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骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中  作者: 秤 猿鬼
第一部 初めての異世界
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戦略的逃走

 翌朝、いつもの宿。いつもの恰好で目を覚ます。


 ベッドの上でぼぉっとしながら、荷物袋を手元に引き寄せて中から昨日買ったパンを取り出す。パンを齧りつつ、水筒の水を飲む。パンは向こうで食べ慣れたパンと随分違う。塩気が強めで酸味もあるし、密度が高いのか重いし固い。腹に溜まる感じと言うのか……。

 街ではパンを専門に焼く店があるが、村ではそんな店はなく、自分たちで祝い事の時に焼くくらいらしい。村では主に麦粥を食べていると言う話を、昨日マルカから聞いた。


 日本人の自分には案外、麦粥の方が合っているかもしれない。ただこの姿では外食できないので、人気のない所で自分で調理して食べなければならない。食事をあまり摂らずとも活動できるのは助かるが、そのせいで食事を摂りにくいのでは、まさに痛し痒しだ。


 あまり美味しくないパンを食べ終わると荷物を担いで一階へと降りる。最早恒例となった誰もいないカウンターの前を通り過ぎ、扉を開けて宿を出る。


 大通りにある傭兵組合所に向う。今日は中に何人かの傭兵が依頼板の前で依頼札を眺めている姿があった。

 傭兵組合で初めて他の傭兵を見た。依頼板に近づくと、他の傭兵達は一様にこちらに視線を向けると驚きの表情をするも、特に話しかけられる事もなかった。


 依頼板にはやはりお小遣い稼ぎくらいの個人依頼ばかりで、報酬が銀貨五枚を超える物がなかった。

 今日は特に興味を持てる依頼もないので、この街の周辺を探索がてらに獲物でも狩って、商人組合に売却しに行く事にする。

 行先はルビエルテの街の南に流れる、シプルト川の対岸にある森にでも行ってみる事にする。

 こういう人のあまり立ち入らなそうな場所へ出掛けるのは、ゲームでの新マップを探索するようで結構ワクワクしてしまう。


 その日は川向こうに広がる森で一日探索をして過ごした。最初にオークの小集団に出くわしたが、一匹を一撃必殺で倒すと他はみんな一目散に逃げ出してしまった。オークは結構臆病な魔獣らしい。

 あとは森の中を仕留めたオーク一匹を担いでウロウロしていた。


 森の中には様々な動物や魔獣がいた。知っているものや、知らないものまで色々だ。ただゲームと違って、見つけたからと言って無暗に殺すのは躊躇われる。モンスターを倒したからと言って経験値が入る訳でもドロップ品が出る訳でもない。

 しかしこちらの人間の生活圏は圧倒的に狭い。魔獣などを駆逐する勢いでないと生活圏を広げられないのかも知れない。


 川向こうの森の奥の洞窟ではミノタウロスを見つけた。ミノタウロスは三メートル近い身長に、全身筋肉の塊の様な身体で、頭が牛で上半身は人間、下半身がまた牛だった。

 もしこいつがゲームの様に鉄を鍛えて斧を装備し、鎧を作って武装する知恵があれば、人間などとうの昔に滅びている。オークと同じく丸出しで、棍棒を振り回す程度で済んでいるから人間はまだ滅びずにいるだけだ。


 そう言えば魔法を使う人間をまだ見た事ないな。魔法はこちらでは人間の生活圏を押し広げられる武器の一つの筈だ。自然と権力側に囲い込まれて、あまり一般人には縁のないモノになっているのかも知れない。


 そんな事を考えながら、ルビエルテの西門を潜り、大通りの商人組合所の横手にある馬車停めを横切って、奥の倉庫前の買取所の受付に向う。

 受付は前回と同じく痩せた青年が応対に出てくる。背中に担いだオークを下し、買い取りを頼む。


「オーク一匹、7セク5スクですね」


 銀貨七枚と銅貨五枚、体長一メートルのブルボア一匹と同じ値段だったか? 図体の割には安いな。ブルボアと違って鈍足で倒しやすいからだろうか。

 別に効率的に稼ぐ気もないから構わないと言えば構わない。職員の男に了承を告げると、買い取り金を出す為に一旦席を空ける。


 それをのんびり待っていると、買取所近くで商人二人が喋っている声が聞こえて来る。こういう他人のお喋りと言うのは、この地の常識等に疎い自分には貴重な情報だったりする。


「最近、国境付近で強力な魔獣がよく出没するって話だ。国境付近の村や東レブランとを行き来する隊商が結構被害にあってるんだとよ」


「ここら辺は風龍の森が近いから、他の場所より魔獣が多いのはいつもの事じゃないのか?」


「バッカ、魔獣が高い頻度でわざわざ街道やら人里に下りて来るわけないだろ」


「んじゃ、風龍山脈でドラゴンでも暴れてるのかね?」


 そんな商人の会話を聞いて、やっぱりドラゴンもいるのかとその姿形に思いを馳せていると、買い取り金を持って職員が現れる。金額を確認して、それを財布にしまって買取所を出る。


 今日もいつもの宿で休むかと街中をのんびり歩く。いつかは自分だけの拠点を設けて、そこからあちこち放浪したいなと思いを巡らせる。今のままだと碌に鎧も脱げないので、人目を気にする事なくゆっくりできる拠点が欲しい。

 【転移門(ゲート)】があるので拠点がたとえ樹海の奥にあっても、すぐに街まで移動できるのだ。


 とりあえず今は、日銭を稼ぎながら地理やら周辺の調査だな。




 ここディエントの街は、ローデン王国のほぼ中央に位置する王都へと向かう街道の、要衝に作られた街だ。

 

 大陸側にある北部国境線から王都へ向かう場合、王都の南部域に広がるカルカト山群を迂回する西の街道か、東の街道の二つの道程が存在する。


 西側の街道は王都までの距離は短いものの、街道の西側に広大なヒボット荒野が広がり、水の確保などが難しく街道沿いにも小規模な街が点在するのみで、大規模な移動が難しい。

 代わって東側の街道は距離は長くなるものの、カルカト山群の東側は王都まで流れる豊富な水量を誇るライデル川が流れており、起伏の少ない地形も相俟(あいま)って比較的大きな街が点在している。風龍山脈方面から流れ込むライデル川を上流と下流で二回渡らなければならないが、比較的進みやすい道程だ。


 ディエントの街はその東側の街道のライデル川上流にある、橋の前に出来た街だ。川幅三百メートルに架けられた石橋はそのまま街の南門に繋がっており、戦略的にも重要な拠点だ。其の為、街は二重の街壁が築かれており、城塞の役目も果たしていた。


 ここを治めるのはトライトン・ドゥ・ディエント侯爵。その居城は街の中心部にあり城塞にもなる様に堅牢な造りとなっている。城壁は二重の石壁で築かれ、堀も二重に造られている。


 その堅牢な城塞の一室、いつもの執務室でディエント侯爵は机の上に広がる書類を片付けるのに専念していた。

 ディエント侯爵はたっぷりとした白髪を後ろに流し、白い髭を蓄えたでっぷりした初老の男で、その大きな身体を派手な装飾をした衣服がその身を包んでいる。


 執務室の戸を叩く音を聞き、書類から目を上げる事なく、入室の許可を戸の向こう側の人間に与える。


「失礼します」


 部屋に入って来たのはこのディエント領の執政官、セルシカ・ドーマンだ。セルシカは痩せた神経質そうな青白い顔に、薄くなった頭頂部を長く伸ばした髪を撫で付け、覆い隠す様な髪型をしている。


 軽く頭を下げたセルシカは、垂れた髪を元の位置に掻き上げながら主の執務机の前にまでやって来る。


「ルビエルテの例の件ですが……、失敗したようです」


 そのセルシカの言葉にトライトンは蟀谷をぴくりと動かすと、目の前の書類仕事から顔を上げて一つ大きく溜息を吐く、そして深々と椅子に座り直した。


「結構な手練れに頼んだと、私は聞いたのだが?」


「申し訳ありません。間違いなく手練れで、護衛は全員討ったようですが、運の悪い事に近くに偶々いた流れの傭兵者が賊を討ったそうでして……」


「所詮、賊は賊か……。肝心な所で詰めが甘い! 女だけが生き残ったと言う事は、護衛を始末した後に女を食おうとして、油断でもしていたところをやられたのだろ」


 領主であるトライトンは苦々しい表情で吐き捨てる。セルシカも同じくその青白い顔で賛同の意を示す。


「しかし、なぜダカレス殿下はルビエルテの揺さぶりを?」


「さぁな。ダカレス殿下の後ろ盾に付いた東の要求だろ。東が接している北部国境付近が殿下の派閥になれば東としては盤石になり、心置きなく西のレブランに注力できるだろうしな。こちらとしても東との商品のやり取りをするのに、その方が何かと都合がいい」


「ルビエルテは西の後ろ盾を持つ、セクト殿下の派閥ですからね。こちらはまだ表立って派閥を明確にしていないので、今回の事はまだ知られていないとは思いますが……」


「こちらの事が知られていないなら、それでいい。それより商品の確保を急げ。そろそろ出荷せねばならん。国内の貴族でも欲しがる奴は確実にこちらに付く様になった者だけにしろ。間違ってもユリアーナ殿下にこの事が知られる様な事は絶対に避けねばならん」


 トライトンはそのでっぷりとした大きな身体を揺すりながら、机の引き出しから葉巻を取り出すとそれに火を付ける。ゆっくり息を吐きながら煙を燻らせ、一息吐いたところでセルシカに商品の状況を聞く。


「商品は現在”商店”の地下に四匹です。今新たに追加で確保しに行ってますが……」


「段々と商品の確保も難しくなってきたな。奴らも随分と警戒しはじめているか……。出来るだけ急がせろ。それとウドランの姿を最近見ないが、あの馬鹿はどうした?」


「ウドラン様の自室を今朝方改めましたところ、愛用の剣が持ち出されておりましたので兼ねてより申されていたとおり今回の商品確保に同行したものではと……」


「あの馬鹿め! これは遊びではないのだぞ! 碌に使えもせん剣など持ってエルフの森に行っても、足手まといにしかならんものをっ!! もうよい、下がれ」


 その言葉にセルシカは慇懃に礼をすると、静かに部屋を出て行った。トライトンは大きく葉巻の煙を吸い、葉巻を灰皿に乱暴に叩きつけて消すと、まだ机の上に広がる書類仕事を睨みつけた。




 あれから数日、ルビエルテの街を拠点に獲物を狩りながら周辺の調査や情報を集めるという、特に変わった事のない日々だった。


 この派手な全身鎧の姿も、最初はかなりの視線を集めていたが、今はそれも大分落ち着いてきたように思う。ただ何時、何処で人に見られるかわからないので、鎧を脱ぐ事は勿論、飯を食べる時は宿の部屋の中か、人気のない街の外でしか食べれないのが難点だ。


 今日はいつもと違い、起きたのは朝を大分過ぎた頃だった。こんな時間にも関わらず相変わらず蛻の殻(もぬけのから)のカウンターを横切って宿を出ると、傭兵組合所に顔を出して依頼板を眺めた後、小銭稼ぎと調査を兼ねて街の外へ出る為に西門へと向かう。


 しかし今日の街中はいつもと違う雰囲気だった。西門へ向かって

行く人の流れが今日は多い気がする。

 近くを行く二人組の男達も西門に向っている様で、すぐ後ろを歩いている自分にもその会話が聞こえてくる。


「なんでも流れの傭兵団の連中がたった五人でジャイアントバジリスクを仕留めったってよ! 今、広場で持ち込まれた物がお披露目されてるらしいぞ!」


「本当かよっ!? そんな人数で仕留められるなんて、よっぽどの腕利き連中なんだな……。にしても、まさかジャイアントバジリスクなんて大物まで出るとはな。ここら辺じゃ、今迄一度も見たって話聞いた事ないぞ?」


「最近この手の話が多くなってきたな。悪い予兆か何かか?」


 どうやら自分以外にもジャイアントバジリスクを仕留めた者達がいるらしい。この世界では割と大物の類に含まれるようだ。

 しかし、普段は見掛けない類の魔獣でもあるらしい。風龍の森で二匹も見たけど……。


 西門前の小広場にはすでに人山が築かれており、広場の中心で荷馬車の上に積まれた獲物を前に体格のいい男五人組が、自分達の武勇伝を身振り手振りを交えて語っていた。

 それはちょっとした芝居の様で、街の人達は普段、娯楽が少ない為か食い入るようにその話に耳を傾けていた。


 荷馬車のジャイアントバジリスクは、持ち運べる程度の大きさに切り分けられて積まれていた。たしかにあの巨体を一気に荷馬車に上げるのは無理な話だ。少し前に見た特徴的な頭が一番上に鎮座している姿はなんとも言えない風景だ。


 そんな様子を眺めながら、近くにいた大柄な男に疑問を投げかけてみる。


「ジャイアントバジリスクと言う魔獣はこれ程世間を賑わせる程の物なのか?」


 問い掛けられた男は、その問いに答えようとこちらを見て吃驚した顔をするも、すぐに表情を戻して律儀に応対してくれる。


「騎士様、ジャイアントバジリスクなんて人里近くに出たら、名の知れた傭兵団に依頼するか、領主軍が出張る事態ですぜ。ただ、仕留めた一体でもあればかなりの金額になるらしいですがね。肉の毒は乾燥させて粉にしたのを魔獣退治の毒矢とかに使ったりと、色々使えるらしいんでね」


 なんとあの仕留めた一匹を持ち帰れば、まとまった金になったのか……。でもあれを一人で仕留めて持ち帰ったら確実に騒ぎになりそうだな。

 辺り一杯にいる人だかりを見てそんな事を考えていると、人垣を分けて進んでくる一団が目に入る。


 その一団は揃いの金属鎧を身に纏った兵士の集団で、その中心に身形のいい文官風の男と共に広場の中央に進んで行く。それに気付いた周りの人達が道を空けていき、広場の喧噪はいつしか小さく、鳴りを潜めて時折こそこそと話す声だけになった。


 広場の中央は人山が引き、噂の流れの傭兵団五人組と兵士の一団だけになった。


 兵士の中心にいた身形のいい男は、背は高いが痩せて細く、三十過ぎに見える。短く刈り込んだ髪を少し手で直してから、前に進み出てくる。


「私はこのルビエルテ領を治めるバコル・ドゥ・ルビエルテ子爵に仕える執政官、ボスコス・ファトランの使いであるゼトラス・ファトランである。そちらの代表は誰か?」


「あ、あっしが! このよ、傭兵団『鉄の牙』の代表デモスコでしゅっ!!」


 先程まで流暢に武勇伝を語っていた男は、緊張の為か声が裏返ったり、どもったりしていた。傭兵団の他の者も直立不動になっている。


「貴殿等がこのジャイアントバジリスクを狩った者達か?」


「……、は、はいっ!!」


 ゼトラスと名乗ったお偉いさんの男からの質問に、暫し沈黙していたデモスコは多少上擦った声で肯定の意を返した。


「風龍の森の、それ程深くない場所だったと聞いたが、大まかな場所は? 」


「はいっ!! ラタ村の近くから森に入った先です!」


 ん? 自分が倒したのもラタ村から森に入った奥の場所だった。

まさか、あの荷馬車に載せられているのはあの時、あそこに放置したやつか? しかし何の証拠もない上に、別に所有権を訴える気もない。それにジャイアントバジリスクは二匹いたのだ。あれが逃げた二匹目なのかも知れない。


「我も少し前、風龍の森であれを二匹目撃したな……」


「なっ!? 騎士様それは本当ですかい?!」


 独り言を呟いたのを、近くにいた大柄の男が聞き付け、その内容に驚いて大声で事の真偽を尋ねてくる。

 その大声のせいで、たちまち自分とその大柄の男の二人に皆の視線が一斉に集まり、前方の人垣が割れた。


 ゼトラスはその声に反応して人垣が割れたこちらを見やると、片眉をぴくりと動かしてこちらを誰何してくる。


「貴殿等は?」


「いや私ではなく、こちらの騎士様がとんでもねぇ話をされまして……、本当なら大変ですぜ!」


 男の言葉にゼトラスが目線だけでこちらに水を向けて来る。全身を値踏みする様な視線も同時に感じる。


「いや、ただ我も数日前にそちらのデモスコ殿とほぼ同じ場所で二匹のジャイアントバジリスクを目撃した、ただそれだけの話なのだが」


 ただ既にここにあるジャイアントバジリスクが二匹目か自分の倒した一匹目かは知らないが……。


 自分の齎した情報は広場全体を一斉にざわめきの渦へと放り込んでしまった様だ。街の人々は口々にその話の信憑性やら危険性の話で埋め尽くされてしまった。


「な?! 馬鹿な、二匹だと! それはもしや(つがい)か!? 貴殿はそんな重大な情報を誰にも報告する事なく、今迄黙っていたと言うのか?!」


 ゼトラスは非難する様に声を荒げて、怒りの目を向けてくる。

 そんな事を言われても、こちらの事情に明るくない自分にはそれがどれだけ重大事かなど判る訳がない。それにあの時、残った一匹は森の奥へと逃げてしまったので、それ程心配する事はないと思ったのだが。


「ジャイアントバジリスクを見たのは初めてでな。遠目に見たあれがよもやそれ程の脅威とは知らなんだ」


 実際に、現実でジャイアントバジリスクを見たのはあれが初めてだ。ゲームの中では幾度となく遭遇、狩猟したが、この場合は目撃のカウント数には入らないだろう。


 こちらの答えにゼトラスは目を閉じて、額を指で押さえながら難しい顔で思案している。今後の対応を考えているのだろうか?


 二匹が彼の言うとおり、番だとしたら子供にバジリスクがいたりするのだろうか? ゲームでのバジリスクはジャイアントバジリスクの進化前の形態という位置付で配置されていた。レベルはたしか四十~五十くらいだったか、毒吐き攻撃くらいしか特徴のない雑魚だったが。


「我らは屋敷に戻って討伐軍の準備をする! 『鉄の牙』の諸君には我らと一緒に屋敷に来て頂こう。こちらからも何名か斥候を付けて『鉄の牙』の諸君と共に先行偵察を行って貰いたい! ジャイアントバジリスクを討ったと言うその武勇、是非とも我らに御貸し頂きたい!!」


 ざわついて不安げな民衆に向って、宣言する様に言い放つ。恐らく民衆の不安を払拭する為の執政者側の一種のパフォーマンスだろう。


 気の毒なのは巻き添えになった『鉄の牙』のメンバーだろう。言葉的にはお願いという形をとっているが、その物言いは有無を言わせない態度だ。だが傭兵団の名を上げる事を思えば、彼らには渡りに船なのかも知れないが。


 そう思って『鉄の牙』のメンバーを見るが、皆悲壮な表情だ。どうやらあまり渡りたくない船だったらしい。

 こちらは特にお呼びが掛からなかった。とりあえず面倒事に巻き込まれる事が無くて良かったと思っておく。


 ゼトラスを先頭に、兵士の一団が『鉄の牙』のメンバーを促して、荷馬車と共に領主の屋敷の方へと人垣を割って移動して行く。

 領主軍とやらが出るなら近い内に問題は解決されるだろう。


 権力者側とはあまり接点を持ちたくないので、問題が起きる前に拠点の移動をした方が良さそうだ。そう思って西門に背を向けて東門に向けて歩き出す。

 事前調査で、東の街道の先にはコルナと言うここより少し小さな街があり、そのさらに先にはここら一帯では一番大きなディエントと言う街があると聞いていた。距離は馬車で三日から四日程の距離らしい。

 荷物は手荷物と身一つなので、まずはそこへ向かうとしよう。


 その前にラタ村の様子を少し覗いてからにするか──。

誤字・脱字等ありましたら、ご連絡宜しくお願い致します。

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