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骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中  作者: 秤 猿鬼
第五部 新たな大陸
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不穏

 黒巨人(ジャミアント)の討伐後の事後処理が終わり、自分達はエイン族長の治めるウィリ一族の集落の一画に置かれた族長の住居に招かれていた。


 集落自体はそれ程大きなものではなく、集落内をざっと見た感じでは百名は超えないぐらいの数の虎人族が暮らしていると思われる。

 そしてやはり遠目から見た時の印象と同じく、近くで見た虎人族の住居はモンゴルのゲルとよく似た造りだった。

 円筒形の外壁は厚く白い布地で覆われており、窓は無いが中にはエルフ族の里で見た様な光る水晶で出来た『水晶発光灯(クリスタルランプ)』が置かれていて明るい。壁には何やら動物の骨や牙で作ったような装飾品が掛けられ、床には刺繍を施された幾つもの絨毯のような代物が敷き詰められている。

 入り口こそはやや屈んで入るような高さだが、平均身長が男女共に高い虎人族の使う入り口は、普通の人族程度なら然程窮屈さを感じさせないだろう。

 しかも中は天井が高く、面積もかなり広いのでちょっとしたホテルのロビーのような雰囲気だ。


 そんな族長の住居だが、今はかなり手狭な様相を呈している。

 中央に座る自分達一行の正面には族長であるエインが椅子に腰掛け、それらを取り囲むような形で他の虎人族の戦士達が身を寄せ合うようにして座っている為だ。

 筋骨隆々の、皆それぞれあのゴエモン並みかそれ以上の体格の者達が一所に犇めき合う光景はかなり圧巻というか、壮絶なものがある。ここは筋肉自慢会場だろうか。


 そんな下らない事を考えていると、挨拶もそこそこに族長のエインが会話の口火を切った。


「──此度はそちらのアークに随分と世話になったな。アリアン殿は良き配下を従えている」


 そう言って笑う族長エインに、珍しく慌てた様子のアリアンが釈明を加える。

 どうやら彼の中では自分の立ち位置はアリアンの配下という事に収まっていたらしい。これはあれだろうか、最初に名乗りを上げた際にアリアンが代表した為だろうか。


「──そうか、旅の者達だったのか。それはすまなかったな、アーク殿。では改めて礼を言わねばならんな、助力誠に感謝する」


 エイン族長は先程の非礼を詫びて僅かに頭を下げて、感謝の念を此方へと伝えてくる。

 しかしそれに反して、族長のその行動に周囲の空気が僅かに揺れて、周りに座る戦士達の顔に何やら苦いものが浮かぶ。


 そんな彼らを不思議に思って眺めていると、族長が座る椅子の背後から一人の大柄な女性が姿を現して周囲の男、戦士連中を豪快に叱り飛ばした。


「あんたら助力されたからって不貞腐れてんじゃないわよ! 怪我まで治して貰っておいて、その順番が序列に沿ってなかったからと女々しく文句垂れてんじゃない! 余所様の厚意にいちいちケチつけるなら、今度はあたしが腕の一本や二本、折ってやるから前に出な!!」


 口調も態度も何もかもが豪快なその女性は、族長の後ろで仁王立ちになって腕を組んで周囲の戦士達を睨めつけていた。

 どうやら治療にあたった時に、手近な者から行った事が何やら(わだかま)りの原因のようだ。


 声を張り上げた大柄なその女性は、身長は二メートル三十程だろうか。

 全体的にほっそりとして見える身体つきだが、それは周囲の男達の筋肉量に比較してなので、アリアンやチヨメを並べて見ればそれは単なる目の錯覚だと気付く。

 そして日に良く焼けた肌に、大柄な身長の為か腕組みされた彼女の腕の上には特大の双丘が自己主張しているが、虎人族の特徴である金と黒の混じる髪を丁寧に結い上げた姿は中々に凛々しい。

 その彼女の一喝で、場内にいた戦士達が一斉に俯いてしまう。


「騒がしくして済まないね、彼女は私の妻でユガと言う」


 肩を竦めて笑う族長のエインの言葉を継ぐように、ユガと呼ばれた女性がこちらを見やる。


「ユガ・エインってんだ。悪いね、お客人。一族の男連中ときたら、余所様の手を借りるのが戦士の恥だと思ってる連中が多くてね。あの巨人のせいで近隣の小部族にも被害が出ていて、うちに怪我人なんかが運ばれて来てたんだが、そろそろ限界だったのさ。馬鹿な男連中に代わって、あたしから礼を言わせて貰うよ。ありがとよ」


 ユガはそう言って礼を述べると、豪快な笑みを浮かべた。

 あの戦闘のあった丘陵地で負傷者を治療してから、族長のエインに連れられて一つの住居に案内されたのだが、そこには幾人もの怪我人が寝かされていたのだ。

 族長からの要請という事で特に断る理由もなく、その場で治療を快諾して回復魔法を使ったのだが、怪我をしている者達の多くは女性や子供が多く、疑問に感じていた。

 どうやら彼女らはその襲撃を受けた小部族の生き残り、……なのだろう。


「いや、我も虎人族の者には用向きがあって訪ねて来たのでな。恩を感じて貰っているなら話を持ち出し易くて助かるというものだ」


 自分は何でもないという風に鷹揚に頷いて、そう言葉を返した。

 その返しに族長のエインが膝を打って此方に自身の精悍な顔を寄せてくる。


「そう言えばそちらの用向きをまだ聞いていなかったな、こんな辺境にまで足を運んでまで訪ねて来てくれたのだ、出来る限りの範囲でなら対応するが?」


 族長のその答えに、ユガの一喝で沈んでいた男達がまたもざわつき始めるが、族長の後ろに立って睨みを利かせている方へは視線を向けられず、隣同士でなにやら問答し始めた。

 此方としても治療費として高額請求をしたりする訳ではないので、先に用件を伝える事にする。


 そして此方の用向きを聞いた戦士連中は言うに及ばず、正面に座る族長エインやその妻までもが目を丸くして此方の真意を計るような怪訝な顔となっていた。

 隣ではアリアンの軽い溜め息が聞こえ、その後ろではチヨメの指先にじゃれて遊んでいるポンタの姿が目に入った。


「アーク殿は、“悪魔の爪(レッドネイル)”を求めてこんな地までやって来たのか。しかもその為に疾駆騎竜(ドリフトプス)まで従えてこの平原を横断してくるとは」


 エインは此方が虎人族に会いに来た理由を聞いて一頻り笑うと、その後に肩を落として申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。


「すまん、アーク殿。実はうちの部族ではあまり“悪魔の爪(レッドネイル)”の手持ちがないのだ。あれはもう少し西の大きな部族が育てていてな。ウィリではあまり好まれておらんから、欲しい者はそこから分けて貰ったりしているのが現状なのだ」


 そう言ってエインは頭を掻いて、今度は盛大な溜め息を吐いた。

 どうやらこの集落では“悪魔の爪(レッドネイル)”を栽培していないようだが、西の部族では栽培している者もいるという事なので、今なら無下にはされないと思い道案内を頼めないか聞いてみた。


「では誰か、“悪魔の爪(レッドネイル)”を栽培している部族の集落まで道案内を頼めないだろうか?」


 そんな自分の返しに、族長の肉食獣のような瞳が僅かに光った様な気がした。


「実は先程戦った巨人、あれはこの平原の南にある“黒の森”の住人でな。普段は滅多に平原へは出てこないのだが、ここ最近何故か平原に姿を現すようになってな。西の部族から警告は出ていたのだが、まさかクワナのこんな東にまで出て来るとは思っていなかったのだ。そこで私を含めて戦士数名を率いて、平原最大部族であるエナ一族の元を訪ねようと思っておる」


 そこまでの話を聞いて何となく族長の言わんとしている事を理解した。確か今乗っている疾駆騎竜(ドリフトプス)の鞍に入れられた意匠もエナ一族の物だと言っていたな。


「では我らもそれに同行しても構わぬか? 巨人の一、二匹程度ならばここに居る我らで討伐ぐらいは出来る故、同行の足を引っ張る事はないと思うが?」


 そう言って返すと、族長は我が意を得たりとばかりに笑顔で大きく頷いた。


「そうか!? いや、すまんな! うちは見ての通り六部族の中では最も小さくてな、集落付近にまた巨人が出れば迎え討てるだけの戦士を残さねばならぬのでな」


 ようはエナ一族の元へと向かえる人数が捻出出来ず、少数であの黒巨人(ジャミアント)に遭遇すれば命を落としかねない──そこで道中の戦力補充要員として自分達に白羽の矢が立った訳だ。

 まぁ平たく言えば傭兵だな。

 ふむ、何故か少し懐かしいと思ってしまうのは気のせいだろうか。


 とりあえず周囲にいるアリアンやチヨメに答えを求めるように視線を送るが、チヨメは黙って頷くのみ、アリアンももう答えは分かっているとばかりの目で返された。

 結論は出た──という所か。


 その日はウィリ一族の集落の中にある自分達用に用意された住居の一つを借り受けて、そこで一晩過ごす事になった。エナ一族の集落へ向かうのは明日だ。


 集落へ向かうのは自分達一行に加え、族長であるエインと精鋭の戦士が十名程。

 さすがに武勇に優れる虎人族と言えども、黒巨人(ジャミアント)相手には纏まった戦力で事にあたらねば被害が大きいようで、エナ一族の集落へ向かえる戦士の数はこれが限界のようだ。

 しかし今回の黒巨人との実戦で討伐の仕方はなんとなく知れたので、次があっても警戒度の上がった今なら今回のような一方的な展開にはならないだろう。

 あとは此方がエナ一族の暮らす集落まで無事に辿り付けるかどうかだが──そう考えて住居の中にいる他の顔ぶれに視線を向ける。


 アリアンは自らの剣である獅子王の剣を磨いて何やら思案している風だ。

 チヨメは無表情ながら夕食の席で出された香辛料がまぶされたクッキーの様な食べ物を頬張っている。

 ポンタは夕食を終えて既におねむの時間なのか、自分の膝の上でうつらうつらと船を漕いでいた。

 特にいつもと変わらない風景──この面子なら大抵の事は問題ないだろう。


誤字、脱字などありましたら、ご連絡宜しくお願い致します。

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