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6.小麦粉

 

 朝食を食べたあと、タケルはおもむろにフィリーに話しかける。


「さてと、これまでさんざん世話してやったよな。そろそろその代金をお前の体で払ってもらおうか。ぐへへ」

「ちょ、ちょっと、いきなりなによ!」


 フィリーは自分の身を守るように大事なところを手で隠す。

 そんなフィリーをよそにタケルはギフトボックスから、千歯扱きという脱穀機と石臼を召喚する。


「俺は今から小麦を作る。だから、お前は小麦粉を作るんだ! うおおおおおおおお」


 タケルはようやく小麦粉を作れる喜びから、謎のハイテンションになって畑の方に走る。今までも千歯扱きと石臼はポイントで交換できたが、製粉作業に時間を取られるのが嫌だったので手を出していなかったのだ。


 ギフトボックスから小麦の種をもらい、畑にまいていく。そして、地面に手を置いて小麦の成長を早める能力を使っていく。以前は無意識的に使っていた能力だが、さんざん農業をしていたおかげで。ある程度意識的に使えるようになった。育成スピードを上げ過ぎると若干質が下がるが、今はとにかく作ることを優先させる。


 すると、あっという間に小麦は実ったので、ギフトボックスから鎌を召喚し、収穫を始める。収穫後、あっという間に乾燥が進みいい感じになる。


「よっしゃ! 小麦ができたぞおおおお」


 タケルは収穫した手の小麦をフィリーのところにもっていく。


「えっ、ちょっと待って! 小麦ってこんな一瞬で育たないでしょ?」


 フィリーの常識では、小麦は秋に種まきで春に収穫。年一回収穫できるものという風になっていた。そんな常識がボロボロと崩れ去った。


「これも女神様からもだった力だ」


 タケルはどや顔で言う。


「嘘でしょ……こんな能力……」


 フィリーはその先に続く言葉を飲み込んだ。なんとなくだが言ってはいけないと思ったのだ。そしてフィリーは気を取り直して、話を進めた。


「それで、どうやってこれを使うの?」

「この千歯扱きを使って小麦の身を取り外す。そのあとこの石臼の穴の中に入れてゴリゴリ回す。それで小麦粉の出来上がりだ! たぶん」

「たぶんって……」

「俺も使ったことがないからな。まあ、失敗してもいいだろ。チャレンジ、チャレンジ」


 そういって、フィリーを小麦粉の製粉作業をやるように促す。フィリーはおもむろに千歯扱きを使って小麦から身を取り外し始めた。


「意外とボロボロ取れて面白いかも」

「いいぞ、いいぞ」


 タケルは腕を組みながら、その様子を見守る。


「とりあえず、そのくらいでいいだろ。次は石臼だ」

「分かったわ」


 フィリーが石臼を回すと、パラパラと小麦が落ちてくる。


「おお、ついに俺は小麦粉にたどり着いたのか」


 小麦粉があれば、パンやうどん、パスタなど色々な物を作ることができる。今は足りないものが多すぎるが、小麦粉を作れるようになったのは大きな前進だ。それに小麦粉は主食になるから、今後周辺の村や町と取引するときにも使いやすいだろう。


「よし、さっそく、この小麦粉を食べるぞ」


 小麦粉をまな板の上に乗せて、そこに水魔法で生成した水をちょろちょろと注ぐ。それをこねくり回して、生地にしていく。その生地を温めた大きめの石に乗せて、焼けるのを待っている。


「名前は……名前はなんていうだ?」

「何が?」

「この料理の名前。小麦粉を水で練って焼いただけの料理名を俺は知らない」

「ふーん、それなら小麦粉焼きとかでいいんじゃない?」

「安直だな。だが、それがいい! 小麦粉焼きの完成だ!」


 出来上がった小麦粉焼きを皿に乗せる。その皿をいったん地面に置き、両手を合わせる。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」


 フィリーもその様子を真似るかのように両手を合わせて、いただきますをする。そして、すぐには手を付けず、タケルの様子を見ている。


「精神的にうめええええええ」

「何よ、その表現」

「いや、特に味付けなんてしてない状態だからな。味覚的にめちゃくちゃおいしいとまではいかないわけだ。小麦の味しかしねーし」


 それにこれは育成スピード爆上げで作ったものなので、品質もめちゃくちゃいいわけじゃない。丁寧に作ったものなら、また違ったのかもしれないが。


「でもな、苦労という名の調味料を使ったことで、精神的にうまくなるんだよ」

「何よ、それ。普通に塩くらいかければいいじゃない」

「ちっちっち。そう言わず、食べてみろよ。フィリーが手間暇かけて小麦を粉にしたんだ。それを思い出しながら食ってみろ。きっと精神的にうまいぞ」


 フィリーは半信半疑ながらも、小麦粉焼きを一口パクリと食べてみる。


「……確かに精神的においしいわね」

「だろ?」

「それに味も悪くないわよ。今までにこれよりもマズいパンを食べたことがあるわ」

「へへ、そんなに褒めるなよ」


 小麦粉焼きを食べ終わったフィリーは一息つき、自然に身を任せくつろいでいた。なんとなく周囲の木々や畑を見て、風を感じる。その落ち着いた雰囲気の場所に、いつの間にか居心地の良さを感じていた。

 タケルはその場から立ち上がり


「さてと、そろそろ農作業に戻るか。じゃあ、午後からも仕事頼むな」

「分かったわ。ところで、この粉にした小麦粉ってどこにやればいいの?」

「……あああああああ」


 ついうっかりしていた。労働力が手に入り小麦粉が作れることでテンションが上がっており、先のことを考えていなかった。


「袋がない……」


 今のところ木から削り取る感じで作れる木製のものしかない。形を整えで組んで箱を作る技術などない。


「袋持ってないか?」

「カバンくらいしかないわね」


 タケルはぐるぐる頭の中で考える。今までも創意工夫で何とかできていた。今回もきっと何と貸して見せると意気込む。そんな時にフィリーが何か思いついたようだ。


「そういえば、草?を編んだもの?とか見たことわね。確か素材は小麦の残った部分に似ているような気がするけど、使えるじゃない?」

「米俵か……」


 タケルは一人ぼそりとつぶやく。前世のにわか知識的に昔は藁で編んだもので米を保存していたような覚えがある。藁を使った袋を作れば暫定的に保存はできるかもしれない。


「それってどうやって作るんだ?」

「……知らない」


 タケルは内心使えねーって思ったが、口にしなかった。


「知らなくてごめんなさいね」


 しかし、なぜか表情で伝わってしまったようで、厭味ったらしく全く謝罪していない謝罪をしてきた。


「他にはこの森にいるディープスパイダーの糸を使った布とかもあるわね。それを使えば、袋くらい作れるんじゃない」


 半分投げやりな感じでフィリーは提案をする。


「そんな蜘蛛がいるのか。ラグナ、そのディープスパイダーとか言う蜘蛛の居場所知ってるか?」

「わん!」


 ラグナはうなずく。どうやら知っているようだ。


「じゃあ、ちょっくら行ってくるか」

「ちょちょちょ! 待ちなさいよ! ディープスパイダーの蜘蛛の糸は高級品なのよ。採取が大変で、危険だから値段が高いわけ。だからそんな気軽に取れるようなものじゃないわ!」


 慌てて止めるフィリーに対して、タケルはやれやれと言った感じで応える。


「危険だから高くなるっていうよりも、森の中に行くと手間がかかるから値段が高くなってるだけだろ」

「そんなことないわよ。ディープスパイダーはかなりに頭が回る魔獣よ。安易に近づいたら危険よ」

「頭がいいって言うんならラッキーだな。ワンチャン交渉すれば布分けてもらえるかもしれないな」

「そんなの無理に決まって……ないかもしれないわね」


 フィリーは言葉の途中でラグナのことを見て、可能性があると思ってしまった。普通ホワイトウルフは人の下にはつかない。しかし、ここでは普通にタケルの言うことを聞いているし、畑を守っている。ディープスパイダーとも、友好的な関係になれる可能性はないとは言い切れないのだ。


「まあ、ディープスパイダーはうちのご近所さんだ。おすそ分けがてらちょっと挨拶してくるわ。ついでも布もらえそうならもらってくるわ」


 そんな軽い調子で、タケルとラグナはディープスパイダーのところに向かった。



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