8.果物
翌日。
未だまともな家もないタケルたちは相変わらず外で朝食としてサツマイモを食べている。土魔法を使った簡単な机と椅子を用意して、そこにタケルとフィリーは座っている。
タケルは朝食を食べながら、サツマイモが乗った皿を見つめる。このサツマイモだけでも腹は膨れるし生きてはいける。しかし、もう少し食べる種類を増やしたくなるというのも人間の性だ。
「そろそろ果物とかも欲しいな」
まだまだ作れる野菜はたくさんある。しかし、調理器具や調味料がない状態では、緑の野菜を作る気になれない。例えばレタスとか作ってもドレッシングなしでは草や葉っぱを食べているのと一緒だ。わざわざ作って食おうとは思えないだ。
「どんな果物が作れるの?」
タケルが独り言で言った言葉をフィリーが拾う。
「うーん、それが女神様からもらえるギフトボックスの中には果物がないんだよな」
女神様のギフトボックスの中には前世のスーパーでいつでも売られているような野菜がほとんどだ。多分大抵の人が聞いたことがあるような名前の野菜しかない。人参、ジャガイモ、玉ねぎ、ピーマン、トマト、キャベツ、レタス、ほうれん草、きゅうりなど。季節性のものなんかはほとんどない。
「だから、そこらへんに実ってる果物かなんかになるかな」
もさもさと食べていたカリュネラがタケルに話しかけてきた。
「主、主」
「なんだ?」
「この野菜さ、僕が最初に食べたのとなんか違くない?」
「……違いが分かるのか」
「うん。なんて言うか……こう食べたときにぶわーっとしたのが来るのか来ないのかっていう違いがあるんだよね」
「味が分かる奴が来ちまったか……」
おすそ分けでカリュネラに持っていった野菜は上級品ばかりだった。現状採れる量は少ない。というのも、育成スキルを使えば、すぐに野菜は育つ。それでも十分に食べられる品質のものが出来上がるのだが、品質は高くない。高い品質のものを作るためには、育成のスピードを下げる必要がある。
今まではどんどん野菜ができるのが楽しくて、つい育成スピードを上げていた。だが、味が分かる奴が来た。味が分かる奴にいまいちの野菜を食わしていいのか?否。それは農家としての恥である。どうやら農家としてステージを一つ上に上げる時期が来たようだ。
「なら、これからは品質重視で作るか。ちょっと待っとけ。すぐにカリュネラをうならせるような野菜をたくさん作るからよ」
「わーい」
ある要望を心のうちに秘めたフィリーは食事中に今か今かとタイミングを計っていた。カリュネラの機嫌がよくなった今がチャンスだと思い話しかける。
「ねえ、カリュネラ」
「何?」
「あなたは服作れる?」
「服?」
「今私やタケルが着ているのよ」
カリュネラはフィリーが着ているものをまじまじとよく観察する。
「うーん、頑張れば作れるかも?」
「!! じゃあ、ぜひ私の服を作ってほしいの!」
王侯貴族が大枚をはたいて手に入れる生地使って好き放題に服を作れる。そのことにテンションの上がったフィリーはそのままの勢いで話を続けようとするが
「ちょちょちょちょ、ちょっと待てーい!」
タケルがインターセプトした。
「……何よ。今私はカリュネラと真剣な話をしているんだけど」
フィリーはジト目でタケルをにらみつける。
「服の前に農作業で必要なものが先だ。袋とか手ぬぐいとか」
「それはもう昨日作ったじゃない」
「まだ数枚じゃないか。もっと必要だ」
「何枚?」
「千枚だ」
「多すぎるわよ!」
「袋は消耗品だ。多い方がいいに決まっている」
「いや、そんな早く消耗しないでしょ。ディープスパイダーの糸は頑丈なんだから」
「そうなのか?」
「切れ味のいいナイフで何とか傷がつく程度よ。それに汚れも付きにくいし。農作業で使うくらいじゃあ、よっぽどのことがない限り使い続けられるわよ」
「それなら百枚くらいでもいいか」
「それでも多すぎるでしょ」
「そうか?」
「とりあえずすぐ使う数枚あればいいんじゃない?また必要になれば作ってもらえばいいんだし」
「まあ、確かにそうだな。じゃあ、服を作ってもいいぞ」
「やったー。ちゃんとあなたの分も作ってもらうから」
こうしてタケルはうまいことフィリーに言いくるめられた。
フィリーはその勢いのまま地面に簡単な服装のデザインを書き上げる。
「こんな感じの作れる?」
「うーん、ちょっと難しそう」
「そっか、さすがに服飾技術はないか。まずは簡単なものからステップアップしていきましょう」
盛り上がるフィリーをよそにタケルはいつも通りの農作業をするために畑の方に向かう。途中でなんとなくギフトボックスの中を見てみると、そこには今までになかった種類があった。
「果物が増えてるうううううううううう」
どうして増えたのかは分からない。たくさんお供え物をしたからなのか、それとも解放条件があったのか。分からないことを考えていても分からないので、考えることを放棄した。
「種類はリンゴ、梨、ブドウ、バナナか。……バナナってここでも育つのか?」
タケルのにわか知識でも南国の場所で取れているようなイメージがありこの場所は何となく当てはまらないような気がする。ただスキルを使えば育てることはできるという勘も働いている。
「うーん、ここはリンゴにするか」
以前、ラグナと出会ったときに物々交換した果物はおそらくリンゴだ。ただ前世とリンゴと比べるとあまり甘くなくおいしくなかった。
「ラグナ、お前に本物のリンゴってやつを食べさせてやるよ」
タケルが騒いだことで寄ってきたラグナに話しかける。
「わん!」
「お前ってリンゴが好きなのか?」
「わん?」
「好きでも嫌いでもない感じか……」
「わん」
「好きな味だといいな」
リンゴの種をギフトボックスから召喚し、畑に種を蒔いていく。そしていつも通り育成スキル急速成長させるが、野菜の時よりも成長させるのが大変だ。果物の木が成長するのに何年もかかるので、その差が影響したのだろう。
集中して育成スキルを使ったことで、三時間ほどでリンゴがなった木にすることができた。
ちょうどいい感じに木が成長したころにラグナがやってきて、タケルの方を見つめていた。まるで早くよこせと言っているかのようだ。
「まあ、待て。初物は神様にお供えしないとな」
神棚の前の台座にリンゴを置き、二礼二拍手してお祈りをする。
「果物の種ありがとうございました。こちらが女神様から頂いた種で作ったリンゴです。どうかお納めください。これからもっとおいしいリンゴを作っていきたいと思いますので、どうかわたしを見守りください」
最後に一礼をするとリンゴは光の粒子になって女神様のところに送られていく。
「よし、次は俺たちの番だ。せっかくだし、半分こにするか」
リンゴはタケルとラグナの思い出の品でもあるので、あえて半分こにして食べることにした。タケルはリンゴを半分に切り、片方をラグナに与え、もう半分のリンゴにかぶりついた。
「やっぱ、これだよな。リンゴの味ってのは。どうだ、おいしいか?」
「わん! わん!」
「おお、うまいか! そいつはよかった」
そこにフィリーとカリュネラがやってきた。
「あら、これは何?」
「今日取れたリンゴだ」
「へぇ~私も食べていい?」
「おお、いいぞ。カリュネラも一緒に食べようぜ」
フィリーとカリュネラにそれぞれリンゴを一個ずつ渡してあげる。
「ん! 甘味と酸味がちょうどいいバランスでおいしいわね」
「これ僕好きかも」
「そいつはよかったぜ。でも、それは一日で作ったリンゴだから、時間をかければもっとうまいのができるぜ」
「わーい、それは楽しみだね」
カリュネラは無邪気に喜んでいる。お気に入りみたいなので、積極的に作っていくのもいいだろう。
タケルはふと気になったことをフィリーに聞く。
「そういえば、フィリーはいつまでここにいるんだ?」
「……いちゃいけないの?」
どうやらフィリーはさっさと出ていけとでも言われているように勘違いしたようだ。
「いや、ただ何か用事があってこの森に来たんじゃないのか?」
「……元々、この森のあるエルフの里に行こうとしたんだけど、今この地域は食糧不足でしょ。エルフの里も食料に余裕があるか分からないし……。もし、今行ったら迷惑かけるかもしれないし……だから、私をここに居させてくれない?」
どこか真剣な表情でタケルに頼み込む。
「いいぞ」
「ずいぶん、あっさりしてるわね」
「別の俺は食料に困ってないし、むしろ人手不足に困ってる。だったら歓迎するに決まってるだろ」
「ふふ、じゃあこれからもよろしくね。タケル」
「ああ、こちらこそよろしくな。フィリー」
こうしてフィリーは本格的に農場の一員になったのであった。




