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9.保存ボックス

 

 フィリーが農場の一員になってから数日が経過した。

 カリュネラはフィリーの指導の下服づくりにいそしんでおり、簡単なデザインの服を作ることができた。ボタンはなししフリフリみたいな形にする技術もないため、簡単なTシャツやワンピースのようなものだ。しかし、カリュネラは糸の色を自在に変えられるらしく、きれいな模様が描かれているという工夫がされている。


 タケルとしては着られればなんでもいい派なので、無地でいいのだがフィリーはそういうわけにはいかないようで色々と指示をしていたようだ。カリュネラにとって大変だったのではないかと思ったが、服づくりにはまったようで、楽しそうに作業をしていた。


「なかなかいい出来じゃない」


 フィリーはカリュネラに作ってもらったワンピースを着てその服を見ている。


「どう?」

「似合ってる、似合ってる」


 タケルにファッションセンスなど皆無だが、女性に対して無難な返事をするくらいの気遣いはできる。


「ディープスパイダーの布が使い放題っていうのは最高ね」


 フィリーは何かとご満悦なようだ。むしろこのためにこの場所にいるんじゃないかという気がしなくもないが、貴重な労働力を手放したくはないので、それでよしとする。

 服が作れるようになると原始生活のレベルが一つ上がったような感じがする。まだまだないものだらけだが、少しずつ増やしていけばいいだろう。


「そうだ、カリュネラ。味の分かるお前の舌をうならせるだけの野菜ができたぞ」


 この数日、ゆっくりと品質重視で育成したところ、高品質の野菜の量を増やすことができた。とはいっても、まだ数日レベルなので、全体で一から二割程度だ。もっと時間をかければより高品質なものを作ることができるかもしれない。


「ほんとに! やったー!」

「頑張って服を作ったご褒美にたくさん食っていいぞ」


 おいしそうに食べているカリュネラを見て食欲がわいたのか、フィリーは山盛りの積まれている野菜の中から一つのトマトを取った。


「そんなに違うものなのかしらね」


 そういいながら一口食べた。


「ん! 確かにおいしいわね」

「何!? お前も味の違いが分かったのか……!」

「失礼ね。味の違いくらい分かるわよ。……っていうか、たぶん今までこの高品質の野菜を食べさせてもらったことがないわね」


 フィリーはタケルをジト目で見つめる。


「あれ? そうだったか?」


 タケルはフィリーと出会ってからの日々を思い出してみると、基本的によくできた作物のほとんどは神様に捧げていた。そして、残った高品質の野菜はラグナが食べていた。素早く嗅ぎ付けて物欲しそうに見てくるので、その視線に耐えられないからだ。


「そうだったかもしれないなー」


 さらにフィリーのジト目が強くなる。


「まあ、いいわ。これからはこれが毎日食べられるってことよね」

「……そうしてやりたいのは山々だが、それは難しい」


 農家の矜持としてもうまいものを食わせてやりたいという気持ちがあるが、農家としての腕以外の問題があるのだ。


「どうしてよ?」

「保存の問題だ。高品質のものはだいたい採れてから一日か二日しかその状態を保てない。それ以降は品質が下がる」


 今はまだいいかもしれないが、これから時間をかけて野菜を育てるとなると、毎日高品質のものを収穫することは難しくなるだろう。


「保存の問題ね……。あなた女神様から色々もらえるじゃない。それで何とかならないの?」

「そんな都合のいい道具はない……いや、ちょっと待てよ」


 少し前、新しく果物が増えた。ということなら、他のものも増える可能性があるのではないかとタケルの中で一つの案が浮かび上がった。


「試してみる価値はあるか」


 タケルは神棚の前に行き、高品質の野菜たちを置き、いつものようにお祈りを始める。


「私は今、作物の保存で困っています。できればうちの農場で働く奴らにはおいしいものを食べさせてやりたいんです! どうか品質を保存できる何かを私めにお与えください! どうかよろしくお願いします!」


 必死に祈っていると、ギフトボックスを見て見ろという直感が働き、慌てて開いてみると


「女神様に願いが届いたあああああああ!!!!」


 そこには保存ボックスという項目が追加されていた。ポイントは三百と多いが、今まで溜めてきたポイントで何とか払える数字だったので、すぐにそれを選択した。


「……あれ?」


 保存ボックスという名前から箱のようなものが現れると思ったが、何にも出てこなかった。


「どうしたの?」


 騒いでいるのを聞きつけてフィリーたちがやってきた。


「いや、今、女神様から保存ボックスをもらったんだが……あっ! そういうことか!」


 タケルはフィリーたちを置き去りにして、畑に向かいトマトを一つ収穫する。そして、それを目の前に現れた謎の空間に入れると感動したかのような声を出す。


「おお!」


 そして入れたトマトを取り出す。


「おおお!」


 そしてまたトマトを入れる。


「おおおお!」


 そしてまたトマトを取り出す。


「すげえー!」


 フィリーたちはタケルがトマトを出し入れする様子を見て固まっていた。


「……いったい今何をしたの?」

「保存ボックスだよ。見りゃあ分かるだろ」


 そういいながらタケルは次々とトマトを収穫して保存ボックスの中に入れていく。


「たぶん俺が育てた作物ならいくらでも入るぞ。しかも品質を維持したまま」

「……とんでもない能力ね」


 フィリーは何かよく分からない空間に品質を維持して作物を保存できるという能力の価値のすごさに驚いていた。


「いやーこれで高品質のまま保存できるから助かるなー。女神様ああああ、ありがとうございまああああす」


 タケルは高いテンションのまま女神様に感謝の言葉を叫んでいく。


「ラグナ、カリュネラ、毎日うまいもん食わせてやるぞ」

「やったー!」

「わんわん!」


 フィリーだけはこの能力のすごさと使い方に思考を巡らせていたが、単純においしいものが食べられると喜んでいるタケルたちを見てばかばかしくなった。


「まあ今更か」


 よくよく考えてみれば、意味不明なくらいのスピードで作物を育てることができる能力がある時点でおかしいので、保存ボックスが増えたくらいじゃあたいしたことじゃないなと思い直したのであった。



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