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11.金策1

 

 タケルは一千万ゼニーを集める方法を決めるためにとりあえず宿に戻って皆で話し合うことにした。


 だがその方法を話し合う前にフォリンがタケルに気になっていたことを聞いた。


「ほんとにあの人でいいんすか?」


「あいつでいい。いや、あいつがいい」


「いやでも、あんなワインしか作れない職人すよ?」


 フォリンにしては衝撃的だった。こんなまずいワインを飲んだことはないというよりもワインという名の別物なんじゃないかとさえ思っていた。味音痴のフォリンがである。


「まあ、確かにひどい出来だったわよね……」


「あいつの腕の問題じゃねー気が済んだよな」


 ただタケルの勘だ。根拠がない。


「それじゃあ、どうしてあんな不味いんすかね?」


「外部からの邪魔とか?」


「うーん、でも、クラウン・レッドを作るほどの酒造店にそんなことやったら、普通領主が激怒するわよ」


 クラウン・レッドの称号は職人だけでなく領主にとっても大事なものだ。万が一、他からの邪魔でその酒が失われたとしたら、徹底的に犯人を追う。しかし、そんな様子もなさそうだった。


「むむむ、理由は分からん! でも、あいつは悪くない! それにあいつにするってもう決めた!」


 タケルが言い切ったことで、皆反論はやめた。これ以上とやかく言ってもしょうがないからだ。


「それでお金の当てはあるの?」


「ない! あの場の勢いだ!」


 当然タケルにはお金がない。タケルの町であるヤマトは貨幣経済ではなく物々交換中心で生活が成り立っているからだ。そのためこの町で金策を行う必要がある。


「やっぱりね」


 少しばかり呆れたようにフィリーが言った。


「何かお金を集める案がある奴はいるか?」


「ヤマトの町の皆から集めるというのは?」


 シェイドが案を出す。


「うーん、それはやめておこう」


「タケル様のためであれば皆も納得すると思いますが……」


 今はタケルが住民にほとんどの食料を与えている。それを考えるなら、金を徴収しても何の問題もないというのは理屈では通っている。


「これは町のためじゃなくて、俺のためにやることだからな。さすがにそこまでのことはしたくねー」


 タケルは女神様のクエストはあくまでタケルに出されたもので、住民は関係がないと思っている。私利私欲で税金としてお金を巻き上げるのはちょっと違うなと思っている。


「兄貴の野菜とか果物とかを売るってのはどうっすか?」


「それはなしよ」


 フォリンの出した案にフィリーがぴしゃりと言う。


「大金を集めようと思ったら、大量に売る必要があるわ。そうなると、どこから手に入れたんだっていう話になるのよね。盗品じゃないかって疑われて拒否されるか、買い叩かれるかのどっちかね」


 ただの個人が大量に食料を持っているというのは案外おかしいのである。そのせいでタケルが目をつけられるのはやっかいごとしかないためフィリーは却下した。


 それにある程度の大きさの商会でもないかぎり、大量に食料を売るのは難しい。少量の農作物であれば、売ることはできるだろうが、それだと一千万ゼニーには到底届かない。


 フィリーはカバンの中から何かを取り出そうとする。


「とりあえずここに二百万ゼニー。それにディープスパイダーの糸と布もあるわ」


 ドンとお金が入った袋と大量のディープスパイダーの糸や布をテーブルの上に置く。


「もともと換金しようと思っていたし、ちょうどよかったわ」


 フィリーはなんか言い訳がましいことを言っているとタケルは感じたので、その場にある糸や布をよく見てみるとあることに気が付いた。


「これカリュネラのじゃないか? しかも、魔人になってからのもあるよな」


 フィリーは一瞬しまったというような表情を浮かべる。


「……そうね」


「これは売っちゃまずいって言ってなかったか?」


 カリュネラとその子供が作る糸と布は品質が違う。カリュネラが魔物のときでもだいぶ違ったが、魔人になってからはその品質がさらに上になった。糸や布の品質で魔人がいるとは判断されることはまずないが、あんまり外には出さないようにしようとタケルとフィリーは話し合っていたのだ。


「……売る気はなかったわ。ただ、いい仕立て屋さんがあれば服を作ってもらおうかと……」


 外に出なければいいので、最終的に自分たちのところに戻ってくればいいという理論である。


「こっちの布は使ってもいいか?」


 タケルはカリュネラの魔人の布以外の布は使ってもいいかと尋ねる。もしかしたらこっちの布でも服を作ろうとしていたかもしれないからだ。


「大丈夫よ」


「悪いな。こんなことにならなけりゃあ、服を作っても良かったんだが……」


「いいのよ」


 なぜかフィリーはお金やカリュネラの糸や布をたくさん持ってきたことに対して気まずそうにしているが、タケルとしては気にしていない。


 そもそも普段金なんて使わないし使いたい奴がいれば使えばいいと思っている。別にカリュネラの糸や布だってほとんど魔人ばれのリスクはないのだから外に出したってかまわないとも思っている。


「まあ、なんにせよ。フィリーのおかげである程度のまとまったお金は作れそうだな」


 結果としては、フィリーの行動は大正解だったのだ。ただのディープスパイダーの糸や布でも高級品扱いだとすると、これは相当お金になる可能性がある。


「他に何か隠し持ってないか?」


「もうないわよ!」


「カッカッカ。じゃあ、とりあえず売っていくらになるか調べてみるとするか」




 ◆




 タケルたちは冒険者のフリをして、売りに行くことにした。今着ている服はカリュネラが作ったものなので、別の服に着替える。一般人であれば違いは分からないだろうが、専門職の人が見れば、ディープスパイダーの布だと分かってしまうからだ。


 タケルとフィリーはディープスパイダーの布を買い取ってくれそうな上流向けで服屋に入って店員に話しかける。


「ちょっといいか?」


「はい」


「ここでは布の買取ってしてるか?」


 その店員は一瞬でタケルたちの服装をチェックする。その姿から見るにたんなるただの平民、いや冒険者だ。それであればたいしたものが期待できるわけではないので、断るのが基本だ。


 しかし、タケルのふるまいにはどこか達人の気配を感じ取った。ガザルの町は武具づくりでも有名な町。まれに有力な冒険者がいい素材を持ち込むことがあるのだ。


「ええ、当店では買取も行っております」


 一瞬にしてたんなる冒険者ではないと判断した店員は笑顔で対応する。


「それはよかった。本当は自分たちの装備に使おうと思ってたんだが、ちょっと急に金が必要になってな。溜めてたこれを売ることにしたんだ」


 そう言ってタケルはディープスパイダーの布を取り出す。


「これはディープスパイダーのものですね」


「ああ、そうだ。これでいくらくらいになる?」


「そうですね。これらまとめて三十万ゼニーといったところでしょうか」


「おいおい、冗談はよしてくれよ。これでも命かけて取ってきたんだよ」


「そう、ですね……限界ギリギリで四十万ゼニーでしょうか」


 店員は何とか絞り出したという感じで金額を言ってきた。


「そうか、それだと足らんな。これ一緒だといくらになる?」


 そう言ってタケルはカリュネラが魔物だった時の布を出す。


「こちらは……品質がかなりいいですね」


 店員の目にはディープスパイダーの布に見える。しかし、これは先ほどの物とは明らかに品質が違う。


 タケルは内緒話をするかのように近づいてこっそりと話す。


「これはな……魔物のディープスパイダーから取ってきたんだ」


「魔物のディープスパイダーですと!」


 その希少性は通常のディープスパイダーと比較にならないほどだ。そんなものが目の前にあることで店員は驚いた。


「ああ、こっそり取るのはマジで苦労したぜ。あの時は死んだかと思ったね」


 この男は嘘をついている様子はないと店員は判断した。そもそも品質からして違うのだ。だてに長年この店で勤めていない。


「それで全部合わせていくらになる?」


「……八十万ゼニーを出しましょう」


 先ほどの倍の金額。店員はこの値段で落とせると長年の経験から判断した。倍の金額を出せばたいていの人は驚き喜び決断する。しかし、タケルとフィリーは普通の人ではないのだ。


「タケル。やっぱり売るのやめましょう。せっかく苦労して手に入れたものなのに手放すのはなんかもったいないわ。またじっくりとやってお金を稼げばいいじゃない」


 タケルは腕を組んで考え込む。


「うーん、しょうがねー。あれは諦めるか」


「ええ、そうしましょう。まだ時期じゃなかったのよ」


「査定してもらってすまねーが、これは売らないことに」


「少々お待ちを!」


 この店員はタケルがお金が必要といったことで、足元を見ていた。しかし、それはタケルたちの罠だ。人は手に入ると思ったものが手に入らないとなる時、急激に惜しくなるのだ。しかも、それが貴重なものだと効果は倍増する。


「再度計算をやり直しましたところ、百二十万ゼニーまででしたら、何とか出すことができます」


「いや、やっぱり俺たちは売るのをやめようかと」


「分かりました。百八十万ゼニー出しましょう。これは本当に限界の値段です。どうか当店にお売りください」


 いつの間にか、この店員の立場は買ってあげる立場から、買わせていただく立場に変わっていた。


「いや」


「二百万ゼニー出しましょう。これが本当の本当の限界です」


 タケルが拒否の姿勢をわずかに見せただけで被せてきた。だが、その様子を見るにかなり限界に近そうな感じがした。


「分かった。そこまで言うんなら、その金額で売るよ」


「ありがとうございます!」


 店員は深々と頭を下げる。そしてお金を受け取ったあと、タケルとフィリーは店の外に出る。


「成功したな。売ると見せかけて売るのを止めようとする作戦」


「なんか面白いように値段上がったわね」


 こんな感じでいくつかの服屋さんを周って売っていった。一度に大量に売るよりもある程度小出しの方が高く売れる。それにあまりに大量に持っているのもおかしいからだ。



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