大長老たちの顔が曇り、またざわめきが起こる。


 ディランがそんな彼らの視線を受けて、此方に困ったような視線を向けてきた。

 室内の雰囲気が曇ったそこに、扉を介してくぐもった奇妙な声が室内に居た人々の耳に届く。


『よぉやっと、うちの出番かいなぁ。ほんまに待ちくたびれたぇ、ディラン』


 大長老たちが何事かと室内を見回したと思った瞬間、入り口の両扉が勢いよく開かれ、そこから突風が吹き込んできて室内を嵐が襲う。


「ぬっ!?」


「きゅん!?」


「!?」


 自分は腰を少し落として前に出て、アリアンは自分の背中に回って風を防ぐ。

 ポンタは一瞬後ろへと飛ばされたが、すぐに着地をすると猛ダッシュでアリアンの背中に張りついて、何とか吹き荒れる突風に対抗していた。


 その室内に吹き荒れた風が止むと、ようやく入り口に二人の人影が立っている事に気付く。


骸骨騎士様の最新刊Ⅶ巻が既に書店で出回り始めているようです。


今回はコミックスも同時発売で、同時購入などするとオマケのついてくる店舗などあるので、公式情報や活動報告などを参照して頂ければと思います。

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