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骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中  作者: 秤 猿鬼
第六部 王国の危機
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ダンカとの邂逅

「さて、ではとりあえず四日は海の上という事だな」


 そう言って自領として宛がわれたベッドの脇に荷物を下して、ベッドに腰掛ける。

 そんな此方を見てポンタがすかさず膝の上に乗り、綿毛の尻尾を大きく振って鳴いた。

 どうやら“焼き鳥”を所望しているようだ。


「今出発したばかりだろう? これはもう少ししてからだ。それより男同士で少し船内を散歩でもしに出掛けぬか?」


「きゅ~ん……、きゅん!」


 ポンタの催促を躱して船内の冒険を提案をすると、綿毛の尻尾を一度しんなりと垂れて残念そうな顔を浮かべたが、すぐに頭を上げて元気よく返事をした。

 そうして善は急げとばかりに、ポンタの首根っこを掴まえて船室を後にしようとすると、背後からアリアンが此方に注意を促してきた。


「アーク、船室に入る際には必ず確認してよ!? 絶っ対よ!?」


「そう念押しせずとも分かっておる」


 アリアン女史の指摘に軽く相槌を打って、自分とポンタは再び船内の廊下へと出た。


「ふ~む、同じ屋根の下で暮らしているという点ではララトイアの里でもそうは変わらぬのだがな」


 普段あまり見せない乙女反応のアリアンの様子に首を傾げながらも廊下を進む。

 それに今時、漫画のようなラッキースケベを現実に起こすような輩などそうはいないだろうと思うのだが、あれは小学生くらいまでの失敗ではないのか。


 そんな益体も無い事を考えながら、船の甲板へと上がる。

 既に港は後方へと遠ざかり、船は一路西を目指して大海原へと滑り出していた。


「きゅん! きゅん!」


 駆け出したポンタが船の舷側の梁によじ登ると、全身の草色の毛並みを潮風に靡かせながら気持ちよさげに目を細めた。

 そんなポンタの様子を眺めていると、不意に後ろから声が掛かった。


「お前がララトイアの里に入ったというのは本当か?」


 何の脈絡も前置きもなく掛けられた言葉に、後ろを振り返ってみるとそこには見覚えのある一人のエルフ族の戦士が立っていた。


「ダンカ殿か、久しいな」


「きゅん!」


 自分とポンタの挨拶にも答える事無く、ダンカはただ黙って此方を見やる。


「ふむ、もう既に話は聞き及んでいるようだが。確かに我はディラン殿の勧めで、今はララトイアの名を名乗らせて貰っている」


 そう言って返すと、ダンカは僅かにその片眉を跳ね上げた。


「お前は以前に自身を人族だと言っていた。しかし聞いた話では、お前は新たなエルフ族の同胞として今の里の長老に迎え入れられたと言う。どういう事だ?」


 そう言えば以前に説明していた際には、自分が人族であると説明していたな。

 しかしあの時点では嘘を言っているつもりはなく、骸骨の身体が元の肉体に戻った際にまさかゲームと同じダークエルフ族になるとは誰が予想しうるだろうか。


「あの時、我は自身を本当に人族だと思っていた、ただそれだけだ。少々記憶を失って、自分が何者であるか分からずにいただけだ」


 自分のその言葉に、ダンカは眉間に皺を深くして胡乱気な視線を向けてきた。


「馬鹿な事を言うな。自身の種族ぐらい記憶を失っていても見れば一目瞭然の筈だろう。いったいお前は何を隠している、言え」


 ダンカの詰問に剣呑な気配が滲む。


 自身の特殊な姿に関しては、ディラン曰く全体への周知はまだ早計だとして、まずはララトイアの里から徐々に自分への認識と理解を求めるとの事なので、今後は安易に正体を明かさないでくれとも言われていた。


 自身の骸骨という姿を見て、不死者(アンデッド)ではないと看破して見せ、その後はなんだかんだと言いながらも一人の“人”として接してくれているアリアンやその周囲の存在だが、これがエルフ族全体の反応ではないというのを何となくだが最近感じた事だ。


 同じエルフ族であっても分かれて暮らし、互いに快く思わない間柄というものがあるのだ。

 自分の最初の印象では、エルフ族は少数であるからこそ纏まっていると思っていたのだが、そこは人族とあまり変わらないのかも知れない、そんな認識をさせられた。


 かつてアリアンと一緒に攫われたエルフ族の救出をした仲間だったが、今はその翠の瞳に警戒の色を浮かべて此方を見据えている。

 里を守る戦士の一人として、此方の持つ能力と正体が不明確な自分に対して警戒しているのだ。

 だがこういう場面を想定していなかった訳ではない。


「我は少々特殊な呪いを身に受けていてな……見た目が他者のそれとは随分とかけ離れておる。これ以上は我が里の長老であるディラン殿から口止めされている故、彼に尋ねてくれ」


 自分はディランと決めた対応の言葉を口にして、目の前のダンカを見やる。

 傍では此方のやりとりを見ていたポンタが、舷側の縁から肩へと飛び乗って自分とダンカの視線を綿毛の尻尾で遮るようにワサワサと揺らして邪魔をしてきた。


「こら、ポンタ。前が見えぬ」


「きゅん!」


 場の緊張した空気を和らげようとしたのか、執拗に目の前で尻尾を振るので苦情を申し立てると、ポンタはその場で此方の首回りにぐるりと巻き付いてきた。


 そんな様子を見ていたダンカは、僅かに口元を歪めると踵を返して背中を向ける。


「……彼女の信頼を裏切るような真似をするなよ、アーク」


 それだけを言ってダンカは船内へと戻っていった。

 彼女、とは恐らくアリアンの事だろう。

 自分の事はともかくとして、彼がアリアンを仲間であると認識して此方に釘を刺してきたというのならば、とりあえずの関係としては悲観せずに済みそうだな。


 ダンカの背中を見送っていた視線を再び、船が進む先に広がる海原に戻して安堵の息を吐いた。

 しばらくの間、甲板で船員達の仕事ぶりを見学しながら広大な海原に吹く潮風に身を任せていたが、さすがに全周囲が海しか見えないと飽きてきた。

 大きな欠伸をすると、頭の上のポンタも同じように欠伸をして後ろ足で耳の裏側を掻く。


「そろそろ船内に戻るとするか」


「きゅん!」


 船室へと戻る提案をすると、ポンタもそれに同意するかのように鳴く。

 そうして再び船尾にある船室へと戻り、扉を開いた──そう、確認を取らずに。

 部屋の中にはいつもの革鎧を脱いで法衣姿でベッドの上で足を投げ出して寛ぐアリアンの姿と、忍者装束に身を包んでいたチヨメが装具類を外して、上半身をはだけた姿を晒していた。

 チヨメの姿は一見下着姿のようにも見えたが、どうやら装束の下に着る肌着のようだ。


 そして扉を開いた瞬間の時が止まったような静寂の後、アリアンが無言で投げつけてきた枕を、慌てて閉めた扉でやり過ごした。

 しかし、その後でアリアンからの小言という名の説教を滔々と聞かされる羽目になる。


 ──ダンカとのやりとりで完全に入室の際の諸注意を忘れていた。


 特にラッキーな何かがあった訳でもなく、アリアンに普段の注意散漫さを咎められただけだ。

 船出初日からやらかしてしまった感があるが、致し方ない。

 あと四日は再発防止を心掛けて、しばらく大人しくしているとしよう。


 その日は他に特筆すべき事も無く無事に終わった。

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