12.金策2
全部で三つのお店で売ることができた。中には布を出す前に買取を拒否されたケースもあるため実際に回ったお店の数はもっと多い。
タケルたちは日も暮れてきたのでいったん宿屋に戻ってきた。
「全部の合計が五百六十万ゼニーと」
「もともとあったお金を合わせても七百六十万ゼニーね」
「足らないっすね」
残り二百四十万ゼニー足りない。あと二回分ぐらい布があれば足りる計算になるが。
「残り布は?」
「もうないわよ。持ってきた分は全部売ったわ」
「だよなー」
もう残りの布はない。
「あ、そういえば、近くにディープスパイダー達いるよな? 頑張って作ってもらって、他の町で売るか?」
カリュネラがいない分、買取価格は下がってしまうだろうが、量で何とかカバーすれば、残りのお金ぐらいは稼げるかもしれない。
「悪くない案だけど、時間足りるかしら?」
ディープスパイダーの布となると、それなりに大きな町じゃなければ高く買い取ってもらうことは難しい。ディープスパイダーの布取り扱えない服屋に売っても、他の服屋に転売されるためそこまで高く買い取ってくれないのだ。
それに作ってもらうといっても、すぐに大量の布ができるわけではない。
「うーん、ぎりぎりか……」
何かもう一捻りのアイデアが欲しい。そんな時に部屋の扉が開いた。
そこには大きな袋を大事そうに抱えたエルミィがいた。どうやらただ事ではない。目がギンギンになってきょろきょろしながら部屋に入ってきて挙動不審である。
「追手は、追手はいないかにゃ」
「ああ、大丈夫だ。もう宿の中だしな」
「どうしたんだ? なんか変だけど」
タケルは明らかにおかしいエルミィに不審そうに、心配そうに聞く。
タケルとエルミィの目が合った。すると、エルミィは小走りでタケルに近寄り持っている袋を押し付けようとした。
「タケル様、どうかこのお金をもらってほしいにゃ!」
「どうしたんだ? マジで」
「あの、それが……」
様子のおかしいエルミィではなく護衛についていた獣人が事情を説明し始めた。
エルミィたちはおいしいご飯屋さん巡りをするために、道行く人においしいところはどこかというのを聞いて回っていた。その後、とある肉料理屋さんに入って、そこに人気メニューを食べた。
「おいしいにゃ!」
あまりに元気よくおいしそうに食べているエルミィのことを気に入ったのか、隣の老人ドワーフと話をして仲良くなった。その老人がエルミィをある場所に誘った。
「面白いところに連れて行ってやる」
そう言われてたどり着いたのは、賭博場だった。ドワーフの国では賭博場は合法で、危険性もないため護衛も止めなかった。
「嬢ちゃん、このルーレットなんてどうだい?」
「ちょっとやってみるにゃ!」
エルミィは簡単にルールを説明してもらったが、結局どれに賭ければいいのかなんてのは分からないので、直感で赤色に八百ゼニー分のチップを賭けた。
その爺さんもエルミィと同じ場所に賭ける。
「おお、当たったにゃ!」
「よかったな! 嬢ちゃん!」
エルミィは倍になったチップをまじまじと見つめる。
「これも賭けるにゃ!」
増えたチップをすべて再び赤色に賭けた。
そして爺さんもエルミィと同じ場所に賭ける。
ルーレットは再び赤が出る。
「やった! また当たったにゃ!」
「いいね! 嬢ちゃん! 運がいい!」
味を占めてしまったエルミィは再び勝ち取ったチップを黒色に賭ける。そして、爺さんも同じ色に賭ける。
「また、当たったにゃ! これをもう一回賭ければ、また倍にゃ!」
「おい、嬢ちゃん、ほどほどに賭けた方がいいぞ」
この爺さんは元気の良さそうなエルミィのビギナーズラックを頼るためにここに連れてきたのだ。決して悪い爺さんではないため、ちょっとおかしくなり始めているエルミィを戒める。
「いや、いけるにゃ! 今の私ならいけるにゃ!」
だんだんと興奮し始めたエルミィは止まらなかった。いや、自分でも止まれなかった。
その後も、順調に当て続けた。
明らかにハイになって頭がおかしくなってしまったエルミィ。
「にゃーっはっはっはっはっはっは!」
「おい、エルミィ、そこまでにしておけ!」
見守っていた護衛の方が怖くなってしまったのだ。このまま当て続けてしまったらエルミィはどうなるのか?
「今度は黒が、黒が来るにゃ! にゃっはっはっはっは!」
「バカ、もうよせ!」
無理やりにでもエルミィを止めようと力づくで賭けるのを止めさせる。
「放せ! 来るにゃ! 黒が来るにゃああああああああ!」
エルミィがいくら叫ぼうと力では護衛に勝てない。そしてエルミィは賭けることができずにそのルーレットの結果が出る。
そして、結果は赤。
「……止めてくれて助かったにゃ」
今まで百発百中で当ててきたがゆえに、外れるとは思っていなかった。しかし、自分が予想した者とは違う結果になったことで一気に冷静になった。
「もう帰るぞ。いいな」
「分かったにゃ」
エルミィは大人しくチップを現金に換え賭博場を出た。
だがいざ冷静になっていると、とんでもない大金を持っているのが怖くて怖くてしょうがなかった。誰かに奪われるんじゃないか、襲われるんじゃないか、と疑心暗鬼になって逆に怪しい人物になっていた。
そんな状態で宿に着いたのであった。
こうして事情を聴いたタケルは改めてエルミィに聞く。
「ちょうどお金が必要になっちまってな。くれるっていうなら助かるが、本当にもらってもいいのか?」
エルミィが勝った金額は約三百三十万ゼニーだ。不足していた二百四十万ゼニーを補うことができる金額だ。
「あぶく銭にゃ! タケル様の役に立つならぜひ使ってほしいですにゃ! というよりもこんな大金怖いので差し上げますにゃ!」
エルミィは献上するかのようにタケルに手渡す。
「ありがとな」
「ふう、ようやく解放されたにゃ」
エルミィは心底ほっとしたような表情を浮かべるのであった。
◆
カザルの領主館の一室にて領主と一人の商人であるドワーフが一緒に酒を飲んでいる。
「首尾はどうなっている?」
「順調でございます。持って半年といったところでしょうか」
商人は目的の男がどれくらいの借金を抱えているのか正確に把握している。そしてもう限界に近いということも知っている。それでも念のために余裕を持った期間を領主に告げる。
「ふん、あの頑固者には苦労させられる」
「ええ、ですが、それもあと少し。あのものがうちの傘下となれば、作った酒の販売は自由にできます」
この商人はタケルたちが仲間にしようとしているドワーフの酒場に行ったときに、話をしていた商人ドワーフだ。
「全く作った酒をすべて名酒として売り出しておれば、奴もこんなに苦しむ必要がなかったのにな」
「全くバカな男ですな。十分にうまい酒を造っているというのに、出来が気に入らないからと言って、国王陛下より賜った名酒の証であるクラウン・レッドの名称を付けるのを拒んだのですから」
「そうだ。全く持って忌々しい。あの酒があるかどうかで他の領との付き合い方もだいぶ変わるというのに」
そう言って領主はぐいっと酒を飲む。
うまい酒を造っている領というのはドワーフの国であるグラニット王国において重要な事柄である。それにうまい酒を持っていれば、他の貴族との様々な交渉がしやすくなるので、領主としてはのどから手が出るほど欲しいものだ。
「クラウン・レッドの封蝋さえつけておけば、些細な差など気付くものなどおらんというのに」
「お気付きになられるのは、閣下ぐらいでしょう」
「まあな」
領主は少しばかり機嫌がよさそうに酒を飲む。
「奴はどうせたいしたことはできんだろうが、抜かるなよ」
領主は商人に向かって釘をさす。
「分かっております。確実に奴を追い込んでみせます」
こうして二人の密談は密かに続くのであった。




