14.ドワーフ職人たち
翌日。
ブロムの家で、タケルと職人ドワーフたちは顔を合わせた。
「タケル、こいつらだ。儂が連れて行くのは」
木工職人のバルドリン、鍛冶師のバルド、トルヴァル、魔道具師のヘルグ、大工のガンド バルドックの六人をブロムは紹介した。
「おう、よろしくな!」
「ちと、問題があってな……」
「どうした?」
「いや、それが……このバルトって奴はこの国でトップクラスの鍛冶師でな……」
「それって完全にアウトじゃない!」
フィリーが突っ込んだ。それもそのはず。国が抱えている鍛冶師を引き抜くとなったら、当然揉める。というか揉めなければ国としてのメンツが保てない。
「安心しろ。もう儂は半分隠居していたようなもの。今から引退して田舎に引っ込んでも誰も文句は言わんだろう」
「そんなわけないじゃない!」
「まあまあ、落ち着けよフィリー。この爺さんが引退して引っ込む田舎が、たまたま俺たちの町ってだけの話だろ?」
「そうだ。お前さんたちは関係がない。たまたまだ」
フィリーはああこれは言うことを聞かない奴だと分かった。たぶんどんなことになっても付いてくる気のあるやつだと思った。
「……また爆弾が一つ増えるのね」
とフィリーはぼそりとつぶやいた。
ヤマトの町には周辺の国には知られたくないことがすでにいくつもある。その爆弾がまた一つ増えたのであった。
「そもそも、俺たちが行こうとしている町ってどこなんだ?」
職人ドワーフの一人が聞いてきた。
「えーっと、森の中にある町だ!」
「グリムヴェイル大森林よ」
「「「グリムヴェイル大森林!」」」
一般的にグリムヴェイル大森林は魔獣が多く住んでいる危険地域だと思われている。そのため戦う力がない人が行くには勇気のいる場所だ。
「俺たちあんな恐ろしいところに行くのかよ」
「おい、本当に大丈夫か? ブロム」
トルヴァル、バルドリンが言った。
「……俺も今知ったところだ」
「おい!」
思わす、バルドリンが声を上げてしまう。
グリムヴェイル大森林と聞いたことで、ドワーフたちは不安そうにしている。
「安心しろって。まだ発展途中の町だが、いい町だぞ?」
そうタケルが言葉をかけるが、ドワーフたちには響かない。そもそもそういう話ではないのだ。
「どうする?」
「どうするって、俺はもう行く気だぞ。グリムヴェイル大森林って聞いたときには驚いたが、それだけだ。どこだろうと俺は最高の酒をタケルと作るつもりだ」
すでに覚悟が決まっているブロムの発言にタケルはニカッと笑う。
「「「……」」」
他のドワーフたちはわずかに沈黙している。
「それもそうだな。俺たちは俺たちの仕事をする。それだけだな」
ガンドが言った。
ドワーフたちの残りの人生も短いのだ。最高の酒を造れる可能性がある。それだけで行く価値はある。
「あんちゃん、その町まで行くときにはちゃんと守ってもらえるんだろうな?」
バルドリンがタケルに聞く。
「当たり前だろ? かすり傷一つすらつけさせないから安心しろ」
ドワーフたちにはその言葉には不思議と説得力があるように聞こえた。一切気負っていることなく、当然のように言った。それくらい自分に自信があるのだろう。
「よし! みんな俺の町に来る覚悟はできたようだな」
ドワーフたちが決断をしたタイミングを見計らってタケルが話をまとめた。すると、ドワーフたちは皆うなづいた。
「それじゃあ、三日後の朝、この町の北側の街道を一キロほど進んだところで待ってる。それでいいか?」
「ああ、それでかまわない」
ドワーフたちを代表してブロムが答える。
「一応、これはバレたら面倒ごとになる話よ。だから、念のため出発ギリギリまで他の人たちには伝えないこと。あと理由も適当にごまかして。特にバルド。あなたは気を付けてよね」
「……分かってる」
念のためフィリーがドワーフたちに釘を刺す。特にバルドはバレたら問題になるのは確実なので、行方を完全にくらましたいところだ。
「じゃ、三日後にまた会おう」
こうして、タケルとドワーフたちは三日後に向けて準備を始めた。
引退していなかった職人たちは、自分たちの工房にて引退することを告げた。次の親方候補はほぼ決まっていたようなものなので、特に問題が起こることなく引継ぎをすることができた。
タケルの町に行くことを伝えたのは、配偶者や子供など信頼できて口の堅い身内のみに話した。人によっては、呆れられたが、タケルとともに行くドワーフたちのバカさ加減を身内は知っているのであっさりと納得した。
ドワーフたちは必要最低限のものを荷物として準備する。今まで使ってきた道具と簡単な身の回り品だけを持っている。
人によっては荷物の少なさに寂しさを覚えるかもしれない。だが、どこかドワーフたちは気分が高揚していた。この歳になってもまた新しいところでチャレンジをするというのは心が躍るものがあった。
そして何より、ブロムの顔。少し前まではしけた面だったのに、タケルの町に行くのが決まってからは別人のような表情をしていた。それが友としてうれしかったのだ。
こうしてドワーフたちは着々と準備を進めていった。
ブロムは出立の前日の昼に店の解散を告げることにした。
「俺は今日でこの酒造店を閉めることにした」
三名ほどしかいない従業員たちの前でブロムはこういった。従業員はどこか納得しているようだった。それもそのはず、店の経営状況を見ればいつ倒産してもおかしくなかったからだ。
「それで親方はどうするんですか?」
「もう俺は酒造り職人としてはダメだ。田舎でゆっくりとでもするさ」
「田舎って……そんなもったいないですよ! せめてどこかで働くとか……」
「はっ、うれしいこと言ってくれるじゃねーか。でもな、知ってるだろ? 今の俺はマズい酒しか造れねー。そんな奴はとっとと引退した方がいいんだよ」
「そう……ですか……」
従業員はそれ以上何かを言うことはできなかった。
「一応退職金をちょっとばかし皆に払う。今まで世話になったな。受け取ってくれ」
従業員は退職金を受け取って去った後、残ったのはブロムと弟子の二人だ。
「お前さんは、本当についてくるのか?」
「はい! ですので、この退職金は要りません!」
「全く物好きな弟子だ」
そう言いながらもブロムの表情は明るかった。




