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少子社会の設計図  作者: カトーSOS


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2-4 高齢者は「問題」ではなく社会の成果である


高齢者が増えること自体を「問題」と呼ぶ言説が、いつの間にか当たり前になった。

ニュースでは社会保障費の増大が語られ、現役世代の負担が強調される。

あたかも、高齢者の存在そのものが社会の重荷であるかのような語り方が、繰り返されてきた。


しかし、この問題設定は根本的に誤っている。


高齢者が増えたという事実は、社会が失敗した結果ではない。

むしろ、長い時間をかけて積み上げてきた成功の集積である。

医療技術の進歩、栄養状態の改善、生活環境の整備、治安の維持。

これらが組み合わさった結果、人は長く生きられるようになった。


長寿は、本来祝福されるべき社会的成果である。

それを「問題」と呼び始めた瞬間、議論は歪み始める。


なぜ歪むのか。

それは、「結果」を「原因」にすり替えてしまうからである。


高齢者が増えたから社会が苦しくなった、という説明は直感的だ。

しかし、直感的であることと、正しいことは一致しない。

社会が苦しくなったのは、高齢者が増えたからではない。

高齢者が増えることを前提とした設計を、途中で放棄したからである。


ここで一度、立ち止まる必要がある。

高齢者は、自ら望んで社会に負担をかけているわけではない。

ただ、生きているだけである。

生き続けること自体が責められる社会が、健全であるはずがない。


世代間対立という構図は、こうして作られていく。

「支える側」と「支えられる側」という単純な二分法が、

複雑な構造問題を覆い隠すために使われる。


だが、この対立構造は虚構に近い。


現役世代が高齢者を一方的に支えているわけではない。

現在の社会基盤は、過去の世代が築いたものである。

道路、上下水道、教育制度、医療制度、企業、行政。

それらは、いま高齢者と呼ばれている人々が現役だった時代に整備された。


支える・支えられるという関係は、時間軸を切り取った一断面にすぎない。

社会は、世代を超えて循環している。

その循環を断ち切るような語りは、構造理解を誤らせる。


高齢者を「問題」と定義してしまうと、次に起きるのは責任転嫁である。

年金が足りないのは高齢者が多いからだ。

医療費が増えるのは高齢者のせいだ。

若者が苦しいのは、高齢者が社会資源を奪っているからだ。


こうした言説は、感情的な発散にはなるかもしれない。

しかし、制度を一ミリも改善しない。

むしろ、本来向けるべき矛先を逸らす働きをする。


高齢者を攻撃しても、出生率は上がらない。

高齢者を減らしても、若者の収入は増えない。

高齢者を排除しても、将来への不安は消えない。


原因ではないものを攻撃している限り、

問題は解決しない。


重要なのは、この「高齢者=問題」という構図が、

誰にとって都合がよかったのか、という点である。


高齢化を問題の中心に据えることで、

制度設計の失敗から目を逸らすことができる。

政治の判断、行政の先送り、制度の硬直。

それらの責任が、個々人の存在に転嫁される。


高齢者が悪いわけではない。

高齢化が悪いわけでもない。

問題は、人口構造の変化を見ながら、

制度を更新しなかったことにある。


長寿社会になることは、予測可能だった。

団塊世代がいずれ高齢者になることは、最初から分かっていた。

それにもかかわらず、

人口が増え続ける前提の制度が、修正されなかった。


その結果として、

制度の歪みは下の世代に集中した。


高齢者は社会の成果である。

問題ではない。

この整理をここで明確にしておかなければ、

以後の議論は必ず誤読される。


本書が批判するのは、人ではない。

世代でもない。

設計である。


高齢者を敵に仕立てる議論は、思考停止を生む。

そして、思考停止の先にあるのは、さらに悪い設計だけだ。


次に問うべきは、

なぜ下の世代の生活が不安定になったのか。

なぜ将来を描けなくなったのか。

その不安定さは、どの制度から生まれたのか。


それを扱うのが、次のパートであり、次章である。

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