4.川遊びとエルフ
あれから白い狼が五匹ほど増えた。ラグナがどこからか連れてきたようで、仲間なのか配下なのか。なんとなく見ているとラグナが指示を出しているので、上下関係があるのかもしれない。
労働条件はラグナと同じで、見張りと狩りをしてもらっている。そのおかげで害獣の被害はなくなった。クソ鳥どもは今ではおいしい食料になっている。
そして、そろそろ森の探索をすることにした。畑の拡張も一段落して、一人で収穫するのには手一杯の広さになってきた。すでに一日では収穫が終わらないので、いったん止めることにした。そろそろ調理器具を増やして料理のレパートリーを増やしたいという気持ちもある。
「とりあえず川にでも行ってみるか。案内できるか?」
「わん!」
任せておけと言わんばかりのラグナ。本当に分かっているのかどうかわからないが、変なところに出ても問題ない。周辺の探索が目的だから、いずれ色々な場所に行く予定だからだ。
「よっしゃ! 出発だ!」
森の中を歩き回ること三十分後。小さな川に到着した。
「お前、本当に分かってたんだな」
ラグナは疑ってたの!?というような表情で見つめる。
「まあ、なんにせよ。比較的近くに川があるってのは助かるな」
ずっと自分で農業をするとは限らない。将来的に人を雇って大農場を作るというのもありだ。そうなると近くに水があった方が助かることは多い。
そして、タケルは川の中を覗いた。
「おっ! 魚がいるな!」
魚が欲しいが、何も道具はない。手づかみでとるしかない。
タケルは靴を抜いてズボンをまくり川の中に入っていく。そうして、近くに魚がやってくるのを待っていると、一匹の魚が近づいてきた。
その魚に向かって鋭く手の槍を突き放ち捉えようとした。しかし、魚はその攻撃をするりとかわしどこかに行ってしまった。
「だぁくそ!簡単にゃいかねーか。次だ次」
再び一匹の魚が近づいてきた。今度は慎重にしかし素早く手を突き出し、捕まえようとしたが、逃げられてしまった。
「ぬるっとはしたんだよ! ぬるっとは」
そんな様子を見ていたラグナはやれやれと言った感じで、川の中に入り水をはじくような感じで前足を振るった。すると、魚は川の外に弾き飛ばされ、陸の上でぴちぴちと踊っていた。
そして、ラグナはタケルに向かってどや顔をした。
「ほ、ほほお……いいぜ、そういうことならやってやるよ! この俺様の本気見せてやる!」
数時間後。
そこには十匹の魚を確保したラグナと一匹も捕まえられなかったタケルがいた。
「くそっ……こんなはずじゃ……」
膝から崩れ落ちているタケルに俺の分を分けてあげるからと慰めるような感じでラグナは肩に前足を置いた。
「ラグナ、お前って奴は……」
タケルはよーしよしとラグナを撫でまわしてあげた。ラグナの毛を堪能したところで、拠点に戻ることにする。
「さて、この魚はどうやって持ち帰るか」
手では十匹も持てない。服で包むという方法もあるが、服の予備は一着のみ。魚まみれにはなるべくしたくない。しばし考えると、一つ思いついた。
「木の枝に串刺しだな」
かなり雑だが仕方ない。籠とか作れればいいけど、そんな技術はもちろんない。今はまだ原始的な生活を楽しむことにする。
ちょうど良さそうな太さの木を追って、先をナイフで削り尖らせ魚を串刺しにしていった。
「それじゃあ、探索がてらちょっと遠回りして帰るか」
探索というよりも川遊びという感じになってしまったので、帰りは行きとは別ルートで少し遠回りして帰ることにする。
魚が突き刺さった棒を肩に背負いながら、森の中を歩いている最中にふとなんとなく後ろの方を振り向くと、通り過ぎた木の下の陰で体育座りでうずくまっている人がいた。全く気配がなく視認するまで気付かなかったので驚き、うっかり足元にある枯れ枝を踏んでしまった。
すると、その人は顔を上げこちらを見てきた。視線が交わり一瞬の沈黙。
「こんにちは~」
タケルは軽く会釈して朗らかに挨拶をした。そして、そのまま立ち去ろうとする。
「待って待って待って」
そういいながら女性は四つん這いのまま近づいてきた。森の中をさまよっていたのか、全体的に汚れていて汚らしかったので、タケルは内心でうわぁと思った。しかし、体臭は臭くなかった。それゆえにラグナすら気付かなかったのだろう。
「あ、あの、できればその魚分けてもらえない? お金なら払うから!」
ぐぅ~とお腹が鳴る。
「もう丸一日以上何も食べていなくて……。その前も満足に食べられてなかったし、だから、お願い! 一匹だけでもいいの!」
必死に懇願してくる女の子。
「なんだそういうことか。食い物くらいタダでやるから付いてこい」
タケルはなんとなく警戒していたが、ただの腹が減っているだけの女の子ということが分かったので、警戒を解く。
「ラグナ、拠点に最短ルートで帰るぞ」
「わん」
ラグナを先導させ歩き始める。
「十分かそこらで拠点につくから、それまで我慢してくれよ。って歩けるか?」
「ええ、大丈夫よ」
お腹が空いていると言っても丸一日程度ならまだ動けるはずだ。
そして、道中に色々と話をする。
「名前はなんて言うんだ」
「……フィリーよ」
「いい名前だな。俺の名前はタケルだ」
「あのホワイトウルフはあなたが使役しているの?」
「使役してる? 違うな。俺たちの関係は……そう、相棒だな!」
そう答えるとラグナのしっぽが嬉しそうに振れた。
「変わった関係ね」
タケルに聞こえない程度にぼそりとつぶやいた。
ぽつりぽつりと特に意味のない会話を続け、ようやく拠点に到着した。
「この森にこんな場所があるなんて」
拠点には立派な畑と周囲を警戒しているホワイトウルフがいた。人は一人もおらず、タケルが一人で作ったのは明白だったことに対して、フィリーは驚いていた。
「おーい、そんなとこに突っ立ってないでこっちに来い! 飯にするぞ!」
何が口に合うか分からないので、今ある野菜を一通り用意し、ジャガイモとサツマイモは石焼にして、魚も焼いた。
出来上がったものを木の板という皿に載せて出してあげた。
それを見たフィリーはゴクリと生唾を飲んだ。
「たいしてもんは出せねーが、食べてくれ。んじゃ、いただきます」
タケルは手を合わせていただきますをすると、それに倣ってフィリーも手を合わせた。そして、まずはトマトを手づかみして口元に運びかぶりついた。
「……おいしい」
思わず声が漏れてしまったという感じで感想を言った。
「うんうん! そうだろ! そうだろ!」
それを聞いたタケルはとてもうれしそうにニコニコ笑う。自分が作った野菜を褒めてもらえるというのはこんなにもうれしいことなのかと喜びに浸る。
「そういえば、お前の耳ってとんがってるな」
タケルは自分の耳をツンツンと伸ばしながら問いかける。
「ええ、まあエルフだし」
「おお! そうか! エルフか! 初めて見たぞ!」
「あなたエルフを見たことがないの? ……もしかして、ヴァルグラード帝国の人?」
警戒するような目線をタケルに向ける。
「ヴァルなんちゃら帝国? なんだそりゃ。俺はここで生まれてここで育ったぞ!」
「さすがにそれはないでしょ。こんな森で生まれたらすぐに死ぬじゃない」
普通に考えればその通りなのだが、タケルは事情が違う。別に秘密にすることでもないので、ここに来た経緯を話すことにする。
「そういえば俺のことをちゃんと話していなかったな。俺は別の世界で死んだと思ったら神界に連れていかれて、女神様に農業スキルをもらってこの世界に転生したタケルだ。よろしくな!」
タケルはサムズアップをしながら決め顔で言う。
すると、フィリーは急に怪しい人を見るような目でタケルのことを見始めた。冷静に考えてみれば、前世でも異世界人ですとか、未来人ですとか、火星人ですとか名乗ってきたら頭がヤバい人認定されるだろうから、この反応も不思議ではない。真実というのは時に突拍子もないこともあるのだ。
「よくわかったわ。あなたもなんか事情を抱えているのね。別に無理に話さなくてもいいのよ」
「いや、これは本当のことだぞ」
「分かったわ。そういうことにしておくから」
これは絶対に分かっていないやつだとタケルは思ったが、これ以上は何を言っても無駄そうだったので、もう何も言わなかった。




